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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”

55.これも(隠れ)糞スキルだったのか!

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「……私もっ!! 私もレオのこと、好き……だよ」

 マリアも椅子から立ち上がって、私もと返してくれた。
 そして、みるみる顔を赤く染めて、声を尻すぼみに小さくしながらも『好き』という言葉も……。

「マリア……!」
「――っ!?」

 これって――俺とマリアって、両想いだったんだな。
 そのことが嬉し過ぎて、思わずマリアに抱きついてしまう。

「ありがとなっ!」
「――う、うん」

 マリアも嫌がったりしないで優しく俺の背中に手をまわして応えてくれて、彼女の身体の熱が伝わってくる。

 あったけぇなぁ……。
 ――でもこれって、ヤバいっ、アソコが反応しちまう!
 俺はマリアの腕に手を移して、ゆっくりと身体を離す。その代わり、彼女と手を握り合ってお互いに座り直した。

「こ、これから……これから、よろしくな?」
「はい……」

 俺とマリアの関係がこれまで通りっていうか、好き同士だってはっきり分かって、これまで以上にしっかりしたモノになった感じがして嬉しい。
 絶対に俺の顔も赤くなってるな……。

「――でっ、でもね?」

 俺が照れてると、急にマリアが声をかけてきた。
 一瞬ビクッとしたけど、彼女が真剣な表情で何か言いたそうなもんだから、俺も真顔に戻って聞く姿勢になる。

「でもね……」

 マリアを見つめて次の言葉を待っていると、今度は恥ずかしそうにするから、「ゆっくりでいいから、なんでも言ってくれ」と待つ。
 すると――。

「そ、“そういうこと”は、もうちょっと大人になってから……ね?」
「?」

 マリアの言う“そういうこと”ってのが一瞬分からなかったけど……。

 ああっ! そ、そうだよなっ!?
 か、体の関係は、もっと二人が“いい感じ”になってからだ。
 いい感じってのもどんな感じか分かんねえけど、俺がもっと男らしくなったり頼りがいがあるようになったり……とにかく紳士? っぽくなれば……。

 ちょっと残念な気もするけど、マリアの言うことももっともだ。
 ――べっ、別にすぐにマリアとどうこうしようって考えてたわけじゃないからな!
 いっつも“そういうこと”をしたがってるワケじゃねえからな、そこんところをしっかり答える。

「もちろんだ! 見ててくれよ、立派な紳士になってやるからな?」
「う、うん」

 マリアには、なんとか俺の思いが伝わったみたいでよかった。


 んで、お互いに手を握り合ったまま、しばらく向き合って座ってるわけだけど、どうしよう……。

「…………ん?」

 両想いって分かって嬉しい照れくささと、“そういうこと”は大人になってからってなってちょっと残念な気とが合わさって複雑な感情で、無言の時間が続いて気まずい。
 そんな気を紛らわそうと、何となしに横に寄せてあるスキル結晶用の壺を見たら……なんか変だ。

 マリアに断わって片手を離して、壺に触ってみる。
 ん? ちょっと湿ってるし、薄くなってねえか?

「あれぇ? マリアも見てくんねえか、これ」
「え、どうしたの?」

 いよいよ違和感が強くなって、俺は壺を両手で持ち上げてマリアにも見せる。
 やっぱり、ジメッとしてやがる……。
 マリアも恐る恐る壺に手を伸ばしてきて、触った。

「なにこれ、濡れてる? それに、買った時より薄くなってない?」
「やっぱりそうだよな、俺も思った」
「……溶けた?」
「溶けたって、素焼きとはいえ焼きをいれてんだろ? そんなこと……ああっ!!」

 溶けたなんてそんなことあるかって否定しようとしてすぐに、俺の中にとある考えがよぎった。

 これ……元は【体内保持】ってゆうスライムのスキル。スライムは魔物。
 俺は帝国で取り込みまくって【体内収納】に進化してから使うようになったけど、物の持ち運びを楽にできるスキルだって思ってた。

 最初の実験では、中に入れた物を一日一回は取り出して、無くなってる物はねえかとか食いモンは悪くなってねえか気にしてたっけ。
 食いモンが冷めてたから、収納の中は時間が止まってるワケじゃないって結論になって、そっからはなるべく“物”だけ入れてたし。
 んで、段々とあんまし中身を気にしなくなってた……。

 保持とか収納ったって……魔物が物を取っとくか? ってこと。

「なあマリア、スライムって物を取っとくと思うか? たとえば金とか」
「物? 物は無いんじゃない? お金なんて使わないだろうし。あ、食べきれない食べ物とかは取っておくかも知れないけど……リスみたいに」
「うっ……だよなぁ」
「え? まさか――」

 俺の反応を見て、マリアもひとつの考えに行きついたみたいだ。

「――ゆっくり食べてたってこと?!」
「……だよなぁ」

 スライムが直接食い切れる分を食ったあと、捨てておくかっつうと……取っとくわなぁ。そんでゆっくり溶かして消化する……と。
 そのままマリアと話を続けて、そう確信する。

 【性欲常態化】のスキル結晶は、それだけを布でグルグル巻きにして壺とは別に収納してた。
 “グルグル巻き”って言ったって、布は一枚。
 壺をじわじわとでも溶かす消化液にかかれば、布も溶けるし結晶も吸収するわな。

 【体内収納】……便利なスキルだと思ってたけど、結局これも糞スキルだったってこった。
 しかも、糞スキルがくそスキルを勝手に吸収しちまうなんて思いもしなかったっつうの! クッソぉ!!

