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第十八章 辺境女はしたたか小町

第七話 亡霊と特等武装女中

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前回のあらすじ

なぜなにゴスリリ:武装女中編
顔は大事という話。





 顔面は大事らしい。
 いやまあ、そりゃそばに置くんだったら美人さんの方が嬉しいだろうし、見栄えもいいだろうし、内にも外にもいいことなんだろうけれど、なんたるルッキズムの暴力。
 実力はあっても顔面で落とされたら可哀そうすぎる。

 とはいえ、トルンペートはかわいいとはいえ、整形美人さんらしいんだよね。
 以前からなんとなくざっくりとは聞いてたんだけど、今回のほほんと思い出話風に語ってくれたところによれば、リリオに振り回されて壊れるたびに修理されてたトルンペートは、せっかくだからとその際に顔面も整えて修復されちゃったらしい。
 突っ込みどころが多いけど、辺境の武装女中は割とそう言う整形美人さんが多いみたいだった。
 手術の跡とか全然見当たらないし、辺境の医療技術はすさまじいものがあるな。

 リリオはあんまり怪我しなかったからそんなにお世話にならなかったらしいけど、トルンペートはことあるごとにぼろ雑巾のようにされては担ぎ込まれていたので、御屋形の医療施設であるらしい《玩具箱トイ・ボックス》とやらは実家のような安心感があるらしい。親の顔を知らないトルンペート的にはまさしく親の顔より見た医療施設らしく、これ以上私に突っ込み疲れさせないでほしい。

 まあなんにせよ、辺境の武装女中にとって顔面というものは大事な看板らしく、御屋形で待ち構えていた特等武装女中とやらもとにかく顔がいい三人組だった。

 アラバストロさんとマテンステロさんが暴れるだけ暴れて大穴ぶち開けて、とりあえず埋めるだけ埋めた前庭で、その顔のいい三人組とペルニオさんは私たちを出迎えてくれた。

 ひとりはスレンダーな天狗ウルカの人で、臙脂色の飾り羽が美しい。三人の中では一番小柄で、顔立ちはちょっと生意気系。天狗ウルカにありがちな上から目線面だ。天狗ウルカって身長の高低にかかわらず人を見下すというか、自身の優越性を疑わない面構えしてるんだよね。

 またひとりは土蜘蛛ロンガクルルロの人で、いままで見てきた土蜘蛛ロンガクルルロよりだいぶ、その、なんだ、これ差別用語に当たらないことを祈るんだけど、虫っぽい。なんか先祖返りとかいう奴らしく、下半身は殆ど巨大な蜘蛛だ。それを支える足も露骨に虫。
 微笑みが上品で大人っぽいだけにその異形っぷりが目を引く。

 三人目は、一見して普通の人族かなって思ったんだけど、山椒魚人プラオという水陸両用の隣人種らしい。髪も顔も濡れたような艶があるけれど、実際に水精の加護で、地上でも乾かないよう潤っているんだとか。何とも言えずミステリアスな雰囲気だけど、こういう大人しいタイプが一番強いんだろうなという感じ。

「突然のお呼び出し申し訳ありません、リリオお嬢様、奥方様。この度、三等武装女中トルンペートの昇格試験を任されました、特等武装女中のツィニーコと申します」
「同じく、フォルノシードと申します。お見知りおきを」
「……アパーティオと。よしなに」
「雪深い中、遠方より遥々お越しいただき嬉しく思います。試験のほど、よしなにお願いします」

 三人は華麗なカーテシーと共に挨拶を述べ、リリオも丁寧に返す。真面目な顔してるとちゃんとご令嬢なんだよね、リリオ。私たち《三輪百合トリ・リリオイ》の中では一番ちゃんと教育受けてて、一番血筋も良くて、なのにこれなんだよなあ。どこで残念要素が混じってしまったのか。

 しかしそれにしても、気になるのは新手の特等武装女中三人に並んでしれっと混じってるペルニオさんだ。この人、ご当主のお付きじゃないのか。お付きの武装女中って私設秘書みたいなところもあるんじゃないのか。

