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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
80.熊・獅子参戦! しかも……
しおりを挟む「す、凄え……」
俺が猿野郎を仕留めてすぐ、ベルナールも狐獣人を切り裂いた。
それも獣化した獣人を、スパッと切り捨てる。これこそ一刀両断ってやつだ。
俺はさっきの咆哮? に中てられ気味のマリアを抱きしめたまま、大剣を血振るいするおっさんに見惚れてしまう。マリアも思わず「ベルナールさん、強い」って零す。
でも、ベルナールの攻撃は確かに渾身のひと振りだったけど、大振りもいいところだった。
狐獣人は、どうして避けなかったんだ? いや、避けられなかったのか?
――ってことは、さっきのゾッとするような唸り声……咆哮は、ベルナールのおっさんが?
見てないから分かんねえ。
まっ、おっさんに直接聞けば分かることだ。
「――っ!! おっさん、危ない!」
ベルナールに合流しようと、足を踏み出したその時、危険を察知。
おっさんの背に向かって、何かが回転しながら物凄え速さで飛んで行ってる!
「むっ!? ――ぅぅっ!」
ベルナールもすぐに気付いて、振り向きざまに変な呻き声を上げながら大剣を振り込む。
――ギャァアン!!
ドゴォン!
辛うじて間に合ったベルナールの迎撃だけど、それでも大剣は弾かれて軌道を逸らすのが精一杯だっようだ。
飛んできたのは、デカくて柄まで金属製のハンマーだ。
大きな音と土煙りを上げて地面に落ちたそれは、尖った方のハンマーヘッドが踏み固められてるはずの街道にめりこんでいる。
……あれは、熊みてえな獣人が背負ってたヤツだ。
そりゃあ仲間が殺されたら、手を出して来るよな。ってか、遅いくらいだ。
残りの獣人のいた方に目を遣ると、奴らは動いていた。
黒くて巨大な熊が――すでに獣化してる熊が、ベルナールじゃなくて俺の方に、ドスドスと地響きを上げながら四足走行で向かってきてる!!
そして、おっさんの方には獣化してない獅子獣人が向かってる。
奴らの後ろにいたはずの馬の姿が無い。咆哮に驚いて逃げたか? ――いや、今は気にしてる場合じゃねえ!
「そっちにも行ってるぞ、おっさん!」
「ぅぉうっ!」
「マリアも隊形に戻ってくれ!」
「――っ、わ、わかった」
おっさんに報せると同時に、俺はすぐに戦闘になるからとマリアを後衛の位置へと突き飛ばすように送り出す。
そして、巨体のくせに焦げ茶の矢弾のように突っ込んでくる熊にむかって剣を構え、――魔力纏い!
「さあ、爪か? 牙か? どっちでも、かかって来いよ!」
「マウキ弔う。小童殺す! グァォオオー!!」
巨熊がボソボソ呟いたと思ったら、俺の身体くらいひと呑みにできそうな口を全開にして、唾液を撒き散らしながら牙を突き立ててきた。
また涎野郎か! しかも、もう獣化しちまってるし……よしっ!
俺は涎が掛かることを覚悟しながら、猿野郎と同じ目に遭わせる勢いで、奴の口めがけて剣を突き出す。
【刺突】に【多重突き】を合わせる!
ガシィンッ――ギギギッ!!
「――くっ!」
牙に受け止められた? ガッチリ噛み止められてる!
そして――。
「むぅん!」
「うおっ!!」
熊野郎の首のひと振りで、俺は剣を握ったまま一気に宙に振り上げられた。
チッ! このまま剣を握ったままだと今度は地面に叩きつけられる。
かと言って剣を離せば、俺は宙に置き去りにされて、熊がマリアに向かうかもしれない。
俺は咄嗟に握りを逆手に持ちかえて、それを支えに熊野郎のデカ頭に覆い被さるように着地。そのまま剣を手放して熊頭の剛毛にしがみ付く。
案の定、俺なんか無視してマリアに向かう熊。
マリアからも『火矢』が三本、撃ち出されたけど、熊の厚い毛を焦がすだけだった。
「行かせるかよ!」
俺は熊の片目――右目に向かって【強化爪】を掛けた爪を突き立てる。
それを察知した熊が、瞼を閉じて防がれてしまった。
けど……そこを【掘削】!!
