90 / 112
第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
90.愛の鞭(こぶし)でレオを取り戻す
しおりを挟むごく微量の魔力を全身に纏い、正面に跪く敵を滅っさんと貫手を突き出すレオ。
朦朧としながらも、正面から殺意を向けてくる存在を、本能的に噛み砕かんと迫るリオットル。
離れた位置からその様子を見たマリアとベルナールには、獅子獣人の牙の方がレオに先に届きそうに見えた。
「レオッ」
「レオ……」
マリアは思わずレオに向けて左腕を伸ばすが、離れ過ぎていて届くべくもない。
だが、彼女はすぐに立ち止まり、長杖を握る右腕を突き出して魔法を発動する。
「どうか間に合って! 『火矢』っ!!」
マリアと共に走っていたベルナールはそのまま駆け――。
背中の大剣ではなく腰ベルトに備えているナイフを手に取って、疾走の勢いのまま投げつける。
「届けぇーっ!」
二人の狙いは、牙剥き出しのリオットルの顔面。
マリアの杖の先に出現した炎の矢が、尾を引くように――。
ベルナールの手を離れたナイフが、クルクルと刃をきらめかせて――。
リオットルに向かう。
それらが二つとも、ほぼ同時にリオットルの横っ面に命中。
ベルナールのナイフは獅子鼻に斜めに突き立ち、マリアの火矢は獅子の目尻を直撃するも弾けて消える。
どちらも致命傷には遠く及ばずとも、刃の痛みと火矢の光と熱の刺激で、反射的に頭を逸らさせるには充分だった。
そのお陰で、レオの体に獅子の牙が襲いかかることは無かったが、標的が逸れたことでレオの貫手も空を突く。
本能で動いたリオットルは、頭を逸らした勢いでそのまま横に倒れ――。
「――かはっ……」
衝動に突き動かされているレオは、なけなしの魔力が霧散し、更に肉体への負荷によって喀血して前のめりに崩れ落ちた。
その様子を確認したマリアとベルナールは、再びレオへと足を向ける。
マリアはレオの元に一直線に。
ベルナールは大剣を手にして、リオットルを仕留めに。
「レオッ! レオッ、レオ?」
マリアは飛び付くようにレオに縋って、呼び掛ける。
レオはうつ伏せに倒れたまま。しかし、その背は小刻みに上下し、小さな喘鳴も漏れていた。
急ぎつつも優しくレオを仰向けに返し、彼の上半身を抱き起こして、鼻や口元の血を拭う。目は薄く閉じられ、その赤黒い瞳の焦点も定まってしない。
「ぜぇ……ひゅう……ぜぇ……。――ッ!!」
数度呼吸をするうちに、レオの瞼が開いて――。
「きゃっ!」
――レオが、自分を抱き起こしているマリアを突き飛ばした。力はそれほどでも無く、マリアはその場に横倒しになる。
反動でレオ自身も地面に倒れるが、今度は自力で立ち上がろうとする。
「マリア? どうした?!」
ベルナールはその時、仰向けで抵抗するリオットルの胸に、大剣を力尽くで捻じ込むように突き立て絶命させていたが、マリアの声に振り返った。
見れば、立ち上がったレオが薄く魔力を纏い、倒れているマリアを見下ろしている。
――その赤黒い瞳には敵意が……殺意が込められていた。
レオは、その目に映った女も滅すべき敵だと認識しているのだ。
「おいっ、どうしたってんだ、レオ!?」
「レオ! 大丈夫なの? 返事して!」
マリアも上体を起こしてレオを見上げながら呼び掛けるが、彼からの返答は無い。
代わりに、ふらつく足でジリジリとマリアに近寄り、貫手にした手を引き絞った。
ベルナールにも、マリアが言っていた通り、レオが何者かに憑依されたか乗っ取られたかのように、別人みたいに感じられた。
ましてやマリアに手を上げ、彼女を傷付けようとしているとは……。
「チッ」
ベルナールは、舌打ちして獅子獣人の骸から大剣を引き抜くと、レオとマリアの間に大剣を滑り込ませる。
――ガアンッ。
なんとか間に合い、大剣にレオの突きを受けさせることが出来たが、剣を通して伝わってくる突きの強さにベルナールは目を見張った。
「くっ、ヘロヘロなくせになんつう力だ」
そう言って、その間に立ち上がったマリアに目配せを送る。
「どう見ても魔力暴走とは違うな」
「はい……。私やベルナールさんの声が届いていないみたいだし、目も表情も……いつものレオじゃないです」
