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第四章 異界考察
第一話 亡霊とヴォーストの街・上
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前回のあらすじ
地下水道での冒険を終え、主にバナナワニ鍋で絆を深めた一行。
しかし消費は大きく、つかの間の休息に浸るのであった。
普通の冒険屋というものは、大きめの依頼を片付けたらしばらく休むものらしい。
それは体を休めるための調整期間でもあり、装備を整えるための準備期間でもあり、そして他の冒険屋に仕事を譲ってやる心遣いの期間でもあるらしい。
まあ最後に関しては酒場で飲んだくれている姿を見る限りお前らの営業努力だろうとか思わないでもないけれど、私たち《三輪百合》も、地下水道での仕事を終えて、少しの間休暇をとることになった。
バナナワニのスキヤキで胃もたれしたから、とちょくちょくからかわれるが、もっぱらリリオの調整のためだった。
バナナワニを倒すために雷精に魔力をこれでもかと食わせてやったリリオは盛大に疲労し、あちこちの感覚が狂い、ホルモンバランスとかも崩れていそうな様子だった。
無理やりに休ませてご飯を食べさせたらあっという間に回復しやがったが、それでも念のためまだ休ませてある。
お世話をしているトルンペートは口ではあれこれ言うが、実に満ち足りた様子だ。あれが仕えるものの幸福というやつなのだろうか。
リリオもこういう時には実に尽くされ慣れている様子で、一応貴族は貴族なのだなと妙に感心したものだった。
なお私は巻き添えになりそうだったので逃げた。
私はああいうの背中がかゆくなるから無理。
さて、リリオの調整その二、というかリリオの装備の調整が休暇の主な原因だった。
雷精をこれでもかと肥え太らせた剣はそれはもう負荷も大きかったようで、持ち込んだ先である鍛冶屋カサドコでは「雷雲でも切ってきたのかい」と呆れられた。
「どれだけ魔力を食わせればこんなバカみたいな焦げ付き方するんだい。霹靂猫魚の皮革が耐えきれずに爆ぜちまってるじゃないか。それに刀身も刀身だ。大具足裾払の甲殻が歪むなんてのは聞いたことがないよ全く」
「直せそうですか?」
「できらいでか! と言いたいとこだけど、何しろ素材が素材だからね、ちょいと時間も金もかかるよ。つききりだとして、まあ、半月も見ておきな」
「半月! そんなに!」
「あんたにゃちょうどいい休みさね。少しは大人しくしな、《三輪百合》の暴れん坊チビめ」
「トルンペート……」
「あんたよりは大きいわよ」
「胸は同じくらいだだだだだだ」
「お代はいくら負けられる?」
「あんたは遠慮しないねえ。そうさね。まず霹靂猫魚の活きのいい皮革が要る。持ち込みならずいぶん安くするよ」
「刺身なら?」
「あたしの気力も奮うね」
「結構。毎度あり」
「あんたも営業以外で愛嬌があればねえ……」
「売れもしない愛嬌は要らない」
「あ、私買います!」
「君は私に借りが多すぎるだろう」
「ぐへぇ」
リリオは不満そうであったが、数打ちの代剣を借りて取り敢えず腰に吊るし、見た目ばかりは何とか形になった。とはいえ、雑に扱っても刃こぼれ一つしなかったあの剣と同じ感覚で普通の剣を使えばすぐさま折れてしまいそうだから、リリオにはじっとしていてもらいたいものだ。
さて、休暇中のリリオに、それにつきっきりのトルンペートと来て、久しぶりに一人の時間を得た私は、ちょっと出てくると言いおいて、事務所を後にした。
かつては一人でいる時間の方が長かったのに、困ったことにリリオと出会ってから滅多に一人の時間というものが取れなかったのだ。健全な精神活動を取り戻すにしても、頭の中を整理するにしても、一人になって調整する時間が必要だ。
