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第七章 旅立ちの日
第三話 鉄砲百合と少年弓士
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前回のあらすじ
子供には子供の都合があるというお話だったような気がする。
そしてあくる日、件の採石場跡地とやらにあたしたちは集まった。
まあ集まったと言っても、当事者である対戦者六名と、審判役兼怪我人の治療者役であるであるウールソさんの合わせて七名だけだったけど。
採石場跡地と言うのは、本当に何もないところだった。
足元は砂利で埋められていて、そのほかは、本当に、何もない。少なくとも普通に立ち回る限り、障害物もなければ視線を遮るようなものは何もない。
「あらかた石は取りつくしちまって、かといって街からも離れてるし、畑にするにゃ砂利が邪魔だし、何に使えるって土地でもなくてな。冒険屋組合で金を出し合って、鍛錬所代わりに使わせてもらってる。今日はうちの貸し切りだがな」
道理で人の姿がないわけだ。
といっても、全くないわけじゃない。
採石場跡地の敷地より外には、何人か隠れ潜んで、こちらを観察しているのがわかる。
そりゃ、新進気鋭の《三輪百合》と、いまは引退しているとはいえ大いに名を馳せた《一の盾》のリーダーが、試合形式とはいえ剣を交えるとなれば、その剣の秘密を探ろうと少なからぬ連中が目を忍ばせることだろう。
メザーガさんもそれはわかっているようで、ちらと視線をやったきり、大して気にした風もない。
それが余裕のためなのか、いつもの面倒臭がりの不精のためなのかはわからないけれど、少なくとも今の一瞥で、気にするまでもないと察してしまったのだろう。
さて、もっと気にするべきはあたしの対戦相手か。
あたしは仕込んだ短刀を確かめながら、ちらりと向こうの陣営の一等小さな人物を見やる。
クナーボ・チャスィスト。
家名は初めて聞いたけど、事務所では随分お世話になっている娘だ。
何しろ事務所の事務仕事の半分は彼女が片付けているし、手すきには暖かいものどうぞといつも美味しい豆茶を淹れてくれる。これで成人を控えた十三歳なのだから全く頭が上がらない。
口でこそ冒険屋見習いとは言っているけど、何しろまだ未成年だし、実際に冒険屋として仕事しているところは見たことがない。あたしの中では完全に冒険屋事務所の受付嬢と言った感じだ。
今日も相変わらずの町娘風の格好で、動きやすいようにか少し短めの丈にしているけれど、それだって程度の差というくらいでしかない。
かろうじて冒険屋っぽく見せているのは腰の帯に差した左右二本の狩猟刀に、両手に帯びた革製の弓掛。それから遊牧民の使うようなごく短い弓が一張り。
矢筒は見えないけれど、恐らく腰帯に帯びた小物入れのどれかが《自在蔵》なのだろう。
一つ一つを見ていけばよく手入れのされた仕事道具であることがうかがえるけれど、それを帯びているのが成人前の頬も柔らかな子供となると、なんだか子供の遊びのようにも見えてしまう。
「えっと……今日はよろしく、クナーボ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
礼儀も正しく、笑顔も爽やかで、うん、理想的な子供だ。逆に言えば子供でしかない。
裏もなければ表もない。あどけない子供だ。悪意も敵意も殺意も、まるで馴染みのない紅顔のお子様でしかない。
「メザーガさん、本当にその……大丈夫なの?」
「気持ちは痛いほどわかる」
あ、わかるんだ。
よかった。
「だが例えばだ。お前さん、森の中で見た目のかわいい魔獣に遭遇したとして、見た目がかわいいからって油断するか」
まあ、それは、しない。
どんな見かけであろうと、そこにどんな危険が潜んでいるかわかったものではない。
それがどんなに小さな毒であっても、場合によっては死に至らしめることさえある。
フムン。
確かに、あたしはクナーボの見かけにばかり気をとられていた。
事前に知っている、事務所の受付さんみたいな、そういう姿にばかり気をとられていた。
そうだ。たとえ見かけがどうであれ、少なくともこうして装備を整えて対峙している以上、あれは立派な対戦相手と思わなければならない。
「か、かわいいって思ってくれてるんですね!」
「たとえな。たとえ話」
「もっと、もーっと可愛くなりますから!」
「勘弁してくれ……」
それとは別になんかこうイラっと来て殺意が芽生えそうにもなるけれど、大丈夫、これはちゃんとした戦意のはずだ。
「それで、遠間が得意なもの同士を当てたんだもの。的当でもするのかしら」
「まあ、的当と言やぁ、的当だな」
メザーガは砂利の上にざりざりと二本、かなりの間を挟んで線を引いた。
剣士が向き合って戦うにはいささか遠すぎる開始線、だけど。
「互いの体を的にして的当してもらう。体のどこかに一発でも当てれば終わり。単純でいいだろう」
あたしたちにとってはちょうどよい線というわけだ。
「この線は開始線?」
「そうだ。別に開始以降は、そこから近づこうが遠のこうが自由だ。棒立ちで撃ち合ったんじゃ見てても面白くねえしな」
「見世物じゃないんだけど」
「見世物程度にゃ楽しませてくれるといいんだがな」
どっかと折り畳みの椅子に腰を下ろすメザーガさん。
まったく、三等とは言え辺境の武装女中にとんだ言いざまだ。
「そうだ、トルンペート」
「なにかしら?」
「お前さん方が、試験に合格した暁にゃ一端の冒険屋として認められるように、こっちの陣営にも特別報酬がついてる」
「まあ、妥当……なのかしら」
「クナーボ、お前は、そうだな。勝てたら、成人前だが、冒険屋見習いとして仕事を任せてやる」
「本当ですか! 『人はみんな心に剣を握りしめて人生と言う冒険を生きてるんだよ』とかいうお為ごかしじゃないですよね!」
「悪かったよ! その節は悪かったからほじくり返すない!」
ことあるごとにいちゃくつなあこいつら。
なんだかリリオたちが恋しくなってそっちを見たら、そっちはそっちですっかり観戦気分でおやつ持参で手を振ってきてたりして、なんか気が抜けてきた。
「ええい、もういいだろ! おら、線につけ、開始線に!」
クナーボが嬉々として、そしてあたしがなんだか面倒臭い気分一杯で開始線につくと、メザーガさんは疲れたようにウールソさんに軽く手を振った。
「では、僭越ながら拙僧が審判として試合開始の合図をさせていただく」
巨体がのっそりと動くと、それだけで視線がそちらにつられてしまいそうだ。
気をとられないように、あたしは対峙するクナーボの一挙手一投足に目を配る。
あたしが両手の指を広げて、どこからでも短刀を抜けるように構えているように、クナーボもまた弓を緩く構えて、腰の《自在蔵》のあたりにそっと片手を置いている。
どうやら完全など素人ってわけじゃなさそうだ。むしろ、それなりにやるとみていた方がいいだろう。
警戒し過ぎは良くないが、まるで警戒しないのは阿呆のやることだ。
「いざ、尋常に……勝負!」
ウールソさんの号砲のような試合開始の声に、あたしは反射的に袖口に仕込んだ短刀を左右一本ずつ引き抜いている。
そうしてそいつをためらうことなく、僅かに時間をずらして、しかし軌道は重ねるように投げつけている。
時をずらして、軌道を重ねて、短刀の陰に隠れる短刀はあたしの十八番。一本目をかわしても、二本目がその陰に隠れて襲う。
奇襲に奇襲を重ねる必殺の二撃!
なんてのはさ、もうウルウの時で懲りたわ。
一度かわされたものを改良せずに使い続けるなんてのは、二流三流のやることじゃない。
だからあたしは自分の油断を殺すために、重ねてもう一組をすでに投げつけている。
そうして緩んだわずかなスキを殺すために、さらにもう一組を重ねて投擲。
重ねて三組、六本の刃がクナーボめがけてはしる。
大人げないと言うならば言え。
武装女中としては非力なあたしが生き延びるには、常に必中必殺を心掛けなければならない。
奇襲に奇襲、更に奇襲を重ねた必殺の六連撃!
