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第114話 ひどい目
しおりを挟むげらげら笑う獣人たちに、アルは恐怖して冷や汗をかく。
「悪かったな、俺たち臭くって。お前がきれぇにしてくれよ」
茶色い大きな狼の顔をした獣人が、べろりとアルの顔をなめた。
「臭いです」
思わずアルが言うと、アルは殴られて後ろに吹き飛んだ。
「俺はテッド。無理やり女を犯すのが好きなんだ」
テッドと名乗る狼獣人が、アルの体の上にのってくる。アルのことを見ているクロウの赤い瞳に気づいた。
犯されるのか。
恐怖で体がこわばる。つい子供みたいにアルは泣いてしまう。体を開かれる恐怖に、アルは地面を握りしめた。
皆息をのんでアルの方を見ている。
誰も助けてくれずに、アルは犯されてまわされるはめになった。
初キスといい、アルの初体験はろくな目に合わなかった。
犯されている間、「ソニアさん、みんな、シルカちゃん」ぽつりぽつりと、アルは呟いていた。そう呟くことによって、アルの心をつないでくれるようなきがした。
その様子をクロウは己の顔に爪を立ててみていることに、アルは気づいていなかった。
「お兄様」
ロゼット王女は、突如現れた第一王子オウルの元へと駆け付ける。
「やあ、ロゼット!久しぶりだね」
オウルはこげ茶色の髪と瞳の美しい顔をした王子だ。不細工と言われるロゼットとは正反対の。
ロゼットは兄のオウルのことがあまり好きではなかった。
世間知らずというのか、人の気持ちに愚鈍なオウルとは、ロゼットは日ごろ分かり合えないと思っていた。
「オウルお兄様がいらっしゃるなんて、何事でございましょうか?」
オウルは過保護すぎるほど守られている。不用意な外出だなんてできないはずだ。
オウルはにこにこ微笑みながら、前で手を組んでいる。オウルは子供のように、何をしでかすかわからないところがある。ロゼットは気を引き締める。
「いやね、王がここ最近のこの下の町の騒ぎを、問題視していてね。目障りだから、早くこの騒ぎの収集をつけてほしいってさ。手っ取り早く放火魔でもなんでもでっちあげて、牢屋に放り込めばいいんじゃないかなぁ」
オウルはそばにいる翼が生えた猫の聖獣をなでながら言う。
「分かっています。騒ぎの主はシルベリアである私が裁いてお見せします」
静かなまなざしを、オウルに向ける。
オウルはにっこり笑う。
「それは王位に逆らうものを処罰するということだよね。不用意に情報を漏らして、王位に泥を塗るようなことはないようにって、王が言っていたよ。下手なことをすると、だめだよ、ロゼット」
にっこりほほえんでオウルは、またロゼットを見る。
そのオウルの瞳は笑っていない。逆らうものに容赦しない有無を言わさない瞳だ。ロゼットは悟られないように、息をのむ。
「もちろんです。オウル様」
「分かってくれてうれしいよ、ロゼット」
オウルは無能な王の腰ぎんちゃくというのが、周囲の評価だ。だがオウルは王にはたいそう忠実だ。へまをやらかすものは、容赦がない。
うまく立ち回らないと、ロゼットには未来がないだろう。
「じゃあね、ロゼット。しっかりやるんだよ」
オウルが去り、一人ロゼットは座る。
「ロゼット様」
心配そうな騎士のクロエットの声。ロゼットは「一人にしてください」そう言った。クロエットは、「畏まりました」といって去っていく。本当はその後ろに縋り付きたかった。だがこれでもロゼットは王女なのだ。
「どうすればいいの?」
ロゼットは顔を覆う。
ロゼットにはもう事実は見えないのだ。
『それはあなたが瞳を閉じてみようとしないからでは』
美しい女の声が聞こえてくる。
ロゼットははっと、顔を上げて声の方を見る。
目の前の鏡には、美しい正義の法の女神のシルベリアが映っていた。
シルベリアはひどい女神だと思う。
事実や正義をいったところで、その言ったものはけして幸せになるでもなく、殺されてしまうかもしれないのに。
だがそれがロゼットの役目だというのならば、神の目が見えないというのなら、ロゼットが人々の声を聴き、事実にたどり着かなければならないのだろう。
それこそロゼットの役目だ。
ロゼットは下町を焼いた犯人を探し出すために、裁定の場を設けることにした。
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