――ブチュ!
「ウガアッ」
俺の指が野郎の瞼を削って、その奥の眼球を潰した感触が伝わってくる。
呻き声を出したことで、奴が咥えていた俺の剣がカランと地面に落ちる。
よしっ効いた、もう一発!
「阻止!」
――なっ?!
もっと抉ってやろうとしたところで、野郎が頭上の俺を爪を立てた手で引きずりおろしてきた。
地面に叩きつけられる前に体勢を整えて両足で着地、すぐさま飛び退いて向かい合う形になる。
「小童殺す……」
野郎は二足で立ってふうふうと肩で息をしていて、右目から血を流し、左目は怒りに燃えている。
――そして、両手をゆっくり地面に下ろして四足になるや、四足で地面を踏みきって一気に飛びかかってきた。
手の爪撃、牙の噛みつき、そして圧倒的な体格での圧殺、総動員で俺を仕留めようとしてやがる!
――やられるかよっ!
【硬化】! 【突撃】! 【ぶちかまし】! ついでに【ホーンアタック】!
俺も姿勢を低くして、頭から踏み込んでいく。
ゴチィィィンッ!!
「「かはっ」」
真っ正面からド派手な音を立ててぶつかりあった俺と熊。
スキルを使っても引き分けだった。
俺も熊も、衝撃で身体が弾かれて後退り、一瞬棒立ちになる。
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狼獣人のファーガスよりも巨体で体重もある分、効きが弱い……。
ボシュボシュボシュッ!
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けど、これも毛皮を貫くことは出来なかったみたいだ。
「意外、小童やる。次こそ殺す」
「ふぅ。仕切り直しか……いいぜ、返り討ちにしてやる!」
また向かい合う態勢になった俺と熊が、それぞれ気合を入れ直していたら――。
「――とおちゃ~く! お待たせ、ビーアの兄貴っ」
「な?!」
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そのまま後ろ足で俺を蹴り上げようとしてくる。まんま【スマッシュキック】じゃねえか。
――こんにゃろっ! 【スマッシュキック】っ!!
状況が掴めねえが、俺も蹴りで迎え撃つ。
しっかし、馬も獣人だったのかよ! でも、猿の乗ってた馬はただの“馬”だったけど?
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これも相殺で、激しい炸裂音を残してお互い弾かれるだけになった。
魔力纏いに硬化状態でのスキルだったのに……この馬獣人も、なかなかやる……。
三つ巴――じゃねえ、一対二での睨み合いになる。
そこに――。
「きゃ!」
「はぁいそこまでよぉ、そこの坊ちゃん。動くんじゃないわよぉ」
マリアの悲鳴と一緒に、甘い声が後ろから届いた。
今度は人型、獣化を解いた状態のうねうね長髪の馬獣人、しかも女のデカ獣人――それも素っ裸の! 出るトコ出まくりの!
そいつがマリアを背後から捕らえて立っている。もう一頭いた巨馬か。
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「くっ……。――は、『発火』!」
「それは見たわぁ」
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「え……」
「しっかし、こんなのに引っ掛かるなんて、マウキも馬鹿よねぇ? 死んで当然ね、ぷふっ」
余裕たっぷりに嗤う馬女。
早くマリアを助けたい。
でも、こういう時こそ冷静になれ、俺。
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「いい子いい子ぉ。そのまま止まっていてくれたらぁ、リオットル様にお願いして、お姉さんの玩具にしてあ・げ・る」
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「フェド……仕方ない弟ねぇ、壊さないって約束するならぁ貸してあ・げ・る」
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