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003 7月22日 ハンバーガーショップにて 2/2
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私は春頃に発覚した右膝の違和感について、病院に通っている事を怜央に話していなかった。
と言うか……話せなかった。
何故話せなかったのかって? それは、とても惨めな理由からだった。その事が原因で私は怜央に別れを告げたのだ。
その事を話せるのは親友の紗理奈以外にいないと思うけれども。まだ上手く伝えられない。
私の視線を逸らした姿をじっと見つめた紗理奈は頬杖をついた。それから飲み物に手を伸ばした私の手をふわりと握った。
「明日香が話したくなったらさ、話してよね。待っているからさ」
「うん。紗理奈、ありがとう」
私は多くを聞かないでいてくれる紗理奈に感謝した。
スポーツ科のクラスメイトは皆、私と怜央が別れた事を聞きつけて根掘り葉掘り聞いてくる。中にはあまり仲良くなかったのに興味津々で、仲が良かった体で聞いてくるクラスメイトもいる。
それだけ怜央が注目されているからなのだろう。怜央は高校の中でもとびきり人気の高い男子生徒なのだ。次は誰が怜央と付き合うのか皆興味があるし、その彼女の座をたくさんの女生徒が狙っている。
幼なじみというトップカードを持っている私が怜央の前を去った事は、目の上のたんこぶがなくなったぐらいすっきりしたのだろう。
「それにしても別れた理由について色々な噂が流れているわよ。英数科のところまで噂が届くぐらい。みんな勝手よね明日香は怪我までしているのに」
「仕方ないよ。怜央はいつも注目されているしね」
私は瞳を伏せた。
概ね噂については聞いている。「巽 明日香がスポーツ科を脱落するから別れた」だの、またその逆で「才川がスポーツ科から脱落する巽を見限ったのじゃないか」とか。
いずれにしても普通科へ転科、脱落者になる私に対して厳しい目を向ける。
「それは違うわよ。才川だけに注目しているのじゃないって。明日香だってかなり男子に人気あるのに。クールビューティーって言われて人気がある事に自覚ないの?」
紗理奈があきれたように声を上げる。毎回言われるけれどもピンとこない。
「クールビューティーなんて。陸上の雑誌で面白おかしくネーミングをつけられただけで誰もそんな事思っていないよ。大体人気があるなら誰かに告白された事が一回や二回はありそうなのに。一度もないから」
私が肩を上げて笑うと紗理奈があきれていた。
「クールビューティー過ぎて近づきづらいって事と、バックに幼なじみの才川がいるからなおさら声をかけられなかった事実に自覚なしか……」
「だから、ないない。ないからそんなの」
私が口の前で手を振って見せた。
「自覚がないなら仕方ないわね。でもさ才川は否定しているのは聞いたわよ『別れていない』って。明日香は別れを切り出したのでしょ? はっきり言ったのよね?」
紗理奈は優しく重ねた手を離すと、ポテトをつまみ。行儀が悪いが私を指した。
「それが怜央にはっきり別れようって言ったし伝えたのだけれど、断られて」
困った事に怜央に別れを受け入れてもらえていない。
「やっぱり。才川は別れたくないんだ……へぇ~噂では明日香の方が才川に頼んで別れたくないっていう声が多かったけれども、才川が縋っているんじゃないの」
「縋るっていう程じゃないよ。『却下だ』って言われて」
「却下ぁ? 普通そんな言い方をする? でも、あの上から目線の才川なら言いそうよね。で? 何でこんなに別れる別れないの話が学校で広まったの?」
「それが別れ話をしているその場に来てしまったのが怜央の部活仲間で。怜央と言い合っているのがバレてしまって。あっという間に別れた、別れないの話が校内に広まってさ」
「ああ~男バレの奴ら仲良しだしね。だけどさ恋人が話し合っているのにそんな重要な事広めなくても。デリカシーがないって言うか」
ブツブツと紗理奈が文句を言っていた。
そうなのだ。私から別れを告げたのは先日だが、怜央は「却下だ」と言って聞いてくれなかった。そこへ怜央の部活仲間がやって来て別れ話で揉めている事を聞かれてしまったのだ。
そしておしゃべりな怜央の部活仲間が別れ話を学校の皆に広めてしまったので、噂の的になっているのだ。
「噂の方は夏休みに入って少し噂も落ち着くと良いわね。その間にちゃんと才川と話し合って別れるにしろ別れないにしろ二人で決めるのよ」
「うん」
私は紗理奈の前で頷いた。
まだ寒かった頃。怜央の部屋で、怜央の事を取り上げた雑誌について話をした時は、とても幸せな時間だった。
