上 下
166 / 171

幕間 狼は雪のなか ソニアの話 5

しおりを挟む
アルは、アルだ。ただ生きているだけというのに・・。ソニアはアルのことを、不憫に思う。
ソルやシルカやアルの顔を思い浮かべ、フードで顔を隠しながら近くの屋台で、串焼き肉を何本かお土産に買う。

「ただいま」
ソニアが家に帰ると、アルは鍋をかき混ぜながら「おかえりなさい」と微笑んだ。アルの足元にはソルとシルカがいて、アルのズボンをつかんでいる。シルカは物欲しそうに指を口に入れている。よほどお腹が空いているのだろう。

「もうすぐ晩御飯できますからね」
そうアルは言う。
ソルとシルカが、ソニアに飛びついてくるので、受け止める。

笑顔のアルを見て、ソニアは己の感情を持て余す。
そわそわと落ち着かない、それでいてなんだか獰猛でいるのに、暖かな気持ち。

俺はアルのことをどう思っているのだろう?

ジルがアルを苦しめているのも許せないのはもちろんだが、ジルの印がアルの体にあるのも許せないと感じている。
このソニア自身の気持ちは何なのだろう?
もしかしてソニア自身、アルのことを恋人として惹かれているのか?
ソニアの性対象は、女だ。だがアルは男だ。だが美しいアルを男として抱けると思う。だからこの気持ちは・・・。おそらく・・・。
けれど・・・醜いソニアが、アルに言い寄っても、迷惑だろう。

・・・恋だの愛だのは、すぐに消えてしまうものだ。ソニアはそんなものを、信じてはいない。
どんな形でもアルの側にいられたら、それでいい・・。
ソニアの気持ちは胸の内にとどめたほうがいいだろうと、やはり思う。そうでないと、・・・・・

「ソニアさん?」
不思議そうにアルが、ソニアのことを見ている。ソニアは我に返って、足元にいる弟と妹の頭をなでる。

「いや、何でもない。お土産を買ってきた。皆で食べよう」
ソニアはアルの元へ歩み寄る。
「ありがとう、ソニアさん」
にっこり微笑むアルを見る。

だがそうでないと、・・・・・アルのことを食らいたくなってしまう。

ソニアが抱きたいと愛しいと思えば思うほど、その人を獲物のように思い、その人の肉を食らいたくなってしまう。
ソニア自身がおかしい化け物だった。

大事に思っているのにというのに、その気持ちは叶うことがないものだった。
・・・・・アルのことを誰にもとられたくない。そう思っていることは確かだった。

このあたたかな時間が続けばいい。

アルの嬉しそうな顔を見て、思う。
恋人夫婦家族、そのどれとも違って、どの関係でもどうでもいい。ただアルの側にいれればいい。
家族のシルカやソルとともに守ろうと、心に誓った。

だがそんな幸せな時間は続かなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

美醜逆転異世界に転移したおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した異世界だったが、柴田はそれに気付かない。 美人の奴隷が安かったから買ったが、いつか刺されるのではないかという妄想に取りつかれてしまう。 そんな哀れなおっさんの勘違いの話。

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

処理中です...