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01 倉田さんの悩み
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あの嵐の慰安旅行から帰ってきて二週間経った。
社内で女性人気一位、二位を争う人気の男性。
元サーファーでコミュニケーションと英語力抜群の天野 悠司。
アメリカ育ち五カ国語を操るエリートの岡本 聡司。
この二人と私、倉田 涼音は会社の知り合いというだけだった。
なのに、二週間前の慰安旅行でこの二人と体の関係を持ってしまった。
口外しないと約束した後、今後この関係が続いて行く様な事を二人は言うので、私は思わず『それはない』と否定をした。
「へぇ……俺達以外で満足出来るんだ? 倉田は」
「そうですよ。もっと凄い事しちゃいましょうよ。だって──」
「俺達」
「僕達」
「「最高の相性なんだし」」
そう言って二人は私の手を握りしめて離さなかった。
だから私は勘違いをしたのだ。
二人と私。
三人の関係が続くと思っていた。
現実は違っていた。
翌日の慰安旅行帰りのバスでは、天野と岡本と会話をする事もなかった。大人気の二人は帰りのバスの席でも四方を女性に囲まれていた。
「天野君と岡本君は同部屋だったのに、二人共部屋に一晩中戻らなかったみたいだけれども。バーで飲んだ後何処へ行ったの?」
「そうそう! 岡本君は凄く調子が悪そうにしていたいたのに大丈夫だった?」
二人を大好きな女性集団、天野は島田さん中心のギャル系集団から尋ねられ、岡本は鈴木さんを中心とするお嬢様系集団から迫られていた。
「え? 二人で話し込んでただけだ。盛り上がってさ」
「そうなんですよ。二階の広場というかゲームコーナーのところでね」
天野と岡本はお互い目を合わせてから、笑っていた。
「「え~一晩中? そんなの信じないから」」
女性達が黄色い声を上げていた。
まるで男性アイドルだ。
バスの最前列に座っていた私は、女性達が追求する度にヒヤヒヤしていた。
本当の事を話すはずないのに。
それからバスは夕方に駅につき慰安旅行は無事に終了。駅で解散となった。
しかし、相変わらず二人は女性達に囲まれていて直ぐに帰る様子はなかった。
私はそんな天野と岡本を遠くから見つめた。とても近づける雰囲気ではない。
女性達は昨晩天野と岡本と長い時間過ごす事が出来なかったので、必死に夕食に誘っていた。
仕方ないので私は一人帰路についた。何故かその時、後で連絡しようと思っていたのだ。
一人暮らしのアパートに到着し、荷物を片付けコーヒーを入れる。ソファに座り一息ついて、スマホを取り出し天野と岡本に連絡をしようとした。
「あっ」
しかし、ここへ来てある事にようやく気づく。
「連絡って言っても何を連絡するつもりなの。それによく考えたら、私は二人の連絡先を知らないし」
困ったな、連絡する手段がない。
あまりの阿呆な自分にマグカップを握り絞めたままテーブルにうつぶしてしまった。
付け加えると天野と岡本の二人は営業部で私は企画部。所属している部署も違う。小さな会社だが働いているフロアが違うのでなかなか顔を合わせる事もない。
ランチタイムに社員食堂でばったりなんて、そんなのたまにしかない。
帰宅する時会社のビル出口でばったりなんて、そんなのもっとない。
唯一顔を合わせる事が多いのは企画会議と売り上げ報告会議だ。それらの会議も今の時期は落ち着いている。だから慰安旅行が開催されたのだ。
そんな事もあり、天野と岡本と顔を合わせる事がなかった。
待って……違うかも……
天野と岡本が私を避けているのかもしれない。だって私は……二人の男性と同時に寝る女なのよ。きっと冷静になった天野と岡本は私と距離を置く事にしたのね。
今までは天野と岡本がどんなに仕事も出来て女性に人気だという話を聞いても、仕事に集中していたのに。気がつくと手を止めて二人の事を考える時間が増えている。
思い出すのは主に慰安旅行前。つまり二人と関係を持つ前のやり取り。
会議での表情とか発言と表情。
ランチタイムで隣の席になった時の他愛もない会話。
それでも最後には、慰安旅行での天野と岡本の欲情で濡れた瞳と体が浮かび、私を呼ぶ声が聞こえる。
