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第三章

第91話 貧困街にて

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 ツインズ共和国はその名のとおり、古くから共和制を取っている。

 政治は全体的には上手くいっており、多くの中流階級を生み出してはいるが、それでも完ぺきではない。
 様々な理由により貧困の民は少なからずいる。

 彼らは現体制をうらみ、成功した勝者の放つ光から逃れるように一か所に集まるようになった。
 俗にいう貧困街である。

 ろくに整備されていない住居が立ち並び、歩く人の身なりも貧しい。
 だが、その貧困街でも一か所だけ、まるで別世界のように華やかな建物が並んでいる通りがある。

 その建物の前には、露出の多いドレスを着た若い女性が立っている。
 その女性は通りを歩く羽振りのよさそうな男性に声を駆ける。
 所謂、風俗街である。

 その風俗街でもひと際大きな建物の裏には大きな教会があった。
 そこは貧困にあえぐ民には無償で食事を与え、教育支援などの慈善事業をしている。

 この国では異端である新興宗教であったが、活動内容の健全さと、政治家たちが問題を棚上げにしていた、貧困街の支援をしているためお目こぼしをされているのが現状だった。
 その教会内の大聖堂にて複数名の信者の姿があった。

「竜王様の側にこそ!」
 上座に座る幹部と思われる一人がそう言うと。他の信者たちは
「「「神はあり!」」」
 と答えた。

 幹部は信者たちを一通り見まわし、満足したのか席に座る。
 それに続いて年配の信者から順番に席に座りだした。

「さて、まず諸君らの働きには教主様も大変満足されている。私からも感謝の言葉を言わせてもらおう」

 幹部の男は、一つ空席になっている席を見ながら溜息をつく。

「……が、魔法都市ミスリルの支部がへまをやらかしたことには同時に心を痛めている様子だ、嘆かわしい」

「やはり、噂は本当だったのですか? もはや我らの計画が露見したと?」

「いや、そこまでは何とも言えない。分かっていることは彼奴め、会計をごまかしていたのが国の上層部に洩れて監査をうけたそうだ。私利私欲に走った愚か者の末路だ。皆も対岸の火事と思わずに警戒をせよ。
 では、今月の成果報告と情報共有を始めよう」

 このなかで唯一の女性の信者が挙手をする。 
「では、私から始めさせていただきます。
 娼館の経営ですがおおむね順調、先月よりも大きな収益を上げることが出来ました。ただ、女性の待遇を改善する法改正案が一部の貴族から議会に上げられたようです。
 いずれ中央から監査がくる恐れもあります。
 今後はこの貴族にアプローチしつつ、こちらに有利な法律案の制定に誘導していただけると助かりますわ」
 
「ならば、我ら『ドラゴンヘッド』にお任せいただきたい」
 別の信者が返事をする。

「あら、貴方たちは戦闘狂でしょ? 政治なんてできるのかしら。それにその貴族様だけどベルナドット公爵のご長男よ、とても強いと聞いたわ」
 ドラゴンヘッドと名乗ったその男は拳を握りながら言い返す。

「だからこそだ、その公爵の息子を痛い目に合わせれば貴族連中も我らの言う事を聞くのではないか?」

 女性の信者はやや溜息をつきながら返事をする。
「いいわ、でも私たちに火の粉は掛からないようにしてくれると助かるわ。では次の報告ですが。貧困少女の支援活動に関して、こちらは順調に洗脳を進めていますが魔法学院に不穏なうごきがあるようです……」

 魔法学院という単語を聞いて、もう一人のフードを深めに被った壮年の男性が反応を示した。
 幹部の男はそれに気づくとフードの男に向けて話す。

「魔法学院か、やつらは我らがもっとも警戒すべき相手だ。そういえばお前の遠縁の男が教師をしていたはずだが、最近行方を消したそうだな、バンデル」

 フードの男は感情を表さずに淡々と答えた。
「はい、まあ、私はとっくにバンデル家とは袂を分かっておりますが。奴は恐らく血の継承者だった者。もしも消されたとあらば何か良からぬ動きがあるかと、……司教、私はこれより別行動を取らせていただく」

「ふむ、まあいい、好きにせよ。さて魔法学院はバンデルに任せるとして、各支部にも行動を急がせるように、だが決して焦らず冷静に事をおこせ、さて次はタートルロックでの布教活動について――」
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