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第四章 カルルク帝国

第53話 魔法機械技師ルカ①

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 カルルク帝国最北端、迷宮都市タラスにて。

 ルカ・レスレクシオンは珍しく家の外にでていた。
 普段はずっと引きこもっているが、たまには日の光を浴びるために外に出る。

 ポストにはたくさんの手紙が入っていた。

 ルカは溜息を付きながら手紙の選別を始める。ほとんどは彼女にとって興味のない内容の手紙ばかりだ。
 その中で、見覚えのある筆跡の手紙を取り出すと、すぐに封を破り読む。

「セバスちゃんは無事にベラサグンに着いたか」

 ふむ、二人は無事、だが二十番が壊れたということか。
 戻ったら修理をせねばならんな。

 しかし、ラングレンにレーヴァテインか、懐かしい名前を思い出したわい。
 あの頃はセバスちゃんも可愛い少女であったな。もちろん今も可愛いがな。

「ふう……つらい記憶は忘れるのに限るが、思い出してしまったわい」

 ……あれは18年前だったか。
 吾輩たちはエフタル王の命令で魔獣ベヒモスの討伐のためにバシュミル大森林の奥深くに遠征したのだ。

 ◆

 18年前。
 エフタル王国、最北端、バシュミル大森林の入り口にて。

「レスレクシオン卿、この度の遠征には我ら冒険者パーティーの『ラングレン』がお供させていただきます」

「おお、君らが噂のラングレン夫妻か。見た感じで既に鍛えられた肉体美だ。頼もしいのう、では自己紹介させてもらおう。
 吾輩がルカ・レスレクシオン。辺境伯で発明家。あとは金の亡者とも呼ばれておる。気軽にルカと呼んでおくれ。
 で、こっちが美少女メイドのセバスティアーナ。通称セバスちゃんだ。君らへは何度か手紙で伝えておっただろう」

 ラングレン夫妻はお互いを見合う、そして納得したように言った。

「ああ、あなたがセバスチャンさんだったのですね……てっきり執事の方が迎えに来られるのかと思っていたんですよ」

 ラングレン夫妻は笑った。
 吾輩は手紙に敬称を使っていたのだったか、それで誤解したのだろう。
 セバスちゃん、がセバスチャンに。ふふ、面白い誤解だ。 

「ルカ様。まさか手紙に私の事をセバスちゃんと書いていたのですか?、なるほど、道理でお迎えに上がったときに話に食い違いがあるはずです」

「はっはっは。面白いからよかろうなのだ」

 むくれるセバスちゃんは相変わらず可愛いのう。

「これは失礼しました。ではあらためて。私がドイル・ラングレンでこちらが妻のカレンです。
 道中はルカ様の護衛として誠心誠意努めてさせていただきます」

「うむ、たのむぞい」

 こうして吾輩たちは魔獣ベヒモス討伐の遠征隊に随行したのだった。

 しかし、今回の討伐隊はかなり大規模だった。
 貴族とその子弟を含めて数十名、それに随行する形で平民の冒険者や貴族らの従者を含めておおよそ千人くらいの大所帯だ。

 あの醜い王をはじめ王城の貴族共は随分と強欲になったものだ。

 まあ先代がまともだったかといえば疑問だが、それでも今回の遠征は身の丈を超えておる。
 よほど歴史に名を残したいのだろう。あの王は実績が何一つないからな。
 まあそんなことはどうでもよい。

 お、そろそろ出発か。
 討伐隊の前方から威勢よく出発の号令があがった。

「さてと、セバスちゃん。吾輩たちも出発しよう。後方とはいえ遅れると色々とうるさいからの」

「了解いたしました。ところでルカ様、先程から気になっていたのですが、そのへんてこな眼鏡はなんでしょうか?」

「うむ、実はな、極秘で開発させられておった透視眼鏡の試作品のテストをしておっての。
 どれどれ、セバスちゃんのスカートの中に刃物が8本、そして今日は黒をはいておるのか、大人びておるの。まだセバスちゃんには早いと思うぞ?」

 透視眼鏡。
 これは衣服をすかして、隠し持っている武器を発見するために貴族達に依頼された魔法道具だ。

 最近、貴族の暗殺事件が増えたため急遽依頼されたのだが……暗殺を気にするなら、されないように努力しろと言いたい。
 だがまあ面白いので造ってみることにしたのだが、これは別の目的で大ヒットしそうだわい。

「どうだセバスちゃん、我ながら天才じゃろ? そしてだ、魔力深度を上げるともっと透けて、中身がみえて……っと、おい! 何をするか!」

「それは私のセリフです。覗きは犯罪ですよ? これはしばらく私が預かっておきます」

 ち、取られてしまった。まあよい、テストはばっちりだ。
 製品化したときは深度調整にリミッターを掛ける必要があるがな。

 道中はラングレン夫妻の冒険譚を色々聞いた。
 実に気持ちのいい連中だ、道中退屈だと思ったが、彼らとは楽しい旅を経験できた。

 彼らは昨年、子供が生まれたようで、しばらくは仕事をやすんでおったそうだ。今回が復帰後の最初の仕事ということらしい。
 冒険者というのは大変だ、子供の側にいたいだろうに、しかし、貴族である吾輩がとやかく言ったところで彼らには何の役もない。

 それに彼らは生き生きとしている、うむ、他人の人生を知ったかで同情も批判もしてはならぬのだ。
 まあ吾輩の持論だがな。
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