「ペルニオさん、アラバストロさんはいいんですか」
「お気遣い、ありがとうございます。御屋形様はただいま大変ご多忙ですので、よろしいのです」
「どういう接続詞なのそれ……忙しいんならなおさら……あ、そう言えばマテンステロさんもいない」
「ええ、ええ、奥様も、ただいま大変ご多忙ですので」
「へえ……あの人野次馬根性で見に来そうだけど……」
「ええ、大変なのです」
「……あの……それはこう…………暗いし寒いから家出たくないので、あの、という……」
「秋頃にはお祝いの品でも、頂戴できれば」
「真顔で……」
!」

 ペルニオさんの冗談なのか冗談じゃないのかマジでわかりづらいトークをぶった切ったのは、ちょっと子供っぽい感じのある生意気ボイスだった。
 ツィニーコとか名乗った天狗ウルカの特等だね。
 どうやらそれが素であるらしい荒っぽい笑みに荒っぽい口調で、ツィニーコは割って入ってきた。

「カッ、仲良くおしゃべりもいいけどよォ、なあペルニオ様よォ。オレらも雪の上走ってわざわざ来たんだ。そろそろ理由ワケってやつを伺いたいもんだぜ、オイ!」

 ツンツン立て気味の赤い短髪と言い、荒っぽい口調といい、いい感じにヤンキーだ。
 特等武装女中ともなれば品行方正でお上品な感じだと思ってたんだけど、という胡乱な視線を敏感に感じ取ったのか、天狗ウルカは器用に私を下から見下した視線でねめつけた。

アタマの挨拶こそ舐められねェよーにオ上品ジョーヒンにやらせてもらったがよォ、特等は武装女中の中でも別格ッ! てめえでてめえの主を選ぶ権利があるッ! その特権を持つからこその特等だッ! 例え辺境の棟梁だろうと関係ねェ!」

 君出てくる作品間違えてない?
 そのくらい元気よく啖呵を切ったツィニーコは、私から視線を切るとそのままペルニオさんをじろっとにらんだ。

「ペルニオ様よォ、あんたが呼んだからオレらもわざわざ来たんだ。なんだってまた小娘の昇格なんぞでオレら特等を呼びつけたってんだよ、エ?」

 ペルニオさんは湧き上がる闘気的ななんかをさらりと受け流し、例の感情が読めないアルカイックスマイルで穏やかにこう告げた。

「冬の間お暇でしょうから、差し上げようと思いまして」
「──!?」

 その一言は、ツィニーコだけでなく穏やかにほほ笑んでいたフォルノシードまでをも怒らせるものだったらしい。アパーティオも、なんとなく不機嫌そうな気もするけど、いやこの人表情変わんないのでよくわかんないな。
 空気の読めない人種であることに定評のある私にもはっきりわかるほどの、殺気めいた怒りが噴きあがった。

 ところで君らその「!?」とか「ビキッ」ていうのどうやって出してんの?
 やっぱ違う作品の人じゃないの君ら。
 間に挟まれて咄嗟にそんな現実逃避をしてしまった。





用語解説

玩具箱トイ・ボックス
 フロントの領主館及び武装女中養成所に一つずつ存在する医療施設。
 全身骨折を平然と整復してみたり、顔面を整形してみたり、焼かれて薬品まで食らった領主を短時間である程度治したりとその医療技術は異常なまで発達しているようだ。
 しばしば治療ではなく修理という単語が使われたりなど、あまり普通の医療施設ではないようだ。

・ご多忙
 大変お忙しゅうございます。

・特権
 特等武装女中には、自分で主人を選ぶ権利≒不本意な主人にあてがわれない権利の他、必要であれば主人に逆らう権利などを有する。
 当然、その特権を利用するためには、他の追随を許さない実力の維持向上が義務である。

・「!?」とか「ビキッ」
 由緒正しきヤンキー仕草。
 ただ、これを浮かべる際の表情が少し違うだけで、密室殺人等のミステリーなんかに変わってしまうので要注意。
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