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アルトレイラル(迷宮攻略篇)
絶望の顕現 2
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「それで、イツキが話したかったことは何だい?」
今度は、口が軽く感じる。自由に話していいのだと、そう理解した心は、先ほどよりもはるかに暖かかった。
「実は――」
そのとき、
「――――?」
不意に、視界の片隅で何かが動いた音がした。
思わず、そちらの方を向いてしまう。目に映ったのは、飛散し近くに落下していたゴーレムの残骸が小刻みに動いている様子。そうかと思えば、続いて不自然に転がりだし、多い目の石を核としてくっつき始めた。
「あれって……」
「……核は、完全に破壊したはずだけど」
石ころから塊へ、塊から人型へと、石ころは形を変えていく。いびつな球体からは手足のような突起が飛び出し、胴体と見える場所からには目を思わせる窪みができる。
そのかたちは、名づけるならば『ミニ・ゴーレム』。
石ころから変身を終え、ミニ・ゴーレムは動作確認でもするように身体をあちこち動かす。そしてそれが終わると、きょろきょろと辺りを見回す。そして、
俺たちと目が合った。
《…………》
「「……………」」
《……キュウ》
逃走。
「あっ⁉ おい!」
「……ッ⁉」
思わず呼び止めてしまう。足がもつれ体勢を崩した俺を、レオが追い抜き前へと踊り出る。走る体勢はそのまま、無言で手刀を切った。
瞬間的に発動した風の初歩魔法が、ミニ・ゴーレムへと斬撃のごとく直進する。斬撃はあっという間にミニ・ゴーレム追いつき、その両足を再び礫と化させ周囲にばらまく。それから数舜遅れてレオが追い付き、その身体をつかみ上げる。
「なんだよ、これ」
「解らない。分裂するなんてことは、資料にはなかったはずなんだが……」
キュー、キューという声を上げながらもがくミニ・ゴーレムを押さえつけながら、レオは困惑した表情を浮かべている。確かに、核を壊してなお動き続ける魔獣を俺は知らない。それに、人口魔獣ならそれはなおさららしい。レオの知っているゴーレムには、こんな機能は含まれていないと独り言ちる。
「……いや、待った」
突如、ぶつくさと独り言を言っていたレオが、目を見開き言葉を切る。
「これは、今どこに向かおうとした……?」
「まさか……⁉」
その言葉で、いくつか浮かび上がっていた点が結ばれ線となる。脳内では最悪の状況が想像され、思わず顔を見合わせる。出来上がったその予想図のあまりの理不尽さに、鳥肌が立つ。
ちょうどその時、広間内にいくつもの声が響いた。
全て、人間の声。しかし、そのどれもが湛えているのは困惑ではなく緊張。まるでそれは、俺たちが考え付いたことを全員が理解した瞬間のよう。同時に周りを見渡す。そこには、予想した通りの光景があった。
あちこちに立っていたのは、石の人間。いまレオの手の中で上がれるものの何倍も大きいゴーレム。それがあちこちに出現し、その対応に冒険者と攻略隊は追われている。しかし、すでにいくつかの正体は撤退し、戦力は先ほどよりも少ない。これでは、大した脅威ではないとはいえ、どうしても取りこぼす個体が生まれる。そして――、
中央に広がっていたのは、俺が予想し、おそらく全員が共有していた最悪の光景。
石が、鼓動を打っていた。
取りこぼしたゴーレムが次々とそれに接近し飲み込まれる。そのたびに石は大きさを増し、まるで細胞分裂でもするかのようにその形を変え複雑化していく。そしてそれは、さっきまで俺たちが見ていたものに近づいていく。
突如、地面を走る亀裂が光を湛えた。それは広間中心を終着点としており、その上に立つ石塊の表面を這うように侵食していく。輝線はときに直進し、ときに曲がり、ときに円を書くように岩の表面を進んでいく。いつしか表面には、さっきまでさんざん見てきたものの形が刻まれていた。
ややこしい言い方を避けよう。それはまさに、駆動用魔法陣。さっきまで、攻略隊と冒険者たちが命を削り合い、そして勝利したゴーレムの身体についていた魔法陣。
それができたということは、つまりそう言うことだ。
◇◆ ◇◆ ◇◆
あのときのことは、断片的にしか思い出せない。
覚えていることといえば、隣で、レオが驚愕していたこと。あまりに常識はずれな光景に、誰一人として行動を起こすことができなかったこと。倒したはずのゴーレムが、再び元の姿で君臨したこと。
全員が共有していたのは、ただひたすらの絶望感だ。
今度は、口が軽く感じる。自由に話していいのだと、そう理解した心は、先ほどよりもはるかに暖かかった。
「実は――」
そのとき、
「――――?」
不意に、視界の片隅で何かが動いた音がした。
思わず、そちらの方を向いてしまう。目に映ったのは、飛散し近くに落下していたゴーレムの残骸が小刻みに動いている様子。そうかと思えば、続いて不自然に転がりだし、多い目の石を核としてくっつき始めた。
「あれって……」
「……核は、完全に破壊したはずだけど」
石ころから塊へ、塊から人型へと、石ころは形を変えていく。いびつな球体からは手足のような突起が飛び出し、胴体と見える場所からには目を思わせる窪みができる。
そのかたちは、名づけるならば『ミニ・ゴーレム』。
石ころから変身を終え、ミニ・ゴーレムは動作確認でもするように身体をあちこち動かす。そしてそれが終わると、きょろきょろと辺りを見回す。そして、
俺たちと目が合った。
《…………》
「「……………」」
《……キュウ》
逃走。
「あっ⁉ おい!」
「……ッ⁉」
思わず呼び止めてしまう。足がもつれ体勢を崩した俺を、レオが追い抜き前へと踊り出る。走る体勢はそのまま、無言で手刀を切った。
瞬間的に発動した風の初歩魔法が、ミニ・ゴーレムへと斬撃のごとく直進する。斬撃はあっという間にミニ・ゴーレム追いつき、その両足を再び礫と化させ周囲にばらまく。それから数舜遅れてレオが追い付き、その身体をつかみ上げる。
「なんだよ、これ」
「解らない。分裂するなんてことは、資料にはなかったはずなんだが……」
キュー、キューという声を上げながらもがくミニ・ゴーレムを押さえつけながら、レオは困惑した表情を浮かべている。確かに、核を壊してなお動き続ける魔獣を俺は知らない。それに、人口魔獣ならそれはなおさららしい。レオの知っているゴーレムには、こんな機能は含まれていないと独り言ちる。
「……いや、待った」
突如、ぶつくさと独り言を言っていたレオが、目を見開き言葉を切る。
「これは、今どこに向かおうとした……?」
「まさか……⁉」
その言葉で、いくつか浮かび上がっていた点が結ばれ線となる。脳内では最悪の状況が想像され、思わず顔を見合わせる。出来上がったその予想図のあまりの理不尽さに、鳥肌が立つ。
ちょうどその時、広間内にいくつもの声が響いた。
全て、人間の声。しかし、そのどれもが湛えているのは困惑ではなく緊張。まるでそれは、俺たちが考え付いたことを全員が理解した瞬間のよう。同時に周りを見渡す。そこには、予想した通りの光景があった。
あちこちに立っていたのは、石の人間。いまレオの手の中で上がれるものの何倍も大きいゴーレム。それがあちこちに出現し、その対応に冒険者と攻略隊は追われている。しかし、すでにいくつかの正体は撤退し、戦力は先ほどよりも少ない。これでは、大した脅威ではないとはいえ、どうしても取りこぼす個体が生まれる。そして――、
中央に広がっていたのは、俺が予想し、おそらく全員が共有していた最悪の光景。
石が、鼓動を打っていた。
取りこぼしたゴーレムが次々とそれに接近し飲み込まれる。そのたびに石は大きさを増し、まるで細胞分裂でもするかのようにその形を変え複雑化していく。そしてそれは、さっきまで俺たちが見ていたものに近づいていく。
突如、地面を走る亀裂が光を湛えた。それは広間中心を終着点としており、その上に立つ石塊の表面を這うように侵食していく。輝線はときに直進し、ときに曲がり、ときに円を書くように岩の表面を進んでいく。いつしか表面には、さっきまでさんざん見てきたものの形が刻まれていた。
ややこしい言い方を避けよう。それはまさに、駆動用魔法陣。さっきまで、攻略隊と冒険者たちが命を削り合い、そして勝利したゴーレムの身体についていた魔法陣。
それができたということは、つまりそう言うことだ。
◇◆ ◇◆ ◇◆
あのときのことは、断片的にしか思い出せない。
覚えていることといえば、隣で、レオが驚愕していたこと。あまりに常識はずれな光景に、誰一人として行動を起こすことができなかったこと。倒したはずのゴーレムが、再び元の姿で君臨したこと。
全員が共有していたのは、ただひたすらの絶望感だ。
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