会社や自宅で何て事を思い出しているの! と、私は慌てて打ち消す。
二人を思い出すと何ともいえない気持ちになるから。
何ともいえない気持ちとは、そうだなぁうーん……フワッとなって最後に少しだけ、キュッと胸の辺りが絞り上げられる様な……いや、絞り上げられるって何だ。締めつけられる様な。
「ん? 締めつけられるって? いやいやいやそんな。それでは何だか片思い──違う違う!」
住み慣れたアパートの天井を見ながら眠りにつくというのに、無駄に大きな声を上げてしまった。
「そうだ。フワッとなるっていうのは。うーん、あれだ! モヤモヤするのよね。そうだモヤモヤかな」
仕事中上の空になる事が増えてきている。
だって、油断すると天野と岡本の顔が浮かんで来てしまう。
気をつけないといけない。こんな時こそ気を引き締めて仕事に集中しないと。
「そうだ。モヤモヤするって事よ。うんうん、気をつけないとね。こんな時こそミスが起こるんだから」
時計は十二時。日が変わる前に眠りたかったけれども仕方がないか。自己分析に結着をつけ眠りにつくというそんな日々が続いていた。
翌朝、自己分析が功を奏したのかスッキリと目覚めた私は、朝から企画案が浮かんで絶好調だった。
この新しい企画を何本か形にして会議にかけないとね。
スキップしたい気持ちを抑え、指定した階でエレベーターを降りる。が、間違えて一階下の営業部と広報部のフロアに降り立ってしまった。
「失敗したわ……まぁいいか。運動よ運動」
私は一人呟きながら、階段で企画部フロアに行こうと歩きはじめた。
丁度その時、天野の声が聞こえた。
「あっ倉田! いいところへ」
二週間ぶりに出会う天野が会議室のドアを開き押さえたまま私を手招きする。
浅黒く日焼けした精悍な頬にラフに決めた茶色い前髪。ネイビーのスーツはきっちりと着こなされている。つり眉に少し垂れた二重が私を見つけて大慌てで手を振っていた。
「あっ、天野……」
私は、突然出会った天野に心臓が飛び出そうだった。そして、慰安旅行前と特に変わりのない天野の様子にホッとした。
んん? 何故ホッとしているのかしら。そうか! 避けられているわけではなかったのね。よかったよかった。
──よかったって何故?
私は自分の考えていた事に一人驚いている。
そんな様子を悟られたくなかったので、平常心を装い天野に返事をする。
「どうしたの? 私はこれから上の階に戻るんだけど」
「倉田さ頼むから。相談したいんだ」
天野の台詞と顔が、慰安旅行の時と重なる。
『シーッ! 倉田さ頼むから。一人部屋だろ? 匿ってくれよ』
思わず息を飲んで目を丸める。何を考えているのよ私は!
天野はそんな呆然とする私の腕を掴み会議室に押し込む。
「な、何?!」
声が情けなく震えてしまった。
押し込まれた会議室はブラインドが降りていて昼間だが薄暗い。営業部フロアのにある会議室に入るのは久しぶりかも。しかしこの会議室は少し様子がおかしい。
中央には会議室で使用するテーブルが置かれているが、壁伝いには店で使用していた試着室やスチールロッカーが置かれていた。他にはショップで使用していたマネキンなどが多数放置されている。
「もしかして、この部屋は倉庫代わりになっているの?」
「そうだよ。営業と広報で使用しているのさ」
私が薄暗い部屋の中をぐるりと見渡して尋ねると、天野が説明しながら後ろ手でドアの鍵をガチャリと閉める。
「え?」
鍵を閉める金属音に驚いて振り向くと、天野がそれを遮る様に私を後ろから抱きしめた。
「な、何を!?」
天野のスーツの腕が私の体を抱きしめる。ダージリンの香りがふわりとした。彼が好んでつけている香水だ。
「ああ……二週間ぶりだ。やっと抱きしめる事が出来る」
そう言って天野は後ろから私の首筋に顔を埋める。その艶っぽい声に思わずときめいてしまう。
思考及び動作停止。
心臓の音だけが大きく聞こえる。そんな私の様子に天野がゆっくりと左手を取った。太い親指が優しく私の手の甲を撫でる。
「倉田」
天野が私の名前を呼んだ。そして左手の指先を口に含む。
「んっ……」
それだけでフルリと私は肩を震わせてしまった。
「指先でも感じる?」
天野はラフにまとめた長めの前髪を揺らして笑った。そしてネイビーのジャケットのボタンを外した。
社内で女性人気一位、二位を争う人気の男性。
元サーファーでコミュニケーションと英語力抜群の天野 悠司。
アメリカ育ち五カ国語を操るエリートの岡本 聡司。
この二人と私、倉田 涼音は会社の知り合いというだけだった。
なのに、二週間前の慰安旅行でこの二人と体の関係を持ってしまった。
口外しないと約束した後、今後この関係が続いて行く様な事を二人は言うので、私は思わず『それはない』と否定をした。
「へぇ……俺達以外で満足出来るんだ? 倉田は」
「そうですよ。もっと凄い事しちゃいましょうよ。だって──」
「俺達」
「僕達」
「「最高の相性なんだし」」
そう言って二人は私の手を握りしめて離さなかった。
だから私は勘違いをしたのだ。
二人と私。
三人の関係が続くと思っていた。
現実は違っていた。
翌日の慰安旅行帰りのバスでは、天野と岡本と会話をする事もなかった。大人気の二人は帰りのバスの席でも四方を女性に囲まれていた。
「天野君と岡本君は同部屋だったのに、二人共部屋に一晩中戻らなかったみたいだけれども。バーで飲んだ後何処へ行ったの?」
「そうそう! 岡本君は凄く調子が悪そうにしていたいたのに大丈夫だった?」
二人を大好きな女性集団、天野は島田さん中心のギャル系集団から尋ねられ、岡本は鈴木さんを中心とするお嬢様系集団から迫られていた。
「え? 二人で話し込んでただけだ。盛り上がってさ」
「そうなんですよ。二階の広場というかゲームコーナーのところでね」
天野と岡本はお互い目を合わせてから、笑っていた。
「「え~一晩中? そんなの信じないから」」
女性達が黄色い声を上げていた。
まるで男性アイドルだ。
バスの最前列に座っていた私は、女性達が追求する度にヒヤヒヤしていた。
本当の事を話すはずないのに。
それからバスは夕方に駅につき慰安旅行は無事に終了。駅で解散となった。
しかし、相変わらず二人は女性達に囲まれていて直ぐに帰る様子はなかった。
私はそんな天野と岡本を遠くから見つめた。とても近づける雰囲気ではない。
女性達は昨晩天野と岡本と長い時間過ごす事が出来なかったので、必死に夕食に誘っていた。
仕方ないので私は一人帰路についた。何故かその時、後で連絡しようと思っていたのだ。
一人暮らしのアパートに到着し、荷物を片付けコーヒーを入れる。ソファに座り一息ついて、スマホを取り出し天野と岡本に連絡をしようとした。
「あっ」
しかし、ここへ来てある事にようやく気づく。
「連絡って言っても何を連絡するつもりなの。それによく考えたら、私は二人の連絡先を知らないし」
困ったな、連絡する手段がない。
あまりの阿呆な自分にマグカップを握り絞めたままテーブルにうつぶしてしまった。
付け加えると天野と岡本の二人は営業部で私は企画部。所属している部署も違う。小さな会社だが働いているフロアが違うのでなかなか顔を合わせる事もない。
ランチタイムに社員食堂でばったりなんて、そんなのたまにしかない。
帰宅する時会社のビル出口でばったりなんて、そんなのもっとない。
唯一顔を合わせる事が多いのは企画会議と売り上げ報告会議だ。それらの会議も今の時期は落ち着いている。だから慰安旅行が開催されたのだ。
そんな事もあり、天野と岡本と顔を合わせる事がなかった。
待って……違うかも……
天野と岡本が私を避けているのかもしれない。だって私は……二人の男性と同時に寝る女なのよ。きっと冷静になった天野と岡本は私と距離を置く事にしたのね。
今までは天野と岡本がどんなに仕事も出来て女性に人気だという話を聞いても、仕事に集中していたのに。気がつくと手を止めて二人の事を考える時間が増えている。
思い出すのは主に慰安旅行前。つまり二人と関係を持つ前のやり取り。
会議での表情とか発言と表情。
ランチタイムで隣の席になった時の他愛もない会話。
それでも最後には、慰安旅行での天野と岡本の欲情で濡れた瞳と体が浮かび、私を呼ぶ声が聞こえる。
会社や自宅で何て事を思い出しているの! と、私は慌てて打ち消す。
二人を思い出すと何ともいえない気持ちになるから。
何ともいえない気持ちとは、そうだなぁうーん……フワッとなって最後に少しだけ、キュッと胸の辺りが絞り上げられる様な……いや、絞り上げられるって何だ。締めつけられる様な。
「ん? 締めつけられるって? いやいやいやそんな。それでは何だか片思い──違う違う!」
住み慣れたアパートの天井を見ながら眠りにつくというのに、無駄に大きな声を上げてしまった。
「そうだ。フワッとなるっていうのは。うーん、あれだ! モヤモヤするのよね。そうだモヤモヤかな」
仕事中上の空になる事が増えてきている。
だって、油断すると天野と岡本の顔が浮かんで来てしまう。
気をつけないといけない。こんな時こそ気を引き締めて仕事に集中しないと。
「そうだ。モヤモヤするって事よ。うんうん、気をつけないとね。こんな時こそミスが起こるんだから」
時計は十二時。日が変わる前に眠りたかったけれども仕方がないか。自己分析に結着をつけ眠りにつくというそんな日々が続いていた。
翌朝、自己分析が功を奏したのかスッキリと目覚めた私は、朝から企画案が浮かんで絶好調だった。
この新しい企画を何本か形にして会議にかけないとね。
スキップしたい気持ちを抑え、指定した階でエレベーターを降りる。が、間違えて一階下の営業部と広報部のフロアに降り立ってしまった。
「失敗したわ……まぁいいか。運動よ運動」
私は一人呟きながら、階段で企画部フロアに行こうと歩きはじめた。
丁度その時、天野の声が聞こえた。
「あっ倉田! いいところへ」
二週間ぶりに出会う天野が会議室のドアを開き押さえたまま私を手招きする。
浅黒く日焼けした精悍な頬にラフに決めた茶色い前髪。ネイビーのスーツはきっちりと着こなされている。つり眉に少し垂れた二重が私を見つけて大慌てで手を振っていた。
「あっ、天野……」
私は、突然出会った天野に心臓が飛び出そうだった。そして、慰安旅行前と特に変わりのない天野の様子にホッとした。
んん? 何故ホッとしているのかしら。そうか! 避けられているわけではなかったのね。よかったよかった。
──よかったって何故?
私は自分の考えていた事に一人驚いている。
そんな様子を悟られたくなかったので、平常心を装い天野に返事をする。
「どうしたの? 私はこれから上の階に戻るんだけど」
「倉田さ頼むから。相談したいんだ」
天野の台詞と顔が、慰安旅行の時と重なる。
『シーッ! 倉田さ頼むから。一人部屋だろ? 匿ってくれよ』
思わず息を飲んで目を丸める。何を考えているのよ私は!
天野はそんな呆然とする私の腕を掴み会議室に押し込む。
「な、何?!」
声が情けなく震えてしまった。
押し込まれた会議室はブラインドが降りていて昼間だが薄暗い。営業部フロアのにある会議室に入るのは久しぶりかも。しかしこの会議室は少し様子がおかしい。
中央には会議室で使用するテーブルが置かれているが、壁伝いには店で使用していた試着室やスチールロッカーが置かれていた。他にはショップで使用していたマネキンなどが多数放置されている。
「もしかして、この部屋は倉庫代わりになっているの?」
「そうだよ。営業と広報で使用しているのさ」
私が薄暗い部屋の中をぐるりと見渡して尋ねると、天野が説明しながら後ろ手でドアの鍵をガチャリと閉める。
「え?」
鍵を閉める金属音に驚いて振り向くと、天野がそれを遮る様に私を後ろから抱きしめた。
「な、何を!?」
天野のスーツの腕が私の体を抱きしめる。ダージリンの香りがふわりとした。彼が好んでつけている香水だ。
「ああ……二週間ぶりだ。やっと抱きしめる事が出来る」
そう言って天野は後ろから私の首筋に顔を埋める。その艶っぽい声に思わずときめいてしまう。
思考及び動作停止。
心臓の音だけが大きく聞こえる。そんな私の様子に天野がゆっくりと左手を取った。太い親指が優しく私の手の甲を撫でる。
「倉田」
天野が私の名前を呼んだ。そして左手の指先を口に含む。
「んっ……」
それだけでフルリと私は肩を震わせてしまった。
「指先でも感じる?」
天野はラフにまとめた長めの前髪を揺らして笑った。そしてネイビーのジャケットのボタンを外した。
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