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第127話 妖精さん
しおりを挟むよわっているジルのためにも、なにか消化の良い食べ物を作らねばと、アルは台所のテーブルの上にある食材をみた。
異世界の食材はよくわからないものが多い。
置いてある緑色の粉の匂いを嗅いでみる。粉の匂いは、レモンと胡椒を合わせたようなにおいだ。
きっと異世界の調味料なのだろう。
匂いで置いてある食材の匂いを嗅ぎ、ある程度予想をつける。
アルは紫色のカエルの中に、いろいろな調味料をつめて煮込んでみることにした。幸い、異世界と塩は共通だ。イメージはサムゲタンだ。
あとミルパを作った。ミルパは、この世界にあるミルという芋の粉を、獣の乳で練り上げた食べ物で、主食の一種である。
アルはミルパに、レモンの匂いがするハーブをいれてみた。
鍋をかき混ぜていると、アルの耳元で、突然声がしてくる。
「あなた、誰ぽー?」
不思議な声。
「え!?」
驚いてそちらを見ると、アルの耳の側に、手の平くらいの小さな羽が生えた妖精が、そこにいた。
キラキラ光る羽に、小さな先が少しとがった耳。その小さな小さな体。アルが昔本で見たそのままの妖精が、羽を羽ばたかせながら、こちらを不思議そうにみている。
アルは一瞬自分が夢でも見ているのかと思った。
「どうしたポー?」
妖精に頬をぺちぺち叩かれて、アルは我に返る。
「僕はラル。よろしくぽー。君は?」
妖精さんはラルというらしい。
アルは我に返って、引きつりながらに微笑んだ。
「は、初めまして、妖精さん。私はアルといいます」
「妖精?違うポー。僕、ラル」
「ら、ラルさんよろしくお願いします」
これが妖精?ラルとの出会いだった。
「僕はジルの友達だポー。君もジルの友達?」
不思議そうにラルが、こちらを見ている。
「と、友達です。多分」
ジルには思いっきり、嫌われているが。
アルはジルのことはそんなに嫌いではない。ジルは時々ひどいことを言うが、なんだかんだ面倒見がいい優しいと思う。
アルはため息をついて、煮込まれている鍋の方を見る。
ラルは涎をたらしながら、鍋の方を見ている。その様子に、アルは微笑んだ。
「スープ、味見してみます?」
そう言ってみると、ラルは何度も頷く。
「おいしいか、わかりませんよ」
小皿にカエルスープをよそってラルに手渡すと、ラルはスープをすごい勢いで飲み干したのだった。
ラルは上機嫌で、ぽーぽー言いながらスープを飲んでいる。
「王様に食べさせたいくらい、おいしいぽー」
「王様?」
「羽妖精族の王様だポー」
やはり妖精っていうんだと、納得するアルである。
「王様も仲間たちも、今はもう深い眠りについていないんだぽー」
悲しげなラルの様子に、アルは心を痛める。
「そうなんですか?」
「むかし僕らの森は激しく燃えて、無くなってしまったんだぽー。大切にしてきた森なのに、全部ハイエルフやエルフやエルドラ族のせいで。
あいつらが大切な森をめちゃくちゃにしたんだ」
ラルは怒りに顔を歪ませていると、アルの方を見て微笑んだ。
「ジルはエルフだけど、いい奴だぽー。仲良くしてあげてくれぽっぽ」
にこにこ嬉しそうに笑うラル。
どうやらラルはジルのことが好きらしい。
「もちろんです」
アルも微笑む。
「ジルにかかった呪いをキスで、解いてあげてほしいぽー」
「え?」
唐突なラルの言葉に、アルはきょとんとする。
「うう。じ、ジルをよろしく頼むポー」
突然ラルは苦し気な様子になり、体を震わせる。
「だ、大丈夫ですか?」
「………呪いを解くのはいつだって、王子のキスなんだ……ぽー」
そう言い残し、ラルは唐突に消えてしまった。
「ラルさん!!」
一人残されたアルは、呆然とする。
一体どういうことなのだろう?ラルは最後すごく苦しそうだったけれど、大丈夫だろうか?
よくわからないが、ジルにキスをすればいいということなのだろうか?
