上 下
65 / 109
第二章

第65話 氷結の魔女?

しおりを挟む
 歴史の授業にて。

「さて、ここまでの授業で、皆さんは氷結の魔女は、女系の世襲であることはすでに知っていますね」

 氷結の魔女とは個人のことではなく、代々、特殊な魔力を持ったものが特別にそう呼ばれる二つ名である。歴代の魔王軍幹部には必ず氷結の魔女が選ばれていた。

 スヴェンソン先生は氷結の魔女について特に詳しいようだ。歴史の教師になろうとした切っ掛けでもあるそうで、どうりで授業にも熱がこもるわけだ。

「しかし、王族の女子の全てが氷結の魔女と呼ばれたわけではないのです。知ってのとおり、エルフは水と風の魔法を得意としており。
 氷の魔法は、彼女の一族でもまれに発現する特別な力だったといわれています」

 そういえば、俺は勇者として魔王と戦ったときにエルフの魔法使いがいた。今になって思いだした。忘れてたわけではないが。

 ……いや忘れようとしていた。それまでは魔物としか戦ったことがなかったが。

 エルフという人間に近い種族を初めて殺してしまった。それ以来、俺は殺しを忌避するようになった。

 この世界ではそれは偽善でしかないが。それでも受け入れてしまったら俺が俺でなくなってしまいそうでいやだった。

「最後の氷結の魔女はフリージアという名で、一族を全て氷漬けにしてしまったと言われています。
 記述によると、彼女は普段は温厚な性格であって、争いを好まないエルフらしい性格であったとされます。
 幼少期は一度も氷の魔法を使用したことがなく、記述によると何かの切っ掛けで魔法が発現したそうですね。

 なぜ親族や婚約者を殺してしまったのか、いろんな説があります。成長により氷結の魔女として覚醒した説、しかしそれでは性格の変化に説明が付きません。

 憶測ですが彼女は実は二重人格であったのではと私は思います。

 これは私の所感ですが、婚約者がクズであった可能性がありますね、人間で伯爵家とはいえ、エルフの王族の嫁ぎ先としては不釣り合いです。
 それに母親との関係が良好ではなかった節があります。虐待があったかもしれませんね」


 ロボさんや、少年の第一夫人であるエルフさんの名前で間違いないかね?

(はい、一度だけ名乗ったことがありますがフリージアで間違いないですね。しかし基本的には彼女は自分の名を嫌っており、私たちはエルフさんと呼んでいました。
 驚いたのはスヴェンソン先生の言っていることは大体正解です。彼女は虐待を受けていたのは間違いありませんし、婚約者もクズそのものでした。出会った頃はうつ状態だったのを覚えています)

 なるほどね、スヴェンソン先生はかなり優秀な研究家のようだ。勇者伝説の時は嘘ばっかだから見くびっていたがまともな資料がある歴史についての考察は本物だ。

「さて、本日は特別授業です、氷魔法がどれだけ難しいかを次の魔法学の授業でベルナドット先生との共同で実践しながら学んでいきましょう」

 おや、今日は気合が入っているようだ。クラスの皆も氷の魔法ということでいろいろ盛り上がっている。


「うふふふ、皆には黙ってたけど僕は実は氷結の魔女なのだ! キリッ」

 ユーギは目に見えて嘘をついている。お前は確かにスレンダーな見た目で整った顔立ちなのは認めるがエルフではない。耳がとがってないじゃないか。

 だがあいつはランドタートル戦で氷の魔法を使っている。少しは実力を隠した方がいいと思うんだが。まあ、神の力を悪用しないなら特に問題はないのだが。

「では諸君、スヴェンソン先生の言うとおり氷の魔法というのは風と水の応用であるというのは皆知っているな」

 お、アンドレ義兄さんが教壇に立つと魔法を使って水を氷に変えている。これは風の魔法で気圧を操作して冷却させる方法だ。つまり魔力で直接氷を作り出したわけではない。

 氷属性の魔力が使える魔法使いはよほど希少な存在ということなのだ。ちなみに勇者の魔法だとそれくらいは簡単にできる。チートだからな。

 クラスの皆はアンドレ先生から氷の魔法の説明を受けると各々実践してみる。さすがはAクラスといったところで、大小の違いはあるが魔法の発動自体は成功している。

 俺も、そこそこの大きさの氷を作りながらユーギを見た。やつは誰もいない空間に向かって立つと、謎のポーズを取る。

「えっと、なんだっけ、まあいいや、エターナルブリザード!」

 おい、呪文詠唱はどうした。しかし問題なく魔法は発動した。何もなかった空間に大きな氷の塊が出現した。それもそうだ、そもそもこいつは無詠唱魔法が使えるのだ。

「なんということでしょう、ユーギさんは氷の魔法が使えるだなんて、素晴らしいわ、ぜひ、このまま学院に残ることをお勧めします。推薦状ならいくらでも書きます、ね、ベルナドット先生」

「うむ、君なら最年少で教授になれるだろう、私も推薦人に立候補しよう」

 もちろん、ランドタートルに使用した時よりも威力はだいぶ落としてあった。意外と空気は読めるようだ。それでも二人の先生の驚きようは凄かった。

「ふむ、教師になるのも悪くないかもね、前向きに検討をさせていただきましょう。ハンス君もいいかな?」

 なるほど、ユーギは教師になるつもりがあるようだ。それにしてもハンス君とユーギの距離が近い。ハンス君はいきなり声を掛けられたのか照れながら答えていた。

 この間の勇者様感謝祭で何かあったようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処理中です...