 ガックリきて、ため息が止まらねえ……。

「はああああーっ」

 そんな俺に、マリアが満更でもない表情で「そんなにガッカリしなくてもいいんじゃない?」なんて声をかけてくれて、更に続ける。

「これからは、レオも私も気をつけていれば、とっても良いスキルっていうのは変わらないと思うよ? 物を持ち歩かなくて済むのもそうだけど、隠したい物を隠していられるんだから、ね?」

 そうだな。気軽に捨てられもしない、処分もしにくいスキル結晶を持ってる以上、隠しとける場所は要るよな。
 それが体の中ってんだから、一番安心ってのは言える。忘れて放置さえしなけりゃだけど!!

 俺もマリアの意見には同意して、これからは彼女の助けも借りてしっかり管理する決意を固める。
 そうしたところで、彼女から提案があって――。

「これからは、もっと頻繁にレオのスキルを見ておいた方がいいと思う」
「そっか! ここしばらく見てないな」
「でしょ? それで、今後厄介なことが起きそうなスキルが無いか把握しておこうよ」
「そうだな。まだあるかもしれねえもんな、糞スキルが」
「く、くそ?」

 おっと、思わず『糞』なんて口走っちまったぜ。マリアの耳には悪いから口に出すのは控えないとな……。

「やっ、厄介なスキルがな?!」

 ――ってことになって、俺たちはギルドの表示板室に行くことにした。
 その前に朝飯を食ったんだけど……食堂での視線が痛かったぜ。

 ☆
[レオ]
《コモン》
【呼吸】【生命維持】【瞬発型体力】【自然治癒】【姿勢制御】【直感】【忍耐】
【初級剣術】【初級盾術】…………
【初級拳闘術】
 ※
【スマッシュキック】【毒生成】【巻きつき】【擬態】【潜水】【ホーンアタック】【嗅覚】
【針刺し】【忠誠】【帰巣本能】

《コア》
【自制】【初級魔力操作】
 ※
【急速回復】
【飛行】【空中静止(ホバリング)】【麻痺毒】【熱耐性】

《レア》
 ――
 ※
【闘争本能〈4〉】【酸素魔素好循環〈3〉】【自在制御〈4〉】
【軟化・硬化〈2〉】【体内収納〈2〉】
【ぶちかまし〈2〉】【刺突〈3〉】【突撃〈2〉】【破砕噛〈2〉】
【位置掌握〈2〉】【隠匿〈2〉】【洞察〈2〉】
【毒耐性・中〈2〉】【強毒生成〈1〉】【求心力〈1〉】

《ユニーク》
 ――
 ※
【スキル吸収〈1〉】【スキル譲渡〈1〉】
 ☆





 ☆
[マリア]
《コモン》
【呼吸】【生命維持】【持久型体力】【自然治癒】【姿勢制御】【思考力】【忍耐】…………
【初級杖術】

《コア》
【植物知識】【鉱物知識】【自制】
【初級火魔法】

《レア》
【上級魔力操作〈1〉】【魔力回復〈1〉】

《ユニーク》
 ――
 ※
【瞬間回復〈2〉】
 ☆

 ★★★一部の魔物スキル説明★★★

【針刺し】……(コモン)保有する針を獲物に刺すスキル。
【忠誠】……(コモン)同種族や上位種属の特定個体に本能的に服従する以上の忠義を尽くすスキル。群れを成す魔物の下位種族に現れる。
【帰巣本能】……(コモン)不慣れな場所に赴いても、縄張りや巣に辿り着く本能的スキル。

【飛行】……(コア)羽ばたきによって空を飛んで移動するスキル。
【空中静止(ホバリング)】……(コア)羽ばたきによって空中の一点に留まるスキル。ムシ系やトリ系の飛翔魔物の一部に現れる。
【麻痺毒】……(コア)獲物を麻痺させる成分の毒。ヴァンパイア・ビーは、獲物を生かしたまま無力化し、血液を循環させたままにして吸血しやすくする目的で獲得したスキル。
【熱耐性】……(コア)熱に対する耐性のこと。ヴァンパイア・ビーは、このスキルで自らの熱殺蜂球に耐える。

【強毒生成〈1〉】……(レア)毒を持つ魔物の上位種属が持つスキル。ヴァンパイア・ビーのクイーンが所持していた。
【求心力】……(レア)同種族や下位種族を引きつけて、己に忠誠心を抱かせるスキル。群れを成す魔物の上位種属に現れる。
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