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第二章 逃避行

第14話 戯曲魔法

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 俺達は順調に街道を進んだ。
 目的地は独立都市である港町グプタだがとりあえず中継地点を目指す。

 エフタル王国の商業都市フェルガナだ。
 ここで長期の旅に備えて準備をしないといけない。

 数時間経つと街道の景色が変わる。
 いよいよ南方の森林地帯の入り口に来た。
 バシュミル大森林に比べて比較的安全ではあるが、魔獣だって少なからずいる。

 俺達は森の入り口で休憩を取ることにした。
 こういう時キッチンカーは便利だ。

 簡単な昼食ならすぐにできるのだ。
 おかげで温かいものが食べられる。

 今朝もらった干し肉に火を通し、硬いパンは蒸して柔らかくすることが出来た。 

 それにキッチンカーの収納スペースには調味料だけでなく。コーヒー豆や紅茶の葉が常備されていた。
 これには俺もシャルロットも頬が緩んだ。

 充実した昼食のおかげでさっきまでの緊張感から少しだけ解放された気がした。

 今のところエフタル開放戦線の縄張りとは距離がある。

 さっきの盗賊が地図に書き足してくれたルートを確認すると、ここから脇道に入って森を抜けるようだ。

 地図を確認していると。さっきまで振るえていたシャルロットだが、落ち着きを取り戻したのか俺に話しかけてきた。
「カイル、私、あいつの正体に心当たりがあるの……」

「え? 知り合いだったの?」

「いいえ、あの黒い騎士よ、あれは、召喚魔法。極大魔法の中でも最も長い効果時間をもつ『亡者の処刑人』だわ」

 極大魔法ね、そういえば俺は極大魔法に関しての本を借りていたのだ。

 図書館は全て燃えてしまった。この本が最後の一冊ってことか。
 本は高価だから、平民が住む地域には書店は少ない。専門書となればなおさらだ。

 俺はカバンから一冊の本を取り出す。
『美しき戯曲魔法 ――極大魔法の真実に迫る』表紙にはそう書かれていた。

「極大魔法って戯曲魔法って呼ばれてるんだっけ? 戯曲のように章と幕に別れていて、それぞれに特徴があるって」
 俺はページをめくりながら『亡者の処刑人』の項目をさがす。

「へえ、勉強熱心じゃない。って、なんだその本か。私はその本は嫌いだわ。
 本質から離れて演劇での例え話が多くって、読んでるこっちが恥ずかしくなる、作者の妄想本よ。

 ちなみに、さっきの黒い騎士はおそらくは、極大死霊魔法、最終戦争、第二章、第三幕『亡者の処刑人』ってところかしら。
 あの盗賊が処刑人っていってたから間違いないわね。

 ちなみにその本によると。
 第二章のシナリオは最終戦争によって世界中が焼き尽くされ、荒廃した世界は冬の時代になった。
 世界を焼いた炎によって煙は天高く昇り、すべての空は煙に覆いつくされ太陽は消えてしまった。

 大地は凍り、作物は取れずに飢餓に襲われた。
 生き残った人類は少ない食料をめぐってお互いに争うようになった。

 秩序を保つために権力者は法を犯した者を次々と殺していった。
 それでも生き残るために犯罪を犯すものは絶えなかった。

 生き残るために犯罪を犯した者は悪人なのか、正義とは何なのか、処刑人は悩んだ。
 ある日、自分の両親が犯罪を犯した。処刑人は考えるのをやめた、私は亡者なのだと……。

 ね? おかしいでしょ? この魔法を創り出した最初の賢者はそんな事考えて作ってなんかないはずよ。
『亡者の処刑人』はただの死霊魔法。
 高位アンデッドを召喚して、術者の命令通りに対象を殺すだけで、別にそんなエピソードなんてないのよ。

 どうせ書くなら、一番大事なことを書かないと。『亡者の処刑人』は中級魔法以下の全魔法を無効化できるってね。
 つまり私たち魔法使いの天敵ってこと。

 正義とか悪とか全部後付け。くだらないわね。この作者、頭が沸いてるわよ」

 ……嫌いなくせに、しっかり内容を憶えてるとは、やるな。

 だが俺は思った。これが教養というやつか。
 なるほど、これなら話に事欠かない。初対面が多い社交界で一目置くのに便利なのだろう。
 今にしてみれば無駄な知識ではあるが……。

 それでも、少なくともシャルロットとは初めてまともに会話したんじゃないかな。
 教養も悪くない。俺も暇な時に少しずつ読んでみるか。
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