上 下
89 / 579
SS双子姉妹の追想

おかしな魔物との遭遇

しおりを挟む



 『敵意がないなら、少し様子見ようか。私たちをスキルで囲えば、危険はないしね』

 そう考えてその生物が来るであろう薄暗い森の先を注視する。


「早いっ! 来るよっ! 二人ともっ!」

「はいっ!」
「おうっ!」


 索敵で見ていたが本当に脅威のスピードだ。
 グングンと森の中を抜けてきている。


「相手はかなりの速さだから死角にも気を付けてっ! それと木々の上からもっ!」

「はいスミカお姉さまっ! 速さ勝負で私には勝てませんよっ!」
「そんなに速いのかっ! 一体何者なんだろうなっ!」

 姉のナゴタは、速いと聞いて舌なめずりをし、
 妹のゴナタは、その正体に興味深々みたいだ。


「あ、ごめん、一つ言い忘れてたんだけど、あまりこの森の生物形態を崩したくないから、最初は様子見でお願い。私が魔法でこの一帯を囲むから敵意があったら倒しちゃう方向で」


 二人にそう告げる。
 こうでも言っとかないと速攻で死体が出来そうだったから。


「え? でしたらその魔物らしき者を直接囲めばよろしいのでは?」

 姉のナゴタが至極当然のように言ってくる。

「それだとこっちから攻撃をされたと思って、私たちが敵だと認識されちゃうでしょ? だったら、私たちを囲んで中から様子を見た方がわかりやすいよ」

 姉のナゴタの疑問に私はそう答えた。

「な、なるほどっ! さすがスミカお姉さまですねっ! お強いだけではなく大変に思慮深いですね!」

「うんっうんっ!」

 それを聞いた、姉のナゴタはキラキラした目で見つめてくる。
 妹のゴナタは、コクコクと首を振っているだけだった。


『う~ん』

 さっきも同じやり取りをやってたような。


「来るよっ! 南西の方角っ! あと5秒っ!」

「はいっ!」
「うんっ!」

 そう叫んで、打ち合わせした通りに透明壁スキルで囲む。

 よん秒っ!

 さん秒っ!

 にぃ!

 いちっ!

 ぜろっ!!


 ガサガサッ!!


『くぅ~~ん、くぅ―んっ』


「……………………」

「……………………」
「……………………」


 森の中から現れたそれは、鼻をクンクン鳴らしながら、私たちを囲む透明壁の周りをグルグルと何かを探すように周回している。


「シルバーウルフですね。まだ子供みたいですが…………」


 何が来るの、身構えていた私たちは、その姿に拍子抜けしてしまう。
 そしていち早く我に返ったナゴタが、その生物を見て魔物の名前を教えてくれた。

「シルバーウルフ? それって人を襲ったりしないの? てか、この大きさでまだ子供なんだ」

 グルグルと地面をクンクンして周っている魔物を観察してみる。

 シルバーって言うくらいだから、体毛はグレーの長くてキレイな毛皮だった。

 子供って言っても、前足や後ろ脚は私たちよりも3倍以上は太く、体長は2メートル以上はありそうだった。


「はい、これでもまだ子供ですね。大きくなると個体差はありますが倍くらいの大きさになりますから。それと基本的に人は――――」

「あっ! ナゴ姉ちゃんっ! ワタシにも説明させれくれよっ! あのなっ! スミカ姉――――」

 ナゴタが丁寧に説明していると、なぜかゴナタが脇から割って入って来た。


「ふふっ、いいわよゴナちゃん。それじゃお願いね」
「うんっ! ありがとうナゴ姉ちゃんっ! スミカ姉シルバーウルフってのはさ――」

 なぜかナゴタに説明を譲り受けたゴナタ。 
 そんなゴナタの説明が始まる。ちょっとだけ嬉しそうだった。
 

――――――

 個体名:シルバーウルフ
 
 西の大陸に主に生息するオオカミの魔物の一種。

 数頭の群れ、もしくは親族同士で行動することが多い。
 長いシルバーの体毛と群青色の瞳が特徴。
 性格は、非常に穏やかで、強い忠誠心を持つ。

 攻撃力は非常に高く、その脅威の速度で攪乱し、
 鋭い牙と爪で獲物を狩る。
 頑強なので、その速度の体当たりも非常に強力。


 以上。ゴナタの魔物図鑑でした。


――――――


「シルバーウルフ、ね。良く分かったよ。説明ありがとうナゴタとゴナタ」

「はいっ! これぐらいお安い御用ですっ!」
「うんっ! それとこちらから攻撃しなければ基本は大人しい魔物なんだっ! 頭もいいしなっ!」

 姉妹とも私にお礼を言われて満足げに見える。
 妹のゴナタは得意げだ。更に追加情報まで話してくれた。


『うん、こっちからちょっかい出さなければいいんだ。だったら害ははなさそうかな? にしても、毛並みもきれいでホワホワしてそうだね。顔もなかなかに凛々しいし、瞳もルビーみたいな真っ赤で神秘的にも見える。ん、あれ? ゴナタの説明で「群青」って言ってなかった? まぁ色はこの際どうでもいいや。害意がなければどちらでも』


 相変わらずシルバーウルフはスキルの周りをグルグルしている。


 まあ、これなら問題ないかな?


「それじゃ、魔法壁を解くよ。一応警戒だけしておいて」

「はい、お願いします。スミカお姉さまっ!」
「うん、よろしくスミカ姉っ!」

 二人の返事を確認して透明壁スキルを解除する。


『わう?』

 すると、地面をクンクンと嗅ぐように鼻を鳴らしていたシルバーウルフは、その下げていた首を持ち上げて私たち三人を視界に収める。

 そしてまた『くぅ~ん』と一鳴きしたと思ったら、


「????」

「えっ??」
「んっ??」


 シュタタタタッ――――


 私たちの周りを「ハッハッハッ」と息を吐きつつ駆け周り始めた。
 よく見るとフサフサの太い尻尾がブンブンと振られている。


「………………このオオカミは何してんの?」

 この魔物の行動の意味がわからず姉妹に聞いてしまう。

「…………なんか喜んでいる様に見えませんか? このシルバーウルフ」
「…………そうだなぁ。なんかめっちゃ尻尾振ってるもんなっ!」


 さすがの姉妹にもハッキリとした答えは分からなかったようだ。

 ただなんとなく雪の上を喜び走る犬を想像してしまう。
 雪やコンコの。


 私たちはグルグル周る犬、でなはくオオカミに見惚れてると、


『わふぅっ~!』

「え?」

 雄叫びらしい緩い声を上げ、軌道を変えこっちに向かってきた。
 その目は三人の中の私を映していた。


 シュタッ!


「えっ! スミカお姉さまっ!」
「スミカ姉っ!?」


 ガシッ!


「っと、心配しないで、何とか受け止めたから。それと敵意はないし」


 私は飛び掛かってきた大きな毛皮を咄嗟に受け止めた。
 シルバーウルフの脇に手を差し入れて。

 そして迎撃しなかった理由は、どう見ても敵意らしきものを感じなかったからだ。

 現に私が受け止めた後も「ハッハッハッ」と言うだけで、牙や爪なんかも出してこない。

 ただ受け止めてはいたけれど、体が大きいこの魔物はしっかりと地面に後ろ脚が付いているた。別に私が小さ過ぎる訳ではない。


「ちょっ、くすぐったいよっ! ペロペロ舐めないでよっ!」


 シルバーウルフは覆いかぶさるように体重を掛けながら、顔全体を舐め上げてくる。体も大きいせいか、舌も大きくザラザラしていて、ひと舐めで私の顔半分をベロンとしてくる。

『わふぅ~!』

 ペロペロ

「て、もういいでしょっ! いい加減にどいてよっ! あ、ちょっと一体どこ舐めてるのよっ! もう調子に乗ってっ! な、なんでそんなところまでっ! んんっ~~っ!」


「えっ!? ちょっとスミカお姉さま?」
「スミカ姉?」

「だ、大丈夫っ! ただ変なとこまでペロペロしてくるからびっくりしただけっ!」

 私の姿はシルバーウルフの大きい体に隠れて見えないであろうから、心配しないでと姉妹にそう声を掛けておく。


「ス、スミカお姉さまがそう言うならいいですけど。でも へ、変なところペロペロされても大丈夫なんですか? そ、そのぉ~~」

「あわわわわっ! ス、スミカ姉が~~~っ!」

「いや、違うからっ! 変ってそう意味じゃないからっ!」

 私は首筋を舐め上げられて、くすぐったくて声を出しただけだ。
 決して姉妹たちが考えている変なところではない。


 そして私が変なところと言った理由。
 それは普通は首筋なんて舐めないであろうと思ったからだ。


 しかも執拗に同じところの臭いを嗅いで、舐め上げてくる。
 それは敵意なんか全くなく、むしろ嬉しそうにも見える。


 まるで会いたかった飼い主にでも会えた、かのように……


「ちょっと、ナゴタとゴナタもこっちに来てくれる?」

「は、はいっ! スミカお姉さま」
「う、うん、わかったよスミカ姉っ!」


 私はシルバーウルフに揉みくちゃにされながら二人を呼んだ。


 『予想が、正しければきっと――』


 もしかしたらユーア自身も知らない謎の能力もわかるかも。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...