私は《隠蓑》で姿を隠し、ぶらりとヴォーストの街を歩き始めた。
このヴォーストの街というものは、辺境からさほど遠くもない堂々たる田舎の街と自称してはいるが、それでもなかなか立派な街であることは間違いなかった。
街はぐるりと立派な街壁で囲まれ、その街壁には何か所も塔が立っており、きっと見張りがついているのだろう。
さすがに上にまで登ったことはないので詳しくはないが、長らく使われていないとはいえバリスタや投石機といった兵器も準備されているというから、護りはこの世界基準では万全と言っていいだろう。
どちらかというと平和な中央より、辺境に近いこのあたりの方が防備には気を遣っていると聞く。
街壁に囲まれた内部は、南北に走る運河と東西に走る大路で、地図で見れば大きな十字に切り分けられているように見える。運河と大路はそれぞれ水門と街門とで内外と隔てられており、これ以外に街と出入りする出入口はない。
だから陸路では街門が、水路では水門が、いつも人のやってくる朝方は非常に込み合うし、そこから連なる大路も運河もかなりの交通量だ。
私たちがやってきた東街門から続く東大路に宿をはじめとして店が連なっていたように、西大路もおおむね同じ作りになっている。
この出入り口付近というものは外からの人間が多く訪れる、ということは新しい話題や商売も多くやってくるということで、ただの宿屋だけでなく、《踊る宝石箱亭》のような冒険屋御用達の酒場件宿屋もこのあたりに多く居を構えている。
この宿屋街の先はちょっとした広場になっており、毎日朝から市が立つ。
市というのは固定の店ではなく、露店や出店、また地面に布を敷いて品物を並べただけのような店の類が立ち並ぶ市場で、広場の入り口近くに聳える商工会で許可をとった店が認可の下りた商品を扱うものだ。
大路を通って運ばれてきた荷物は大体がここで卸され、売買される。
新鮮な野菜や卵、また生きたままの家畜などの他、遠方から取り寄せられた品々が玉石混交で並び、うまくいけば掘り出し物が見つかることもあるという。
まあ、私は人混みが苦手だから、ここに立ち入るのは人が減る昼過ぎ以降だけれど。
この広場を過ぎて大路をもう少し進むと、少し落ち着いた店々が並ぶ商店街に続く。
これらはみな、旅人が必要とする薬や携帯食などの消耗品を扱う店というよりは、地元の人々が利用する精肉店や薬屋、雑貨店など、地域密着型の店舗だ。
以前リリオとともに訪れた精霊晶の店などもこの一角にあるし、メザーガの冒険屋事務所もこのあたりにある。
私のなじみの店である本屋も東商店街にあり、ちょくちょく足を運んでいる。
壁がすべて本棚で、カウンターの奥に垣間見える店主の生活の場にさえ本があふれて見える素敵な空間で、しかもそのすべてが丁寧に整理されているという最高の本屋だ。
さらに店主がその本をすべて把握しており、これこれこういう本が欲しいと言えばすぐに対応してくれるという本屋の鑑でさえある。
本好きにとってはこれ以上ない本屋では無かろうか。
そりゃあ私だって行きつけになる。
まあ、私は本を買うとき以外は《隠蓑》を解除しないから、店主からしたら毎回いきなり現れて大量に買ってそしてまた消える謎の客でしかないだろうけれど。
東商店街に書籍を扱う店はこの一軒だが、西商店街にも書店があるというから、その内足を延ばしてみたいものだ。そのうち。
この商店街を抜けると、運河に面した大広場に出る。この広場は港のようなもので、突き出したいくつもの桟橋には商船や艀、そして水馬車とやらが常に隙間を埋めるようにして出入りしている。
陸路よりも大量の物資を運べる船が集まる場所であるから、ここで卸される荷物というのは大路を通って運ばれる品物よりもずっと多い。その品物の多くがこの大広場の市で捌かれて、いくらかは市に運ばれ、いくらかは店に直接卸され、そしてまたいくらかは個人が買い取っていく。
やってきたと思ったらまた別の船に乗せられて再び旅に出ていく荷もあるし、運河から別れる細かな水路を使ってここからさらに小分けにされて運ばれていく荷もある。
ヴェネツィア程ではないのだけれど、運河のたっぷりとした水量を誇るヴォーストでは水路がかなり活用されている。さすがに街壁付近までは届かないけれど、運河付近は路地と同じように水路が流れており、これを先程もいった水馬車なんかが通って荷を運んだり人を運んだりする。
この水馬車というのが、まあ自動翻訳の適当な訳なのだろうけれど、まあ簡単に言ってしまえば水生生物に曳かせた船だ。陸上の馬車と同じく、船を曳いてくれるものはみんな水馬扱いらしく、これをいちいち説明するのは非常に紙幅を食う。
なので私が見て気になったものだけ挙げていくと、巨大なタツノオトシゴのような頭に馬のような体をした生き物とか、巨大なゲンゴロウみたいな虫に曳かせていたりとか、巨大な二枚貝に水を吐かせて船を押させているものとか、オウオウと鳴くアシカみたいな生き物が数頭で曳いているものとか、人が人力で棹とか使っているやつとか、あ、いや、最後は違うか。
まあとにかく、ファンタジー世界観に慣れていないと頭がおかしくなったんだなと思うような光景だ。
そういった感覚をなんとかすみに放り投げてしまえば、一部の水馬車は水陸両用だったり、スロープのような登り口を使って水路と陸路をうまく切り替えていて、なにげに進歩的ではあると感心できる。
でもたまにざばーふと登ってきたのが人間みたいな二本足の生えた魚類だったりするのでSAN値が削られるのは勘弁してほしい。
おぞまし、違った、不思議な大広場を運河沿いに歩いていくと、上流、つまり北の方では漁場の桟橋と漁船が並んでいる。
以前リリオを丸焦げにした霹靂猫魚の小さいものをはじめとして、この運河には結構水産資源があるようで、漁船が網を張ったり、釣り竿を下ろしたり、また素潜りして漁をしたり、結構にぎやかだ。
とはいえ大抵はまだ日も出るかどうかという朝早いうちから漁をして、水門の開くころには大分落ち着いているそうだ。
商船や艀の邪魔になるし、逆に言えば商船や艀の往来で魚が逃げるからということでもあるらしい。
なので私が起き出して散歩する頃合となると漁はもう下火になって、大半の魚は水揚げされて市場に回っている。
じゃあこの辺りはもう面白みがないのかというとそうでもなくて、実は運河上流沿いには、漁師たちがとってきた魚を直接卸されている店が並んでいるので、新鮮な魚介が食えるのだ。
この時間も船を出している漁船というのはつまり、自分ちで食べる分とか、こういうお店がお昼に足りなくなって追加注文する分をとっているんだね。
なんとかいう白身魚と貝類の煮込みを遅めの朝食、まあブランチ代わりにさっと頂いたけれど、なるほどこれが、うまい。
味付けはシンプルに塩だけなのだけれど、大鍋で豪快に煮込んだ魚介の出汁がたっぷりと出ており、このスープだけでたまらなく胃に染みる。
魚の方はちょっと煮込み過ぎて崩れているが、そのおかげで骨周りの肉がほろりほろりと崩れてうまいことはがれてくれるので、柔らかく淡白な身にじわりと詰まったうま味が残さず食べられる。
この、骨ごとぶつ切りにして煮込むというのが美味い出汁の出る秘訣だという。
貝は過熱し過ぎると身が縮むというけれど、勿論そんなこと気にしちゃいない豪快さ。
ハマグリみたいな大振りな貝殻に比べて確かに小さいは小さいけれど、元が大きいから気にならない。むしろ殻から外しやすくていい。
これを噛むと、縮んだ分確かに硬い。硬いが、うまい。魚の方がちょっと頼りないくらい柔らかい分、この貝の硬さがむしろいい歯応えだ。ぎゅむぎゅむして、顎に気持ちがいい。
貝殻が驚くほど青いので最初は食えるものなのかと驚いたけれど、見た目の華やかさとは裏腹にどっしりと地に足のついた味わいだ。
などと言ってみたけれど、聞いてみればこの貝は瑠璃蛤といって、あの森の中で遭遇した飛行性二枚貝である玻璃蜆の仲間であるという。全然地に足がついていない類だった。
あまり綺麗なのでアクセサリーにでもできるのではないかと思ったのだが、気のいいおばちゃんによれば、結構獲れるので希少価値が低いらしい。なので子供が好きな子に贈るのに獲ったり、砕いてタイルや顔料に混ぜ込んだりするのに使うそうだ。
私は記念に一つ、きれいに洗って拭い、インベントリに納めたのだった。
用語解説
・商工会
商人たちの組合。ヴォーストの街で商売をするからにはここで認可をとらなければ正当なものとは認められない。しかし認可を得れば、商工会が定めた値段や会費などの制限がかかる代わりに、ヴォーストの街全ての商人がその商売を承認したという後ろ盾が得られる。
主に既得権益の保護や、市場の荒れを阻止したりがお仕事。
・水馬車
水生生物に曳かせた船のこと。あくまで車なのは、中には水陸両用で陸上を走ることができるものもあるためだと思われる。
・巨大なタツノオトシゴのような頭に馬のような体をした生き物
水蹄馬。魔獣。四つ足の馬のような体格をしたタツノオトシゴといった外見をしており、その蹄は地を走ることも水を蹴ることもでき、水馬の代表。野生のものは獰猛で人間も襲うが、飼育下ではその勇猛さが頼られる。
馬力があり、重い荷物などを曳くことが多い。
・巨大なゲンゴロウみたいな虫
大龍虱。蟲獣。非常に賢く、人にも懐く。年経たものは藻が張り付いてしっぽのように見えることもある。あまり重たいものは引けないが、小回りが利き、狭い水路などで役立つ。
・巨大な二枚貝
噴水扇。巨大なホタテガイのような二枚貝。下側の殻の表面がワックス様の分泌液で覆われ、出水管から勢いよく水を吹き出すことで水上を滑走するように移動する。
この貝は簡単な合図程度なら覚えることができ、船の後部に括りつけ、軽く叩いて合図をして水を吐きださせ、その勢いで移動するという特殊な水馬車が存在する。
あまり重い船は押せないが、とにかく勢いがあり速いので、急ぎの渡し船などに活用される。
・オウオウと鳴くアシカみたいな生き物
川驢。淡水域に棲む毛獣。ここに登場するものは特に北川驢とされるもので、やや大型。水蹄馬ほどではないがある程度は自衛ができ、複数頭で曳かせても喧嘩しないため、重い荷物も運べる。
・人間みたいな二本足の生えた魚類
暴れ魴鮄。人外魔境呼ばわりされることもある辺境~北部にかけてでも珍しいタイプの水棲魔獣。いかにも魚といった図体にいきなりすらりと二本足が生えており、しかもかなり健脚。胸鰭の進化したものであるらしいのだが、陸上でも呼吸できることと言い、どうしてこんな進化をしたのかは全くの謎である。
暴れ、とつくように獰猛な面もあり、普段のったりしている癖に、外敵とみるや素早いヤクザキックで動かなくなるまで蹴りつける。
・なんとかいう白身魚
閠は覚えてはいるが興味は持っていないものの、正しくは竜尾鱒。鱒の中でもヴォースト川に棲む種。淡水域で生涯を終える。最大で一メートル越えすることもあるがもっぱら食べられるのは三十センチから六十センチ程度のもの。
やや淡白ながら、ヴォーストでは親しまれる食味である。
・瑠璃蛤
玻璃蜆より大型の飛行性二枚貝。主に淡水の影響のある内湾に生息しているが、川沿いに遡上していき分布することもある。ヴォーストは船の往来も多いため、それにつられてやってきて固着化したのではないかとされる。
その貝殻は鮮やかな瑠璃色を示し、顔料の素材や、砕いてタイルやモザイク画に使用されたりする。
地下水道での冒険を終え、主にバナナワニ鍋で絆を深めた一行。
しかし消費は大きく、つかの間の休息に浸るのであった。
普通の冒険屋というものは、大きめの依頼を片付けたらしばらく休むものらしい。
それは体を休めるための調整期間でもあり、装備を整えるための準備期間でもあり、そして他の冒険屋に仕事を譲ってやる心遣いの期間でもあるらしい。
まあ最後に関しては酒場で飲んだくれている姿を見る限りお前らの営業努力だろうとか思わないでもないけれど、私たち《三輪百合》も、地下水道での仕事を終えて、少しの間休暇をとることになった。
バナナワニのスキヤキで胃もたれしたから、とちょくちょくからかわれるが、もっぱらリリオの調整のためだった。
バナナワニを倒すために雷精に魔力をこれでもかと食わせてやったリリオは盛大に疲労し、あちこちの感覚が狂い、ホルモンバランスとかも崩れていそうな様子だった。
無理やりに休ませてご飯を食べさせたらあっという間に回復しやがったが、それでも念のためまだ休ませてある。
お世話をしているトルンペートは口ではあれこれ言うが、実に満ち足りた様子だ。あれが仕えるものの幸福というやつなのだろうか。
リリオもこういう時には実に尽くされ慣れている様子で、一応貴族は貴族なのだなと妙に感心したものだった。
なお私は巻き添えになりそうだったので逃げた。
私はああいうの背中がかゆくなるから無理。
さて、リリオの調整その二、というかリリオの装備の調整が休暇の主な原因だった。
雷精をこれでもかと肥え太らせた剣はそれはもう負荷も大きかったようで、持ち込んだ先である鍛冶屋カサドコでは「雷雲でも切ってきたのかい」と呆れられた。
「どれだけ魔力を食わせればこんなバカみたいな焦げ付き方するんだい。霹靂猫魚の皮革が耐えきれずに爆ぜちまってるじゃないか。それに刀身も刀身だ。大具足裾払の甲殻が歪むなんてのは聞いたことがないよ全く」
「直せそうですか?」
「できらいでか! と言いたいとこだけど、何しろ素材が素材だからね、ちょいと時間も金もかかるよ。つききりだとして、まあ、半月も見ておきな」
「半月! そんなに!」
「あんたにゃちょうどいい休みさね。少しは大人しくしな、《三輪百合》の暴れん坊チビめ」
「トルンペート……」
「あんたよりは大きいわよ」
「胸は同じくらいだだだだだだ」
「お代はいくら負けられる?」
「あんたは遠慮しないねえ。そうさね。まず霹靂猫魚の活きのいい皮革が要る。持ち込みならずいぶん安くするよ」
「刺身なら?」
「あたしの気力も奮うね」
「結構。毎度あり」
「あんたも営業以外で愛嬌があればねえ……」
「売れもしない愛嬌は要らない」
「あ、私買います!」
「君は私に借りが多すぎるだろう」
「ぐへぇ」
リリオは不満そうであったが、数打ちの代剣を借りて取り敢えず腰に吊るし、見た目ばかりは何とか形になった。とはいえ、雑に扱っても刃こぼれ一つしなかったあの剣と同じ感覚で普通の剣を使えばすぐさま折れてしまいそうだから、リリオにはじっとしていてもらいたいものだ。
さて、休暇中のリリオに、それにつきっきりのトルンペートと来て、久しぶりに一人の時間を得た私は、ちょっと出てくると言いおいて、事務所を後にした。
かつては一人でいる時間の方が長かったのに、困ったことにリリオと出会ってから滅多に一人の時間というものが取れなかったのだ。健全な精神活動を取り戻すにしても、頭の中を整理するにしても、一人になって調整する時間が必要だ。
私は《隠蓑》で姿を隠し、ぶらりとヴォーストの街を歩き始めた。
このヴォーストの街というものは、辺境からさほど遠くもない堂々たる田舎の街と自称してはいるが、それでもなかなか立派な街であることは間違いなかった。
街はぐるりと立派な街壁で囲まれ、その街壁には何か所も塔が立っており、きっと見張りがついているのだろう。
