5 / 13
足音
しおりを挟む
男狼 第5話
今、憐たちが閉じ込められている校舎の構造を説明しよう。
外に出る出口はもちろん一階にあり、その1つしかない。
その出口付近には、学生たちのロッカーが並ぶ。
その正面には、2階へとあがる、中央階段がある。
中央階段はそこから最上階までいける。
他にも、同じものが左右に2つある。
廊下の端にだ。
だが、右の階段だけは、何故か最上階である4階に行けなくなっている。
1階には、左に資料室と倉庫。
右に職員室と相談室がある。
2階には、右に音楽室と理科室。
左に図書室と総合室がある。
総合室とは、様々な利用ができる部屋のことである。
この学校だけの、特徴的な部屋だ。
3階は憐たち学生用の教室で埋まっている。
それだけでは学生全員の教室は用意できないので、
一部のクラスは別校舎に教室があるのだ。
別校舎へと移動される学生は、
頭が良い、優等生が集められている。
より良い環境にするためらしい。
そのことについて憐は、「どーせ俺たちなんて害虫なんだろーよ」と、
気に入ってない。
さて、4階なのだが、
4階には、
何もないのだ。
教室も、何もない。
ただ廊下が続いている。
壁には丸い模様が書かれている。
4階には、
気味が悪いと、誰も寄り付かない。
右の階段より、
4階への道が開けるとき、
必ずや助けとなるだろう。
そんな言い伝えさえもある。
憐たち学生も、
そんな言い伝え信じなかった。
そもそもその助けがわからないから。
何の助けなのか、
わからないから。
人はわからないものを怖がる。
4階を使用しないのには、
そんな理由なんかもある。
憐の願いを叶えたレンは、
4人を探しに1階の出口へと向かった。
もちろんその先には、
西之と坂口の2人がいる。
「な、なんで開かないのよぉ!!」
西之はまだ扉を開けようとしている。
その時だった。
カツン
静かな、そして軽やかな足音が、
1階へと続く中央階段から響きわたった。
「……………!ひっ!!」
ただならぬ気配を感じて、
西之と坂口は体を震わせる。
明らかに、憐や、他の2人とは思えない、
不吉なものが、その音にはこもっていた。
「うそ……でしょ?」
坂口が震えた声で言う。
カツン
少しずつ、確実に、近づいてきている。
そう感じた西之は咄嗟に叫び、
坂口を力強く引っ張った。
「……っ!逃げるよ!」
坂口と西之は、手を繋ぎながら、
必死で走り始める。
向かったのは左側の階段。
カツン
さらに足音が聞こえたと思うと
同時に、声が聞こえた。
「「みぃつけた」」
その声は、憐の声に似ている。
でも、明らかに違うものがあった。
確実に別のものが‘混じっていた’。
「………!!な、なんであいつ、憐の声なのよ!」
西之が叫ぶ。
そんな中で坂口は、
憐って呼んでるんだ
そんなことを考えていた。
坂口は憐が好きだった。
でも、ほどなくしてその恋は終わりを迎えた。
親友である、西之。
みーちゃんが、憐に好意をもっていると気づいたから。
応援しよう。
そう決めたのに、
決めたはずなのに、
坂口の恋は終わった。
でも、忘れることはできなかった。
好意を消すことはできなかった。
今も、西之に対して嫉妬心すら抱いている。
西之は憐が好きだ。
でも、邪魔者がいる。
坂口 鈴。
親友だ。
男狼が現れた時にも、
憐にくっついていた。
しかも、自分が憐のことを好きなのか
確信しているように聞いてきた。
ライバル…なのだろうか。
西之はあやふやな心のままでいた。
親友でいたい。
なのに、どんどん、
憐のことを好きになるほど、
嫌いになってしまう。
今、西之にとって
坂口は親友ではなくなっていた。
ライバル。
敵。
頭のなかでは親友のつもりだが、
時折横切る心のなかでは、
