上 下
7 / 41

幼女ドラゴンのお家に招待されます

しおりを挟む



「あああっ、やっちゃったよぉっ~!!」

 勇者さまたちを穴に落としちゃったよっ!
 しかも、関係ない村人Aさんまで巻き込んじゃった。

 もの凄く恨み言ってたよねっ?
 絶対に怒ってたよねっ?

 なんか悪役の捨て台詞みたいだったけど……


「ううう~ 助けた方がいいのかなぁっ! で、でもなぁ~ あれ?」

 勇者さまたちが落っこちた大穴を振り返って、どうしようかと悩んでいると、下品に光るものが目に入る。

「これって、もしかして勇者さまの……」

 一人が持っていた剣だ。

 リーダーの剣の勇者さまが持っていたもの。
 きっと穴に落ちる時に手放してしまったのだろう。 

 そんな伝説級の剣をメドから離れて「スゥー」と取りに行く。

 そして手に持ち「ブンブン」振ってみる。
 もの凄く軽い。

「ん? 伝説級だからかな?」

 まあ、私の身体能力はおかしいから、
 重さを余り感じないだけかも知れないけど。

「あれ? なんだろうこのボタン」

 剣の底にある突起を押してみる。

 カチッ
 シュン

「あれれっ!? びかびかが消えちゃったっ!」

 私は再度突起を押してみる。

 カチッ
 パッ!

「うわっ! ま、眩しいっ!」

 今度はまた「びかびか」と刀身が光り輝いた。

「………………何これ?」

 カチッ
 シュン

 カチッ
 パッ!

 カチッ
 シュン

 カチッ
 パッ!

「もうっ! ただのおもちゃじゃんっ!!」

 ガジャンッ!!


 勇者の剣もどきを地面に叩きつける。
 伝説の武器だと思ったら、ただの玩具だった。
 その一撃で勇者の剣は粉々になってしまう。


「ああもう心配して損したっ! 絶対アイツら偽物だよぉ!!」

 私は一人憤慨して、メドの待ってる所に浮いて戻る。

「どうしたの」

 ちょっと怒っている私に、心配したように声を掛けてくる。

「ううん、なんでもないよ。それよりもこれからどうしよう? 色々お話したいけど、ここじゃ、あれだもんね?」

 「うーん」と考えながらメドに聞いてみる。

「ならワタシの家に来る? 何もないけど」
「えっ! 家って? あああっ!!」

 家って聞いて思い出した。
 メドの住む山を破壊してしまったことを……


「あ、あ、あのねメドの家壊しちゃってゴメンねっ! わざとじゃなかったの。火事を消そうとして一緒に壊しちゃったのっ! だから本当にごめんなさいっ!!」

 メドに最初に会ったように、地面に跪いて頭を下げる。
 土下座リターン。


「ん、別にいい。ワタシはあなたに負けたから、それに……」
「負けた? それに?」
「それに家は村から少し外れた所にもあるから」
「え、それって? どういう事」

 私はそんなメドの言葉に首を傾げてしまう。
 良く分からない。

 なのでもう少し詳しく聞いてみよう。


※※※


「へえ~ 人間の姿用に家がもう一軒あるんだね」
 
 メドの話に納得して「ポフっ」と手を叩く。
 相変わらずいい音が出ない。萌え袖のせいで。


 メドの話を簡単に説明すると、

 この山は食事としていた動物や魔物を取る為の山だった事。
 普段は、街から外れた家にひっそりと人間の姿で住んでいる事。

 それと最後にこれが重要。

 メドは私に負けた事で、私をご主人さまと認めたらしい。

 何それ??

 と、思うけど、どうやらドラゴンに限らず、魔物と呼ばれる人外の者たちは、強者に付き従う事が多いらしい。

 特にドラゴンなどの種族は、それが顕著になっているようだった。


『ムフフッ! それにしても「ご主人さま」かぁ~っ!』

 メドの整った容姿を見て「にやにや」と頬を緩める。

「じゅるっ!」 
 おっと、色々想像してまた涎が出てしまったようだ。

 気付かれないように、萌え袖で拭う。


「それじゃ メドの住む家に案内してくれるかな? ここから近いのかな?」

「ん、ここからは北西に飛んで30分くらい」

 無表情で説明してくれる。

 相変わらず表情が少ないって言うか、全体的に抑揚がないっていうか、あまりにも感情が表に出ないせいで何考えてるのか読みずらい。

 でもそこからのギャップ萌えに期待したい。
 私だけにデレさせてみたい。

 なんてメドのジト目を見ながら、妄想の世界に飛んでしまう。


「ねえ? 聞いてる」

 そのメドの問いかけに、

「え、聞いてるっ聞いてるっ! 空飛んで30分だよねっ!」

 我に返って慌てて返事をする。

『う~ん……』
 それよりも飛ぶの?

