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ヒロイン
揺らめくフレッシュグリーン
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「青木さん、大丈夫? 貧血気味なのかな? 中へ入って休んでいった方がいいよ。女の子は2名しかいなくて、野郎ばっかりだけど、階段落ちるといけないから」
瀬尾の目が薫子に映って、おやっと言うように眉毛があがるのが見えた。
「えっと君は‥‥‥」
今きっと、自分の顔と薫子の顔は比べられているんじゃないかと不安になった。
男の子はみんな薫子みたいに笑顔がかわいくて、女らしくて優しい子が好きだもの。あれっ、何だろうちょっと胃の奥がちりっとする感じ‥‥‥
「理花、お腹押さえてどうしたの?痛いの? やっぱり変だよ。中で休ませてもらお。ねっ? あっ、私、理花の親友でクラスメートの岸野薫子と言います」
「青木さんと司と同じクラスなら2-Cだね。俺はAクラスの瀬尾大智といいます。どうぞ、中に入ってください」
視聴覚室の中を覗きながら、瀬尾が進藤にお客さんがきたぞと呼びかけた。よく通る大きな声に理花の心臓が跳びはねる。
薫子が中に行こうと理花の手を引っ張るけれど、立て続けの失態と、コントロールできない感情に怯え、理花は足を踏ん張って抵抗した。
「薫子、逃げよう」
理花が自分の手を引っ張っている薫子の手を引っ張り返し、教室の外に連れ出そうとすると、よろけた薫子がちょっと待ってと大きな声をあげた。
「お~い、青木、岸野、どうしたんだ? 遠慮しないで入って来いよ!」
ああ、進藤に見つかっちゃった。理花は額を抑えた。今更逃げるわけにもいかない。薫子が一体どうしちゃったのと聞くけれど、どうしたも何も、自分自身で説明ができなくて空回りしている感じ。
みんなに心配かけちゃって、穴があったら入りたい。でも、身体が強張って部屋に入ることも、回れ右して逃げ出すこともできずにいる。
入口でもめる理花と薫子を迎えに進藤がやって来た。
進藤の顔を近くで見ても、普通に息ができることが分かり、進藤と瀬尾の顔ではどう違うんだろうと不思議に思った理花は、冷静な気持ちで進藤の顔を観察した。
瀬尾は割りと彫が深くてソース顔だと思う。進藤は‥‥‥こういうの塩顔っていうのかな? さっぱりしてて、いい感じだけれど絵心はそそられない。
「何で人の顔じっとみてるの? さては俺に気があったりして?」
「キモいこと言わないで。人間観察をしてただけ。脚本を書かなくちゃいけないもの」
「ああ、そっか。悪いな、大変なこと頼んじまって‥‥‥でも、大変ついでにもう一つお願いがあるんだけど」
「絶対いや!」
聞くと丸め込まれそうで、理花は即座に断った。
文章よりも絵や漫画を描く方が得意なのに、成り行きで脚本なんて慣れないものを書かされるはめになったんだから、これ以上手に負えないことを頼まれたら、パンクしそうだもの。
「聞いてから返事してよ」
「その手には、もうのらないもん」
「アハハ…バレたか。まま、こっち座って。岸野も・・・・・・」
進藤は薫子の顔を見た途端、ハッと何かを思いついたようだった。顎に手を当てながら、良からぬことを企んでいるように感じ、理花は変な成り行きになりそうだと身構えた。
「岸野さん、ヒロインやらない?」
「えっ? 何? ヒロインってどういうこと? 」
だから、聞いちゃだめだってばと思ったけれど、時既に遅しで、普段から口が滑らかな進藤が、ここぞとばかりに映画のヒロインがいないこと、薫子はかわいいし、画面映りが良さそうだし、ヒロインにぴったりだと口説き始めた。
「なぁ、みんな、薫子ちゃんって、ヒロインにもってこいだと思わないか? 大智は相手役としてどう思う?」
瀬尾が困ったように、薫子を見ている。相手役って、ヒロインって、そっか、書くのは恋物語だったと理花は思い出した。
薫子は、瀬尾君の恋人役を頼まれたんだ。こうやって並んでみると、美男美女でいかにもって感じで、絵的には良さそう。
でもね、切ない話を書くんだよ。薫子は明るいし、おしゃまで現代っ子だし、悲しい役にはあまり合わないと思う。
そこで理花はふと気が付いた。
あれ?どうして必死で否定してるんだろう?役が早く決まってれば、イメージが掴みやすくて脚本が書きやすいし、小説を書きなれている薫子が主人公なら、ストーリーを相談できて一石二鳥じゃない。
そう、賛成!薫子がいいと思いますと言いたいのに、喉に重しがつっかえたように感じて、理花は声が出せなかった。
