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放課後勉強
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しおりを挟む矢吹先生も必死に俺を止めている。
そんな姿を見れば申し訳なくなる。俺に勉強を教えたところで、順位が上がることは決してないのに。
「・・・・分かりました。勉強・・・・します・・・・」
「そうかっ!!それじゃ朽木、あとは頼んだぞ」
「・・・・うっす」
矢吹先生は俺と朽木を残し補習室から出て行った。
重い空気が部屋を纏う。俺は朽木から目を逸らし問題用紙を睨みつける。気まずい、ただでさえ親しくもないのに、この密室の空間に2人だけとか。
「・・・・帰るか?」
俺は笑いこけながら朽木に聞いてみた。きっと先生がいたから大人しく振舞っていたのだろう?今は2人だけだ。きっと朽木は俺の提案にのってくるはず。だけど、そんな甘い期待は簡単にはねのけられた。
「お前、マジで殴るぞ・・・・ペンとか出せ。しゃーないから教えてやる。逃げたら容赦しない」
「は、はい・・・・」
朽木は甘い誘惑にはのってこなかった。むしろ俺に勉強を教える気満々だった。
まぁ・・・・確かにお互い留年は避けたいところではあるよな。
朽木は意外にも教科書を鞄から取り出し丁寧に教えてくれていた。問題の解き方、丁寧な解説、正直担当の教師よりも説明が上手く分かりやすかった。
「ふむふむ・・・・朽木は教師に向いてるんじゃないのか?」
「てめぇ・・・・真面目にやりやがれ」
褒めたのに。これは照れているのか?
そっと目をやれば睨み返され背筋が自然と伸びた。こんなんじゃ友達1人もいないなと自分の中で勝手に決めつけながら一問、また一問と解いていった。
俺の手が止まればすかさず朽木は「どうした?」と言いながら説明をしてヒントをくれて答えへと導いてくれる。
その時の表情は険しいものでも怒っているでもなく、落ち着いていて穏やかな表情を浮かべているのだ。俺はたまらず、
「朽木は・・・・勉強が好きなのか?」
「あ?うるさい」
またいつもの表情に戻り教えてくれる。なんだかくすぐったい。
とっつきにくいイメージのある朽木だったのが、ただただ面倒見のいいお兄ちゃんに見えてきた。
気がつけば夕方の5時を周り本日の勉強会は終了した。
「時間だし今日はここまでな。分かんないとこあるか?」
めんどくさそうに、だけどきっと俺のことを気遣いながら聞いてくれる朽木は、きっと根は優しくていい奴。
「ない!」
これ以上迷惑をかけたくなくて俺はハッキリと返事を返した。それが朽木にとって気にくわない態度とも知らずに。
「・・・・」
朽木は黙って部屋から出て行ってしまった。その表情は怒りに満ちていた。
(?・・・・怒ることないだろ・・・・正直に話したのにさ・・・・)
先に出て行った朽木とは少し距離をあけてから俺も部屋を出て靴箱へと向かった。靴箱にはまだ朽木が居て俺は咄嗟に隠れてしまった。
隠れることはないのに、なんだか顔を合わせづらくて朽木が行ってしまうのひたすら待った。そして朽木と誰かが話しながら、声が遠ざかるのを確認して俺は自分の靴を履き替えた。
校門を見れば朽木と俺の知らない男子生徒と笑いながら会話していた。
(・・・・友達、いたんだな)
2人の姿が見えなくなるまで俺は見続けた。別に羨ましいとか、そんな事は思わないけど。胸につかえる何かを感じてしまった。
いつものことながら家に帰る足取りが重い。
全身が拒否していることが分かるけど、今の俺には家に帰るしか選択肢がない。
谷垣や山田に迷惑はかけたくないし心配もさせたくない。一瞬だけ朽木の顔が浮かんだけど今日初めて会話してそこまで親しくもない。それに連絡先もしらない。「泊めてくれ」なんてことは絶対に言えない。
でも今日の放課後、勉強を教えてもらい嬉しかった。特別な事をされたわけじゃないけど、今の俺にとっては新鮮で刺激的、この先に起こる何かを変えてくれそうな感じがして少しの期待があった。
甘い夢、幻想、期待はするなと何度も自分に言い聞かせるも、目の前の甘い糸にすがらずにはいられない。
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