 もの凄く怖いんだけど。
 まだ魔法を制御できないし、理解もまだまだだし。

 もし間違って力を制御できなかったら、勢いで宇宙まで行っちゃうんじゃないの?
 さすがにもう少し練習したい。もの凄く自信がない。怖い。

 そんなブツブツと独り言を繰り返していると、

「どうしたの?」

 心配してなのかメドが声を掛けてくれる。

「う、うんとねっ。わたし、あまり空飛ぶの上手じゃないんだ。だから悩んでたのっ! それと少し疲れちゃったんだっ!」

「そう。ならワタシに乗って行けばいい」
 
 メドはそう言って、地面にうつ伏せに横たわる。

「えっ?」

 これはメドの背中に乗るって事?
 絵面的にヤバくない?
 幼女が幼女にまたがるって事だよね?

 それは良くない。

 それは私のモラルに反する。
 それは愛でるとは言えない。

 だから――

「メドごめん。どうせなら担いでいってくれるかな? 幼女の背中に乗るのはちょっと色々と世間的にも……」

 やんわりと謝っておく。

「ん、わかった。なら――」

 そう言ってスクと立ち上がり、服の汚れを払って私に近付いてくる。

「なら、これでいい」
「ほぇ?」

 私の背中と膝の裏に手を入れ「ヒョイ」と軽々と持ち上げる。

 これって、

「しっかり掴まってて」

 そのまま「ヒュン」と上昇して空を飛んでいく。

「わわわっ!!」

 それはお姫さま抱っこだった。


※ 


「うわ~っ!」

 私を抱えて空を飛ぶメドの速さはすごかった。
 下の景色があっという間に視界の外に流れていってしまう。

 それでも風圧は全く感じなかった。

 その理由をメドに聞いたら、

「ん、魔法で障壁を張ってるから大丈夫」

 そう教えてくれた。

 それによるとドラゴンの姿の時も障壁は張っていて、体は翼ではなく魔法で浮かせているらしい。翼はかじ取りの役割が多いそうだ。
 
 確かにあの巨体と重量を浮かせるのは、あの翼の大きさでは足りないし、それを動かす筋肉も消費するエネルギーも尋常ではないだろう。まず普通に考えても無理だろう。

「やっぱり魔法は偉大だねっ!」

 私もその魔法を使える事に少しだけワクワクする。
 それにはまず制御しないとだけどね。


 私はもう明るくなって、朝日が昇る綺麗な景色の中を、悠々と飛んでいくメドの白い首に手を回して「むぎゅ」と抱き着く。

 そしてピチピチの頬っぺたに、顔を寄せてスリスリする。

「んんんっ!」
「ちょっと。くすぐったい」

 メドはちょっと顔をしかめるけど無視して続ける。

「むふふっ」

 だって「ツヤツヤ」「ツルツル」「もちもち」で気持ちいいんだもん。


 暫くすると、森を何個か抜け、大きな門がある街らしきところも通り過ぎる。
 そしてその隣の山奥の開いたところに着陸する。

 スタッ

「家に着いた」
「あ、ありがとうねっ!」

 丁寧にメドは私を地面に降ろしてくれた。
 私はメドから離れてその家を眺めてみる。

 招待してくれた、もしかしたら愛の巣になるかもしれないその家を。


「こ、これがメドの住んでる『家』?」
「ん、そう。これが家」
「う、嘘でしょうっ! これ家じゃないよっ!!」

 メドの説明にすぐさま反論する。
 
 こんなの家なんて普通呼ばないでしょ?

 だってそこには、家と呼ぶには巨大すぎる―――


 『お屋敷』

 が建っていたのだから。


『メドって、一体何者なの!? いやドラゴンだけどねっ!』

 お屋敷のショックで、一人ボケ一人ツッコミをする私だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...