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第一章 プロローグ

第6話 シャルロット・レーヴァテイン①

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 数時間前に遡る。

 魔法学院の学院長室には夕日が差し込んでいた。 
 魔法学院は校舎の隣に巨大な搭が建っておりそこが職員の宿舎になっている。
 学院長の部屋はその最上階にあった。

「よいかね、シャルロット。君はレーヴァテイン伯爵の、私の恩師の大事な孫娘でもあるからこそ、こうして厳しいことを言っているのだ。
 気が焦っているのは分かるが、もう少し自分の立場を考えてもらわなければ」

「はい、学院長、すいません」

「ふむ、そう、この前もそう言ってたね。でもこれ以上は庇い切れなくなる。それにこのままでは我が孫との縁談も破棄せざるをえない。そうなれば伯爵家の復興はなくなるぞ? わかるね」

「はい、今後は、このようなことが無いようにいたします」

「ふぅ、信じてるぞ、次はない、いいね?」

 学院長室から外に出るとシャルロットは溜息を着いた。

 まったく、私は何をやってるんだろう。嫌になる。

 搭から降りると周りは既に日が暮れていた。

 学院長の説教は長い。二時間以上? 長いのよ本当に。
 ……まあ原因は私にあるのだからしょうがない。それに将来の義理の祖父になる人だ。

 日が落ちたとはいえ、今日は満月で、月明かりが差しており通路は明かりなしでも歩ける。

 月明かりを頼りに学院内を歩いていたら、急に暗くなった。
 遠くに見える王城に満月が隠れてしまったのだ。
 せっかくの綺麗な満月が王城のライトアップで台無しだ。

 王城は今日も舞踏会か、あれにはうんざりする。
 夜遅くまで踊って飲んで、それが終わると昼まで眠るのだという。
 堕落の象徴。

 そうだ、私の願いは伯爵家の復興だけではない。
 この醜い貴族社会に改革をもたらすのだ。
 それまでは私の悩みなんかどうでもいいことよ。今は我慢するだけだ。

 そう、全てちっぽけなことだ。
 堂々としよう、伯爵家が復興したらおじい様だってきっとよろこぶはず。
 私を見捨てて死んだ両親に変って私がレーヴァテイン家を復興させるのよ。

 そのためには過去に捕らわれてはだめよ。

 これからの事を、そうね。私は魔法使いよ。魔法使いとして頂点に立てばいいのよ。

 誰にも負けない最強の魔法使いになれば。

 ……そういえば、今日はカイルに負けそうになった。
 彼は平民だというのに強い。このままではいずれ負けてしまうだろう。

 私は学院の庭園にあるベンチに腰かけ。今日の戦いを振り返ってみた。

 彼が使える魔法で脅威なのはヘイストだけだ。
 だが一つしか魔法が使えないから弱いというわけでもない。
 
 用は使い方だ。それに彼は体が頑丈で力も私よりも遥かに高い。
 一撃でも喰らえば私の負けだ。
 そう、今日は危うく攻撃が届きそうになった。

 魔法使いの弱点は接近戦にある。
 分かっているけど、魔法学院では接近戦は学べない、それどころか馬鹿にしている風潮がある。

 貴族は堂々と魔法で戦うべし。私もそれには同意だ。
 ……でもそれをしてたらいつかカイルに負ける。
 ならば詠唱を速くして。それこそ無詠唱で使えるようにならなければ。

 でも無詠唱では魔力の消費は激しい。

 それに問題はカイルのヘイストだ。
 私だってヘイストは使える。
 けど、彼が最初からヘイストで身体強化した上で本気で接近戦をしてきたら無詠唱でも間に合わないだろう。

 ふふ、そうね、なら私も体を鍛えなきゃ、そうすれば相対的な差は縮まるだろう。

 簡単なことだ、明日から早朝トレーニングでもはじめようかしら。

 いいえ、思い立ったら今すぐやるべきだわ。

 接近戦には武器が必要。

 剣はここにはない、私はマジックワンドを取り出し剣に見立てて素振りをする。

 これでは子供の遊びだわね。いずれ剣を見つけないと、魔剣ならベストだ。

 しかし、貴族は剣を極端に嫌う。魔法使いに相応しくないとの価値観がある。
 でもそんな価値観、私には関係ない。
 むしろ私が一歩上にたつには好都合だ。

 素振りを繰り返しながら、無詠唱魔法を数回試したところで私は体力魔力共に限界がきた。

 休憩しないと。
 幸いここは寝心地がいい、久しぶりに庭園に寝そべるのは気持ちがよかった。

 数時間経った、私は仰向けのまま月を見ていた。

 いけない、もうこんな時間だわ。

 いつの間にか月は一番高いところまで昇っていた。

 私は真上に見える大きな満月を眺めながら立ち上がろうとした。
 そのとき月に穴があいた。
 いや、違う、なにか黒い点が見える、それは大きくなっていく、その黒い点は空中で翼を広げた、鳥ではない、あれは……
「ドラゴン?」
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