魔力暴走とは、主に体内を循環する魔力が濁流の如く暴れ、魔臓自体や循環経路のどこかしらが決壊――損壊する、命にかかわる悲劇的な事象である。
その一環として魔力の体外放出が引き起こされることはあるが、目の前のレオの“これ”は違うとベルナールは判断した。
マリアはレオへの心配や戸惑い、そして恐怖、様々な思いがないまぜになった表情になっている。
レオはと言えば、マリアの前に立つベルナールへも攻撃の手を向ける。
脚は震え、肩で息をするほど呼吸は乱れているが、それでも魔力纏い状態の攻撃力は高く、大剣で受けるベルナールは弾き飛ばされないように必死だ。
だが、ベルナールが耐え忍んでいると――。
「がっ、カハッ……」
レオの口から鮮血が散り、膝がガクッと落ちた。
「「っ、レオッ!!」」
マリアもベルナールも、殺気を向けられているとはいえ、レオはレオ。心配のあまり声を掛ける。思わず支えようと手も伸ばす。
しかし、それでも地面に膝を突いたまま乱暴に腕をふるうレオ。
慌てて手を引いたベルナールは、マリアを連れてレオから距離を取りながら独り言つ。
「おかしい……」
「えっ?」
それを聞き取ったマリアは、“レオがレオじゃない”ことはお互いに認識しているはずで、何がおかしいのか問う。
ベルナールは、また立ち上がろうと四つん這いになっているレオから目を離さずに口を開く。
「冒険者……特に高ランクの戦士や剣士の中には、一時的に自分の中のリミッターを外して凶暴化して戦う奴がいる」
「レオもソレなんですか?」
「いや、時間が長すぎる。オレがビーアと闘ってた時からこうだったなら、長すぎる。それに、同士討ちしない程度の自我は残ってるもんだが、レオにはその欠片も見えねえ。肉体を犠牲にするって点では同じだが……」
言葉を区切ったベルナールの続きを、マリアが唾を呑みこんで待つ。
「レオの場合、自分の命まで懸けてるみてえだ」
「え……」
「心臓が止まる――破れるまで止まらねえんじゃねえか?」
「っ!! そ、そんな……」
「あの様子じゃ、あんまり“残り”が無えかも……どうする?」
二人の目には、立ち上がったレオが口から血を垂らしながら、左右に前後によろつき、それでも殺気を放って二人へ歩みを進める姿が映る。
そんなレオの姿を見つめながら、マリアは唇を噛み締める。
そして――。
「私が止めます! 私が……レオの目を醒まさせますっ!!」
「……どうやるってんだ?」
マリアから真剣な眼差し、本気の眼差しを向けて言われたベルナールだが、そう方法を訊き返す。
「“これ”で、です!」
マリアは簡潔に、そして“それ”をベルナールに突き出して答えた。
握り拳だった。拳ダコひとつ傷ひとつ無い、女の子の小さく綺麗な拳。
「なっ!? ぁ……む、無茶だっ!」
彼女とは二回り以上も年の離れたベルナールは、驚きに目を見張って慌てて止める。
しかし、マリアは首を横に振って続ける。
「大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃねえって。聞いた限りじゃ、魔力に触れただけでも触った方にダメージが入るんだろ?」
「大丈夫です」
「いやいや……わ、わかった! オレがやる」
「大丈夫です。私がやります!」
「『大丈夫』って……根拠はあんのか?」
「言えないけど、あります! それに、なるべくレオを傷付けないように目を醒まさせるには、力の強いベルナールさんより私の方が良いんです。レオが攻めようとした時に邪魔してくれれば助かりますけど、“叩く”のは私がやります。お手伝いお願いします!」
「力は分かるし、当然マリアを護るも手伝うもやぶさかじゃねえが……言えない根拠って何だ?」
「見ててくれれば分かります」
「せめて杖――」
「――大丈夫です。杖は壊れちゃいますから」
「…………ん? だ、大丈夫……なんだな?」
「はい! 大丈夫です!」
そんなやりとりを何度も繰り返して、ベルナールはマリアのしたいようにすることに決めた。
マリアも気合を込めて、ヨロヨロと迫り来るレオを見詰める。自分の拳と、レオから預かっている【瞬間回復】スキルに願いを込めて……。
「行きますっ」
「おうっ! 護りは任せろ」
ベルナールも盾役として彼女に続く。
掛けてくる二人のうち大剣を持って一歩前に出てきたベルナールに向けて、レオが貫手を放つ。
――ガアンッ!
