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第三章 港町
第38話 冒険者②
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二日目は暇だった。
グリムハウンドは群れの三分の一を失ったせいか、再び襲撃してくることはなかった。
魔法の威力は凄まじい。やはり魔法使いとは特別な存在なのだろう。
まあ、それで増長してしまった結果がかつてのエフタル王国なのだが。
おっと、暇だからといってボケっとしてるわけにはいかない。時間は有効につかわないとな。
こういう時こそ勉強だ。俺は本を開く『美しき戯曲魔法』途中まで読んでずっとそのままだった。
もちろん、流し見程度にして、魔物の警戒は怠らないようにする。
シャルロットは素振りをしている。体力づくりは欠かせないらしい。
シャルロットには体力が足りない。俺には教養がたりない。ある意味いいコンビなのかもな。
「なあ、シャルロット。あんまし根を詰めてやるなよ? 一応仕事の最中なんだから」
「わかってる。大丈夫。その辺はわきまえてるわよ」
「ならいいんだが。そういえばシャルロットは戯曲魔法は使えるのかい?」
「戯曲魔法、その言い方、気持ち悪いからやめてよ。頭のおかしい妄想作家の造語よ。いいこと? 極大魔法よ。正確には属性によって呼び方が変る。例えば 最終戦争の第一章、第一幕は極大火炎魔法。
第二幕は極大雷撃魔法。そして王都で見た黒い騎士『亡者の処刑人』は極大死霊魔法ってね」
凄い、本に書いてある通りだ。さすがシャルロット。でもこの本の作者がそんなに嫌いか?
戯曲魔法ってセンスがいいと思うんだけど。
この人の書いた本は、図書館にはたくさんあった。著名な作家なんだろう。
そんな彼のどこが問題なのだ。
俺は本の最初のページに書いてあるの著者の名前を見る。――魔法史研究家。芸術家。作家。フリードリヒ・レーヴァテイン――
……レーヴァテイン、ああ、なるほど。肉親だったのか。聞いていいのか分からないけど、年代的に彼女の父上なのだろう。
あ、そうか、あの落書はシャルロットの仕業だったか。
納得した。そして俺は本を閉じた。いつか彼女の口から話してくれるまで俺は何も聞くまい。
「ちょっと、なに勝手に納得してる風なのよ。
ちなみに私は極大魔法は使えないわ。正確には今のところはだけどね。
こればかりは魔力がなじむというか、深淵の何かに届くまでゆっくりと魔力の糸を手繰らせるというか。とにかく時間が掛かるのよ。
でも安心なさい。あと数年で使えるようになるから。そうなったら私があんたを守ってあげるわ」
またドヤ顔になるシャルロット。うれしいのだが、男心を少しはわかってほしい。
――視線を感じる。
「……シャルロット、何か来る。強力な魔力を帯びた何かが近づいてきている」
「ええ、気づいてるわ、とんでもない魔力。ちょっとヤバいかも。本気でやるわよ」
近づく魔力の塊。どんな化け物だ。
ここはバシュミル大森林でもない。
くそ、ちょうど砂ぼこりで、地平線の先がよく見えない。だが何かの影は見える。
それが真っすぐこちらに近づいてくる。人型のようだ。
「シャルロット、人型の魔物に心当たりはあるか?」
「無いわよ。ゴーレムかしら。でもあれは魔物ではなく錬金術によって生み出される人工物だし」
「猿かもしれない。いただろう、猿の魔獣の。なんだっけ。そう、『ユウギ』だっけ」
「馬鹿、それは神獣よ。伝説通りならベアトリクスさんと同等の存在だし、有り得ない。もしそうなら襲われたら終わりね。……でもその魔剣ならワンチャンあるかも。ま、失敗したら仲良くあの世生きだけど……」
砂ぼこりに映る人影に集中する。もしベアトリクスと同等の魔物だったら勝てるのか?