そんなことをしたら、今度こそジルにアルは嫌われそうだけど。苦しそうな様子のジルが救えるならいいけれど、アルは王子ではない。
アルは自分で出した魔法の花を、今度ジルに進めてみようと思う。アルの魔法の花は食べると、傷などにきく。きっと、ジル達にも効くはずだ。キスなどしなくてもいいと思う。
アルは決意し、料理をさらに盛り付け始めた。
「ジルさん、ご飯できましたよ」
ごくりと飲み込み、アルはジルの部屋のドアを叩く。
「どうぞ」
部屋の中からジルの声が聞こえてくる。
アルは部屋のドアを開けると、そこには気だるげなジルがベッドの上にいた。
「ジルさん具合悪いと思って、ご飯部屋にもってきてしまいました。いいですか?」
そうアルはホカホカのご飯をお盆にのせて、ジルの部屋?に持ってきていた。
「よくやりました。助かります」
仏頂面でジルは言う。
カエルのスープを一口飲み、ジルは不機嫌な様子でアルの方を見て、言う。
「あなたの料理、神の祝福でもかかっているんですかね?」
「え」
「あなたの料理は、異様においしすぎます。変な人だな」
なぜかジルに、アルは呆れたように見られる。
それは褒められているのだろうか?変って。
ジルの言い回しに、アルは首をかしげる。
「……前に話しましたが」
言いにくそうにジルは一度言葉を区切り、小声で口を開く。
「私の父を、……誤解しないでください。父は私を、本当に愛してくれました。去り際に私にひどい呪いをかけましたが、本当に優しい人で」
ジルは滅多に見せない蒼白な様子で、俯く。
だからアルは、「そうですか」としか言えなかった。
「そうだ。先ほど、ラルさんに会いましたよ」
そうアルが言ったとたん、ジルはピタリと、動きを止める。
「ラルはなんて?」
どことなく顔色が悪いジルは、呆然としている様子だ。
「じ、ジルさんに呪いがかかっているって言っていました。ラルさんは苦しそうにしていて、突然消えてしまいました。ラルさんは大丈夫でしょうか?」
なんとなくアルはキスについては、ジルに言えない。
ジルは眉を寄せ、険しい表情になると、ベッドから立ち上がり、上着を羽織る。
「少し出かけます。あなたはこの家から出ないでください」
「待ってください。まだジルさんは顔色が悪いです。もう少し休んでっいってください」
慌ててアルは、ジルの腕をつかむ。
ジルの冷たい視線が、アルを射抜く。
「触らないでください。男娼風情が。汚らわしい」
「え」
「あなたは男娼らしきことを行っていたそうですね。あの町で火事から逃げている娼婦たちから、あなたのことを聞きました。誰にでも体を売るなんて、信じられません」
ジルはアルの腕を振り払う。
強い力に、アルは後ろによろめく。
「あなたは前に私のことが嫌いだといいましたね?私も初めて出会ったときから、あなたが大嫌いです」
そのままジルは部屋を出ていく。
「ジルさん!!」
なおもジルのことを追いかけようとするが、ジルはあっさり出てってしまう。
一人残されたアルは、なんだかとても不安な気持ちになる。
男娼をしていたことを、知られたくないなと、思う。それがだれに知られたくないのだか、アルは思い出すことができずにいた。
けれども男娼をしたことは、後悔はしていない。あの時はお金が必要だったし。ただ仕事で体を売っているだけだ。汚らわしいも何もないと、アルは思ってる。
ジルには嫌われてしまったなと、苦く笑む。
今度ジルが戻ってきたら、ジルに絶対アルの魔法の花を食べてもらおうと、アルは決意する。
ジルの呪いを解くには、王子のキスが必要なのかもしれないけれど。アルは王子ではないし。
ジルの母上さんのところにも、料理を持っていこうと、立ち上がった。
ジルはひとりになると、自身の震える体を抱きしめる。
アルが目の前にいると、ジルはおかしくなる。
憎悪、嫉妬、羨望、そして、……。
こんな薄汚い感情は、認めない。
ジルは唇をかみしめ、一度俯くと顔を上げ、洞窟の先の闇を睨みつける。
「そこにいるんでしょう?リリアナ」
そうジルが言うと、赤いルージュの女が闇の先から現れ、ジルに対して微笑んだ。
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