104 / 304
第七章 旅立ちの日
第二話 子供の都合
しおりを挟む
前回のあらすじ
おっさんにはおっさんの都合がある。
その日は良く晴れた日だった。
時折木枯らしが冷たく身を切るけど、日差しはまだ強く、秋としてはまずまず歩きやすい天気と言えた。
夏の頃と比べればはっきりと人通りは減っていたが、それでもなおヴォーストの街はいまだ活気というものを忘れずにいるようだった。
耳を澄ませばよく乾いた空気にのって、商店の客呼びの声まで、聞こえてきそうであった。
そんな良く晴れた爽やかな秋の日に、メザーガ冒険屋事務所のささやかな執務室に私たち《三輪百合》は集められていた。
応接用のソファに私たちは腰を下ろしていたけれど、たかだか冒険屋事務所の、執務室兼応接室においてあるようなソファにしては、なかなか座り心地が良かった。
そしてその立場を最低限は主張するようないくらか造りの良い机にどっかりと肘をついているのが、所長のメザーガだった。貫禄があるというには少々若いし、かといって若者と呼ぶにはいささかダンディすぎる。
知る人が見ればそれだけで身構えるような、かつては大いに名を知られた冒険屋パーティ《一の盾》のリーダーであったらしいけれど、正直いろんな意味で全くの余所者に過ぎない私からすると、下っ腹が出てくることに対して恐怖を覚え始めている中年としか思えない。
「あ、豆茶が入りましたよ」
そこに可憐な町娘風に装った、しかし実質的にはこの事務所の事務仕事の半分を預かっている労働基準法違反のクナーボが、それぞれに豆茶のカップを渡して回ってくれた。
「さて、今日お前たちに集まってもらった理由だが」
絶対に笑ってはいけない冒険屋事務所とかだろうか。
そんな風にのんびり構えていたのだが、どうもこの胃がねじ切れそうなほどに面倒臭そうな顔をしているおっさんはそれどころではなさそうだった。
「はっきり言って、俺はお前たちが冒険屋をやっていくことに正直反対だ」
「えー、まだそう言うの蒸し返すんですかー」
「もうそのやり取り終わった」
「あたしお昼ご飯の支度あるんですけど」
「おっまえらほんっともう、ほんと、年頃の娘たちってのはよーもー」
私はもう年ごろと言うにはちょっとトウが立っているのだけれど、それでもまあ女三人寄れば姦しいと言う。甲高い女三人の声でなじられればさすがにおじさんとしては辛いものがあるだろう。
「あのな、おっさんはな、お前らの安全を思ってだな」
「乙種魔獣を平らげる乙女に身の安全もあったもんじゃないと思う」
「いや、それそれとして乙女として心配はしてほしいんですけど」
「安全もいいですけどおちんぎん上がりません?」
「もーやだこいつらー、なに? おっさん虐めて楽しい?」
正直ちょっと楽しい。
まあでもこれ以上遊んでも時間を食うだけだ、大人しく聞こう。
「ともかくだ。俺も、リリオの親父さんも、お前たちに危険な冒険屋稼業なんて続けてほしくない。だがお前らはやりたい。そこで折衷案だ」
「せっちゅうあん?」
「いいとこどりってとこかな」
「要するにだ。お前たちは冒険したい。俺達は危険な事をしてほしくない。これを両立できればいいわけだ」
そんな無茶な、とは思うけど、まあ何となく持っていく先は読めた。
私はどうでもいいけど、リリオが反発しそうなやつ。
「つまり、お前たちはこのまま冒険屋を続ける。俺の膝元で。これなら心配症のおっさんどももいくらかは安心できる。そうだろ?」
「まあ、そう、ですねえ」
「そう、俺達も妥協してるんだ。わかってくれるだろ、リリオ」
「う、ええ、それ、は、まあ」
押されてる。こんなぐだっぐだの交渉で押されてる。
《三輪百合》の一番の弱点って、交渉得意なのがいないってことだよね。
基本脳筋なんだよ、このトリオ。私も含めて。
「そんで、俺達が妥協するのと同じくらい、お前達にも妥協してほしい」
「う、ううん、妥当な気もします」
「妥当なんだよ。な?」
「うええ……は、はい……?」
