59 / 112
第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
59.イントリ……おかしい街
しおりを挟むローゼシア様との話し合いを終えた俺たち三人は、一泊した翌早朝にはロウブロー領・領都イントリに向かった。
ロウブロー領は、オクタンス領の北から西にかけての北西を覆うように広く境を接していて、領都イントリは北北西の位置にあるそう。
キューズギルドのマスターであるベルナールが、『自分トコの冒険者が帰ってこない事に業を煮やして、イントリ冒険者ギルドをせっつきに行く』っていう体裁を取るそうだ。
俺とマリアはお付きのギルド員ってことで、実際に制服を借りてる。
ベルナールがいる手前、服も装備も【体内収納】じゃなく麻袋に入れて持ち歩いてる。
それはさておき、今回は馬車だ。小型の幌馬車。
帝国脱出の時は見様見真似だった御者席からの馬の扱いも、ベルナールに教えてもらってすぐに慣れた。
野営一泊を経て、ロウブロー領に入り、昼にはイントリに到着。
俺とマリアは、朝からギルド員の制服を着て変装を済ませてある。
俺はともかく、マリアの普段と違う制服姿が新鮮で可愛くて、変な癖が芽生えちまいそうだ……。
イントリの周りはオクテュスと変わらないくらいの高さの防壁に囲まれているけど、奥に見える城がデカイ。太陽に照らされて白く輝いて見える。
そのお城は足場みたいなのに囲まれてて、手入れ中? いや、増築してる感じだ。
気合を入れ直して街に入る手続きに。人がまばらで待ち時間も無さそう。
「なんだ、これ……?」
手続きを終えてイントリの街に入ると、活気が無い気がした。
それに御者席から見える大通りはゴミ一つなく整然としてるのに、その路地という路地には浮浪者が壁に力無く寄り掛かっているのが見える。
「デカイ城に表向き綺麗な大通り。だが、すぐ側の路地には浮浪者……なんか、ちぐはぐだな」
荷台から顔を出したベルナールも違和感を口にして、マリアは顔を顰めている。
その光景は、結局街の中心部にある冒険者ギルドに着くまで続いた。
「ここのギルマスに会うのは、オレだけで充分だ。レオとマリアは一時間くらい街でも見て来い」
「いいのか? ……じゃあ、巻物でも探しに行くか、マリア?」
「そうだね。街を見て回るだけでもいいし」
ギルド裏の馬車置き場でベルナールにそう言われて、別行動することに。
なら、制服なんか着る必要あったのか? 俺にとってはマリアが目の保養になったけどさ。あ、門兵を信じさせることはできたな。
念の為に、俺は制服のシャツをいつもの長裾シャツに着替え、マリアは制服をハーフマントで隠した。
他領のギルド員が街をうろついてると、要らない誤解を受けるかもしれねえからな。
俺の剣やマリアの杖は盗まれるともったいねえから、【体内収納】にしまっておく。
「お金や食べ物をお恵みください……」
「……」
ギルド裏から表通りに出た俺とマリアに、幼い子どもの弱々しい声で聞き覚えのあるセリフが掛けられてきて、俺達は思わず目を見合わせる。
声の方向を見れば、頬がこけてて棒みたいに細い手足がボロ服から覗いてるガキ――子どもが、欠けた椀を持ってこっちを見ていた。
まるで、ほんの半年前の自分やマリアを見てるみてえだ。
『銅貨やスキル、お恵みください』
そう書かれた木札を首から下げて、口にして、俺もマリアも物乞いしていた。
セリフがちょっと違う辺り、この子は“帝国”みてえなクズ組織にやらされてんじゃなさそうだ。
でも、だとしたら、この子は本当の家なし子ということになる。
「レオ……」
「ん?」
「いい?」
「……だな」
マリアが言葉にしないで、切なげな表情で俺に訴えてくる。
俺もマリアも、この状況を解決してやることはできねえけど、それでも放っておけねえんだよな。
二人で子どもに近付いて、小銭入れから銅貨を椀に、腰袋から取り出したと見せかけて体内収納に入れてたパンを手に握らせる。
子どもは、礼を言う間もなくパンにかぶりついた。
そんな子の頭をひと撫でして、物乞いをしている連中には少しばかりの銅貨とパンを渡しながら商業区へ向かう。
「やっぱりおかしいよな?」
「うん。この街はオクテュスと同じくらい広くて、立派なお城もあるのに……」
出歩いてる人がいないワケじゃねえのに、活気――っていうか覇気が無え。
なんでなのかと道ゆく人達を見ていて、気付いた。
男、特に働き盛りの男が極端に少なねーんだ!
