上 下
74 / 92
第五章 迷宮都市タラス

第74話 二年後

しおりを挟む
 二年が経った。

 迷宮都市タラス。
 ここは魔獣の住処であり、国よりも大きな領域を持つバシュミル大森林と接触する重要拠点。

 街自体が要塞と化しているここは、カルルク帝国で最も多くの冒険者が活動している。
 今回の俺達の仕事は、タラスの北側の城壁を出てすぐのバシュミル大森林の入り口にある平原に現れた数匹の魔物の集団の討伐任務だ。

 先任の冒険者がついこの間、討伐したはずなのにすぐに依頼書が張られていた。
 やはりバシュミル大森林の魔物はこの街では常に現れるのだろう。

「敵はマンイーターの集団だ! シャルロット、いつも通りいくぞ!」

「オーケー、うしろは任せてちょうだい」

 マンイーター。
 ハムスターに似ているが魔獣である。
 外見こそ可愛い魔獣であるが、鋭い牙と爪を持ち、大きさが大人の人間よりやや大きいため、それなりに脅威の魔物である。

「ヘイスト!」
 俺は魔法を唱えると、身体が軽くなるのを感じた。
 ヘイストは俺が使える魔法の中でもっとも高位の魔法だ。身体能力の向上により接近戦の補助に向く中級魔法。

 そういえばセバスティアーナさんは俺のヘイストに関して以前こう言っていた。
「カイル様のヘイストは独自の魔法と言えるまで進化しました。やはり身体能力の向上がオーガの血と相性がいいのでしょうね」
 なるほど、シャルロットも俺のヘイストはどこかおかしいと言っていた。これが俺の力なのか、ご先祖様に感謝しかない。

 俺は九番の魔剣『ノダチ』を鞘から抜き、切っ先を水平に構えると敵の集団に突っ込む。

 モガミ流忍術・表。壱の太刀『牙』。この技はヘイストと相性が抜群に良い。

 一瞬で距離を縮めると、奴らの中で一番大きな個体、おそらくマンイーターのリーダーだろう。
 やつの分厚い胸筋と肋骨ごと心臓を貫く。

「まずは一匹」

 ノダチを引き抜くと、敵は声を上げることなくその場に倒れた。

 敵はリーダー格である個体を失ったのか後は無秩序に暴れるのみだった。

 マンイーターはそれなりに知能があるため、集団戦闘をする。
 そのため数が揃うと討伐の難易度は比例して上がる。
 だがリーダーを倒せばずっと簡単になる。

 後は個別に撃破するのみだ、ヘイストの効果が残っているあいだにもう一匹しとめたい。

 一瞬の出来事にうろたえていたもう一匹が、状況を理解すると、こちらに襲い掛かってくる。
 俺はそいつに対して正面に剣を構える。
 そして奴を袈裟切りにする。

 手ごたえはあるが、浅い! 分厚い毛皮のせいで刃が滑ってしまったのだろう。
 マンイーターの毛皮は防具として、防寒、防刃に優れた特性があり冒険者たちに重宝される。

 なるほどな。今ので致命傷にはならなかったか。

 マンイーターは両手を広げて、攻撃の構えを取る。

 だが、後衛の魔法使いであるシャルロットがとどめを刺す。

 氷の中級魔法、アイスジャベリン。奴の背中から心臓を貫き、胸から氷の槍の先端が覗いていた。

 俺達は前衛と後衛の役割をこなしつつ一匹一匹、順番に仕留めていく。
 課題であった連携も様になってきた。

 マンイーターは瞬発力があるため、魔法使いにとっては案外苦戦しやすい魔物である。

 前衛によるサポートがなければ思わぬ反撃に殺されるという事故は数年に一回はあるほどだ。

 よし、これで最後の一匹。

 ヘイストが切れてしまっているが、もう俺達の勝ちだ。
 俺は大振りのノダチの横なぎを最後の一匹にむかって放つ。

 奴は俺のノダチの横なぎを勢いよくジャンプしてかわすが。
「残念でした、『ヘルファイア』!」

 後に控えていたシャルロットが待ってましたとばかりに魔法を撃つ。
 その瞬間、燃え盛るマンイーターは地面に落ちると、悶えながら消し炭となった。

「やったな!」
「そうねやったわ!」

 最後の一匹を仕留めると、俺達はハイタッチをする。
 周りを見回すと、首をはねられたもの、焼け焦げたもの、体中に切り傷を付けて焼かれたもの、心臓を貫かれて絶命したもの様々な死体が転がっている。

「全部で5匹か、ここのところマンイーターばかりを狩ってるな」

 最近はずっと、バシュミル大森林の手前にある平原で、森から溢れてきたマンイーターの討伐任務をしている。

 やつらは個体数が増えるとこうして人里にやってくることがあるのだ。
 生存競争にやぶれて逃げ延びた魔物は行き先を求めて人里にやってくる。

 それにしても最近はマンイーターしか見ない。まるでマンイーターの森にでもなってしまったかのようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸
ファンタジー
勇者見習い職とされる“冒険者”をしていたハルトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。 そして同じくパーティーを追放されたマナツ、モミジ、ユキオの3人とパーティーを組む。 しかし、4人の職業は全員“魔剣士”であった。 前衛も後衛も中途半端で決して良い待遇を受けない魔剣士だけのパーティー。 皆からは笑われ、バカにされるが、いざ魔物と闘ってみるとパーティーボーナスによって前衛も後衛も規格外の強さになってしまい―― 偏った魔剣士パで成り上がりを目指す冒険ファンタジー! ※カクヨム様・なろう様でも投稿させていただいています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

処理中です...