「ありがとうございます!」
それを大剣で受け止めて踏ん張るバルナールの横を、マリアが駆け抜けて――。
――べちっ。
レオの顔面にゆっくりとしたストレートが入る。
「――痛っ!」
その瞬間、レオの魔力に触れたマリアの拳の皮膚に切り傷が走った。細かい血飛沫も舞う。
「大丈夫か!?」
言わんこっちゃない、と彼女に目を向けたベルナールだが、更に驚く。
マリアの拳が瞬時に治ったのだ。
驚きのベルナールの耳に、「ベルナールさん、前!」というマリアの声。レオが大雑把な動きで突きに出ている。
――ガアンッ!
なんとか受け止めたベルナールの横から、再びマリアが飛び出す。
――べちんっ!
「――うっ」
マリアの呻きに、ベルナールが横目で拳を見ても、それは治っていく。彼は薬も無しに傷が瞬時に治る光景に混乱を覚えるが、戦いは続く。
――ガアンッ!
――ばちっ!
――ガアンッ!
――バチッ!
――ガンッ!
――バチィンッ!
「フレーニさんから教わったこと、思い出してきました!」
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
【完結】死ぬとレアアイテムを落とす『ドロップ奴隷』としてパーティーに帯同させられ都合よく何度も殺された俺は、『無痛スキル』を獲得し、覚醒する
Saida
ファンタジー
(こちらの不手際で、コメント欄にネタバレ防止のロックがされていない感想がございます。
まだ本編を読まれておられない方でネタバレが気になる方は、コメント欄を先に読まれないようお願い致します。)
少年が育った村では、一人前の大人になるための通過儀礼があった。
それは、神から「スキル」を与えられること。
「神からのお告げ」を夢で受けた少年は、とうとう自分にもその番が回って来たと喜び、教会で成人の儀を、そしてスキル判定を行ってもらう。
少年が授かっていたスキルの名は「レアドロッパー」。
しかしあまりにも珍しいスキルだったらしく、辞典にもそのスキルの詳細が書かれていない。
レアスキルだったことに喜ぶ少年だったが、彼の親代わりである兄、タスラの表情は暗い。
その夜、タスラはとんでもない話を少年にし始めた。
「お前のそのスキルは、冒険者に向いていない」
「本国からの迎えが来る前に、逃げろ」
村で新たに成人になったものが出ると、教会から本国に手紙が送られ、数日中に迎えが来る。
スキル覚醒した者に冒険者としての資格を与え、ダンジョンを開拓したり、魔物から国を守ったりする仕事を与えるためだ。
少年も子供の頃から、国の一員として務めを果たし、冒険者として名を上げることを夢に見てきた。
しかし信頼する兄は、それを拒み、逃亡する国の反逆者になれという。
当然、少年は納得がいかない。
兄と言い争っていると、家の扉をノックする音が聞こえてくる。
「嘘だろ……成人の儀を行ったのは今日の朝のことだぞ……」
見たことのない剣幕で「隠れろ」とタスラに命令された少年は、しぶしぶ戸棚に身を隠す。
家の扉を蹴破るようにして入ってきたのは、本国から少年を迎えに来た役人。
少年の居場所を尋ねられたタスラは、「ここにはいない」「どこかへ行ってしまった」と繰り返す。
このままでは夢にまで見た冒険者になる資格を失い、逃亡者として国に指名手配を受けることになるのではと少年は恐れ、戸棚から姿を現す。
それを見て役人は、躊躇なく剣を抜き、タスラのことを斬る。
「少年よ、安心しなさい。彼は私たちの仕事を邪魔したから、ちょっと大人しくしておいてもらうだけだ。もちろん後で治療魔法をかけておくし、命まで奪いはしないよ」と役人は、少年に微笑んで言う。
「分かりました」と追従笑いを浮かべた少年の胸には、急速に、悪い予感が膨らむ。
そして彼の予感は当たった。
少年の人生は、地獄の日々に姿を変える。
全ては授かった希少スキル、「レアドロッパー」のせいで。
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。
いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】
採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。
ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。
最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。
――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。
おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ!
しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!?
モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――!
※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる