あなたのそばに。

wawakibi

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放課後勉強

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広い胸板に程よく筋肉がついていることが服の上からでも分かった。同じ男としてこうも造りが違うのかとしみじみと思ってしまった。


「おい、何のんびりしてんだよ」

「あっ!?ごめんっ!!」


直ぐに身体を起こそうとしたがその前に朽木が俺の両脇を掴み上げていた。


「ほっそ・・・・前から思ってたんだけどさ、ちゃんと飯食ってんのか?腹見せてみ」


そう言って朽木はズボンに入れていたカッターシャツを掴み上へと持ち上げようとした。俺はすぐに朽木の手を上から押さえ、


「やめろっ!!」


まだ痣は引いてはいない。
今朽木に見られる訳にもいかず大きな声をあげてしまう。

急に声をあげたせいなのか、それとも少しだけ痣が見えてしまったせいなのかは分からないけど、朽木は驚いた表情を浮かべ固まっていた。


「きゅ、急に人の腹を見るな!エッチ!!」


俺はすぐに朽木から距離を取り服を直した。そしてすぐに席につき勉強を始めたのだった。


(たぶん、見てない・・・・大丈夫なはず)

「なぁ・・・・長谷川」


何かを聞きたそうにしている朽木だけど俺は無視して目の前の問題用紙を難なく解いていった。

見られていたか、見られていなかったのか、それに焦ってしまった俺はすっかりと忘れてしまっていた。自分が馬鹿と言う設定を。

静かに席へと戻る朽木は口元に手を置き黙ったまま俺の方を見ていた。そして俺が解いた問題用紙を1枚、また1枚と手に取り、


「へぇ~、全問正解じゃん」

「ん?あ~前にも言っただろ?朽木の教え方が上手いんだって」

「俺、そこはまだ教えたことないんだけど」

「・・・・そ、うだったか?」


ギクリとした。いつもは絶対に気を付けていることなのに、俺としたことが。朽木の顔が見れない。もしも「馬鹿は嘘?」なんて聞かれでもしたら・・・・椅子に座っているだけなのに足元がぐらついて気持ち悪かった。


「・・・・ま、たまたまか。いきなり出来る訳ないよな」

「そ、そうだよ!!俺は学校一の馬鹿だぜっ!!」


そう言ってなんとか誤魔化せた俺はこれ以上聞かれる前に帰ることにした。


「お、俺!今日早く帰んないとだから!じゃーなっ」

「あ、おい!待て!」

「ぐえっ」


勢いよく首根っこを掴まれたおかげで服が皮膚に食い込む食い込み。俺はむせながら朽木の方に向き直る。


「ん、暇があったらでいいから」


そう言って朽木も鞄を肩にかけ教室を出て行った。
朽木から手渡されたのは数十枚の束になった紙。開いてみるとコピーした問題用紙、一つ一つ分かるようにヒントまでつけてくれていた。そのヒントは全部朽木の文字だった。


「なんだよ・・・・あいつ・・・・意味わかんねー・・・・」


その場にへたり込み問題用紙を胸に抱え込んだ。

嬉しい、申し訳ない、何とも言えない感情が俺の中から溢れ出てくる。

気がつけば目から涙がこぼれ、俺はひたすら泣いていた。
義兄に殴られて涙を流すのだけは必死で堪えていた俺が、こんな事で泣いてしまうなんて。朽木に危険を感じてしまう。


「そうだ、言い忘れてた・・・・は?」

「ぅえ・・・・?」


朽木の声がしてまさかと思い振り返ったと同時に顔を出す朽木。
空いた口が塞がっていない。俺も突然のこと過ぎて涙を拭くのを忘れてただじっと朽木を眺めていた。

俺に近付き「なんで泣いてるんだ」と聞かれても、俺自身がなぜ涙を流してるのか全く分かっていないのだ。
自然と溢れ出てくるから止めようにも止められない。俯く俺の両頬を朽木の大きな両手で包み込まれ前を向かされる。


「長谷川、俺を見ろ。どうして泣いてるんだ?」


ハッキリと俺の目を見て話す朽木は怒った顔も迷惑そうな顔でもない。本当に俺の事を心配していたのだ。


「わ、わかんねーよ・・・・勝手に、涙が・・・・」


一瞬朽木の目線が俺の胸に抱え込んだままの問題用紙を見て、


「急に問題用紙渡したからか・・・・?」

「え・・・・ちが、それは違う!!」


確かに問題用紙を見て涙が流れだしたが、それはきっかけに過ぎない。原因ではないのだから。
何と言っていいものか考えるもうまく考えがまとまらず返答に悩んでいると、


「腹の痣と関係があるのか?」


ド直球に聞いてきた朽木。俺は下を向いたまま、


「違う、あれはぶつけただけだ」

「・・・・そうか」


その否定の言葉だけで意外にも朽木は納得しそれ以上は何も聞いては来なかった。隣で黙って座り俺の涙が枯れるまで、ずっとそばに居てくれた。
辺りが暗くなり始めた頃、俺の涙はやっとこさ止まり気まずい空気が流れていた。


「あの・・・・朽木、さん?その~もう大丈夫なんで」

「んだよ、改まって。もう泣き止んだのか?」


そう言って朽木は手を伸ばし俺の目元に指先を軽く這わせ確認していた。そして、


「送ってく」

「はい?」


朽木は俺の鞄を肩にかけて立ち上がり教室を出て行ってしまった。

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