上 下
42 / 112
第1章.物乞いから冒険者へ

42.アーロンさんもやられてしまう

しおりを挟む

「……なんてパワーだ」

 ファーガスの裏拳で弾き飛ばされた俺は、体勢を持ち直す間もなくジョセフの大盾にブチ当たって止まった。
 【硬化】のおかげで無事だったので、仰向けに倒れていた身体をゆっくり起こす。
 また盾が壊れちまった。鉄で補強してても、もとは木の盾だからな……。

 それよりも狼野郎だ。
 しっかりと上体を起こしてファーガスを探す。

 奴はすでに立ち上がっていて、裸のゴードンと半裸で徒手のアーロンさんを相手にしていた。後詰めにはジョセフが向かってる。

「クレイグはっ!?」

 クレイグは――よかった! トドメは刺されてないようだな……。でもピクリとも動かない。
 気を失ってる彼をその場に置いておくと危ないから、なんとかクレイグを遠ざけないととティナさんやフェイに告げる。
 彼女らはマリアとシェイリーンさんと一緒にクレイグに向かう。
 俺は援護してやらないと。

「ぐわっ!」

 大盾と剣でなんとか持ち堪えていたゴードンだったけど、ファーガスの速さに翻弄されて全身に爪のきずを受けていて、遂にまともな上段蹴りをくらってガクッと膝を落として倒れてしまった。
 アーロンさんも素手で格闘しているけど、隻腕だからずっと押され気味。

 俺は後詰めのジョセフにゴードンの介抱と退避を頼んで、またアーロンさんと二人でファーガスの相手をする。

「アーロンさん! ナイフです、壊れてもいいんで使って下さい!」

 素手よりはマシだろうと、腰に差していた俺の解体用ナイフをアーロンさんに投げ渡す。

りな。助かる!」

 アーロンさんは口ではそう言ってくれるけど、正直限界が近いんだろう。身体には風の膜を出せずに、ナイフにだけ風を纏わせる。

「ケッ! そんな玩具みたいな刃物じゃ、今の俺様には傷ひとつ入れられねえぞ!」

 その通りだった。
 アーロンさんのナイフはもちろん、俺の片手剣も傷付けられないっつうか、当たらない。
 むやみに突っ込めば、さっきの俺みたいにブッ飛ばされちまうから、気安く踏み込めない。
 代わりにファーガスと距離を取るから、奴の攻撃を捌くことはできてた。紙一重で、だけど……。

「――っ、あ?」

 そこにフェイの矢が射られてきた。けど、厚い毛に阻まれて刺さらない!
 でも、クレイグとゴードンの退避が終わったようだな。

 さらにシェイリーンさんの【中級水魔法】の『水槍』がファーガスの後頭部を直撃!
 獣が前によろめくくらいの威力があったけど、刺さらない……。

 その隙を突くように、アーロンさんと俺が斬り掛かる。
 と言っても俺は【刺突】だけど、それで毛の少ない足を狙う!

「へっ、当たるかよ」

 ファーガスがひょいと片足を上げて避けるけど、注意の逸れた腕の方――左腕をアーロンさんの速いナイフが切り裂く。

「チッ! 小賢しい! 小虫ごときが鬱陶うっとうしいんだよ、テメエら!!」

 左腕の傷から出た血が爪を伝ってぽたぽたと落ちるのは放っておいて、頭を濡らす水をぶるぶると振り払って苛立つファーガス。
 相手は十人。しかも連携に慣れた冒険者で、かばい合いながら何処かしらから攻撃が飛んでくる状況だ。
 見下してる人間を相手に、休む暇もないんだから苛立つのも分かる。

 このまま粘れば……。
 倒せる。なんて思っていたら、獣は動き出した。
 地面を蹴って真っ直ぐに俺に向かってきて、左の拳を軽く放ってくる!

「シッ!」

 俺は右腕を畳んで右の拳で相手の拳をパリイしようとする!
 ――止まった!? フェイントか!
 拳を途中で止めたファーガスは、俺の気が逸れた左側――横腹に蹴りを上げてくる。
 慌てて左肘を下げてガード。盾が壊れちまってるから、硬化が効いてるとは言え、肘が折れちまうかもな……。
 ――止まった!? これもフェイントだってのか?!

 なんで? 
 答えなんて出る間もなく、奴の右腕が振り下ろされてくる! 拳じゃなくて鋭い爪が!
 袈裟斬りのように振り下ろされてくる奴の爪撃を避ける余裕はない。くらっちまう……。

 それならと、俺は決断する。
 避けられねえんなら……突っ込む!
 自分の【硬化】を信じて、奥歯を噛み締めてほんの少しだけど頭を前に出す。

 ズガァン!!
「「レオッ!!」」
「「「レオ君!」」」

 ベルナールの大剣の腹で頭をブッ叩かれたような(訓練で一回やられた)衝撃と音! それに頭の天辺には爪に裂かれた痛みも。
 俺の首にはとんでもない力が加わって、意識が遠のいて膝から崩れ落ちてしまう。頭の傷から生温かい物が流れ出る感触。

「チッ! まあ、そこで寝とけや。後で仕留めてやる」

 目を開けたまま地面に崩れて、視界が狭まって気を失いそうな俺に、奴が捨て台詞を吐いて遠ざかっていく。
 でも俺は見たし聞いた。

 アイツ……舌打ちの前に「くっ」って痛そうに顔を歪めて、呻き声を漏らしてやがった……。
 それに気付いた俺は、歯を食いしばって意識が飛ぶのを堪える。

 ファーガスの右腕、傷は塞がっても毒は消えてねえんだ! 
 奴は痛みで全力を出せねえ。
 それに、アーロンさんが左腕に傷を負わせてくれてる。

 俺は心の中で感謝した。クイーン・ヴァンパイア・ビーに!!

 実は俺、クイーンのスキル結晶だけは取り込んでるんだ……。
 【自然回復】だ【攻撃衝動】だ【呼吸】【針刺し】だののコモンスキルはもちろん、【求心力】なんて良く分からないレアスキルもあったな。

 そして何より同じくレアの【強毒】!

 たぶん【毒生成】の毒が強い物になってるから、あんな小さな傷から少ししか入らなくても効いてるんだ!

 とにかく、アイツだって手負いなんだ……左腕もアーロンに斬り付けられてるし、力は削がれてるんだ。
 俺たちにだって何とかできるって自分を奮い立たせて、クラクラしながらも立ち上がる。
 ふらつかないように足を踏ん張って、頭から髪の毛を伝って血が垂れてくるのを拭って、前を向く。

 そんな俺の目に映ったのは――。
 十五歩……二十歩先で、マリアを背に必死にファーガスと対峙するアーロンさん。立ってるのは、マリアとアーロンさんと獣野郎だけ。
 その周りにはみんなが……うつ伏せや仰向けで倒れている。

 俺がやられて立ち直るまでの一、ニ分でここまでになるとは……。

 みんな脇腹や腕や脚、どこかしらに深い傷を負って血を流していて動けずにいる。
 でも、背中に傷は無い。みんな逃げずに立ち向かってやられたんだ。

 マリアだってアーロンさんの後ろで杖を掲げて魔法を出そうと頑張ってる!

「みんな……くそっ!」

 こんな所でふらついていられねえ! マリアもみんなも……俺が守る!
 一歩、また一歩、力が入るか確かめながら前に進む。
 ……よし、いける! 行く!

 その時――。
 ガギィン!
「――っ!?」

 アーロンさんが持っていたナイフの刃が折れて飛んで行った。
 刃の無くなったナイフの柄を見て舌打ちしたアーロンさんは、ファーガスに柄を投げつけて自分も前に突進する!

 アーロンさん! 俺もすぐに加勢するぜ!
 【突撃】!