「うん。妥当だ。それでお前たちに妥協してほしいという点だけどな」
メザーガは少し冷めてきた豆茶を口にして唇を湿らせると、ことのほか明るい様子で妥協案とやらを提示してきた。
「なあに、難しいこたぁねえ! ただちょっと、旅に出るのはやめてもらおうって」
「嫌です」
「話なんだけどよぉ……まあ、わかってたとはいえ、傷つくぜ、おっさんも」
「嫌なものは嫌です」
そう、脳筋なんだよねえ、うちの面子。そもそも難しい話聞いてないんだもん。
まあ、話の流れは読めていた。
要するに、危険は危険でもまだ、《一の盾》のおひざ元であるヴォースト付近での冒険屋稼業ならまだ安心できる。だから近場での冒険で満足してもらって、旅に出るのは諦めてもらおう。とそういう話だったんだろうけれど、何しろリリオの大目的が旅に出ておふくろさんの故郷まで行くことだ。冒険が小目的でしかない以上、これは成立しないよ、もともと。
まあメザーガもわかっていたんだろうけれど、それでも恐ろしく面倒くさそうにため息を吐いている。
「なあ、リリオ。俺もそれなりに冒険屋をやってきて、それこそ酸いも甘いも体験してきた。お前さんなら乗り越えられるかもしれねえとは思うが、それでもあえて挑んでほしいとはとてもじゃねえが思わねえ。親心みてえなもんだ。心配してるんだ。わかってくれ」
「わかります。でも嫌です」
「ちょっとでいいんだ。大人になってくれ」
「私はもう成人です。ずいぶん待ちました。あと何年待てばいいんです」
「……そういうことじゃあねえんだ。諦めてくれ」
「い、や、で、す」
「…………」
メザーガは深くため息を吐いて、シガーケースから煙草を取り出し、それから思い出したように苛立たしげにそれをしまい、代わりに棒付きの飴を取り出して咥え、がりがりと齧った。
「ああああああああもうよぉおおおおお、おっさんの方が嫌だっつってんだよぉぉぉおおお」
という心の叫びが聞こえてきそうなほどの顔面芸ではあるが、あまり長いこと見ていたくなるような顔面でもない。リリオと一緒で大人しくしていれば割といい顔面だと思うのだが、南部人の血統は表情を大人しくさせるということを遺伝的に放棄しているのだろうか。
飴をすっかりかみ砕き、棒自体もこれ以上ない程に噛み潰し、ゴミ箱にぽいと放り投げてから、落ち着きを取り戻したメザーガはダンディに豆茶をすすった。
「そうか。わかった」
「わかっていただけましたか!」
「馬鹿犬は多少痛い目を見てもらわねえと躾にならねえってのがわかった」
こんなことはしたくないとか、こんなことは言いたくないとかいうやつの大半は、したくて言いたくてたまらない連中だが、少なくともメザーガは心底したくもなければ言いたくもないという大人であるようだった。何しろ面倒だからだ、と言うのが透けて見える。
「最終試験を受けてもらう。それを合格できなけりゃ、荷物をまとめて辺境に帰ってもらうぜ」
「試験って言いますけど、それって最初に来た時にうけましたよね?」
「ありゃ見習いとしての試験だ。いまのお前は冒険屋見習い。馴染むまでは見習いっつったろ」
「大分馴染んだと思うんですけど」
「それを見定める試験だ」
メザーガは改めて棒付きの飴を取り出すと、今度は噛み砕かずに、かちかちと歯で軽く噛みながら、手元の書類をぺらぺらと捲った。
「うちの古株どもの試験によりゃ、お前たちはまずまず優秀と言っていい。見習いとしちゃな」
「パフィストのクソのあれを試験扱いするのはどうかと」
「うちのクソがその節は御迷惑をおかけした」
その点に関してはメザーガもクソ扱いは同意するらしい。
「ただ、やりようはクソだが、試験難易度的にはあれ位は目安だったと思ってくれていい」
そして人格とは別に仕事はきちんと評価するのがメザーガと言う男らしい。
「クソだが」
人格はやっぱりクソ扱いらしい。
「それで、だ。見習い卒業の最終試験としては一番わかりやすいものを持ってきた」
「わかりやすいものっていうと」
「そうだ。腕っぷしを見せてもらう」
「乙種魔獣じゃダメなんですか?」
「ありゃちょっと採点甘くしたところもあるし、魔獣ってのは事前に準備しとけばそれほどの相手でもねえからな」
まあ、言うほどの難易度ではなかったかなと感じていた。でもあれは何の準備も知識もなく当たっていれば相当な被害だったはずで、段取りが大事なのはどの業界でも同じことらしい。
「段取りが冒険屋の仕事の殆どだと言っていいが、かといって仕上げが杜撰じゃ話にならねえ。地力の部分がどんだけ育っているか、そいつを見せてもらうために、うちの冒険屋連中と当たってもらう」
「フムン。まさか《一の盾》を真っ向から打ち崩せとか言わないですよね」
「さすがに手加減はしてやる。形式は一対一。実力差を埋めるためにある程度条件付けはするが、基本的には単純な殴り合いだと思ってくれていい」
リリオはそれで納得しているが、脳筋トリオの頭のいい方担当としてはもうちょっと情報を集めておきたい。トルンペートをちらりと見やれば、彼女も同じようだった。
「それで、メザーガさん。試合はどこで行うのかしら?」
「知り合いの石屋が持ってる採石場跡を訓練所として借りてる。そこを使うつもりだ」
「天候は関係なし?」
「と言いたいところだが、おっさんも年なんでな、こんな寒い秋に雨に濡れながら観戦なんぞしたくねえ。雨天中止だ」
「試合のカードは?」
「当日までの秘密、と言いてえところだが、まああんまり不利にすると可哀そうだからな、教えておいてやる」
勿体ぶるでもなく、メザーガは手元のメモ紙にさらさらと対戦表を書いて寄越してくれた。
もっとも、その気軽さとは裏腹に、中身は私たちを大いに困惑させるものだったが。
第一戦目 トルンペート・オルフォ 対 クナーボ・チャスィスト
第二戦目 ウルウ・アクンバー 対 ナージャ・ユー
第三戦目 リリオ・ドラコバーネ 対 メザーガ・ブランクハーラ
「私の苗字結局アクンバー扱いなのか……」
「そこ!?」
おっさんにはおっさんの都合がある。
その日は良く晴れた日だった。
時折木枯らしが冷たく身を切るけど、日差しはまだ強く、秋としてはまずまず歩きやすい天気と言えた。
夏の頃と比べればはっきりと人通りは減っていたが、それでもなおヴォーストの街はいまだ活気というものを忘れずにいるようだった。
耳を澄ませばよく乾いた空気にのって、商店の客呼びの声まで、聞こえてきそうであった。
そんな良く晴れた爽やかな秋の日に、メザーガ冒険屋事務所のささやかな執務室に私たち《三輪百合》は集められていた。
応接用のソファに私たちは腰を下ろしていたけれど、たかだか冒険屋事務所の、執務室兼応接室においてあるようなソファにしては、なかなか座り心地が良かった。
そしてその立場を最低限は主張するようないくらか造りの良い机にどっかりと肘をついているのが、所長のメザーガだった。貫禄があるというには少々若いし、かといって若者と呼ぶにはいささかダンディすぎる。
知る人が見ればそれだけで身構えるような、かつては大いに名を知られた冒険屋パーティ《一の盾》のリーダーであったらしいけれど、正直いろんな意味で全くの余所者に過ぎない私からすると、下っ腹が出てくることに対して恐怖を覚え始めている中年としか思えない。
「あ、豆茶が入りましたよ」
そこに可憐な町娘風に装った、しかし実質的にはこの事務所の事務仕事の半分を預かっている労働基準法違反のクナーボが、それぞれに豆茶のカップを渡して回ってくれた。
「さて、今日お前たちに集まってもらった理由だが」
絶対に笑ってはいけない冒険屋事務所とかだろうか。
そんな風にのんびり構えていたのだが、どうもこの胃がねじ切れそうなほどに面倒臭そうな顔をしているおっさんはそれどころではなさそうだった。
「はっきり言って、俺はお前たちが冒険屋をやっていくことに正直反対だ」
「えー、まだそう言うの蒸し返すんですかー」
「もうそのやり取り終わった」
「あたしお昼ご飯の支度あるんですけど」
「おっまえらほんっともう、ほんと、年頃の娘たちってのはよーもー」
私はもう年ごろと言うにはちょっとトウが立っているのだけれど、それでもまあ女三人寄れば姦しいと言う。甲高い女三人の声でなじられればさすがにおじさんとしては辛いものがあるだろう。
「あのな、おっさんはな、お前らの安全を思ってだな」
「乙種魔獣を平らげる乙女に身の安全もあったもんじゃないと思う」
「いや、それそれとして乙女として心配はしてほしいんですけど」
「安全もいいですけどおちんぎん上がりません?」
「もーやだこいつらー、なに? おっさん虐めて楽しい?」
正直ちょっと楽しい。
まあでもこれ以上遊んでも時間を食うだけだ、大人しく聞こう。
「ともかくだ。俺も、リリオの親父さんも、お前たちに危険な冒険屋稼業なんて続けてほしくない。だがお前らはやりたい。そこで折衷案だ」
「せっちゅうあん?」
「いいとこどりってとこかな」
「要するにだ。お前たちは冒険したい。俺達は危険な事をしてほしくない。これを両立できればいいわけだ」
そんな無茶な、とは思うけど、まあ何となく持っていく先は読めた。
私はどうでもいいけど、リリオが反発しそうなやつ。
「つまり、お前たちはこのまま冒険屋を続ける。俺の膝元で。これなら心配症のおっさんどももいくらかは安心できる。そうだろ?」
「まあ、そう、ですねえ」
「そう、俺達も妥協してるんだ。わかってくれるだろ、リリオ」
「う、ええ、それ、は、まあ」
押されてる。こんなぐだっぐだの交渉で押されてる。
《三輪百合》の一番の弱点って、交渉得意なのがいないってことだよね。
基本脳筋なんだよ、このトリオ。私も含めて。
「そんで、俺達が妥協するのと同じくらい、お前達にも妥協してほしい」
「う、ううん、妥当な気もします」
「妥当なんだよ。な?」
「うええ……は、はい……?」
「うん。妥当だ。それでお前たちに妥協してほしいという点だけどな」
メザーガは少し冷めてきた豆茶を口にして唇を湿らせると、ことのほか明るい様子で妥協案とやらを提示してきた。
「なあに、難しいこたぁねえ! ただちょっと、旅に出るのはやめてもらおうって」
「嫌です」
「話なんだけどよぉ……まあ、わかってたとはいえ、傷つくぜ、おっさんも」
「嫌なものは嫌です」
そう、脳筋なんだよねえ、うちの面子。そもそも難しい話聞いてないんだもん。
まあ、話の流れは読めていた。
要するに、危険は危険でもまだ、《一の盾》のおひざ元であるヴォースト付近での冒険屋稼業ならまだ安心できる。だから近場での冒険で満足してもらって、旅に出るのは諦めてもらおう。とそういう話だったんだろうけれど、何しろリリオの大目的が旅に出ておふくろさんの故郷まで行くことだ。冒険が小目的でしかない以上、これは成立しないよ、もともと。
まあメザーガもわかっていたんだろうけれど、それでも恐ろしく面倒くさそうにため息を吐いている。
「なあ、リリオ。俺もそれなりに冒険屋をやってきて、それこそ酸いも甘いも体験してきた。お前さんなら乗り越えられるかもしれねえとは思うが、それでもあえて挑んでほしいとはとてもじゃねえが思わねえ。親心みてえなもんだ。心配してるんだ。わかってくれ」
「わかります。でも嫌です」
「ちょっとでいいんだ。大人になってくれ」
「私はもう成人です。ずいぶん待ちました。あと何年待てばいいんです」
「……そういうことじゃあねえんだ。諦めてくれ」
「い、や、で、す」
「…………」
メザーガは深くため息を吐いて、シガーケースから煙草を取り出し、それから思い出したように苛立たしげにそれをしまい、代わりに棒付きの飴を取り出して咥え、がりがりと齧った。
「ああああああああもうよぉおおおおお、おっさんの方が嫌だっつってんだよぉぉぉおおお」
という心の叫びが聞こえてきそうなほどの顔面芸ではあるが、あまり長いこと見ていたくなるような顔面でもない。リリオと一緒で大人しくしていれば割といい顔面だと思うのだが、南部人の血統は表情を大人しくさせるということを遺伝的に放棄しているのだろうか。
