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第132話 ミルク

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急に起きだしたアルに、ゼノムは驚愕する。
「馬鹿な!?起き上がるはずがない!私の魔力は絶対だ!お前は何者だ!?」

アルはといえば、寝ぼけていてゼノムが何を言っているか、よくわかっていなかった。アルは首をかしげながら、「一応人間ですけど?」といった。

いやしかし、ゼノム以外のその他のエルフさんたちは、なんで皆、震えながらアルに向かって土下座しているんだろう?

『申し訳ありません!』
一斉にエルフ達は叫んでいる。

「もしかして、私にですか?」
アルは自分の方を指さし、エルフ達に聞いてみる。

エルフ達は固く目をつぶりながら、怯えた様子で何度もうなずいている。アルはまたもや首をかしげる。
エルフ達に謝罪される覚えなど全くない。
「いや、なんで、謝罪を?どうかしましたか?」

「お、おら、いや、僕ら、身の程知らずだったんです!」
とわけわからないことを麗しいエルフの少年が土下座しながら叫んでいる。
アルにはまったく意味が分からなかった。

「あ、あの?」
アルは意味が分からず、おろおろしていると、ゼノムの怒鳴り声が聞こえてくる。

「お前達、人間なんぞに頭を下げるな!我らは誇りたかいエルフなのだぞ!!馬鹿者。人間お前はもう一度寝むってもらう。もし眠らないというのなら、力づくだ」
もう一度ゼノムはアルに向かって、手を伸ばす。

「わ!待ってください!話し合いましょう!私はアルといいます!皆さんの名前は?」

「人間などと話し合う余地はないわ!」

ゼノムの手が伸びた瞬間、辺り一面に甲高い『ケェーンーーー』という不思議な鳴き声が、響いた。
見ると深い森の前に、でかい巨大な角の生えた白い鹿が立っている。
ゼノムは白い鹿を見て、眉を顰める。

「ハクレイか。神の使いが。馬鹿な、滅びたはずでは?」

巨大な大きな鹿の方を見て、エルフ達は膝をついて、白い鹿の方へと頭を深々と下げている。

『助けてほしい』
白い鹿は、アルの方を見てそういう。

「鹿さんって、話すんですか?」

『この森を救ってほしい』
そういうと、深い霧が起こり、白い鹿のハクレイは消えていく。

「ハクレイは神のみ使いだ。何か神のお告げかもしれん。やはりこのものを神にささげよということなのでは?」
ゼノムの視線が、アルに向かう。

アルは生贄にはされたくないと、慌てていう。
「あのでかい白い鹿さんは、森を救ってほしいって言っただけで、別に私を生贄とかいっていません!!」

「鹿?鹿とはあのハクレイのことか?」

「ハクレイ?あの白い大きな動物のことですよね?」

「動物など無礼な。ハクレイは神だとも神のみ使いともいわれる聖なる存在だ。エルフの森が絶えてから見ていなかったが。アルと言ったな。お前はハクレイの言葉を聞いたのか?」

「はい。森を救ってほしいって言っていました」

「嘘ではないな?」
ゼノムが手をかざすと、植物のツタが地面から伸びて、アルの首へと絡まって、締め付けてくる。

く、苦しい。
アルは何度も頷く。
植物の蔦は生き物のようにうごめきながら、アルの胸にいやらしく触れてくる。

ゼノム以外の、その他のエルフ達は驚きの声をあげながら、『ずるい!!』や『このむっつり!』『やめてあげてください!』などと声をあげている。

ゼノムの米神に、怒りでビキリと血管が浮き出る。
後ろを振り返り、「お前たちうるさいぞ!」と怒鳴り声をあげる。

「こんな人間。こいつは人間なんだぞ?我々エルフの気高い血とは違う。薄汚れた血だ。ハクレイの言葉を聞いたということは、こいつは神子なのか?いや、人間など認めん。このまま酸欠で気絶させて連れていく」

ゼノムが不吉なことを言っている。
いや、酸欠の前に死んでしまう。なんとかアルはもがくが、植物の蔦とは思えない頑丈さだ。はなれない。

体の力が抜けていく。
その瞬間、飛んできた矢が、アルの首元の蔦を射抜いた。

矢が蔦を切り裂き、地面に落とされたアルは、激しくせき込んだ。

矢が飛んできた方を見ると、白髪の髪の長いエルフが、こちらに向かって矢を構えていた。
木々の周辺には蛍のような光が揺蕩っている。その森の光を、そのエルフの白い髪を反射して、とても神秘的な輝きを放っていた。

「何をしている?お前達」
白い髪のエルフは、ゼノムの方を睨んでいる。

ゼノムはというと、驚いた様子で白髪エルフを見ていた。
「ツォレケルォ、か?何故こんなところに?」

「ツォレケルォって、エルフの矢の神と呼ばれた伝説の英雄だろう?里ではよく聞いていたが。見たことなかったが」
「生きていたのか?」
四人のエルフ達はひそひそ話し合う。

「何故人間の娘に対して、むごいことをしている?」
ツォレケルォは厳しく、ゼノムに問いかける。

「いや、私は娘ではなく、男です」
アルが訂正するが、誰も聞いている様子がない。

その時、ずきりと、アルの胸が痛んだ。ずきずき胸が熱を持ったように痛い。どうしたのだろう?
倒れた時に胸を打ったのだろうか?

「その人間にはエルフの奴隷の紋がある。そいつは我々の奴隷だ。何をしてもかまわんだろう」
ゼノムの視線がアルを見る。

「え?私奴隷だなんて、初耳なんですけど」
まさか奴隷の紋って、ジルがつけたあれなのかと、アルは慌てて腕を見る。が、本格的に胸が痛くなってきて、胸を抑えて悶絶する。

「それがお前たちの獲物ならば、俺は何も言わん。だがそいつはハクレイの声を聴いた。ハクレイは俺の獲物だ。そいつの前に現れるかもしれない。俺もそいつの近くにいさせてもらおうか」

「ハクレイは神の御使いだ!まさかハクレイを狩ろうとしているのではないだろうな!」
ゼノムの問いに、ツォレケルォは真顔でこくりと一つ頷く。

「狩って、食らう」
「馬鹿か!神を喰うな!!」
ゼノムの怒鳴り声。

どうやらゼノムというエルフは人間には冷たいが、信心深いらしい。ずっとゼノムの眉間のしわが消えていない。苦労性らしい。

ため息が聞こえて、アルの隣に突然ジルが現れた。
ここにはいないはずなのに。

「ジ、ジルさん」

一瞬のエルフの皆の視線が、突然現れたジルに向く。

「あなたたち勝手に私に許可なく、アルさんを連れて行かないでもらえますか?アルさんは私の奴隷であり、私の婚約者なのですから」

「え」
 ジルの婚約者!?
アルの驚愕とともに、アルの胸から白い液体が流れだした。
運というか間が悪いことに、アルは自分の胸が気になって洋服の前を開いているときに、溢れ出してきたものだから、皆の視線がそこに集中してしまった。

アルの胸から白い液体が出た。

「胸から膿が!?」
驚愕するアル。
「ど、どうしましょう!!ジルさん、私病気じゃ!?」

「そんな汚らわしいものを、私に見せないでください」
不機嫌そうなジルは、アルの胸から目をそらす。

「どうしたら」

「母乳か何かじゃないですか?なにか甘い匂いがしてきますし」
嫌そうに言うジル。相変わらずジルは、アルに冷たかった。

その他のエルフは驚愕したようで、皆硬直している。一人のエルフだけは違った。
ツォレケルォは首をかしげて、すたすたアルの元に歩み寄ってくると、アルの腕をつかんで引き寄せ、アルの胸に口をつける。

「甘い」
とツォレケルォは呟く。

アルはショックで、恥ずかしくもあり、涙目になる。咄嗟にツォレケルォを突き飛ばし、アルは自分の胸を押さえた。

「それは母乳だ」
ツォレケルォは口元を手で押さえながら言う。

「良かったですね。あなたがたのしょぼいエルフの里では食糧難に、子供たちの発育不足に悩んでたではありませんか?私の婚約者のアルは、乳だす獣の一匹として、役に立つのではありませんか?」
酷いジルの言い分に、アルはショックをうける。

「ひどい」

そのゼノムとツォレケルォ以外のエルフ四人は、なぜか震えながらアルに向かって土下座している。
「おら達が乳吸ったから」とエルフのその1のルーは、怯えて申し訳なく思っていたが、正直興奮していた。

ジルはため息をつくと、ゼノムの前に立つ。ゼノムは強力なジルの魔力の前に、たじろいで
数歩下がる。
ジルは冷たい視線のまま、変わりない。

「あなたたちエルフは、私がエルフの森を独占したと勘違いしているようですが、あの森はエルフの古来の森の種を、私が植えて育てたものです」

「嘘をつくな!」

「本当です。試しにあなたたちのエルフの里に、古来のエルフの森を再現して見せましょうか?」

「古来のエルフの森を再現できるというのか?森の魔力に我らが守られていた時代の」

「ええ、もちろんです」

「いいだろう。もし逆らったり逃げたりしたら、お前の婚約者の人間を殺してやる」
睨むゼノムに、やはりジルの冷たい怜悧な視線は変わらない。
「ええ、どうぞ、ご勝手に」
あっさりジルは言い放つ。

いや、ゼノムさん、私に人質の価値はないと思いますよと、アルは冷や汗をかきながら、ジルとゼノムの話を聞いていた。

アルはあんまりの出来事に落ち込んで一人涙ぐんでいると、ツォレケルォがアルの顔を覗き込んでくる

「獲物がいないと、すぐに飢えて死ぬ。乳がでているということは、飢えて死ぬこともない。恵まれてることだ。何を落ち込んでいる?」

真顔で不思議そうにツォレケルォがいう。

「いや、あの私男なんですが・・。本気で言ってます?」

「ああ。もちろん本気で言っている」

ツォレケルォは天然だと思う。
がっくりアルは項垂れたのだった。
自分の乳で栄養は取れないと思いますよ・・・・。


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