上 下
99 / 109
第三章

第99話 シルビア・ベルナドット

しおりを挟む
 私が彼女? いえ彼? アールと初めて会ったのは入学試験の日だった。
 最初はとても綺麗だけど、世間知らずでどこか危なっかしい女の子だという印象だった。

 けど、一生懸命で不器用な姿に私は惹かれていった。それに何物にも媚びない自由な姿がどこかうらやましかったのだろう。

 私は公爵令嬢で、婚約者もいる。魔法学院を卒業したらグスタフソン伯爵家に嫁いで、公爵家と伯爵家の仲を取り持ちつつ良き妻で良き母として生きていかなければと思っていた。

 けど、あの事件があった。ふふ、あのときのカールは本当に最低だった。傲慢そのもので今の彼とはまるで別人ね。
 お酒を飲んで我を忘れて襲い掛かるなんて。それでも彼にも事情があったと後で知ることが出来たし。ふふ、それにちゃんと罰も受けたし。
 その罰で今も彼は悩んでいるようね。自業自得だけどローゼには迷惑だったかしら。でもそのおかげでローゼたちは上手くいっているし。
 結果オーライかしら。

 アンネなんかはもうお母さんになろうとしている。
 私はどうなるんだろう。
 そういえばアールは私を好きって言ってくれてるけど、どこが良かったんだろう。

 あの時、バンデル先生の事件のときにアールは自分が勇者であるといった。
 それに身体は彼が作ったメイドロボットだという。ロボットは魔導人形の発展形で意思があるらしい。

 転生した勇者だと聞いたときはおどろいた。

 では本当の彼はどんな姿なんだろう。少し興味がある、もちろん今のままでも素敵だし問題はない。
 周りの人はアールを女性だと思っている。本当の事を知ってるのは周りにいる仲間たちだけだ。

 そういえば女性同士の結婚については相当揉めたようだった。もちろん両親は私がそれでいいならそうしなさいといってたけど、問題は親戚の貴族たちだ。

 次期当主である兄の説得のおかげでしぶしぶ納得しているようだけど、直ぐに揚げ足を取ってくることが予想されるそうだ。
 子供は望めないしであれこれとうるさいのだそうだ、特にご婦人方の目が厳しいそうだ。
 女性の義務を全うしてこその貴族令嬢なのだとか。

 それなら養子を迎えるのだっていいかもしれない。現に子宝に恵まれなかったご婦人はそうしている。
 ……いっそ孤児院でも立ち上げようかしら。

「どうした、シルビア、例の彼女のことでも考えていたのか? 言っとくがまだ親戚には反対派の連中がいるんだからな」
「お兄様、私、卒業したら孤児院でもやろうかと思いまして」
「ほう、それは素晴らしいと思うが、孤児院か。そういえば竜王教会については何か分かったのか? お前たちは何か調べてるんだろう? 議会でも話題になっているからな、ぜひ聞かせてくれないかな」

「まったく、お兄様、すぐに仕事の話にすり替えるんですから。まあ孤児院といえば今は竜王教会の話題になるのはわかりますけど。
 たしかに怪しいですね。教義も気になりますが、問題は支援金の使途が杜撰ですし。領収書も抜けが多いですね」

「ふむ、その言い方だと竜王教会は黒か、残念だ。俺は彼らのやってることは素晴らしいことだと思って、議会にも良き前例として議題に上げたというのに」
「お兄様、そう悲観しなくても、おかげでスヴェンソン先生は彼らの行いに疑問を持ったといって詳細を調べたのですから、お兄様の空回りもたまには役に立つのです」
「たまにはって、まあ、誉め言葉と受け止めておくよ」

「それよりもお兄様の問題です。ソフィアさんのことはどう思ってるんですか?」

「うん? なぜ今、ミス・グスタフソンの話題が?」

「もう、お兄様も大概にへなちょこですね。ぼんやりとした女性支援活動に時間を浪費するくらいなら、目の前の女性を優先してください!」

 ソフィア・グスタフソンはカールの姉であり、愚弟について申し訳なかったと事件の後に謝罪を受けたことがあった。
 その後ソフィアはアンドレの研究室に配属になると、シルビアは兄について色々相談に乗るようになったのだ。
 ソフィアは兄のことが好きらしい。直接言ってるわけではないがきっとそうだろう。だけど兄はそんな甲斐性があるように思えないから。
 こうして兄にはっぱをかけているのだ。
 でも兄は相変わらずだった。まったく、でも時間の問題でしょうか。

