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恋と嫉妬とアドバイス 3

揺らめくフレッシュグリーン

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 部員の女の子二人が、時々こちらをちらっと見ては、スマホの画面を確認し、額を寄せてひそひそ話しているのが目に入る。
 女の子たちの高い声は、静まり返った多目的ルームによく通り、いやでも聞きたくない内緒話が耳に入ってきた。

「普通さ、アリを見て、授業さぼる?」

「ありえない!……って、おやじギャグかましちゃった。それに、地下水を調べるために穴なんか掘らないって」

「だよね~。これが本当のことなら、理花さんって、やっぱり……」

 薫子がはっと顔をあげて、違うと大声で叫んだ。
「それ、創作だから! 理花は全く関係ないの。ただの女の子の話だとウケないから、少し個性的でかわいい女の子の話が書きたかっただけで、理花とは違うから! 」

 薫子があまりにも一生懸命になって否定したからか、注目を浴びた部員の女の子たちは軽口をたたいたことが決まりが悪くなったようだ。じゃあなんで理科なんて理花さんに似た名前にしたのかな?と質問を返して、自分たちの非を薫子になすりつける。 

 理花をかばってくれた薫子の気持ちは嬉しいけれど、大智が予想した通り、主人公と理花のイメージが繋がった途端に部員たちの頭に湧いた疑惑は、まだ解消されていないことが表情で見て取れる。とてもじゃないけど、薫子を擁護する気にはなれなかった。
 もしかしたら、薫子がWeb小説で書いた理科ちゃんも、内心では変な子と軽蔑しながら書いたかもしれないと疑心暗鬼になったとき、浮かない顔の理花を見て薫子は何かを察したようだ。

理花ことはをWeb小説に理科りかとして登場させたのは、私にとって理花はとても大事な友達だから、作品に残しておきたかったの。でも、脚本の理華は……私、私……」

 待って!何を言おうとしているの?焦った理花は叫んでいた。
「薫子!分かったから。もういいよ」

 もし薫子が、大智を理花に取られたくないから脚本を交換したと話したら、理花も大智を思っていたことがバレてしまう。
 自分はまだ、大智に気持ちを告げる勇気はなない。ましてや関係のない外野の前なんかで、BLにしたのは大智への恋心が働いたからなんて言いたくなかった。

 言葉を飲んだ薫子が、窺うように理花を見つめている。いつだって自信満々な態度で理花に接していたのに、今の薫子は怯えとも悲しみともとれる複雑な表情を浮かべていて、理花の知っている薫子とは全然違ってみえる。空いてしまった二人の距離が寂しかった。

「薫子は文才があるから、りかちゃんをいく通りにも書き分けられるんだと思う。性格を大げさにして、観客に印象付けたかったんだよね?でも、今回はちょっとやり過ぎかなって思うから、ちょっとだけ直してくれたら、演じる方としては嬉しいかも」

「でも、私は理花の台本の方が切なくて、テーマには合ってるんじゃないかと思う。私、理花に焼きもちやいたのよ。書くことは私の方が得意だって思っていたのに、理花に全て持ってかれちゃうみたいに感じて、その…‥性格をデフォルメした方に差し替えたの。最初司君に渡した台本の理華ちゃんは、もっと普通の子で、誤解を招くことはなかったのに……。ごめんね、理花。本当にごめんなさい」

 薫子は大智への思いを口にしなかった。
 多分理花が何を恐れているかを見抜いたのだろう。理花の意地悪を公表しないばかりか、悪いのは全部自分だと言い放った。

 もしかしたら、薫子がWeb小説で書いた理科ちゃんも、内心では変な子と軽蔑しながら書いたかもしれないと理花が疑った時、薫子は理花の気持ちを察したように、私にとって理花はとても大事な友達だから、作品に残しておきたかったと言ったが、あれは本心から出た言葉だったのだろう。
 理花は少しでも薫子を疑った自分が恥ずかしくなった。

「薫子、今日は先に、帰らしてもらおうよ。映研の人たちに、脚本を読み比べて選んでもらえば、明日演技しなくて済むもの。ねっ、その方がよくない?」

 薫子が戸惑いがちにうんと頷いた。大智も司も、黙って成り行きを見守っていた真人も、優しい笑顔で、私たちを送り出してくれた。

 4階から階段を降りながら、薫子に聞いてみる。
「ねっ、大智君は私たちと違って、大人だよね? 中身も外見も揃ってて、私たちって、すっごく素敵な人に恋しちゃったんだね」

 薫子の足が階段の途中で止まって、理花一人の足音になった。二人きりになってから、合わせずにいた視線を合わせようとして、思い切って振り返ると、薫子の目に一杯涙がたまっている。

「私にとっては、良くない存在だよ~。理花を傷つけちゃったんだもん」

 薫子の告白を聞いていたら、自然と私の口元に笑顔が浮かんだ。
何だろうこの気持ち?同じ人に恋したことで始めた喧嘩は、高校生にしてはガキっぽすぎて、いけないいたずらを共有したかのよう。
 自分のしたことの気まずさや、相手に対する悪いなって気持ちと、感情的になった二人の姿を思い浮かべると、照れくささで一杯になった。

「私も意地悪したもん。きっと大智君は女を狂わせる存在なんだわ」

「やだ、理花。それ、意味違うし……」

 薫子が笑いながら目元を拭いている。理花も笑いながら、急にぼやけたまなじりをこすっていた。
 薫子の脚本を読み上げる前に、大智が一瞬でも考える時間を与えてくれなければ、きっと自分たちはお互いの気持ちを履き違えたまま、罪をなすりつけあって分裂していたかもしれない。
 
「良かった、大事な友情を失わずにすんで。薫子だけ悪者にしてごめんね」

 思わず漏れた理花の気持ちに、強く頷いた薫子の目と鼻は、真っ赤だった。

「分かるよ。大切な気持ちを言い訳なんかに使いたくないもんね。あれは私の考えが足りなかったから、謝って当たり前だもん。理花が友達でいてくれて良かった」

 友情の再確認をした理花と薫子は、いつもよりはしゃいで、いつもより笑って、いつも通りのことまで新鮮に映って、幸せを感じていた。そう、次の日までは……



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