やっぱり今日は体調が悪いかも‥‥‥そうなら訳の分からない気持ちや、制御の効かないおかしな言動にも説明がつきそうに思えた。
瀬尾の目が薫子に映って、おやっと言うように眉毛があがるのが見えた。
「えっと君は‥‥‥」
今きっと、自分の顔と薫子の顔は比べられているんじゃないかと不安になった。
男の子はみんな薫子みたいに笑顔がかわいくて、女らしくて優しい子が好きだもの。あれっ、何だろうちょっと胃の奥がちりっとする感じ‥‥‥
「理花、お腹押さえてどうしたの?痛いの? やっぱり変だよ。中で休ませてもらお。ねっ? あっ、私、理花の親友でクラスメートの岸野薫子と言います」
「青木さんと司と同じクラスなら2-Cだね。俺はAクラスの瀬尾大智といいます。どうぞ、中に入ってください」
視聴覚室の中を覗きながら、瀬尾が進藤にお客さんがきたぞと呼びかけた。よく通る大きな声に理花の心臓が跳びはねる。
薫子が中に行こうと理花の手を引っ張るけれど、立て続けの失態と、コントロールできない感情に怯え、理花は足を踏ん張って抵抗した。
「薫子、逃げよう」
理花が自分の手を引っ張っている薫子の手を引っ張り返し、教室の外に連れ出そうとすると、よろけた薫子がちょっと待ってと大きな声をあげた。
「お~い、青木、岸野、どうしたんだ? 遠慮しないで入って来いよ!」
ああ、進藤に見つかっちゃった。理花は額を抑えた。今更逃げるわけにもいかない。薫子が一体どうしちゃったのと聞くけれど、どうしたも何も、自分自身で説明ができなくて空回りしている感じ。
みんなに心配かけちゃって、穴があったら入りたい。でも、身体が強張って部屋に入ることも、回れ右して逃げ出すこともできずにいる。
入口でもめる理花と薫子を迎えに進藤がやって来た。
進藤の顔を近くで見ても、普通に息ができることが分かり、進藤と瀬尾の顔ではどう違うんだろうと不思議に思った理花は、冷静な気持ちで進藤の顔を観察した。
瀬尾は割りと彫が深くてソース顔だと思う。進藤は‥‥‥こういうの塩顔っていうのかな? さっぱりしてて、いい感じだけれど絵心はそそられない。
「何で人の顔じっとみてるの? さては俺に気があったりして?」
「キモいこと言わないで。人間観察をしてただけ。脚本を書かなくちゃいけないもの」
「ああ、そっか。悪いな、大変なこと頼んじまって‥‥‥でも、大変ついでにもう一つお願いがあるんだけど」
「絶対いや!」
聞くと丸め込まれそうで、理花は即座に断った。
文章よりも絵や漫画を描く方が得意なのに、成り行きで脚本なんて慣れないものを書かされるはめになったんだから、これ以上手に負えないことを頼まれたら、パンクしそうだもの。
「聞いてから返事してよ」
「その手には、もうのらないもん」
「アハハ…バレたか。まま、こっち座って。岸野も・・・・・・」
進藤は薫子の顔を見た途端、ハッと何かを思いついたようだった。顎に手を当てながら、良からぬことを企んでいるように感じ、理花は変な成り行きになりそうだと身構えた。
「岸野さん、ヒロインやらない?」
「えっ? 何? ヒロインってどういうこと? 」
だから、聞いちゃだめだってばと思ったけれど、時既に遅しで、普段から口が滑らかな進藤が、ここぞとばかりに映画のヒロインがいないこと、薫子はかわいいし、画面映りが良さそうだし、ヒロインにぴったりだと口説き始めた。
「なぁ、みんな、薫子ちゃんって、ヒロインにもってこいだと思わないか? 大智は相手役としてどう思う?」
瀬尾が困ったように、薫子を見ている。相手役って、ヒロインって、そっか、書くのは恋物語だったと理花は思い出した。
薫子は、瀬尾君の恋人役を頼まれたんだ。こうやって並んでみると、美男美女でいかにもって感じで、絵的には良さそう。
でもね、切ない話を書くんだよ。薫子は明るいし、おしゃまで現代っ子だし、悲しい役にはあまり合わないと思う。
そこで理花はふと気が付いた。
あれ?どうして必死で否定してるんだろう?役が早く決まってれば、イメージが掴みやすくて脚本が書きやすいし、小説を書きなれている薫子が主人公なら、ストーリーを相談できて一石二鳥じゃない。
そう、賛成!薫子がいいと思いますと言いたいのに、喉に重しがつっかえたように感じて、理花は声が出せなかった。
やっぱり今日は体調が悪いかも‥‥‥そうなら訳の分からない気持ちや、制御の効かないおかしな言動にも説明がつきそうに思えた。
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