7 / 16
7.探しましょう!
しおりを挟む
陛下の口から出た『キアオラ』の名は、わたしのために色々調べたり、伝手も当たったであろうお父様にも初耳のようです。
「キアオラ……。そ、その男はどこに!?」
お父様も身を乗り出し、陛下やエドに答えを求める視線を送る。
「落ち着くがいい、カークランド卿。まずは――」
陛下も、少人数かつ極秘裏に解決策を探るうちに、ひとつの情報に触れる。
『王都の外れの深き森に、“呪術”なるものを研究する一派あり』
それはあまりに荒唐無稽で、胡散臭く、無視すべきものであったけれど、陛下は愛するエドの為、藁にもすがる思いで頼ることにしたそうです。
陛下の手の者が捜索したところ……
森の奥深くに、確かにそのような一派が存在した。
その代表を、王都外の民家を装った“王家の隠れ家”に連れていき、富裕商人の子息に成り済ましたエドを診せたそうです。
『これは、おそらく我らが師匠の“呪術”だと思われます』
にわかには信じられない返答だったそうです。
そして、実際に現場にいたエドが話を引き継ぐ。
「信じる事は難しかったけど、原因が分かるのなら解決策もあるはずだと問えば、術者本人ならば解けるはずだという……」
ならばっ! とは思うけれど、上手くいっていればエドはパーティーで犬に変身することも無かっただろうし、わたしも……
「では、その“術者とおぼしき師匠”はどこだと問い詰めたのだけれど、十年近く行方知れずとのことだった」
「十年?」
わたしや家族がこの現象に気付いたのが八年ちょっと前だから、同一人物によるものの可能性も無きにしも非ずね。
「自分の意思で消えたのか、事件・事故に巻き込まれたのかは分からないが、忽然と姿を消したままだそうだ」
「もっ! もし、その方が亡くなっていた場合……解決しないという事ですか?」
急に、得も言われぬ不安に襲われる。
「それは、その男では分からないと言っていた」
キアオラは、“呪術”に関して飛び抜けて詳しかった。
だからその男も他の弟子たちも、キアオラを師と仰ぎ、彼と共に森の奥でほぼ隠遁生活のような研究活動をしていたそうです。
といっても、人を犬にするとかではなくて、例えば“雨乞い”や“狩りの獲物を弱らせる呪い”を学んでいたそう。
「ただキアオラ本人は、鍵付きの重そうな本を肌身離さず持ち歩き、弟子たちにも明かさぬ研究を隠れて進めていたそうだ」
秘密の研究……
「興味深かったのは、“狩りの獲物を弱らせる呪い”の方で、――」
追っている獲物の足跡に槍や剣を突き刺して、その獲物の逃げ足を鈍らせる呪いの発展系がある。
毛や爪など、相手の身体の一部だった物を手に入れて、儀式を行って、相手に影響を及ぼすものがあるそうです。
「だけどその弟子は、そういう話を聞いたことがあるだけで、実際の方法や儀式を教えられたわけではないという」
結局そのお弟子さん達は、“呪術”の表面的な事しか分からないまま、師の帰りを待っているだけみたいね。
「うーん……」
師匠と弟子の能力の乖離……それは、もしかしたら弟子とさえ呼べない程の大きな差。
エドやわたしの問題の解決につながるかもしれない人物がいるのに、十年以上も行方不明だという事実に、無力感さえ感じてしまう……
聞けば、そのキアオラは七十歳近い高齢。
王国貴族の平均的な寿命は六十数歳と言われ、平民であればもっと低いのは自明の理。
陛下も捜索の人間を送り込んでいるとは思うけれど、生きているかも疑わしいのよね……
会議室には『手詰まりか……』という空気に包まれる。
なにかいい手は無いかしら?
捜索に長けた人間以上の何か……
もし本当に呪術があるのなら、違う超常な能力もあったりしないかしら?
物を透かして見られるとか、遠くの物を触れられるとか、遠くの音が聞き分けられるほど耳がいいとか、鼻が異常に利くとか……
――! 鼻?
鼻なら十分に利くじゃない! わたしなら利くわ!
「探しましょう!」
みんなが手詰まり感に俯いてしまい、長いこと静まっていた会議室で、わたしが大きい声とともに立ち上がったので、みんなが驚いて顔を上げる。
「探すだって? オリヴィー、何を言っているんだ」
「オリヴィア嬢。私の方でも優秀な人員を使って探しているんだ。内容が内容だけに人員を増やすわけにはいかないが。……これ以上どうやって?」
「オリヴィア! 陛下は我々の知らなかった情報も掴んでおいでだった。その陛下が最善を尽くして下さっているのだ。お任せしたほうがいい」
エドと陛下のお言葉はごもっともです。お父様のおっしゃることも。
ですが、捜索の適任者は貴方がたの目の前にいますよ!
「同じ方法では、陛下がお使いの方以上の人間はいないでしょう。ですが、違う方法なら話は別です!」
「違う方法? 何だい?」
「オリヴィア嬢。何かあるのか?」
「……嫌な予感がする」
なぜかお父様が頭を抱えたわ。
でも、他のみんなは顔を上げて、視線を私に向けている。
「ここを使うのです!」
わたしは、人差し指で自分の鼻をツンツン突っつく。
「――! 鼻!」
「鼻がどうした?」
「あー、やっぱり!」
「キアオラ……。そ、その男はどこに!?」
お父様も身を乗り出し、陛下やエドに答えを求める視線を送る。
「落ち着くがいい、カークランド卿。まずは――」
陛下も、少人数かつ極秘裏に解決策を探るうちに、ひとつの情報に触れる。
『王都の外れの深き森に、“呪術”なるものを研究する一派あり』
それはあまりに荒唐無稽で、胡散臭く、無視すべきものであったけれど、陛下は愛するエドの為、藁にもすがる思いで頼ることにしたそうです。
陛下の手の者が捜索したところ……
森の奥深くに、確かにそのような一派が存在した。
その代表を、王都外の民家を装った“王家の隠れ家”に連れていき、富裕商人の子息に成り済ましたエドを診せたそうです。
『これは、おそらく我らが師匠の“呪術”だと思われます』
にわかには信じられない返答だったそうです。
そして、実際に現場にいたエドが話を引き継ぐ。
「信じる事は難しかったけど、原因が分かるのなら解決策もあるはずだと問えば、術者本人ならば解けるはずだという……」
ならばっ! とは思うけれど、上手くいっていればエドはパーティーで犬に変身することも無かっただろうし、わたしも……
「では、その“術者とおぼしき師匠”はどこだと問い詰めたのだけれど、十年近く行方知れずとのことだった」
「十年?」
わたしや家族がこの現象に気付いたのが八年ちょっと前だから、同一人物によるものの可能性も無きにしも非ずね。
「自分の意思で消えたのか、事件・事故に巻き込まれたのかは分からないが、忽然と姿を消したままだそうだ」
「もっ! もし、その方が亡くなっていた場合……解決しないという事ですか?」
急に、得も言われぬ不安に襲われる。
「それは、その男では分からないと言っていた」
キアオラは、“呪術”に関して飛び抜けて詳しかった。
だからその男も他の弟子たちも、キアオラを師と仰ぎ、彼と共に森の奥でほぼ隠遁生活のような研究活動をしていたそうです。
といっても、人を犬にするとかではなくて、例えば“雨乞い”や“狩りの獲物を弱らせる呪い”を学んでいたそう。
「ただキアオラ本人は、鍵付きの重そうな本を肌身離さず持ち歩き、弟子たちにも明かさぬ研究を隠れて進めていたそうだ」
秘密の研究……
「興味深かったのは、“狩りの獲物を弱らせる呪い”の方で、――」
追っている獲物の足跡に槍や剣を突き刺して、その獲物の逃げ足を鈍らせる呪いの発展系がある。
毛や爪など、相手の身体の一部だった物を手に入れて、儀式を行って、相手に影響を及ぼすものがあるそうです。
「だけどその弟子は、そういう話を聞いたことがあるだけで、実際の方法や儀式を教えられたわけではないという」
結局そのお弟子さん達は、“呪術”の表面的な事しか分からないまま、師の帰りを待っているだけみたいね。
「うーん……」
師匠と弟子の能力の乖離……それは、もしかしたら弟子とさえ呼べない程の大きな差。
エドやわたしの問題の解決につながるかもしれない人物がいるのに、十年以上も行方不明だという事実に、無力感さえ感じてしまう……
聞けば、そのキアオラは七十歳近い高齢。
王国貴族の平均的な寿命は六十数歳と言われ、平民であればもっと低いのは自明の理。
陛下も捜索の人間を送り込んでいるとは思うけれど、生きているかも疑わしいのよね……
会議室には『手詰まりか……』という空気に包まれる。
なにかいい手は無いかしら?
捜索に長けた人間以上の何か……
もし本当に呪術があるのなら、違う超常な能力もあったりしないかしら?
物を透かして見られるとか、遠くの物を触れられるとか、遠くの音が聞き分けられるほど耳がいいとか、鼻が異常に利くとか……
――! 鼻?
鼻なら十分に利くじゃない! わたしなら利くわ!
「探しましょう!」
みんなが手詰まり感に俯いてしまい、長いこと静まっていた会議室で、わたしが大きい声とともに立ち上がったので、みんなが驚いて顔を上げる。
「探すだって? オリヴィー、何を言っているんだ」
「オリヴィア嬢。私の方でも優秀な人員を使って探しているんだ。内容が内容だけに人員を増やすわけにはいかないが。……これ以上どうやって?」
「オリヴィア! 陛下は我々の知らなかった情報も掴んでおいでだった。その陛下が最善を尽くして下さっているのだ。お任せしたほうがいい」
エドと陛下のお言葉はごもっともです。お父様のおっしゃることも。
ですが、捜索の適任者は貴方がたの目の前にいますよ!
「同じ方法では、陛下がお使いの方以上の人間はいないでしょう。ですが、違う方法なら話は別です!」
「違う方法? 何だい?」
「オリヴィア嬢。何かあるのか?」
「……嫌な予感がする」
なぜかお父様が頭を抱えたわ。
でも、他のみんなは顔を上げて、視線を私に向けている。
「ここを使うのです!」
わたしは、人差し指で自分の鼻をツンツン突っつく。
「――! 鼻!」
「鼻がどうした?」
「あー、やっぱり!」
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる