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アルトレイラル(迷宮攻略篇)
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――迷宮内、裏広間入り口前――
たった今、ボス攻略の最終打ち合わせが終わった。
各自、あらかじめに伝えたボスの攻撃パターンに対応して攻撃。俺が司令塔になり、不確定要素の対応やボスの攻撃パターンの変化時は俺が指示を出す。
「……えっと、今回の攻略では、俺が指揮をさせていただきます」
そう切り出し、慣れない挨拶を始める。本来、これは軍の指揮を上げることが目的なのだ。ここで気持ちを高ぶらせ、一時的に恐怖を取り払う。自分たちがやっていることは正義なのだと、思い込ませるのだ。それなのに――、
不信感――明らかにその感情が彼らにはあった。
軍である以上、上からの命令は絶対。それ故に作戦には従う。だが、従うことと納得は対ではない。本当に倒すことなどできるのか……そんなことをみんなが抱いているのが手に取るように分かった。
ヴィンセント・コボルバルドの攻撃パターンを知っているのは俺だけだ。俺が見た記憶は、多分ここで死んだ誰かの記憶。どういうわけだかそれが精霊を介して俺に届き再生された……そう考えている。もしかしたら、当時とは状況が変わっているかもしれない。それでもないよりある方がいいに決まっている。この作戦が一番可能性が高いと、そう俺は確信している。
だけど、それを実感できるのは俺ひとりなのだ。正直、この記憶を見ていなければ俺だって信用なんかしない。『俺は見たんだ。みんな俺を信じてくれ!』なんて、どうやって信じればいいのか。精霊という信ぴょう性はあるにしても、自分の命がかかっているのに、信用できるものか。
故に、
「俺からは、これだけしか言えません。俺を、信じてください」
懇願することしかできない。
正直言って、すでに何をしゃべっているのか、俺には自分の言葉が聞こえていない。音を消した、あるいは未修得の外国映画を字幕なしで見ているような、そんな不思議な感覚がずっと付きまとっている。なんとなく何かを言っているということだけは分かる……そんなイメージだろうか。
バクンバクンと、心臓がやかましい。これはたぶん、緊張だけの所為じゃない。
「必ず、勝ちましょう」
びっくりするほど意味のない挨拶だった。それは、この雰囲気を見てすぐさま悟ることができてしまった。口を閉じてなお、士気が上がったとはとても言えず、逆に不信感が募っているようにさえ感じた。俺が喋ったところで何の進展もなかった。やっぱり、挨拶などするんじゃなかった。
安心させたい。納得させたい。そう思うのに、そうしなければいけないのに――、
俺には、どうすることもできなかった。
すると、
「はぁー……なんて顔をしているのですかあなたたちは」
いつの間にか、俺の真横には人が立っていた。男性にしては少し高い特徴的な声。悪役かと言わんばかりの目つきに真っ赤なローブ――レグ大尉だった。彼も、ここの担当なのだ。というより、俺にこれを提案し、半ば強引に決定した張本人だ。
裏広間攻略隊全体に、困惑が広がる。「なぜ、ここで彼が」どこからかそんな声が微かに届いた。
「こんなときになってまで、作戦自体に疑問を持っている。いまさら何を言ったところでもう止められないと知っていてもなおです」
心底呆れ、軽蔑した目。それは、攻略前には絶対にやってはいけない行為の筆頭に来るもの。危惧した通り、すぐさま不穏な空気が立ち込め、雰囲気を塗り替えていく。それは、攻略隊の士気を直接削り取っていく。
「承諾しておいていまさらですが、私も半信半疑です。彼の言葉には不確定要素が多すぎる。これで成功させるなど、まるで夢物語でも見ているようだ」
怒気が、一気に膨れ上がった。全員が、彼の発言に耳を疑い怒りを募らせる。自分たちの命さえ使いつぶしなのかと、その理不尽さにどよめき立つ。
「そしてこの中には、私の作戦にも不満を持っているものが数多くいることでしょう。あなたたちの雰囲気を見ていれば嫌でも伝わります」
まずい。これはまずい。
この迷宮に来て幾度となく感じたものだ。本能が察知し、激しく警鐘を鳴らしている。このままでは取り返しのつかないことになるぞと、訴えかけている。
一体、それを告白して何のメリットがあるというのだ。いまここで言うべきなのは、自分はこの攻略に可能性を見出しているとか、嘘であろうとも、すでに手は打ってあるとかそんな風なことのはずだ。どうせ戦闘が始まったら誰も真偽なんて解らない。嘘でもはったりを敷いていれば、士気の底上げくらいはできたはずだ。
仮にも、レグ大尉は王国騎士団所属の彼らの上司に当たる。自分よりも強いものがそう言ったのなら、そうに違いない――そう思っておこう、そんな無言の圧のようなものを創り出せた。その確証はある。それなのに、そのチャンスをみすみす逃した……いや、破り捨てた。その理由が理解できない。
「だからこそ言わせていただく――あなた方は自分の立場を理解していない」
お前馬鹿じゃねぇの⁉
たった今、ボス攻略の最終打ち合わせが終わった。
各自、あらかじめに伝えたボスの攻撃パターンに対応して攻撃。俺が司令塔になり、不確定要素の対応やボスの攻撃パターンの変化時は俺が指示を出す。
「……えっと、今回の攻略では、俺が指揮をさせていただきます」
そう切り出し、慣れない挨拶を始める。本来、これは軍の指揮を上げることが目的なのだ。ここで気持ちを高ぶらせ、一時的に恐怖を取り払う。自分たちがやっていることは正義なのだと、思い込ませるのだ。それなのに――、
不信感――明らかにその感情が彼らにはあった。
軍である以上、上からの命令は絶対。それ故に作戦には従う。だが、従うことと納得は対ではない。本当に倒すことなどできるのか……そんなことをみんなが抱いているのが手に取るように分かった。
ヴィンセント・コボルバルドの攻撃パターンを知っているのは俺だけだ。俺が見た記憶は、多分ここで死んだ誰かの記憶。どういうわけだかそれが精霊を介して俺に届き再生された……そう考えている。もしかしたら、当時とは状況が変わっているかもしれない。それでもないよりある方がいいに決まっている。この作戦が一番可能性が高いと、そう俺は確信している。
だけど、それを実感できるのは俺ひとりなのだ。正直、この記憶を見ていなければ俺だって信用なんかしない。『俺は見たんだ。みんな俺を信じてくれ!』なんて、どうやって信じればいいのか。精霊という信ぴょう性はあるにしても、自分の命がかかっているのに、信用できるものか。
故に、
「俺からは、これだけしか言えません。俺を、信じてください」
懇願することしかできない。
正直言って、すでに何をしゃべっているのか、俺には自分の言葉が聞こえていない。音を消した、あるいは未修得の外国映画を字幕なしで見ているような、そんな不思議な感覚がずっと付きまとっている。なんとなく何かを言っているということだけは分かる……そんなイメージだろうか。
バクンバクンと、心臓がやかましい。これはたぶん、緊張だけの所為じゃない。
「必ず、勝ちましょう」
びっくりするほど意味のない挨拶だった。それは、この雰囲気を見てすぐさま悟ることができてしまった。口を閉じてなお、士気が上がったとはとても言えず、逆に不信感が募っているようにさえ感じた。俺が喋ったところで何の進展もなかった。やっぱり、挨拶などするんじゃなかった。
安心させたい。納得させたい。そう思うのに、そうしなければいけないのに――、
俺には、どうすることもできなかった。
すると、
「はぁー……なんて顔をしているのですかあなたたちは」
いつの間にか、俺の真横には人が立っていた。男性にしては少し高い特徴的な声。悪役かと言わんばかりの目つきに真っ赤なローブ――レグ大尉だった。彼も、ここの担当なのだ。というより、俺にこれを提案し、半ば強引に決定した張本人だ。
裏広間攻略隊全体に、困惑が広がる。「なぜ、ここで彼が」どこからかそんな声が微かに届いた。
「こんなときになってまで、作戦自体に疑問を持っている。いまさら何を言ったところでもう止められないと知っていてもなおです」
心底呆れ、軽蔑した目。それは、攻略前には絶対にやってはいけない行為の筆頭に来るもの。危惧した通り、すぐさま不穏な空気が立ち込め、雰囲気を塗り替えていく。それは、攻略隊の士気を直接削り取っていく。
「承諾しておいていまさらですが、私も半信半疑です。彼の言葉には不確定要素が多すぎる。これで成功させるなど、まるで夢物語でも見ているようだ」
怒気が、一気に膨れ上がった。全員が、彼の発言に耳を疑い怒りを募らせる。自分たちの命さえ使いつぶしなのかと、その理不尽さにどよめき立つ。
「そしてこの中には、私の作戦にも不満を持っているものが数多くいることでしょう。あなたたちの雰囲気を見ていれば嫌でも伝わります」
まずい。これはまずい。
この迷宮に来て幾度となく感じたものだ。本能が察知し、激しく警鐘を鳴らしている。このままでは取り返しのつかないことになるぞと、訴えかけている。
一体、それを告白して何のメリットがあるというのだ。いまここで言うべきなのは、自分はこの攻略に可能性を見出しているとか、嘘であろうとも、すでに手は打ってあるとかそんな風なことのはずだ。どうせ戦闘が始まったら誰も真偽なんて解らない。嘘でもはったりを敷いていれば、士気の底上げくらいはできたはずだ。
仮にも、レグ大尉は王国騎士団所属の彼らの上司に当たる。自分よりも強いものがそう言ったのなら、そうに違いない――そう思っておこう、そんな無言の圧のようなものを創り出せた。その確証はある。それなのに、そのチャンスをみすみす逃した……いや、破り捨てた。その理由が理解できない。
「だからこそ言わせていただく――あなた方は自分の立場を理解していない」
お前馬鹿じゃねぇの⁉
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