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第三章

第89話 歴史の授業(上)

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 いよいよ歴史も進み現代史である。
 
 もう勇者様の話は出ないだろうと思っていたがあまかった。

「さて、少し脱線してしまいますが今日は宗教について学びましょう。皆さんご存じのように、現在のわが国の宗教は勇者様を救世主として信仰しております」
「ぶふっ!」

 今笑ったやつ、おのれユーギめ。
 まあいいさ、俺も吹き出しそうになったからな。

「モガミさん、お静かに。授業中ですよ。こほん……。竜王様の側にこそ! ………………?」

 うん? スヴェンソン先生の雰囲気がおかしい、それに竜王様の側に? 何言ってんだろう。
 
 静まり返る教室。

「よろしいでしょう。本来なら我が国の国教についてお話したいところですが。
 少し事情が変わりまして、今日は別の宗教についてお話します。
 皆さんは『竜王教会』というのをご存じでしょうか? 
 少し社会問題になりつつありますので私の独断ですが、少し皆さんにも知ってもらおうと思いカリキュラムを変更させていただきました」

 まあ、これは俺にとっては朗報だ。
 俺を崇める宗教よりは、まだカルトについて学んだほうが有益だしな。

「噂くらいは聞いたことがあるかと思いますが、最近、密かに広まっている竜王教会という新興宗教団体があります。
 新興宗教自体は何も問題はありません。
 それで救われるなら良いことだと思います。
 しかし裏ではよくない噂が流れています。
 多額の寄付金をノルマとして集めているのだそうです。
 実際に捕らえられた教団の幹部も現れました。
 教団側としては一部の信徒が行き過ぎた布教をしたと釈明しておりますが。
 私はそうは思いません。信仰の自由は我が国では認められておりますが。
 どうも胡散臭いのです。彼らは行き過ぎたカルトのように思えるのです。
 あくまでこれは歴史家としての感ですが、皆さんは大丈夫だと思いますが、出来るだけ近寄らないようにしてくださいね」

 しかし竜王教会ね、チャイナマフィアかなんかか? どっかで聞いたことがあるけどなんだっけ。
(マスター、我が国、『魔法都市ミスリル』で活動していた竜王教会の支部で不正会計があったらしく、フリージアが主導となって捜査が入ったと聞きました。
 スヴェンソン先生の読みはあっています。最近になって資金集めが露骨になってぼろが出だしたという感じでしょうか)

 ふむ、そうか、あのエルフの秘書さんやるじゃないか。
 俺も少しは真面目に先生の話を聞くとしよう。

「さて、ではなぜ私が彼らをカルトだと指摘しているかですが。
 その教義に疑問があるからです。
 ちなみにこの場に信者の方はいませんでしたね。
 先程、私が言った、『竜王様の側にこそ』と言ったら、『神は有り』と答えるのが彼ら信者通しの合言葉です。覚えておいてくださいね」

 なんだそれは、合言葉とか露骨に怪しい。
 なるほどこれは黒だな。絶対にヤバい連中に違いない。

 スヴェンソン先生の話は続く。

「まず、竜王とはその名のとおりドラゴンの王です。
 力の象徴でもあり人類の天敵であったとされるのは神話学の授業で学びましたね。
 その神話をベースとして、彼らの主張では自然の守り神であったとされるドラゴンの王を抹殺した、人類の罪に対してのしょく罪が教義のベースとなっています。

 では、その罪はどうすれば償われるのか。
 伝承によっては解釈が別れますが、一般的には生贄です。
 ドラゴンは生娘を要求したとされます。それも解釈が別れており定かではありません。

 大体、人間とそもそも種族が違うドラゴンが人間の生娘を要求するでしょうか。
 私の解釈ではそれは完全に創作ですね。
 ではドラゴンは何を要求したのでしょうか。

 単純に示威行為であったのか、若い肉を好む美食のためか分かりませんが、
 人類としては守るべき幼い子供、しかも女性の生贄を差し出さなければならないのはさぞ屈辱であったでしょう。

 もっとも、現在ではドラゴンは存在しませんので確認のしようがありませんが。

 ということで、私としてはそのドラゴンを神と称える彼らの教義で人類は救われるのでしょうか。 
 彼らは現在は表立っては生贄を求めていませんが、その代わりとして命の対価である金品を求めています。

 いずれ彼らは、その一線を超えるかもしれません。なぜなら竜王がそれを望んでいるのですから。と彼らは考えているでしょう。
 私はそれが心配なのです。
 実際に彼らの経典には、生贄とは神聖で人が行う行為の中で最も尊い生き方であると書いてあります。

 一方で、この教団は弱い立場の女性の支援を名目に布教活動しているようですが。
 彼らは洗脳という古典的な手法で信徒を集めていると私は睨んでいます。
 皆さんは弱者ではありませんが、特に女性の皆さんは気を付けてくださいね。

 あら、アンネさんどうされました?」
「う、すいませんちょっと眩暈が……」

 アンネさんは、頭を押さえながら机に伏せてしまった。
「大変! だれかアンネさんを医務室に! あ、そうでしたわ、ドルフ君、あなたにお任せします」

 ドルフ君は、アンネさんを軽々お姫様だっこすると教室から出ていった。

「いいわねぇ。私が若いころは人前でお姫様だっこだなんて…………。こほん。では授業を再開します。
 竜王教会の信者、特に女性に対しては薬物を使って洗脳をしているとの報告もあります。
 たまたま薬物中毒者が信者であっただけとも取れますが。性善説で話しても何も良い事はありません。
 薬物は一生をダメにしてしまいますので、くれぐれも皆さんは気を付けてくださいね、皆さんの方からも疑問に思ったら何でも聞いてください」

 どこの世界もカルト宗教と薬物は関係するもんなのか。
 それにしてもアンネさんが心配だ。
 女性をターゲットにしているカルト宗教の話を聞いたからだろうか、少し心配になった。
 後で様子を見に行ってみるか。
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