大通り沿いの大店は爺さんが店に立っていたし、裏通りの屋台や露店はおばさ――女が切り盛りしてる。
そして、路地や奥まった小路には、ボロを身に纏った子どもや爺さん、怪我をしてるおっさんが無気力に座ってたり横たわっている。
汚ねえけど貧民窟とまでは言えない街並みなのに、浮浪者と軽く饐えた臭いが漂っている。
こりゃあ、奥まで行ったら悲惨な状況だってのは、見るまでもなく分かるな……。
そこまで行くと優しいマリアが気に病んじまいそうだから、広場に出た。
「なあ、この街にはなんで若い男がいないんだ? 他所に働きに出てるのか?」
食べ物を売ってる屋台の中でも清潔そうな荷車屋台を選んで、二人分の棒パンを買いながらそこのおばさんに訊いてみた。
少しやつれて見えるおばさんが辺りを見回し、金持ちかなんかの馬車と護衛馬が通り過ぎるのを遠巻きに待ってから、声を潜めて答えてくる。
「坊や達は他所から来た口かい?」
「あ、ああそうだ」
「なら、悪いことは言わないからさ、早く出てった方が良いよ」
出てった方がいいなんて、穏やかじゃねえな。
「出てけって……それはこの街に男がいないことと関係あんのか?」
「そうよ。坊やくらいの年だったら引っ張られちまうよ! 女の子だって、そのお嬢ちゃんくらい別嬪さんだったら――」
おばさんに理由を訊いていたその時――。
「おい、そこの女っ! こっちを向け!」
少し離れたところから、声変わりもしてないようなガキの声が飛んできた。
ああ゛ん? 女だぁ?
マリアのことを言ってんのかと、イラつきながら睨むように声の主を探す。マリアも反応して振り返っていた。
屋台のおばさんもそっちを見たようで、その瞬間に「今日は店じまいだ。坊や達も早くお逃げ」と囁いてきて、自分はそそくさと退散しちまうし、辺りにポツポツいた他の屋台の人も歩行者も、みんな一心不乱にここから逃げていってる。
元凶である声の主は、さっき通りを走ってた馬車にいた。
黒塗りの馬車が停まってて、客車の扉を開けて、そこから声を掛けてきたみたいだ。
キュロットとかいうテカテカ光る半ズボンに、襟だの袖だのにふりふりの付いたシャツが紅いベストから突き出てるチビデブ。
腹が出てて顔はパンパン、くすんだ銀髪のパツパツ前髪にキノコみたいな髪型をしてるチビデブ。
そいつが――。
「おっほお~。下賤の割にはすごく綺麗じゃないか! よし、僕の世話係になることを許すぞ!」
客車を揺らしながらステップを下りて、マリアに向かって『僕に飛び込んで来い』と言わんばかりに大袈裟に両手を広げて立った。
……なに言ってんだ、こいつ。
隣にいるマリアは、何が何だかと呆れてるみたいだ。
しばらくの間ぴくりとも動かないマリアを待ちかねたのか、チビデブが更に叫ぶ。
その目はマリアしか見えていないようだ。
「おい、女! 聞こえないのか? 言葉が分からないのか? 僕がお前を側に置いてやると言っているんだ! 早く来いっ!!」
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
【完結】死ぬとレアアイテムを落とす『ドロップ奴隷』としてパーティーに帯同させられ都合よく何度も殺された俺は、『無痛スキル』を獲得し、覚醒する
Saida
ファンタジー
(こちらの不手際で、コメント欄にネタバレ防止のロックがされていない感想がございます。
まだ本編を読まれておられない方でネタバレが気になる方は、コメント欄を先に読まれないようお願い致します。)
少年が育った村では、一人前の大人になるための通過儀礼があった。
それは、神から「スキル」を与えられること。
「神からのお告げ」を夢で受けた少年は、とうとう自分にもその番が回って来たと喜び、教会で成人の儀を、そしてスキル判定を行ってもらう。
少年が授かっていたスキルの名は「レアドロッパー」。
しかしあまりにも珍しいスキルだったらしく、辞典にもそのスキルの詳細が書かれていない。
レアスキルだったことに喜ぶ少年だったが、彼の親代わりである兄、タスラの表情は暗い。
その夜、タスラはとんでもない話を少年にし始めた。
「お前のそのスキルは、冒険者に向いていない」
「本国からの迎えが来る前に、逃げろ」
村で新たに成人になったものが出ると、教会から本国に手紙が送られ、数日中に迎えが来る。
スキル覚醒した者に冒険者としての資格を与え、ダンジョンを開拓したり、魔物から国を守ったりする仕事を与えるためだ。
少年も子供の頃から、国の一員として務めを果たし、冒険者として名を上げることを夢に見てきた。
しかし信頼する兄は、それを拒み、逃亡する国の反逆者になれという。
当然、少年は納得がいかない。
兄と言い争っていると、家の扉をノックする音が聞こえてくる。
「嘘だろ……成人の儀を行ったのは今日の朝のことだぞ……」
見たことのない剣幕で「隠れろ」とタスラに命令された少年は、しぶしぶ戸棚に身を隠す。
家の扉を蹴破るようにして入ってきたのは、本国から少年を迎えに来た役人。
少年の居場所を尋ねられたタスラは、「ここにはいない」「どこかへ行ってしまった」と繰り返す。
このままでは夢にまで見た冒険者になる資格を失い、逃亡者として国に指名手配を受けることになるのではと少年は恐れ、戸棚から姿を現す。
それを見て役人は、躊躇なく剣を抜き、タスラのことを斬る。
「少年よ、安心しなさい。彼は私たちの仕事を邪魔したから、ちょっと大人しくしておいてもらうだけだ。もちろん後で治療魔法をかけておくし、命まで奪いはしないよ」と役人は、少年に微笑んで言う。
「分かりました」と追従笑いを浮かべた少年の胸には、急速に、悪い予感が膨らむ。
そして彼の予感は当たった。
少年の人生は、地獄の日々に姿を変える。
全ては授かった希少スキル、「レアドロッパー」のせいで。
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。
いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】
採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。
ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。
最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。
――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。
おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ!
しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!?
モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――!
※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる