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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
51.イキるデブ双子
しおりを挟むギルドでの魔法練習を切り上げた俺とマリアは、護衛依頼の定宿に戻り晩飯を済ませた。
そして、俺の部屋でマリアと二人きりになる。
「さっ、見てみましょ?」
「お、おう」
それはいいんだ……。
俺も少しずつ勉強してるとはいえ、字をスラスラ読めるかは怪しいからな。
一緒に読んでくれるのは有難いし、二人で居られて嬉しいんだけど……。
狭い部屋の小さな机とセットの椅子に俺が座って、マリアは俺の後ろから覗き込むようにしているから顔が近いっ!!
俺の両肩にはマリアの手が掛かっていてモミモミしてくるし、彼女のさらさら髪がサワサワと俺の耳や頬っぺたをくすぐるし、なにより彼女のいい匂いが……。
俺だって、ガキだガキだ言われてても男だ。
あのくそ【性欲常態化】がなくてもウズウズするし、心臓だってバクバクするって!
お、男と女がふ、二人っきりになれば……。
糞ブリジットの売られた“娼館”がどういう所で、どういう事をするかも……なんとなく知ってるし。
ギルドにいれば、男冒険者共――特にあのデブ双子みてえなクズ冒険者なんかは、昨日の女がどうだったとか次はどこそこのアイツを狙うだとかほざいてるのを聞いてたし。
でも、側にいる女冒険者がソイツらをゴミを見るような目で見てるのも知ってるし、「死ねばいいのに」なんて言われたくないからな、俺は。
だから、堪えろ俺、どんなモンか知らねえけど“紳士”でいろ俺!!
「レオ、どうしたの? 出さないの?」
「出す?」
俺の中からムクムクッと湧き上がってくる“変な気持ち”と戦っていると、すぐ横からの声。それに視線。
一瞬“何か”を出していい――具体的に何とは言わないけど――って意味かと思ったけど、そうだった褒美のことだ。
「もちろん出すさ。出す、出す! ちょっと待ってろよぉ」
「? ……変なの」
マリアには怪しがられたけど、俺は急いで褒美で貰った小箱を体内収納から取り出す。
俺の片手に載る、マリアの両手にすっぽり収まる程度の小ささの四角い木箱。
太めの紐で蓋が動かないくらい、二重三重にきつく四方を括られていて、その紐と紐の間に折り畳まれた紙が挟んである。
「こんなにきつく結んであるのに、よく紙なんか差し込めたな……」
そんな感心はさておいて、紙が破れないようにゆっくり引き抜いて、折り目を開いていく。
こころなしかマリアが近付いてきた? いや、重なるようにくっついてきた。
心臓のバクバクをなんとか押し殺して、中身を声に出して読む。
「えっと……『我が、と、殿? の……ごし……』」
「『我が殿のご指示により、キューズ所属Dランク冒険者・レオにこれを授ける』だって」
一行目の数文字で引っ掛かってしまった俺を、マリアが引き継いで読み上げてくれた。
☆
これは発動者の全スキルを、他者から隠し、スキル表示させない為の魔道具である。
若くして尋常ならざる実力を身につけていると、いらぬ詮索を受けることもあるだろう。
いずれ其方に必要になった時に使うがいい。
ただし、三回しか使用に耐えないゆえ、時期は慎重に判断するように。
我が殿、エトムント様に代わり、オクタンス家筆頭執事 ベルクが記す。
☆
「――だって。ベルクさんって、あの執事さんだよね?」
マリアが読み終えて、何か聞いてきたけど……ちょっと頭に入ってこない。
なんで……なんでスキルを見せない魔道具を俺に? いや、滅茶苦茶ありがたいっちゃありがたいけど。
『尋常ならざる実力』『いらぬ詮索を受ける』って……。
俺の何を……ど、どこまで知ってるんだ?!