 ファーガスとアーロンさんの戦場まであと十歩のところを一、ニ、三歩。一気に行く!
 俺が走る間にも、二人の戦いは止まらない。スローモーションのように見える。

 まず、ファーガスが投げつけられたナイフの柄を右手で弾き――。
 突進してくるアーロンさんの速さに合わせるように、左の拳を彼の顔面目がけて繰り出す。

 アーロンさんは、前に進みながらも頭を左に傾けてすれすれで躱すって動き。
 そして、そのまま突っ込むんじゃなく足でブレーキを掛けて、右の拳を獣人の左拳の外を回り込むように振る。
 カウンターを入れる気だっ!
 このままいけばアーロンさんの拳の方が入る。
 ――けど、駄目だ! それは……。
 フェイントだ!

 …………。
 左の拳を止めたファーガス。アーロンさんは止まれない!
 ファーガスは斜めに身を引いてアーロンさんの拳をスカす。前のめりになったアーロンさんの腹に膝を突き上げ、背中に肘を突き落とし、串刺しにする。

「が、かはっ!」
「アーロンさん!!」

 あと一歩で助けに入れたのに……間に合わなかった……。
 アーロンさんが口から真っ赤な血飛沫を飛ばしてバタリと倒れてしまう。

「このヤロォー!」
「――っ! テメッ」

 アーロンさんに集中し過ぎて、今頃俺に気づきやがったか。遅いぜ!

 【ぶちかまし】っ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】死ぬとレアアイテムを落とす『ドロップ奴隷』としてパーティーに帯同させられ都合よく何度も殺された俺は、『無痛スキル』を獲得し、覚醒する

Saida
ファンタジー
(こちらの不手際で、コメント欄にネタバレ防止のロックがされていない感想がございます。 まだ本編を読まれておられない方でネタバレが気になる方は、コメント欄を先に読まれないようお願い致します。) 少年が育った村では、一人前の大人になるための通過儀礼があった。 それは、神から「スキル」を与えられること。 「神からのお告げ」を夢で受けた少年は、とうとう自分にもその番が回って来たと喜び、教会で成人の儀を、そしてスキル判定を行ってもらう。 少年が授かっていたスキルの名は「レアドロッパー」。 しかしあまりにも珍しいスキルだったらしく、辞典にもそのスキルの詳細が書かれていない。 レアスキルだったことに喜ぶ少年だったが、彼の親代わりである兄、タスラの表情は暗い。 その夜、タスラはとんでもない話を少年にし始めた。 「お前のそのスキルは、冒険者に向いていない」 「本国からの迎えが来る前に、逃げろ」 村で新たに成人になったものが出ると、教会から本国に手紙が送られ、数日中に迎えが来る。 スキル覚醒した者に冒険者としての資格を与え、ダンジョンを開拓したり、魔物から国を守ったりする仕事を与えるためだ。 少年も子供の頃から、国の一員として務めを果たし、冒険者として名を上げることを夢に見てきた。 しかし信頼する兄は、それを拒み、逃亡する国の反逆者になれという。 当然、少年は納得がいかない。 兄と言い争っていると、家の扉をノックする音が聞こえてくる。 「嘘だろ……成人の儀を行ったのは今日の朝のことだぞ……」 見たことのない剣幕で「隠れろ」とタスラに命令された少年は、しぶしぶ戸棚に身を隠す。 家の扉を蹴破るようにして入ってきたのは、本国から少年を迎えに来た役人。 少年の居場所を尋ねられたタスラは、「ここにはいない」「どこかへ行ってしまった」と繰り返す。 このままでは夢にまで見た冒険者になる資格を失い、逃亡者として国に指名手配を受けることになるのではと少年は恐れ、戸棚から姿を現す。 それを見て役人は、躊躇なく剣を抜き、タスラのことを斬る。 「少年よ、安心しなさい。彼は私たちの仕事を邪魔したから、ちょっと大人しくしておいてもらうだけだ。もちろん後で治療魔法をかけておくし、命まで奪いはしないよ」と役人は、少年に微笑んで言う。 「分かりました」と追従笑いを浮かべた少年の胸には、急速に、悪い予感が膨らむ。 そして彼の予感は当たった。 少年の人生は、地獄の日々に姿を変える。 全ては授かった希少スキル、「レアドロッパー」のせいで。

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

処理中です...