さすがに上にまで登ったことはないので詳しくはないが、長らく使われていないとはいえバリスタや投石機といった兵器も準備されているというから、護りはこの世界基準では万全と言っていいだろう。
どちらかというと平和な中央より、辺境に近いこのあたりの方が防備には気を遣っていると聞く。
街壁に囲まれた内部は、南北に走る運河と東西に走る大路で、地図で見れば大きな十字に切り分けられているように見える。運河と大路はそれぞれ水門と街門とで内外と隔てられており、これ以外に街と出入りする出入口はない。
だから陸路では街門が、水路では水門が、いつも人のやってくる朝方は非常に込み合うし、そこから連なる大路も運河もかなりの交通量だ。
私たちがやってきた東街門から続く東大路に宿をはじめとして店が連なっていたように、西大路もおおむね同じ作りになっている。
この出入り口付近というものは外からの人間が多く訪れる、ということは新しい話題や商売も多くやってくるということで、ただの宿屋だけでなく、《踊る宝石箱亭》のような冒険屋御用達の酒場件宿屋もこのあたりに多く居を構えている。
この宿屋街の先はちょっとした広場になっており、毎日朝から市が立つ。
市というのは固定の店ではなく、露店や出店、また地面に布を敷いて品物を並べただけのような店の類が立ち並ぶ市場で、広場の入り口近くに聳える商工会で許可をとった店が認可の下りた商品を扱うものだ。
大路を通って運ばれてきた荷物は大体がここで卸され、売買される。
新鮮な野菜や卵、また生きたままの家畜などの他、遠方から取り寄せられた品々が玉石混交で並び、うまくいけば掘り出し物が見つかることもあるという。
まあ、私は人混みが苦手だから、ここに立ち入るのは人が減る昼過ぎ以降だけれど。
この広場を過ぎて大路をもう少し進むと、少し落ち着いた店々が並ぶ商店街に続く。
これらはみな、旅人が必要とする薬や携帯食などの消耗品を扱う店というよりは、地元の人々が利用する精肉店や薬屋、雑貨店など、地域密着型の店舗だ。
以前リリオとともに訪れた精霊晶の店などもこの一角にあるし、メザーガの冒険屋事務所もこのあたりにある。
私のなじみの店である本屋も東商店街にあり、ちょくちょく足を運んでいる。
壁がすべて本棚で、カウンターの奥に垣間見える店主の生活の場にさえ本があふれて見える素敵な空間で、しかもそのすべてが丁寧に整理されているという最高の本屋だ。
さらに店主がその本をすべて把握しており、これこれこういう本が欲しいと言えばすぐに対応してくれるという本屋の鑑でさえある。
本好きにとってはこれ以上ない本屋では無かろうか。
そりゃあ私だって行きつけになる。
まあ、私は本を買うとき以外は《隠蓑》を解除しないから、店主からしたら毎回いきなり現れて大量に買ってそしてまた消える謎の客でしかないだろうけれど。
東商店街に書籍を扱う店はこの一軒だが、西商店街にも書店があるというから、その内足を延ばしてみたいものだ。そのうち。
この商店街を抜けると、運河に面した大広場に出る。この広場は港のようなもので、突き出したいくつもの桟橋には商船や艀、そして水馬車とやらが常に隙間を埋めるようにして出入りしている。
陸路よりも大量の物資を運べる船が集まる場所であるから、ここで卸される荷物というのは大路を通って運ばれる品物よりもずっと多い。その品物の多くがこの大広場の市で捌かれて、いくらかは市に運ばれ、いくらかは店に直接卸され、そしてまたいくらかは個人が買い取っていく。
やってきたと思ったらまた別の船に乗せられて再び旅に出ていく荷もあるし、運河から別れる細かな水路を使ってここからさらに小分けにされて運ばれていく荷もある。
ヴェネツィア程ではないのだけれど、運河のたっぷりとした水量を誇るヴォーストでは水路がかなり活用されている。さすがに街壁付近までは届かないけれど、運河付近は路地と同じように水路が流れており、これを先程もいった水馬車なんかが通って荷を運んだり人を運んだりする。
この水馬車というのが、まあ自動翻訳の適当な訳なのだろうけれど、まあ簡単に言ってしまえば水生生物に曳かせた船だ。陸上の馬車と同じく、船を曳いてくれるものはみんな水馬扱いらしく、これをいちいち説明するのは非常に紙幅を食う。
なので私が見て気になったものだけ挙げていくと、巨大なタツノオトシゴのような頭に馬のような体をした生き物とか、巨大なゲンゴロウみたいな虫に曳かせていたりとか、巨大な二枚貝に水を吐かせて船を押させているものとか、オウオウと鳴くアシカみたいな生き物が数頭で曳いているものとか、人が人力で棹とか使っているやつとか、あ、いや、最後は違うか。
まあとにかく、ファンタジー世界観に慣れていないと頭がおかしくなったんだなと思うような光景だ。
そういった感覚をなんとかすみに放り投げてしまえば、一部の水馬車は水陸両用だったり、スロープのような登り口を使って水路と陸路をうまく切り替えていて、なにげに進歩的ではあると感心できる。
でもたまにざばーふと登ってきたのが人間みたいな二本足の生えた魚類だったりするのでSAN値が削られるのは勘弁してほしい。
おぞまし、違った、不思議な大広場を運河沿いに歩いていくと、上流、つまり北の方では漁場の桟橋と漁船が並んでいる。
以前リリオを丸焦げにした霹靂猫魚の小さいものをはじめとして、この運河には結構水産資源があるようで、漁船が網を張ったり、釣り竿を下ろしたり、また素潜りして漁をしたり、結構にぎやかだ。
とはいえ大抵はまだ日も出るかどうかという朝早いうちから漁をして、水門の開くころには大分落ち着いているそうだ。
商船や艀の邪魔になるし、逆に言えば商船や艀の往来で魚が逃げるからということでもあるらしい。
なので私が起き出して散歩する頃合となると漁はもう下火になって、大半の魚は水揚げされて市場に回っている。
じゃあこの辺りはもう面白みがないのかというとそうでもなくて、実は運河上流沿いには、漁師たちがとってきた魚を直接卸されている店が並んでいるので、新鮮な魚介が食えるのだ。
この時間も船を出している漁船というのはつまり、自分ちで食べる分とか、こういうお店がお昼に足りなくなって追加注文する分をとっているんだね。
なんとかいう白身魚と貝類の煮込みを遅めの朝食、まあブランチ代わりにさっと頂いたけれど、なるほどこれが、うまい。
味付けはシンプルに塩だけなのだけれど、大鍋で豪快に煮込んだ魚介の出汁がたっぷりと出ており、このスープだけでたまらなく胃に染みる。
魚の方はちょっと煮込み過ぎて崩れているが、そのおかげで骨周りの肉がほろりほろりと崩れてうまいことはがれてくれるので、柔らかく淡白な身にじわりと詰まったうま味が残さず食べられる。
この、骨ごとぶつ切りにして煮込むというのが美味い出汁の出る秘訣だという。
貝は過熱し過ぎると身が縮むというけれど、勿論そんなこと気にしちゃいない豪快さ。
ハマグリみたいな大振りな貝殻に比べて確かに小さいは小さいけれど、元が大きいから気にならない。むしろ殻から外しやすくていい。
これを噛むと、縮んだ分確かに硬い。硬いが、うまい。魚の方がちょっと頼りないくらい柔らかい分、この貝の硬さがむしろいい歯応えだ。ぎゅむぎゅむして、顎に気持ちがいい。
貝殻が驚くほど青いので最初は食えるものなのかと驚いたけれど、見た目の華やかさとは裏腹にどっしりと地に足のついた味わいだ。
などと言ってみたけれど、聞いてみればこの貝は瑠璃蛤といって、あの森の中で遭遇した飛行性二枚貝である玻璃蜆の仲間であるという。全然地に足がついていない類だった。
あまり綺麗なのでアクセサリーにでもできるのではないかと思ったのだが、気のいいおばちゃんによれば、結構獲れるので希少価値が低いらしい。なので子供が好きな子に贈るのに獲ったり、砕いてタイルや顔料に混ぜ込んだりするのに使うそうだ。
私は記念に一つ、きれいに洗って拭い、インベントリに納めたのだった。
用語解説
・商工会
商人たちの組合。ヴォーストの街で商売をするからにはここで認可をとらなければ正当なものとは認められない。しかし認可を得れば、商工会が定めた値段や会費などの制限がかかる代わりに、ヴォーストの街全ての商人がその商売を承認したという後ろ盾が得られる。
主に既得権益の保護や、市場の荒れを阻止したりがお仕事。
・水馬車
水生生物に曳かせた船のこと。あくまで車なのは、中には水陸両用で陸上を走ることができるものもあるためだと思われる。
・巨大なタツノオトシゴのような頭に馬のような体をした生き物
水蹄馬。魔獣。四つ足の馬のような体格をしたタツノオトシゴといった外見をしており、その蹄は地を走ることも水を蹴ることもでき、水馬の代表。野生のものは獰猛で人間も襲うが、飼育下ではその勇猛さが頼られる。
馬力があり、重い荷物などを曳くことが多い。
・巨大なゲンゴロウみたいな虫
大龍虱。蟲獣。非常に賢く、人にも懐く。年経たものは藻が張り付いてしっぽのように見えることもある。あまり重たいものは引けないが、小回りが利き、狭い水路などで役立つ。
・巨大な二枚貝
噴水扇。巨大なホタテガイのような二枚貝。下側の殻の表面がワックス様の分泌液で覆われ、出水管から勢いよく水を吹き出すことで水上を滑走するように移動する。
この貝は簡単な合図程度なら覚えることができ、船の後部に括りつけ、軽く叩いて合図をして水を吐きださせ、その勢いで移動するという特殊な水馬車が存在する。
あまり重い船は押せないが、とにかく勢いがあり速いので、急ぎの渡し船などに活用される。
・オウオウと鳴くアシカみたいな生き物
川驢。淡水域に棲む毛獣。ここに登場するものは特に北川驢とされるもので、やや大型。水蹄馬ほどではないがある程度は自衛ができ、複数頭で曳かせても喧嘩しないため、重い荷物も運べる。
・人間みたいな二本足の生えた魚類
暴れ魴鮄。人外魔境呼ばわりされることもある辺境~北部にかけてでも珍しいタイプの水棲魔獣。いかにも魚といった図体にいきなりすらりと二本足が生えており、しかもかなり健脚。胸鰭の進化したものであるらしいのだが、陸上でも呼吸できることと言い、どうしてこんな進化をしたのかは全くの謎である。
暴れ、とつくように獰猛な面もあり、普段のったりしている癖に、外敵とみるや素早いヤクザキックで動かなくなるまで蹴りつける。
・なんとかいう白身魚
閠は覚えてはいるが興味は持っていないものの、正しくは竜尾鱒。鱒の中でもヴォースト川に棲む種。淡水域で生涯を終える。最大で一メートル越えすることもあるがもっぱら食べられるのは三十センチから六十センチ程度のもの。
やや淡白ながら、ヴォーストでは親しまれる食味である。
・瑠璃蛤
玻璃蜆より大型の飛行性二枚貝。主に淡水の影響のある内湾に生息しているが、川沿いに遡上していき分布することもある。ヴォーストは船の往来も多いため、それにつられてやってきて固着化したのではないかとされる。
その貝殻は鮮やかな瑠璃色を示し、顔料の素材や、砕いてタイルやモザイク画に使用されたりする。
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訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
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