かわせるものなら――かわされた。
「は?」
「おっととととと」
すととととととん。
間の抜けた声とともに、およそ信じられない速度で立て続けにつがえられた六矢が、あたしの短刀を正確に射止めて地に転がした。
「話には聞いてましたけど、すごい抜き打ちですね! でも速さなら、ぼくも自信があるんですよ!」
あたしに唖然とする間も与えず、クナーボの手元に矢が引き抜かれる。
数えて六本。お返しと言わんばかりに、立て続けにつがえられた矢があたしを襲う。
「お、ま、あわっ――!?」
一本、二本、三本、四本、五本、六本、続けて襲い来る矢に刃を投じてかわすこと六度、それで一息つきかけた瞬間、あたしはその呼吸を無理やり殺して七刃目を投擲する。
反撃のためではなく、あたしの真似をするように、六矢目に隠れて飛来した七矢目を防御するために。
「なっ、ば、なに、を……!」
「うーん、やっぱり付け焼刃じゃすぐに対処されちゃいますね」
何を、言っているのか。
あたしが、このあたしが血のにじむような思いで身に着けた技を、こいつは付け焼刃でやってのけたというのか。
「試合に夢中でそれどころじゃないだろうが、言っておくぜ」
メザーガが棒付きの飴をかじりながら言う。
「そいつは俺が直々に稽古をつけてやっている見習いで、それから、格好悪い話だが、見習い前にすでに俺の膝を射抜いた麒麟児だ」
用語解説
・クナーボ・チャスィスト
人族。西部人。遊牧民の出。十三歳。
弓と騎乗を得意とする。
何気にスキルと呼んでいいだけの騎乗技能を持ち合わせているのは事務所ではクナーボだけだったりする。
メザーガ冒険屋事務所では一番弱いが、そもそも基準点がおかしい。
鶏及び類似品の肉、乳、卵に食品アレルギー反応を示す。
子供には子供の都合があるというお話だったような気がする。
そしてあくる日、件の採石場跡地とやらにあたしたちは集まった。
まあ集まったと言っても、当事者である対戦者六名と、審判役兼怪我人の治療者役であるであるウールソさんの合わせて七名だけだったけど。
採石場跡地と言うのは、本当に何もないところだった。
足元は砂利で埋められていて、そのほかは、本当に、何もない。少なくとも普通に立ち回る限り、障害物もなければ視線を遮るようなものは何もない。
「あらかた石は取りつくしちまって、かといって街からも離れてるし、畑にするにゃ砂利が邪魔だし、何に使えるって土地でもなくてな。冒険屋組合で金を出し合って、鍛錬所代わりに使わせてもらってる。今日はうちの貸し切りだがな」
道理で人の姿がないわけだ。
といっても、全くないわけじゃない。
採石場跡地の敷地より外には、何人か隠れ潜んで、こちらを観察しているのがわかる。
そりゃ、新進気鋭の《三輪百合》と、いまは引退しているとはいえ大いに名を馳せた《一の盾》のリーダーが、試合形式とはいえ剣を交えるとなれば、その剣の秘密を探ろうと少なからぬ連中が目を忍ばせることだろう。
メザーガさんもそれはわかっているようで、ちらと視線をやったきり、大して気にした風もない。
それが余裕のためなのか、いつもの面倒臭がりの不精のためなのかはわからないけれど、少なくとも今の一瞥で、気にするまでもないと察してしまったのだろう。
さて、もっと気にするべきはあたしの対戦相手か。
あたしは仕込んだ短刀を確かめながら、ちらりと向こうの陣営の一等小さな人物を見やる。
クナーボ・チャスィスト。
家名は初めて聞いたけど、事務所では随分お世話になっている娘だ。
何しろ事務所の事務仕事の半分は彼女が片付けているし、手すきには暖かいものどうぞといつも美味しい豆茶を淹れてくれる。これで成人を控えた十三歳なのだから全く頭が上がらない。
口でこそ冒険屋見習いとは言っているけど、何しろまだ未成年だし、実際に冒険屋として仕事しているところは見たことがない。あたしの中では完全に冒険屋事務所の受付嬢と言った感じだ。
今日も相変わらずの町娘風の格好で、動きやすいようにか少し短めの丈にしているけれど、それだって程度の差というくらいでしかない。
かろうじて冒険屋っぽく見せているのは腰の帯に差した左右二本の狩猟刀に、両手に帯びた革製の弓掛。それから遊牧民の使うようなごく短い弓が一張り。
矢筒は見えないけれど、恐らく腰帯に帯びた小物入れのどれかが《自在蔵》なのだろう。
一つ一つを見ていけばよく手入れのされた仕事道具であることがうかがえるけれど、それを帯びているのが成人前の頬も柔らかな子供となると、なんだか子供の遊びのようにも見えてしまう。
「えっと……今日はよろしく、クナーボ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
礼儀も正しく、笑顔も爽やかで、うん、理想的な子供だ。逆に言えば子供でしかない。
裏もなければ表もない。あどけない子供だ。悪意も敵意も殺意も、まるで馴染みのない紅顔のお子様でしかない。
「メザーガさん、本当にその……大丈夫なの?」
「気持ちは痛いほどわかる」
あ、わかるんだ。
よかった。
「だが例えばだ。お前さん、森の中で見た目のかわいい魔獣に遭遇したとして、見た目がかわいいからって油断するか」
まあ、それは、しない。
どんな見かけであろうと、そこにどんな危険が潜んでいるかわかったものではない。
それがどんなに小さな毒であっても、場合によっては死に至らしめることさえある。
フムン。
確かに、あたしはクナーボの見かけにばかり気をとられていた。
事前に知っている、事務所の受付さんみたいな、そういう姿にばかり気をとられていた。
そうだ。たとえ見かけがどうであれ、少なくともこうして装備を整えて対峙している以上、あれは立派な対戦相手と思わなければならない。
「か、かわいいって思ってくれてるんですね!」
「たとえな。たとえ話」
「もっと、もーっと可愛くなりますから!」
「勘弁してくれ……」
それとは別になんかこうイラっと来て殺意が芽生えそうにもなるけれど、大丈夫、これはちゃんとした戦意のはずだ。
「それで、遠間が得意なもの同士を当てたんだもの。的当でもするのかしら」
「まあ、的当と言やぁ、的当だな」
メザーガは砂利の上にざりざりと二本、かなりの間を挟んで線を引いた。
剣士が向き合って戦うにはいささか遠すぎる開始線、だけど。
「互いの体を的にして的当してもらう。体のどこかに一発でも当てれば終わり。単純でいいだろう」
あたしたちにとってはちょうどよい線というわけだ。
「この線は開始線?」
「そうだ。別に開始以降は、そこから近づこうが遠のこうが自由だ。棒立ちで撃ち合ったんじゃ見てても面白くねえしな」
「見世物じゃないんだけど」
「見世物程度にゃ楽しませてくれるといいんだがな」
どっかと折り畳みの椅子に腰を下ろすメザーガさん。
まったく、三等とは言え辺境の武装女中にとんだ言いざまだ。
「そうだ、トルンペート」
「なにかしら?」
「お前さん方が、試験に合格した暁にゃ一端の冒険屋として認められるように、こっちの陣営にも特別報酬がついてる」
「まあ、妥当……なのかしら」
「クナーボ、お前は、そうだな。勝てたら、成人前だが、冒険屋見習いとして仕事を任せてやる」
「本当ですか! 『人はみんな心に剣を握りしめて人生と言う冒険を生きてるんだよ』とかいうお為ごかしじゃないですよね!」
「悪かったよ! その節は悪かったからほじくり返すない!」
ことあるごとにいちゃくつなあこいつら。
なんだかリリオたちが恋しくなってそっちを見たら、そっちはそっちですっかり観戦気分でおやつ持参で手を振ってきてたりして、なんか気が抜けてきた。
「ええい、もういいだろ! おら、線につけ、開始線に!」
クナーボが嬉々として、そしてあたしがなんだか面倒臭い気分一杯で開始線につくと、メザーガさんは疲れたようにウールソさんに軽く手を振った。
「では、僭越ながら拙僧が審判として試合開始の合図をさせていただく」
巨体がのっそりと動くと、それだけで視線がそちらにつられてしまいそうだ。
気をとられないように、あたしは対峙するクナーボの一挙手一投足に目を配る。
あたしが両手の指を広げて、どこからでも短刀を抜けるように構えているように、クナーボもまた弓を緩く構えて、腰の《自在蔵》のあたりにそっと片手を置いている。
どうやら完全など素人ってわけじゃなさそうだ。むしろ、それなりにやるとみていた方がいいだろう。
警戒し過ぎは良くないが、まるで警戒しないのは阿呆のやることだ。
「いざ、尋常に……勝負!」
ウールソさんの号砲のような試合開始の声に、あたしは反射的に袖口に仕込んだ短刀を左右一本ずつ引き抜いている。
そうしてそいつをためらうことなく、僅かに時間をずらして、しかし軌道は重ねるように投げつけている。
時をずらして、軌道を重ねて、短刀の陰に隠れる短刀はあたしの十八番。一本目をかわしても、二本目がその陰に隠れて襲う。
奇襲に奇襲を重ねる必殺の二撃!
なんてのはさ、もうウルウの時で懲りたわ。
一度かわされたものを改良せずに使い続けるなんてのは、二流三流のやることじゃない。
だからあたしは自分の油断を殺すために、重ねてもう一組をすでに投げつけている。
そうして緩んだわずかなスキを殺すために、さらにもう一組を重ねて投擲。
重ねて三組、六本の刃がクナーボめがけてはしる。
大人げないと言うならば言え。
武装女中としては非力なあたしが生き延びるには、常に必中必殺を心掛けなければならない。
奇襲に奇襲、更に奇襲を重ねた必殺の六連撃!
かわせるものなら――かわされた。
「は?」
「おっととととと」
すととととととん。
間の抜けた声とともに、およそ信じられない速度で立て続けにつがえられた六矢が、あたしの短刀を正確に射止めて地に転がした。
「話には聞いてましたけど、すごい抜き打ちですね! でも速さなら、ぼくも自信があるんですよ!」
あたしに唖然とする間も与えず、クナーボの手元に矢が引き抜かれる。
数えて六本。お返しと言わんばかりに、立て続けにつがえられた矢があたしを襲う。
「お、ま、あわっ――!?」
一本、二本、三本、四本、五本、六本、続けて襲い来る矢に刃を投じてかわすこと六度、それで一息つきかけた瞬間、あたしはその呼吸を無理やり殺して七刃目を投擲する。
反撃のためではなく、あたしの真似をするように、六矢目に隠れて飛来した七矢目を防御するために。
「なっ、ば、なに、を……!」
「うーん、やっぱり付け焼刃じゃすぐに対処されちゃいますね」
何を、言っているのか。
あたしが、このあたしが血のにじむような思いで身に着けた技を、こいつは付け焼刃でやってのけたというのか。
「試合に夢中でそれどころじゃないだろうが、言っておくぜ」
メザーガが棒付きの飴をかじりながら言う。
「そいつは俺が直々に稽古をつけてやっている見習いで、それから、格好悪い話だが、見習い前にすでに俺の膝を射抜いた麒麟児だ」
用語解説
・クナーボ・チャスィスト
人族。西部人。遊牧民の出。十三歳。
弓と騎乗を得意とする。
何気にスキルと呼んでいいだけの騎乗技能を持ち合わせているのは事務所ではクナーボだけだったりする。
メザーガ冒険屋事務所では一番弱いが、そもそも基準点がおかしい。
鶏及び類似品の肉、乳、卵に食品アレルギー反応を示す。
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