魔道具屋でも感じた、何か見通されているような気持ち悪さが、また俺を襲ってきた。
あの時、婆さん店主から聞いた言葉が頭をよぎる。
「『いずれアンタに必要になるはずだ』……か」
「えっ、なにか言った? レオ?」
「ん? な、なんでもない」
鳥肌が立つようなざわつきを振り払ってマリアに返事して、木箱をそのまま体内収納に戻して解散した。
キューズへの帰りの道中も魔物の目立った脅威は無かった。
ファーガスの襲撃の修復がすすむ宿場村での一泊を挟んで、夕方の明るいうちにはキューズに到着。
「今回はレオとマリアもギルドに顔を出した方がいいな」
「え? 面倒臭えなぁ。今日はクレイグだけでいいだろ……明日じゃ駄目なのか?」
「今回は領主様との謁見があったんだから、その報告は必要だろう」
「ええー……」
「ええー、じゃないでしょレオ! 一緒に行くよっ?」
「マリア……しょーがねえ、行くか」
馬車が北門前の広場に停まると、クレイグがみんなでギルドに顔を出そうなんて言ってきた。
仕方なく商会のおっさんらや文官と別れて、マリアや『キューズの盾』の面々とギルドに向かう。
俺のスキルに感づいているような領主からの褒美の品や手紙が気になって、どこかスッキリしない。
そんな状態での護衛だったから気分的に疲れてるってのに、ギルドに入った途端に嫌な奴らが……。
みんなの先頭で扉をくぐった俺の視線の先。受付カウンターの方から、四角い肉の壁がこっちに来るところだった。
頭の天辺にだけ生やした長い青髪を編み込んで垂らしてるデブと、赤い鶏冠頭のデブの双子デブ。
ヤセノとギススだっけか……?
それを見たマリアが、俺の服の裾を引きながら心配そうに声をかけてくる。
「レオ?」
「ん、アイツらか? ま、アイツらも一回で懲りてるだろ」
コイツらは、前に俺がブッ飛ばして以来マリアにちょっかいを掛けることもなく、俺のことも遠巻きに見てくるだけで突っ掛かってくるわけじゃなかった。
今日もそうだろうと、俺は歩みを止めないでそのまま進む。
けど、今日はちょっと違った。
デブ双子は俺らが近付くと進路を譲って通路を空けてきたけど、どこか強気な感じで話しかけてきやがった。
「おうおう、お前ら領主から褒賞を受けたんだって?」
「つまんねえ定期便の依頼の最中に、たまたま見掛け倒しの獣人を倒したんだって?」
「どうせ『キューズの盾』だとか、領都の冒険者におんぶに抱っこだったんだろ?」
「よっぽどツイテたんだな?」
「違えねえ! げへへへっ!」
「……あ?」
双子なだけに、同じ顔して棘のある突っ掛かり方をしてくるな。
それに、定期便の依頼なんて打診されたこともねえくせに、よく『つまんねえ』だの『ツイてた』なんて言えたもんだぜ。
また俺にぶちのめされたいのか? 今の俺ならお前らごとき瞬殺だと思うぞ?
そんな思いを込めた俺の「……あ?」に、奴らは一瞬怯んでたけど、すぐに気を取り直して言葉を重ねてくる。
「ま、俺様達は明日から“よ・そ・の”領地からの指名依頼で出掛けるから、せいぜい狭い界隈で一時の幸運に浸ってろや」
「俺様達は領地を跨ぐ依頼で名を挙げてくるからよ! いずれ国からも指名依頼が来ちゃうかもなっ! かっはっはっはぁっ!!」
「「じゃあなっ!」」
「…………」
双子はよっぽど気が大きくなってるのか、ギルド中に聞こえる大声で喋り散らかして、勝手に外に出て行った……。
二人で勝手にほざいて勝手に消えてくデブ共の後姿を見ながら、アイツらは一体なにがしたかったのか疑問に思っていたら――。
マリアがニコニコ顔で、俺の頭を撫でてきた。
「よく怒らなかったね、レオ」
「いや、今日はマリアに絡まなかったからな。怒る理由なんて無いさ。それにしても、なんだったんだあのデブ共……」
この俺の疑問には、一緒にいたクレイグ達も頷いている。
「ヤセノとギスス……他所の領地からの指名依頼って言ってなかったかい、レオ君?」
「ああ、言ってたな」
「おかしいな……。指名依頼なんてAランク、せいぜいBランクのベテラン冒険者でもないと来ないはず……」
クレイグが言うなら、そうなんだろう。
シェイリーンさんやティナさん姉弟も不思議がっていたけど、みんな聞いてたので事実なんだろう……。
結局、他の冒険者の依頼を詮索するのは褒められたことじゃないってことで……。
その場は収めて、フレーニ婆さんとギルマスのベルナールに、諸々の報告をして解散した。
宿に帰ってマリアとも別れて五日ぶりの我が部屋、領都の宿よりももっと狭い我が部屋。
小さな寝台に倒れ込んで、そのまま寝入ってしまった……。
☆☆☆
☆☆
☆
「ぶふぉおおおおーっ!」
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