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写真撮影1
揺らめくフレッシュグリーン
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頭の中でグルグル考えていた理花は、ふと影が差したことに気が付き、顔を上げた。すると、目の前にビデオカメラを手にした男の子が理花を撮影しているのに気が付いた。
驚いて、思わず椅子から立ち上がり、手をレンズに向かって広げながら尋ねる。
「何? どうして撮ってるの?」
「ああ、ごめん。僕は2-Bの新城真人といいます。ちょっと待ってくださいね。映像の確認するので・・・・・・」
新城は撮影した画像を巻き戻し、真剣な顔で見始めた。一体何をやっているのだろうと気になるけれど、邪魔するようで聞けなくて、だんだんと不安な気持ちになっていく。新城の後ろから、ぬっと顔を出した瀬尾も、画像を一緒に見ながら、二人してう~んと唸ってる。
そんな不満気な顔して二人で唸らないでくれるかな?
どうせ薫子みたいに華はないし、表情だって豊かじゃない。分かっているけど、薫子の相手をする瀬尾君が、だめ出ししなくたっていいじゃない!
理花がむすっとした顔で二人を睨んでいると、薫子が側にやって来て耳元で囁いた。
「瀬尾君って、かっこいいね」
はにかんだ表情が女の子らしくってかわいいと思うのに、癇に障るのはなぜだろう? 得たいの知れない黒い気持ちが沸き起こるようで、理花は散らすのに躍起になった。
ああ、きっとあれだ!いつもなら「やばっ、イケメンすぎる」と大声で叫ぶ薫子が、急に別人のように照れながらかっこいいなんて言うから、慣れていなくて拒否反応が起きたのかもしれない。
それにしても、今日の自分は気持ちが揺れてどうしようもない。
心を晴らすものを探して視線をさまよわせると、なぜだかいつの間にか瀬尾に行きつくことに気が付き、動揺する。
あっ、瀬尾君がこっち見てる。
あっ、今度は薫子を見た。また、こっち。
薫子と比べられたくなくて、理花の顔が自然と俯いた。耳だけが瀬尾の言葉を拾う。
「う~ん。多分割測光じゃないほうがいいな。でも、な‥‥‥‥‥‥‥」
瀬尾君って、カメラのこと分かるんだ。ちょっと意外だったりして。
男の子なら機械とかに強いから、普通なのかな。でも、多分活即効ってなんだろう?
理花が心の中で発する疑問は解決されずに、新城がまた新しい単語を口にした。
「スポット測光で撮ってみようか。テーマ的に影が出る表情とかが多めになるだろうから」
「ああ、真人に任せるよ。本当は俺がカメラマンやりたかったんだけれどな。くじ引きで真人に持っていかれるし‥‥‥」
「悪いね。でも、大智はビジュアル的に、役者の方があってるよ。その顔と身長を活かさないともったいないじゃないか」
瀬尾がカメラマンを希望していたことを知り、それでカメラの扱いに詳しかったのだと理花は納得した。
秘密を知って嬉しい反面、希望とは違う役者をやらされるのは、かわいそうだと少し同情の気持ちも湧く。
でも、新城の言うことは当ってると思う。アップに耐えられる瀬尾の整った顔は役者向きだ。スクリーン越しにでも、あのチョコレート色の瞳で見られたら、女の子は甘い気持ちを掻き立てられるだろう。
ふとその場面を想像していた理花の目の端に、ひらひらと泳ぐものが映り、瀬尾に手招きされているのに気が付いた。
「ちょっと二人とも、準備室の扉の前に立ってくれるかな? 少し身体を斜めにして‥‥‥そう、止まってくれ。真人、どうだ?オッケー?」
「うん、まずは中央部重点測光で撮ってみた。次、スポット測光いくから、少しカーテン引いて。今度は一人ずつ立ってみて」
何だかルールの分からないゲーム会場を、おたおたしながら進む気分になってきた。言われるままについて行けば、自分だけ戦力外通知を言い渡されるのかもしれない。自分の器量は分かっていても、絵的にはっきりと判断されたら、きっと床に突っ伏しちゃいたくなるだろうと理花は思った。
ちらりと薫子を見ると、新城の指示に従い躊躇することもなくポーズをとっている。内心アワアワしている自分に比べたら、薫子はやっぱり主役を張れる女の子だと感じた。初めての撮影も全く気にもしていないようで、採光が調節される中、いつもの可愛い笑顔を決めている。
いいな~。度胸があるって。
これも顔に自信があるからできることなんだろうと理花は素直に感心し、同じ女の子として少しだけ羨ましくなった。
「次、青木さん。大智と並んで立ってみて」
「えっ?ええ~~~~~っ!?」
な、何で私が瀬尾と並ばなくっちゃいけないの?