……落ち着け。俺はシャルロットを守る、それだけを考えろ。
次の瞬間。砂ぼこりに映る人影は消えた。首筋に生暖かい風が。
そして耳もとで女性の声が聞こえた。シャルロットの声ではない。
しまった。後を取られた。
「少年よ、ここはどこだ? 私はお腹が空いた。魔獣の肉は不味い。私は我慢してきた。おいしい肉をくわせてほしい。お前たちの……美味しい肉を食わせろ」
ひっ! 俺は飛びのく。この魔物から距離を取らないと。
「おや、いい反応。だが少年にお嬢ちゃん。少し喋りすぎだ。
さっきからずっと聞いていたが、私がこんなにひもじい思いをしてるのにお前達ときたら、仕事そっちのけでイチャイチャとお喋りに興じるとはイラっと来ますね」
「だ、だれだお前!」
俺は魔剣を構える。ただものではない。
目の前の人型は黒髪の長髪、肌の色は薄橙、年齢は20代後半から30代前半の女性に見える。メイド服を着ている。
ありえない。
旅人がそんな格好をするわけない。それにこの魔力、やばい、こいつは相当に強い。
「おお、それは二十番の魔剣。ずっと探していた。ふふふ、私は運がいい。ご主人様の命令をこんなに早く達成することができるとは、まさに僥倖」
こいつ、魔剣を知ってる。やはりドラゴン関係者か。くそっ、だとすると本当にヤバい。
「ねぇ、カイル、ちょっと落ち着いたら? この人、私達に会いに来たんじゃない?」
え?
俺の後にいたシャルロットが話しかけてきた。
「はい、勝手にお兄さんが勘違いしたので悪乗りしました。私は神獣でなければドラゴン関係者でもありません。
お初にお目にかかります。私、ルカ・レスレクシオンのメイドのセバスティアーナと申します。
ちなみにこの魔力は魔法結界の効果です。結界の外にいる人にとってはそう感じるのですよ。
怖くて近づけなかったでしょ? ルカ様の発明品の一つです。ちなみに性能は劣りますがそこのキッチンカーにも備わっています。旅の役に立ったはずですよ?
……ですが、ふふ、必死に彼女を守ろうとする貴方の姿は素敵でしたね。合格です、私的に百点満点です」
おれは一気に脱力した。シャルロットは途中で気付いていたようだ。俺はまだまだだな。
「さっそくで恐縮ですが、なにか食べ物を分けてほしいのですが……。いや、もうそろそろ日が暮れますね。少し我慢しましょう。
できれば温かいものをいただきたいと思います。私、歩き詰めで碌なものを食べていないのです」
こうして、護衛任務の二日目も無事に終わった。
グリムハウンドは群れの三分の一を失ったせいか、再び襲撃してくることはなかった。
魔法の威力は凄まじい。やはり魔法使いとは特別な存在なのだろう。
まあ、それで増長してしまった結果がかつてのエフタル王国なのだが。
おっと、暇だからといってボケっとしてるわけにはいかない。時間は有効につかわないとな。
こういう時こそ勉強だ。俺は本を開く『美しき戯曲魔法』途中まで読んでずっとそのままだった。
もちろん、流し見程度にして、魔物の警戒は怠らないようにする。
シャルロットは素振りをしている。体力づくりは欠かせないらしい。
シャルロットには体力が足りない。俺には教養がたりない。ある意味いいコンビなのかもな。
「なあ、シャルロット。あんまし根を詰めてやるなよ? 一応仕事の最中なんだから」
「わかってる。大丈夫。その辺はわきまえてるわよ」
「ならいいんだが。そういえばシャルロットは戯曲魔法は使えるのかい?」
「戯曲魔法、その言い方、気持ち悪いからやめてよ。頭のおかしい妄想作家の造語よ。いいこと? 極大魔法よ。正確には属性によって呼び方が変る。例えば 最終戦争の第一章、第一幕は極大火炎魔法。
第二幕は極大雷撃魔法。そして王都で見た黒い騎士『亡者の処刑人』は極大死霊魔法ってね」
凄い、本に書いてある通りだ。さすがシャルロット。でもこの本の作者がそんなに嫌いか?
