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第十章 温泉街なんですけど!?
第五話 亡霊と温泉宿
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前回のあらすじ
温泉宿までの道すがら、聖女様とやらの話を聞く三人。
どうやらどえりゃあすごい人のようだが。
私たちが宿に向かう間に、領主屋敷まで走っていった遣いが、急ぎ感謝の書状を届けてくれた。
領主は気の利く人のようで、ぜひとも直接会って感謝の言葉を述べたいがそれでは旅の疲れもとれないだろうから、温泉宿では最高のサービスをさせるので是非ともゆっくり休んでレモの町を楽しんでいってほしいという言葉が、たかが旅人に対するものとは思われぬほどに丁寧に書き連ねてあった。
これほど誠実な人物であるから一介の衛兵にも慕われているわけだし、また街の様子も実にさっぱりとしているのだなと何となく思わせられる。
この世界で為政者というものと、間接的にも触れたのはこれが初めてだったけれど、思いのほかにいい人のようである。
辿り着いた温泉宿は、木造建築のひなびた温泉宿で、感動するぐらいにイメージ通りの「ひなびた温泉宿」だった。このまま殺人事件が起きて美人女将が解決してしまいそうな勢いさえある。いや、それはひなびているのか? まあいいか。私のイメージなどいつもいい加減だ。
妙な想像して本当に殺人事件なんか起こった場合、このファンタジー世界で推理できるほど私の頭はよろしくないんだ。ぶっちゃけ《隠蓑》で誰からも気づかれないように行動できる上に超身体能力があるし、いざとなれば《影分身》で分身残してアリバイ造りもできるし、ミステリ殺し過ぎるんだよな。
その上での不可能犯罪を構築するって言うのがファンタジー・ミステリ業界の腕の見せ所なんだろうけれど、なんで私がそんなものを構築したり推理せにゃならんのだ。
妙な想像はいい加減にやめよう。
私は推理小説は推理しないで読むタイプなんだ。
さて、衛兵が事情を説明して宿を取ってくれ、私たちは下にも置かない対応を受けた。
ご領主様のお達しという以上に、この温泉宿の人たちも聖女様のことをよくよく知っていて、その聖女様の仕事を肩代わりしてくれたということに多大な感謝を示してくれているようだった。
「いやあ、何しろ聖女様、崇められるのが苦手みたいで、自分で下々の仕事も率先してなさるもんで、こっちはいつ倒れるんじゃないかとひやひやしていまして」
とんだワーカホリックだ。
なんだか途端に聖女様とやらに親しみを感じ始めた。
「まあ、しかし偶然とはいえお客様方はいい宿を引き当てましたよ。当温泉は旅でやられやすい腰痛肩こりその他筋肉の疲れに効くほか美容にもよく、しかも風呂の神官が常駐していて癒しの力が高められているんですよ」
「ほほう」
「しかも今なら聖女様が癒しの力を注いで下さって、その効能たるや収まるところを知らない高まりぶり!」
なんか裏付けのない健康食品のうたい文句のようではあったが、しかしこの世界では神官の力だのなんだのが現実的に作用することはすでに体感済みだ。ただでさえ心地よさの約束された温泉にそれだけバフを積み上げたら、下手したら私など成仏するかもしれない。
気を強く持っていこう。
部屋まで案内してもらって、私はふと気づいて案内してくれた女中さんに聞いてみた。
「ところで、聖女様が働いているっていうけど、お会いできるのかな」
これには女中さんは困ったように笑った。
「そうおっしゃるお客さん結構いらっしゃるんですけれど、聖女様、あまり目立つことがお好きでない方でして」
「あー」
「一応私ども女中に紛れて仕事はなさってるんですけど、絶対に聖女と呼ばないで欲しいとも言われてますし、そういう扱い受けたら来づらくなるからやめてくれとおっしゃられていまして」
「いえ、いいです。わかりました」
女中は申し訳なさそうだけれど、むしろかなり親近感が増した。
わかる。
すごくわかる。
私だって仮に同じ立場だったら。働かずにはいられないけどでも目立つのは嫌だという相当なジレンマに悩まされることだろう。
願わくは彼女があんまり持ち上げられず、ほどほどな対人関係を築けますように。
対人関係がクソな環境は、労働環境が地獄であるというのと同義だからな。
「もし聖女様にお会いになって、それとお分かりになっても、聖女様聖女様と持ち上げずに、見なかったふりをして普通の女中として扱って、そっとしておいてあげてください。あんまり緊張が続くと吐いちゃうこともありますので」
「わかりました。必ず」
なんて親近感のわく女性だろう。
もはや信仰の対象というより庭先に住み着いた小狸とかみたいな扱いだ。というか吐いちゃうってなんだ。聖女様大丈夫か、いろんな意味で。
女中さんが去って、私たちは荷物を片付け、動きやすい格好に着替えて、それから、どうしようかと相談した。
「先に温泉入ります? お腹に物入れた状態で温泉入ると疲れますし」
「とはいえ、さすがに今日は疲れたわよあたし。今温泉入ったら寝る気がする」
「じゃあ、先にご飯だ」
温泉飯を早速お願いすることにした。
用語解説
・バフ
ゲーム用語。対象者に都合のいいステータス上昇効果、状態異常耐性などを付与する魔法、特技、アイテム、その他。
逆に都合の悪いステータス変動を引き起こすものをデバフという。
・
温泉宿までの道すがら、聖女様とやらの話を聞く三人。
どうやらどえりゃあすごい人のようだが。
私たちが宿に向かう間に、領主屋敷まで走っていった遣いが、急ぎ感謝の書状を届けてくれた。
領主は気の利く人のようで、ぜひとも直接会って感謝の言葉を述べたいがそれでは旅の疲れもとれないだろうから、温泉宿では最高のサービスをさせるので是非ともゆっくり休んでレモの町を楽しんでいってほしいという言葉が、たかが旅人に対するものとは思われぬほどに丁寧に書き連ねてあった。
これほど誠実な人物であるから一介の衛兵にも慕われているわけだし、また街の様子も実にさっぱりとしているのだなと何となく思わせられる。
この世界で為政者というものと、間接的にも触れたのはこれが初めてだったけれど、思いのほかにいい人のようである。
辿り着いた温泉宿は、木造建築のひなびた温泉宿で、感動するぐらいにイメージ通りの「ひなびた温泉宿」だった。このまま殺人事件が起きて美人女将が解決してしまいそうな勢いさえある。いや、それはひなびているのか? まあいいか。私のイメージなどいつもいい加減だ。
妙な想像して本当に殺人事件なんか起こった場合、このファンタジー世界で推理できるほど私の頭はよろしくないんだ。ぶっちゃけ《隠蓑》で誰からも気づかれないように行動できる上に超身体能力があるし、いざとなれば《影分身》で分身残してアリバイ造りもできるし、ミステリ殺し過ぎるんだよな。
その上での不可能犯罪を構築するって言うのがファンタジー・ミステリ業界の腕の見せ所なんだろうけれど、なんで私がそんなものを構築したり推理せにゃならんのだ。
妙な想像はいい加減にやめよう。
私は推理小説は推理しないで読むタイプなんだ。
さて、衛兵が事情を説明して宿を取ってくれ、私たちは下にも置かない対応を受けた。
ご領主様のお達しという以上に、この温泉宿の人たちも聖女様のことをよくよく知っていて、その聖女様の仕事を肩代わりしてくれたということに多大な感謝を示してくれているようだった。
「いやあ、何しろ聖女様、崇められるのが苦手みたいで、自分で下々の仕事も率先してなさるもんで、こっちはいつ倒れるんじゃないかとひやひやしていまして」
とんだワーカホリックだ。
なんだか途端に聖女様とやらに親しみを感じ始めた。
「まあ、しかし偶然とはいえお客様方はいい宿を引き当てましたよ。当温泉は旅でやられやすい腰痛肩こりその他筋肉の疲れに効くほか美容にもよく、しかも風呂の神官が常駐していて癒しの力が高められているんですよ」
「ほほう」
「しかも今なら聖女様が癒しの力を注いで下さって、その効能たるや収まるところを知らない高まりぶり!」
なんか裏付けのない健康食品のうたい文句のようではあったが、しかしこの世界では神官の力だのなんだのが現実的に作用することはすでに体感済みだ。ただでさえ心地よさの約束された温泉にそれだけバフを積み上げたら、下手したら私など成仏するかもしれない。
気を強く持っていこう。
部屋まで案内してもらって、私はふと気づいて案内してくれた女中さんに聞いてみた。
「ところで、聖女様が働いているっていうけど、お会いできるのかな」
これには女中さんは困ったように笑った。
「そうおっしゃるお客さん結構いらっしゃるんですけれど、聖女様、あまり目立つことがお好きでない方でして」
「あー」
「一応私ども女中に紛れて仕事はなさってるんですけど、絶対に聖女と呼ばないで欲しいとも言われてますし、そういう扱い受けたら来づらくなるからやめてくれとおっしゃられていまして」
「いえ、いいです。わかりました」
女中は申し訳なさそうだけれど、むしろかなり親近感が増した。
わかる。
すごくわかる。
私だって仮に同じ立場だったら。働かずにはいられないけどでも目立つのは嫌だという相当なジレンマに悩まされることだろう。
願わくは彼女があんまり持ち上げられず、ほどほどな対人関係を築けますように。
対人関係がクソな環境は、労働環境が地獄であるというのと同義だからな。
「もし聖女様にお会いになって、それとお分かりになっても、聖女様聖女様と持ち上げずに、見なかったふりをして普通の女中として扱って、そっとしておいてあげてください。あんまり緊張が続くと吐いちゃうこともありますので」
「わかりました。必ず」
なんて親近感のわく女性だろう。
もはや信仰の対象というより庭先に住み着いた小狸とかみたいな扱いだ。というか吐いちゃうってなんだ。聖女様大丈夫か、いろんな意味で。
女中さんが去って、私たちは荷物を片付け、動きやすい格好に着替えて、それから、どうしようかと相談した。
「先に温泉入ります? お腹に物入れた状態で温泉入ると疲れますし」
「とはいえ、さすがに今日は疲れたわよあたし。今温泉入ったら寝る気がする」
「じゃあ、先にご飯だ」
温泉飯を早速お願いすることにした。
用語解説
・バフ
ゲーム用語。対象者に都合のいいステータス上昇効果、状態異常耐性などを付与する魔法、特技、アイテム、その他。
逆に都合の悪いステータス変動を引き起こすものをデバフという。
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