こんな事になるなんて考えてもいなかった。
私は再び窓の外を見つめて溜め息をついた。
と言うか……話せなかった。
何故話せなかったのかって? それは、とても惨めな理由からだった。その事が原因で私は怜央に別れを告げたのだ。
その事を話せるのは親友の紗理奈以外にいないと思うけれども。まだ上手く伝えられない。
私の視線を逸らした姿をじっと見つめた紗理奈は頬杖をついた。それから飲み物に手を伸ばした私の手をふわりと握った。
「明日香が話したくなったらさ、話してよね。待っているからさ」
「うん。紗理奈、ありがとう」
私は多くを聞かないでいてくれる紗理奈に感謝した。
スポーツ科のクラスメイトは皆、私と怜央が別れた事を聞きつけて根掘り葉掘り聞いてくる。中にはあまり仲良くなかったのに興味津々で、仲が良かった体で聞いてくるクラスメイトもいる。
それだけ怜央が注目されているからなのだろう。怜央は高校の中でもとびきり人気の高い男子生徒なのだ。次は誰が怜央と付き合うのか皆興味があるし、その彼女の座をたくさんの女生徒が狙っている。
幼なじみというトップカードを持っている私が怜央の前を去った事は、目の上のたんこぶがなくなったぐらいすっきりしたのだろう。
「それにしても別れた理由について色々な噂が流れているわよ。英数科のところまで噂が届くぐらい。みんな勝手よね明日香は怪我までしているのに」
「仕方ないよ。怜央はいつも注目されているしね」
私は瞳を伏せた。
概ね噂については聞いている。「巽 明日香がスポーツ科を脱落するから別れた」だの、またその逆で「才川がスポーツ科から脱落する巽を見限ったのじゃないか」とか。
いずれにしても普通科へ転科、脱落者になる私に対して厳しい目を向ける。
「それは違うわよ。才川だけに注目しているのじゃないって。明日香だってかなり男子に人気あるのに。クールビューティーって言われて人気がある事に自覚ないの?」
紗理奈があきれたように声を上げる。毎回言われるけれどもピンとこない。
「クールビューティーなんて。陸上の雑誌で面白おかしくネーミングをつけられただけで誰もそんな事思っていないよ。大体人気があるなら誰かに告白された事が一回や二回はありそうなのに。一度もないから」
私が肩を上げて笑うと紗理奈があきれていた。
「クールビューティー過ぎて近づきづらいって事と、バックに幼なじみの才川がいるからなおさら声をかけられなかった事実に自覚なしか……」
「だから、ないない。ないからそんなの」
私が口の前で手を振って見せた。
「自覚がないなら仕方ないわね。でもさ才川は否定しているのは聞いたわよ『別れていない』って。明日香は別れを切り出したのでしょ? はっきり言ったのよね?」
紗理奈は優しく重ねた手を離すと、ポテトをつまみ。行儀が悪いが私を指した。
「それが怜央にはっきり別れようって言ったし伝えたのだけれど、断られて」
困った事に怜央に別れを受け入れてもらえていない。
「やっぱり。才川は別れたくないんだ……へぇ~噂では明日香の方が才川に頼んで別れたくないっていう声が多かったけれども、才川が縋っているんじゃないの」
「縋るっていう程じゃないよ。『却下だ』って言われて」
「却下ぁ? 普通そんな言い方をする? でも、あの上から目線の才川なら言いそうよね。で? 何でこんなに別れる別れないの話が学校で広まったの?」
「それが別れ話をしているその場に来てしまったのが怜央の部活仲間で。怜央と言い合っているのがバレてしまって。あっという間に別れた、別れないの話が校内に広まってさ」
「ああ~男バレの奴ら仲良しだしね。だけどさ恋人が話し合っているのにそんな重要な事広めなくても。デリカシーがないって言うか」
ブツブツと紗理奈が文句を言っていた。
そうなのだ。私から別れを告げたのは先日だが、怜央は「却下だ」と言って聞いてくれなかった。そこへ怜央の部活仲間がやって来て別れ話で揉めている事を聞かれてしまったのだ。
そしておしゃべりな怜央の部活仲間が別れ話を学校の皆に広めてしまったので、噂の的になっているのだ。
「噂の方は夏休みに入って少し噂も落ち着くと良いわね。その間にちゃんと才川と話し合って別れるにしろ別れないにしろ二人で決めるのよ」
「うん」
私は紗理奈の前で頷いた。
まだ寒かった頃。怜央の部屋で、怜央の事を取り上げた雑誌について話をした時は、とても幸せな時間だった。
こんな事になるなんて考えてもいなかった。
私は再び窓の外を見つめて溜め息をついた。
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