戯曲魔法ってセンスがいいと思うんだけど。
この人の書いた本は、図書館にはたくさんあった。著名な作家なんだろう。
そんな彼のどこが問題なのだ。
俺は本の最初のページに書いてあるの著者の名前を見る。――魔法史研究家。芸術家。作家。フリードリヒ・レーヴァテイン――
……レーヴァテイン、ああ、なるほど。肉親だったのか。聞いていいのか分からないけど、年代的に彼女の父上なのだろう。
あ、そうか、あの落書はシャルロットの仕業だったか。
納得した。そして俺は本を閉じた。いつか彼女の口から話してくれるまで俺は何も聞くまい。
「ちょっと、なに勝手に納得してる風なのよ。
ちなみに私は極大魔法は使えないわ。正確には今のところはだけどね。
こればかりは魔力がなじむというか、深淵の何かに届くまでゆっくりと魔力の糸を手繰らせるというか。とにかく時間が掛かるのよ。
でも安心なさい。あと数年で使えるようになるから。そうなったら私があんたを守ってあげるわ」
またドヤ顔になるシャルロット。うれしいのだが、男心を少しはわかってほしい。
――視線を感じる。
「……シャルロット、何か来る。強力な魔力を帯びた何かが近づいてきている」
「ええ、気づいてるわ、とんでもない魔力。ちょっとヤバいかも。本気でやるわよ」
近づく魔力の塊。どんな化け物だ。
ここはバシュミル大森林でもない。
くそ、ちょうど砂ぼこりで、地平線の先がよく見えない。だが何かの影は見える。
それが真っすぐこちらに近づいてくる。人型のようだ。
「シャルロット、人型の魔物に心当たりはあるか?」
「無いわよ。ゴーレムかしら。でもあれは魔物ではなく錬金術によって生み出される人工物だし」
「猿かもしれない。いただろう、猿の魔獣の。なんだっけ。そう、『ユウギ』だっけ」
「馬鹿、それは神獣よ。伝説通りならベアトリクスさんと同等の存在だし、有り得ない。もしそうなら襲われたら終わりね。……でもその魔剣ならワンチャンあるかも。ま、失敗したら仲良くあの世生きだけど……」
砂ぼこりに映る人影に集中する。もしベアトリクスと同等の魔物だったら勝てるのか?
……落ち着け。俺はシャルロットを守る、それだけを考えろ。
次の瞬間。砂ぼこりに映る人影は消えた。首筋に生暖かい風が。
そして耳もとで女性の声が聞こえた。シャルロットの声ではない。
しまった。後を取られた。
「少年よ、ここはどこだ? 私はお腹が空いた。魔獣の肉は不味い。私は我慢してきた。おいしい肉をくわせてほしい。お前たちの……美味しい肉を食わせろ」
ひっ! 俺は飛びのく。この魔物から距離を取らないと。
「おや、いい反応。だが少年にお嬢ちゃん。少し喋りすぎだ。
さっきからずっと聞いていたが、私がこんなにひもじい思いをしてるのにお前達ときたら、仕事そっちのけでイチャイチャとお喋りに興じるとはイラっと来ますね」
「だ、だれだお前!」
俺は魔剣を構える。ただものではない。
目の前の人型は黒髪の長髪、肌の色は薄橙、年齢は20代後半から30代前半の女性に見える。メイド服を着ている。
ありえない。
旅人がそんな格好をするわけない。それにこの魔力、やばい、こいつは相当に強い。
「おお、それは二十番の魔剣。ずっと探していた。ふふふ、私は運がいい。ご主人様の命令をこんなに早く達成することができるとは、まさに僥倖」
こいつ、魔剣を知ってる。やはりドラゴン関係者か。くそっ、だとすると本当にヤバい。
「ねぇ、カイル、ちょっと落ち着いたら? この人、私達に会いに来たんじゃない?」
え?
俺の後にいたシャルロットが話しかけてきた。
「はい、勝手にお兄さんが勘違いしたので悪乗りしました。私は神獣でなければドラゴン関係者でもありません。
お初にお目にかかります。私、ルカ・レスレクシオンのメイドのセバスティアーナと申します。
ちなみにこの魔力は魔法結界の効果です。結界の外にいる人にとってはそう感じるのですよ。
怖くて近づけなかったでしょ? ルカ様の発明品の一つです。ちなみに性能は劣りますがそこのキッチンカーにも備わっています。旅の役に立ったはずですよ?
……ですが、ふふ、必死に彼女を守ろうとする貴方の姿は素敵でしたね。合格です、私的に百点満点です」
おれは一気に脱力した。シャルロットは途中で気付いていたようだ。俺はまだまだだな。
「さっそくで恐縮ですが、なにか食べ物を分けてほしいのですが……。いや、もうそろそろ日が暮れますね。少し我慢しましょう。
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