異世界幻想曲《ファンタジア》

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アルトレイラル(修行篇)

謎と挫折と嘘と罪悪感と 2

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――修行初日――
 かけられた言葉の意味を、脳が理解することを拒絶した。

「…………どういう、こと、だよ」

 かすれたような声が出る。足元が無くなったような感覚に陥る。俺を見つめる、ルナの複雑そうな表情が痛い。

「そのままの意味だよ。イツキは、魔法も魔術も使えない」

 ルナは、嘘もつかなければ誤魔化しもしなかった。ただ事実だけを、俺に伝えた。その方針は、ミレーナとよく似ている。だてに親兼師匠ではないわけだ。

「だけど、俺はあの時確かに魔法使ってたぞ!」
「あれは魔法じゃない。身体の中の魔粒子……魔力を直接相手にぶつけただけ」

 淡々と否定される。ルナが、ポケットから銀色の板を一枚取り出した。それを目の前で数回振り、俺差し出す。

「それ、覚えてるよね?」
「あ、ああ。適正がどうのこうのって……」
「そう。それは、どの属性の魔術に適性があるかを測るための試薬が付いた板。右から火、水、風、土、って属性が分かれてる。あとは別に、黒・白魔術っていうのもあるけど」

 十センチ定規大の銀板には、右上端に大きめの穴が。それには一本の溝が彫られていて、まっすぐ並んだ四つの穴にそれぞれ接続している。右上に血をたらせば、その溝に敷き詰めた繊維を伝って血が穴の試薬に行くようになっている。そしてミレーナの説明では、適性がある属性に対応する穴が黄色に染まるらしい。いま持っているのは、俺が昨日使ったもの。隅に俺の字が彫ってある。
「解るでしょ?」と、ルナが目で訴えかけてくる。俺はそれに、目を伏せることで肯定とする。
 試薬の色は、どこも変化してはいなかった。
 ミレーナに言われた説明を思い出し、握る手に力がこもる。「クソッ」と心の中で悪態をつく。

「……魔力はあるんだろ? だったら、魔法が使えないってことはあるのか?」
「ごくまれに、だけどね。詳しい原理は良く解らないけど、使えない人はいるよ。だけど――」
「戦えないわけじゃない……ってことか」

 ルナがそこで言葉を切る。そのあとに続く言葉は、嫌でも予想できてしまった。魔法が使えない俺が、オークの腹に穴をあけた。オークに致命傷ともいえる傷を負わせた。その事実だけは歪まないから。ルナは神妙な面持ちで大きく頷く。

「補助する詠唱が無いのと一緒だから、正直言ってかなり難しい。でも、イツキが戦いたいならそうするしかない」
「解ってる。やるしか、ないんだよな」

 お世辞にも、一歩リードとは言い難い。魔術すら使えない時点で、とてつもなく大きなデメリットを背負っている状態ともいえるだろう。それでも、やるしかない。
 どれだけ頑張ったところで、魔術の類は使えないのだから。生身の人間が飛べないように、無理なものは無理なのだから。手に入らないものに、いつまでも固執しているわけにはいかない。

「ルナが、教えてくれるんだよな?」
「そう。近接戦闘は私が担当する」
「早速だけどよろしく。何かヒントが欲しい」
「解った」

 持ってきた黒刀から、布を取り去る。こちらは刃のない刀身のため問題はないが、これは模擬戦。当然殺すための戦いではない。ルナの獲物は、普段使っているものではなく刃をつぶした双剣。これでも充分ハンデとなっている。だが、それでも簡単にあしらわれてしまうだろう。殺す気でかからなければ、ルナには一太刀も浴びせることができない。

「それじゃ、行くよ。用意っ」
「………………」
「始め!」

 俺が放ったらしい技、あの黒刀が青い光を放った攻撃。聞く限り、思い当たる節はひとつしかない。もしそれが使えるならば、白兵戦闘一本に絞る必要がある。当然死のリスクは大きくなる。だが、やるしかない。手探りででも、自分のものにするしかない。
 それが俺にできる、唯一の戦い方なのだから。

   ◆◇

 数秒だったか数十秒だったか。回想から戻り、手元に視線を戻す。こんな場合、一体どう言えばいいかと模索していた時、
 口が勝手に動いた。

「――結構順調……だと思う」
「そっか。すごいね。やっぱり」

 嘘だ、大嘘だ。
 俺の方は、まだ実践段階に行けるほど出来がいいものじゃない。いまでもルナには一勝もできないのだ。ルナは完全に加減しているし、実践まがいの戦術は使ってこない。カリバー・ロンドで白兵戦が主だったことが幸いし、なんとかギリギリ打ち合いができている状態だ。それなのに、変な意地を張った口は違う言葉を発してしまった。俺のちっぽけなプライドを守るためにしか役に立たない、割に合わない言葉。
 雨宮はその発言を疑うことなく、

「……本当に、すごい」

 小さく届いたその言葉。俺の心に、罪悪感が爪を立てた。
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