飴をすっかりかみ砕き、棒自体もこれ以上ない程に噛み潰し、ゴミ箱にぽいと放り投げてから、落ち着きを取り戻したメザーガはダンディに豆茶をすすった。
「そうか。わかった」
「わかっていただけましたか!」
「馬鹿犬は多少痛い目を見てもらわねえと躾にならねえってのがわかった」
こんなことはしたくないとか、こんなことは言いたくないとかいうやつの大半は、したくて言いたくてたまらない連中だが、少なくともメザーガは心底したくもなければ言いたくもないという大人であるようだった。何しろ面倒だからだ、と言うのが透けて見える。
「最終試験を受けてもらう。それを合格できなけりゃ、荷物をまとめて辺境に帰ってもらうぜ」
「試験って言いますけど、それって最初に来た時にうけましたよね?」
「ありゃ見習いとしての試験だ。いまのお前は冒険屋見習い。馴染むまでは見習いっつったろ」
「大分馴染んだと思うんですけど」
「それを見定める試験だ」
メザーガは改めて棒付きの飴を取り出すと、今度は噛み砕かずに、かちかちと歯で軽く噛みながら、手元の書類をぺらぺらと捲った。
「うちの古株どもの試験によりゃ、お前たちはまずまず優秀と言っていい。見習いとしちゃな」
「パフィストのクソのあれを試験扱いするのはどうかと」
「うちのクソがその節は御迷惑をおかけした」
その点に関してはメザーガもクソ扱いは同意するらしい。
「ただ、やりようはクソだが、試験難易度的にはあれ位は目安だったと思ってくれていい」
そして人格とは別に仕事はきちんと評価するのがメザーガと言う男らしい。
「クソだが」
人格はやっぱりクソ扱いらしい。
「それで、だ。見習い卒業の最終試験としては一番わかりやすいものを持ってきた」
「わかりやすいものっていうと」
「そうだ。腕っぷしを見せてもらう」
「乙種魔獣じゃダメなんですか?」
「ありゃちょっと採点甘くしたところもあるし、魔獣ってのは事前に準備しとけばそれほどの相手でもねえからな」
まあ、言うほどの難易度ではなかったかなと感じていた。でもあれは何の準備も知識もなく当たっていれば相当な被害だったはずで、段取りが大事なのはどの業界でも同じことらしい。
「段取りが冒険屋の仕事の殆どだと言っていいが、かといって仕上げが杜撰じゃ話にならねえ。地力の部分がどんだけ育っているか、そいつを見せてもらうために、うちの冒険屋連中と当たってもらう」
「フムン。まさか《一の盾》を真っ向から打ち崩せとか言わないですよね」
「さすがに手加減はしてやる。形式は一対一。実力差を埋めるためにある程度条件付けはするが、基本的には単純な殴り合いだと思ってくれていい」
リリオはそれで納得しているが、脳筋トリオの頭のいい方担当としてはもうちょっと情報を集めておきたい。トルンペートをちらりと見やれば、彼女も同じようだった。
「それで、メザーガさん。試合はどこで行うのかしら?」
「知り合いの石屋が持ってる採石場跡を訓練所として借りてる。そこを使うつもりだ」
「天候は関係なし?」
「と言いたいところだが、おっさんも年なんでな、こんな寒い秋に雨に濡れながら観戦なんぞしたくねえ。雨天中止だ」
「試合のカードは?」
「当日までの秘密、と言いてえところだが、まああんまり不利にすると可哀そうだからな、教えておいてやる」
勿体ぶるでもなく、メザーガは手元のメモ紙にさらさらと対戦表を書いて寄越してくれた。
もっとも、その気軽さとは裏腹に、中身は私たちを大いに困惑させるものだったが。
第一戦目 トルンペート・オルフォ 対 クナーボ・チャスィスト
第二戦目 ウルウ・アクンバー 対 ナージャ・ユー
第三戦目 リリオ・ドラコバーネ 対 メザーガ・ブランクハーラ
「私の苗字結局アクンバー扱いなのか……」
「そこ!?」
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる