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第2蝶 初めての戦闘編

冒険者を名乗る野盗とは

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 そんな突拍子もない、私たちを襲ってきた男の言葉を――――

「嘘ね」

 私はバッサリと切り捨てた。
 証拠も無いのに私は信用するわけがなかった。

 そして視覚化して最大5メートルの透明壁を、コムケ街の冒険者(仮)に向けて振り下ろす。

「ちょっとまて! いや、待って下さい!! 証拠をみせっ! 見せますからぁっ胸のポケットを――!」

 視覚化した透明壁はコムケ街の冒険者(仮)の眼前を掠るように通り過ぎ、目前の地面を叩きつけた。


 どご――ん!!

「がはぁっ!!」

 コムケ街の冒険者は、透明壁を叩きつけた余波で、後方に吹っ飛ぶ。
 そしてそのまま木に激突して、ボトリとズリ落ちた。


「ぐふっ――」 ガクリ

「ス、スミカお姉ちゃん…… ボク見てきます……」

 トテテ――

「へっ?」

 ここから離れるわ際の、ユーアの視線が恐かった。

 え、私が悪いの?

 だって信じられないんだもんコイツの言う事。証拠もないし。
 それでも直撃しないように避けたんだよ?
 その結果なんだから大目に見て欲しい。

 まぁー、透明壁を即座に解除すればそれで良かったんだけど。


 ユーアは気を失っているコムケ街の冒険者に近づいて、恐る恐る胸ポケットをまさぐっている。そして一枚の薄い石板らしきものを見つけプルプルと震えている。


「お、お、お、――――」

「………………ユーア?」

 そういえば「どご――ん」「ぐはぁっ」する前に、
 ポケットがどうのこうの言っていたような気がする――――


「ん、どうしたのユーア。何かいいもの見つけたの?」

 後ろから声を掛けてみる。

「お、お、お、お姉ちゃん――――……」

「ん?」

 あれ? お姉ちゃんの前にスミカが抜けてるよ?


「――――この人本物の冒険者の人だよぉぉぉっっ――っ!!」

「え?」

 そう絶叫を上げ、振り向いたユーアは涙目だった。
 そしてその手には冒険者証を持っていた。






 とりあえず、またリカバリーポーションをコムケ街の冒険者に使用する。

『…………………』

 これ気付け薬じゃないんだけどなぁ?
 なんて、ちょっとだけ思いながら。

 でも、あわあわしているユーアにお願いされれば仕方ない。

 しかも、あわあわしているユーアも、また可愛かった。
 よっぽど、この男の正体に驚いたのだろう。


「ううっ、一体何が起きやがった―――」

 コムケ街の冒険者が、そう言って即座に目を覚ました。

 この男が持っていた冒険者証は、この世界の、これ以上のない身分を証明するものなので、この男の身分はこれで信用できるそうだ。

 現代で言う、戸籍や住民票みたいなものだろう。

 冒険者と名乗った男は、混乱したようにキョロキョロと辺りを見渡している。

「っ!?」

 そして、私を見付け目を見開き、足をバタバタと動かし、後ろに逃げようとする。

「うわァっ――!!」
 
 が、背中は木の幹なので、当然逃げることは出来なかったけど。


「ごめんなさいっ! わ、悪気はなかったんですっ! 許してください~っ!」

 それに見かねたユーアが、男の前まで行き、両手を合わせ頭を下げる。
 あまりに必死過ぎて、謝罪というよりかは、お祈り見たくなってるけど。


「うえっ!? あ、ああ―― 分かってもらえりゃいいんだ……」

 状況を把握したのか、しどろもどろに答える。

「良かったぁ、それとルーギルさん、お体は大丈夫なんですかっ?」
「あ、あぁ、そういえばどこも痛みはねえな、嬢ちゃんたちが治療してくれたのか?」
「うん、スミカお姉ちゃんと」
「そ、そうか、ありがとよ、えーとー…」
「ボクはユーアって言います、あとスミカお姉ちゃんですっ!」

 少し落ち着いたユーアは、私も紹介してくれる。


「お、おう、ユーアって言うのか、ありがとな、それとスミカ…… 嬢もな」

 コムケ街の冒険者を名乗る男はそう言って私を見る。
 だがその目は若干泳いでいた。まだ動転してるのかな?


「わ、悪いが、この拘束ほどいちゃくれねえか? もう襲うことはしねぇし、最初から説明する。それと他の奴らも起こしちゃくれねぇか? まだ信用できねぇならば拘束したままでもいいからよ」

「う、うん、わかりました」
「ユーア、私がやるから、他の人たち起こしてもらえる?」

 ユーアを止めて私と交換する。
 解いた途端にユーアが何かされたら危ないし。

 その際、ユーアにリカバリーポーションを渡す。

 私はユーアの代わりに、男たちの拘束を解いてやる。
 そしてコムケ街の冒険者を名乗る男に聞いてみる。


「なんで、は私たちを襲ったの?」

 後ろでは、ユーアがリカバリーポーションを使って男たちを治療していく。

 (……こんな、すごい回復薬みたことないよ……)

 そんな呟きが聞こえる。


「『ルーギル』だ」
「は?」
「『ルーギル』だ! 最初に目が覚めた時にそう名乗っただろう……」
「そうだっけ?」
「そうだ、お前の相方のユーアもそう呼んでただろうが……」

 ジト目でこちらを見てくる。
 が、男のジト目は全く可愛くない。

「はぁ、まあいい、これから最初から説明するから聞いてくれ」

 そう言ってコムケ街のDランク冒険者『ルーギル』は口を開いた。
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