 私は兄の研究室を出るとソフィアさんが入り口でそわそわしたまま立っていた。
「ソフィア先輩、私が退室するのを待ってらしたんですか?」
「あーね、シルビアちゃん。アンドレ先生の好きなお菓子これで有ってるかな、……その自身無くなっちゃって、確認したくて待ってたんだ、アハハ……」
「あっ、ごめんなさい、私が邪魔をしてしまったでしょうか。これからは兄の研究室にはできるだけ近づかないほうが良かったですか?」
「あー、ないない、それはない。というかむしろ来てほしいっていうか、その、先生は私のことなんか言ってました? その、なんでもいいですから」

 ソフィア先輩も案外へなちょこだった、でも、微笑ましいと思った。この人なら義姉さんと呼んでもいい。いや義姉さんになってもらわなくちゃ。
 応援しよう、心の底からそう思ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します

厘/りん
ファンタジー
 王都から離れた辺境の村で生まれ育った、マオ。15歳になった子供達は適正職業の鑑定をすることが義務付けられている。 村の教会で鑑定をしたら、料理人•宿屋の主人•魔王とあった。…魔王!?  しかも前世を思い出したら、異世界転生していた。 転生1回目は失敗したので、次はのんびり平凡に暮らし、お金を貯めて美味しい料理を出す宿屋のオヤジになると決意した、マオのちょっとおかしな物語。 ※世界は滅ぼしません ☆第17回ファンタジー小説大賞 参加中 ☆2024/9/16  HOT男性向け 1位 ファンタジー 2位  ありがとう御座います。        

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

最強の龍『バハムート』に転生した俺、幼女のペットになってしまう

たまゆら
ファンタジー
ある日俺は、邪龍と恐れられる最強のドラゴン『バハムート』に転生した。 人間の頃と違った感覚が楽しくて飛び回っていた所、なんの因果か、変わり者の幼女にテイムされてしまう。 これは幼女と俺のほのぼの異世界ライフ。

世界最強だけど我が道を行く!!

ぶちこめダノ
ファンタジー
日本人の少年ーー春輝は事故で失ったはずの姉さんが剣と魔法のファンタジーな異世界にいると地球の神様に教えられて、姉さんを追ってラウトという少年に異世界転生を果たす。 しかし、飛ばされた先は世界最難関のダンジョンで しかも、いきなり下層で絶体絶命!? そんな危機を乗り越えて、とんでもなく強くなったラウトの前に現れたのは・・・ それから、出会った仲間たちと旅をするうちに、目的を忘れて異世界を満喫してしまう。 そんなラウトの冒険物語。 最後にどんでん返しがある予定!? どんな展開になるか予測しても面白いかも? 基本的にストレスフリーの主人公最強ものです。 話が進むにつれ、主人公の自重が消えていきます。 一章は人物設定や場面設定が多く含まれているのですが、8話に《8.ざっくり場面設定》という、2〜7話までのまとめみたいなものを用意しています。『本編さえ楽しめれば、それでいい』という方は、それを読んで、2〜7話は飛ばしてください。 『ストーリーも楽しみたい』という方は、2〜7話を読んで、8話を飛ばしてください。 ちなみに、作者のオススメは後者です!! 作品へのご意見は感想でお聞かせいただけると嬉しいです。 感想には責任を持って全てに返信させていただきますので、何かあればご遠慮なくお申し付けください。 ※不定期更新

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

スキルで全てが決まる世界!だけど世界最強

黒羽 零士(くろば れいじ)
ファンタジー
一人暮らししている24歳の男性が、ドアを開けると何故か!いつもと見慣れない世界、そしておじさん?みたいな人と話し…異世界で生きることに!?

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...