薫子をすっとばしての新城の指示に、何か言おうとして口を開けたけれど、隣に瀬尾が立ったせいで、緊張感が半端ない。ガチガチに固まっている理花を見て、新城が苦笑した。
「青木さん。カメラを意識しないで、大智と普通にしゃべってみて」
それが一番難しいと理花は思った。苦手意識を無くして仲良くなるためには、まずは相手が興味を持っている話題を振ふる方がいいかもしれない。決心した理花が、横に立った瀬尾にさっき疑問に思ったことを口にした。
緊張から棒読みのようになっていることには、この際目を瞑ってもらおう。
「ねぇ、中央分離帯とか、スポット速攻って何?」
「中央‥‥‥分離帯?」
一瞬ぽか~んとなった瀬尾を見て、緊張していた気持ちが解れた理花は、瀬尾が普通の男の子だということに親しみを感じた。
これなら普通に話せると思った矢先、突然弾かれたように瀬尾が身体を折り曲げて笑い出し、理花は何が起きたか分からずに困ってしまった。
驚いて、思わず椅子から立ち上がり、手をレンズに向かって広げながら尋ねる。
「何? どうして撮ってるの?」
「ああ、ごめん。僕は2-Bの新城真人といいます。ちょっと待ってくださいね。映像の確認するので・・・・・・」
新城は撮影した画像を巻き戻し、真剣な顔で見始めた。一体何をやっているのだろうと気になるけれど、邪魔するようで聞けなくて、だんだんと不安な気持ちになっていく。新城の後ろから、ぬっと顔を出した瀬尾も、画像を一緒に見ながら、二人してう~んと唸ってる。
そんな不満気な顔して二人で唸らないでくれるかな?
どうせ薫子みたいに華はないし、表情だって豊かじゃない。分かっているけど、薫子の相手をする瀬尾君が、だめ出ししなくたっていいじゃない!
理花がむすっとした顔で二人を睨んでいると、薫子が側にやって来て耳元で囁いた。
「瀬尾君って、かっこいいね」
はにかんだ表情が女の子らしくってかわいいと思うのに、癇に障るのはなぜだろう? 得たいの知れない黒い気持ちが沸き起こるようで、理花は散らすのに躍起になった。
ああ、きっとあれだ!いつもなら「やばっ、イケメンすぎる」と大声で叫ぶ薫子が、急に別人のように照れながらかっこいいなんて言うから、慣れていなくて拒否反応が起きたのかもしれない。
それにしても、今日の自分は気持ちが揺れてどうしようもない。
心を晴らすものを探して視線をさまよわせると、なぜだかいつの間にか瀬尾に行きつくことに気が付き、動揺する。
あっ、瀬尾君がこっち見てる。
あっ、今度は薫子を見た。また、こっち。
薫子と比べられたくなくて、理花の顔が自然と俯いた。耳だけが瀬尾の言葉を拾う。
「う~ん。多分割測光じゃないほうがいいな。でも、な‥‥‥‥‥‥‥」
瀬尾君って、カメラのこと分かるんだ。ちょっと意外だったりして。
男の子なら機械とかに強いから、普通なのかな。でも、多分活即効ってなんだろう?
理花が心の中で発する疑問は解決されずに、新城がまた新しい単語を口にした。
「スポット測光で撮ってみようか。テーマ的に影が出る表情とかが多めになるだろうから」
「ああ、真人に任せるよ。本当は俺がカメラマンやりたかったんだけれどな。くじ引きで真人に持っていかれるし‥‥‥」
「悪いね。でも、大智はビジュアル的に、役者の方があってるよ。その顔と身長を活かさないともったいないじゃないか」
瀬尾がカメラマンを希望していたことを知り、それでカメラの扱いに詳しかったのだと理花は納得した。
秘密を知って嬉しい反面、希望とは違う役者をやらされるのは、かわいそうだと少し同情の気持ちも湧く。
でも、新城の言うことは当ってると思う。アップに耐えられる瀬尾の整った顔は役者向きだ。スクリーン越しにでも、あのチョコレート色の瞳で見られたら、女の子は甘い気持ちを掻き立てられるだろう。
ふとその場面を想像していた理花の目の端に、ひらひらと泳ぐものが映り、瀬尾に手招きされているのに気が付いた。
「ちょっと二人とも、準備室の扉の前に立ってくれるかな? 少し身体を斜めにして‥‥‥そう、止まってくれ。真人、どうだ?オッケー?」
「うん、まずは中央部重点測光で撮ってみた。次、スポット測光いくから、少しカーテン引いて。今度は一人ずつ立ってみて」
何だかルールの分からないゲーム会場を、おたおたしながら進む気分になってきた。言われるままについて行けば、自分だけ戦力外通知を言い渡されるのかもしれない。自分の器量は分かっていても、絵的にはっきりと判断されたら、きっと床に突っ伏しちゃいたくなるだろうと理花は思った。
ちらりと薫子を見ると、新城の指示に従い躊躇することもなくポーズをとっている。内心アワアワしている自分に比べたら、薫子はやっぱり主役を張れる女の子だと感じた。初めての撮影も全く気にもしていないようで、採光が調節される中、いつもの可愛い笑顔を決めている。
いいな~。度胸があるって。
これも顔に自信があるからできることなんだろうと理花は素直に感心し、同じ女の子として少しだけ羨ましくなった。
「次、青木さん。大智と並んで立ってみて」
「えっ?ええ~~~~~っ!?」
な、何で私が瀬尾と並ばなくっちゃいけないの?
薫子をすっとばしての新城の指示に、何か言おうとして口を開けたけれど、隣に瀬尾が立ったせいで、緊張感が半端ない。ガチガチに固まっている理花を見て、新城が苦笑した。
「青木さん。カメラを意識しないで、大智と普通にしゃべってみて」
それが一番難しいと理花は思った。苦手意識を無くして仲良くなるためには、まずは相手が興味を持っている話題を振ふる方がいいかもしれない。決心した理花が、横に立った瀬尾にさっき疑問に思ったことを口にした。
緊張から棒読みのようになっていることには、この際目を瞑ってもらおう。
「ねぇ、中央分離帯とか、スポット速攻って何?」
「中央‥‥‥分離帯?」
一瞬ぽか~んとなった瀬尾を見て、緊張していた気持ちが解れた理花は、瀬尾が普通の男の子だということに親しみを感じた。
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