そんな存在になっていた。
「し、静かに」
憐に似た声に動揺する西之を
坂口が指摘する。
「…!?もう見つかってるのよ!?今さら、今さら意味ないわ!!」
反射。
それで西之は坂口を振り払った。
「あ……」
西之に振り払われた反動で、
坂口がバランスを崩す。
「みぃ………ちゃん?」
倒れた坂口は西之を見る。
困惑と動揺。
坂口の顔からは、そんな感情が表れていた。
坂口の後ろから、足音が聞こえる。
カツンッカツンッカツンッカツンッ
足音が、近くなっていく。
だんだんと大きくなっていくその音に
恐怖した坂口は動けない。
西之はそんな坂口を見て、
ぼそりといい放った。
「鈴…………。ごめん…………さすがにあなたを連れては逃げ切れない……」
西之は階段へと1人で走っていった。
「……う…………そ………」
坂口が涙を流す。
「ねぇ!…嘘!待って……!!」
そんなことを言っても西之はどんどん小さくなっていく。
「……………ねぇ、なんで、笑ってるの…?」
西之は、坂口を見捨てるその瞬間、
笑みを浮かべていた。
追い付いたレンは笑う。
想像通りの、今まで通りの景色、状況に対して呆れながら。
「「あっははははははははははは!!!」」
そうしてレンは坂口の耳元に顔を持っていき、
笑みをこぼしながら言う。
「「もろいよねぇ!!
友情ってさぁ!壊れやすいよねぇ!!!
どうだった?‘親友ごっこ’は!」」
絶望してゆく坂口に、
レンはあることをささやいた。
「「殺せばいい。
死んだら人は、裏切らない。
天国でも、ずーーーと。
一緒にいられるよ?」」
その言葉には、重みがあった。
絶望して、真っ暗になった坂口の目には、
その言葉が、絶望を照らす、希望の光りに思えた。
そうして坂口は、西之を追いかけていった。
「待っててね?みーちゃん…………あっはははは!!!!!!」
今、憐たちが閉じ込められている校舎の構造を説明しよう。
外に出る出口はもちろん一階にあり、その1つしかない。
その出口付近には、学生たちのロッカーが並ぶ。
その正面には、2階へとあがる、中央階段がある。
中央階段はそこから最上階までいける。
他にも、同じものが左右に2つある。
廊下の端にだ。
だが、右の階段だけは、何故か最上階である4階に行けなくなっている。
1階には、左に資料室と倉庫。
右に職員室と相談室がある。
2階には、右に音楽室と理科室。
左に図書室と総合室がある。
総合室とは、様々な利用ができる部屋のことである。
この学校だけの、特徴的な部屋だ。
3階は憐たち学生用の教室で埋まっている。
それだけでは学生全員の教室は用意できないので、
一部のクラスは別校舎に教室があるのだ。
別校舎へと移動される学生は、
頭が良い、優等生が集められている。
より良い環境にするためらしい。
そのことについて憐は、「どーせ俺たちなんて害虫なんだろーよ」と、
気に入ってない。
さて、4階なのだが、
4階には、
何もないのだ。
教室も、何もない。
ただ廊下が続いている。
壁には丸い模様が書かれている。
4階には、
気味が悪いと、誰も寄り付かない。
右の階段より、
4階への道が開けるとき、
必ずや助けとなるだろう。
そんな言い伝えさえもある。
憐たち学生も、
そんな言い伝え信じなかった。
そもそもその助けがわからないから。
何の助けなのか、
わからないから。
人はわからないものを怖がる。
4階を使用しないのには、
そんな理由なんかもある。
憐の願いを叶えたレンは、
4人を探しに1階の出口へと向かった。
もちろんその先には、
西之と坂口の2人がいる。
「な、なんで開かないのよぉ!!」
西之はまだ扉を開けようとしている。
その時だった。
カツン
静かな、そして軽やかな足音が、
1階へと続く中央階段から響きわたった。
「……………!ひっ!!」
ただならぬ気配を感じて、
西之と坂口は体を震わせる。
明らかに、憐や、他の2人とは思えない、
不吉なものが、その音にはこもっていた。
「うそ……でしょ?」
坂口が震えた声で言う。
カツン
少しずつ、確実に、近づいてきている。
そう感じた西之は咄嗟に叫び、
坂口を力強く引っ張った。
「……っ!逃げるよ!」
坂口と西之は、手を繋ぎながら、
必死で走り始める。
向かったのは左側の階段。
カツン
さらに足音が聞こえたと思うと
同時に、声が聞こえた。
「「みぃつけた」」
その声は、憐の声に似ている。
でも、明らかに違うものがあった。
確実に別のものが‘混じっていた’。
「………!!な、なんであいつ、憐の声なのよ!」
西之が叫ぶ。
そんな中で坂口は、
憐って呼んでるんだ
そんなことを考えていた。
坂口は憐が好きだった。
でも、ほどなくしてその恋は終わりを迎えた。
親友である、西之。
みーちゃんが、憐に好意をもっていると気づいたから。
応援しよう。
そう決めたのに、
決めたはずなのに、
坂口の恋は終わった。
でも、忘れることはできなかった。
好意を消すことはできなかった。
今も、西之に対して嫉妬心すら抱いている。
西之は憐が好きだ。
でも、邪魔者がいる。
坂口 鈴。
親友だ。
男狼が現れた時にも、
憐にくっついていた。
しかも、自分が憐のことを好きなのか
確信しているように聞いてきた。
ライバル…なのだろうか。
西之はあやふやな心のままでいた。
親友でいたい。
なのに、どんどん、
憐のことを好きになるほど、
嫌いになってしまう。
今、西之にとって
坂口は親友ではなくなっていた。
ライバル。
敵。
頭のなかでは親友のつもりだが、
時折横切る心のなかでは、
そんな存在になっていた。
「し、静かに」
憐に似た声に動揺する西之を
坂口が指摘する。
「…!?もう見つかってるのよ!?今さら、今さら意味ないわ!!」
反射。
それで西之は坂口を振り払った。
「あ……」
西之に振り払われた反動で、
坂口がバランスを崩す。
「みぃ………ちゃん?」
倒れた坂口は西之を見る。
困惑と動揺。
坂口の顔からは、そんな感情が表れていた。
坂口の後ろから、足音が聞こえる。
カツンッカツンッカツンッカツンッ
足音が、近くなっていく。
だんだんと大きくなっていくその音に
恐怖した坂口は動けない。
西之はそんな坂口を見て、
ぼそりといい放った。
「鈴…………。ごめん…………さすがにあなたを連れては逃げ切れない……」
西之は階段へと1人で走っていった。
「……う…………そ………」
坂口が涙を流す。
「ねぇ!…嘘!待って……!!」
そんなことを言っても西之はどんどん小さくなっていく。
「……………ねぇ、なんで、笑ってるの…?」
西之は、坂口を見捨てるその瞬間、
笑みを浮かべていた。
追い付いたレンは笑う。
想像通りの、今まで通りの景色、状況に対して呆れながら。
「「あっははははははははははは!!!」」
そうしてレンは坂口の耳元に顔を持っていき、
笑みをこぼしながら言う。
「「もろいよねぇ!!
友情ってさぁ!壊れやすいよねぇ!!!
どうだった?‘親友ごっこ’は!」」
絶望してゆく坂口に、
レンはあることをささやいた。
「「殺せばいい。
死んだら人は、裏切らない。
天国でも、ずーーーと。
一緒にいられるよ?」」
その言葉には、重みがあった。
絶望して、真っ暗になった坂口の目には、
その言葉が、絶望を照らす、希望の光りに思えた。
そうして坂口は、西之を追いかけていった。
「待っててね?みーちゃん…………あっはははは!!!!!!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる