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第70話 様々な問題が降りかかる

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アルは歩いている途中の道すがら、自身がソニアにセクハラをしてしまったかもしれないことに気づく。
相手に勝手に抱き着くなんて、あのセクハラの獣人のレニンとまったく同じじゃないか?そう気づいてしまったアルは血の気が引く。
 あんなにレニンのことに怒りを感じているのに、自分も同じことをしまうなんて、ショックである。
レニンにあまり強く言えない。
帰ったらソニアさんに謝ろう。そう決意して歩き出す。

ジュラの薬局に行く途中、アルの体は過去のことを思い出して、体が震えてくる。
この辺りを歩いているときに性的暴行やら追剥にあったのだった。
警戒して早歩きで歩き出そうとするが、スラムには相変わらず道端に虚ろな目の人が座り込んでいる。その中に子供もいる。あの時のライのように。

偽善だとわかっているが、アルは所在なげに立っている子供や座り込んでいる大人に、小さな袋に詰めていた味をつけて干した野菜と少しのお金を置いていく。
食べ物は毒が入っているかもしれないと不安を与えてしまうし、類似犯がでるかもしれないから、たべものはあまりよくないかもしれないなと、アルは思案する。

「君、相変わらずそんなことをしているんだ」
突然背後から聞こえてきた男の声に、アルの心臓は飛び跳ねる。

「あ、あ、あなたは?」
「君の後をずっとついてきていたから、あんまりアル君にお久しぶりってかんじないなぁ」
そこには目の黒い髪と男が、邪悪に笑いながら立っていた。
 名前は、確か……。

「ひどいなぁ、アル君、俺の名前忘れているでしょ?」
「すみません」
「君の守り神のキリルだよ。忘れないでほしいなぁ」
「一方的に来て忘れないでと言われても」
「見てみなよ、アル君。食べ物を持っている君を、周りはギラギラした目で見ている」
 キリルは指をさす。
キリルの指さした方を、アルは見る。そこには物陰からぎらぎらしている目で、アルのことを見ている人間がいる。

「どう君から全部を奪ってやろうかなって、あいつらは君を狙っている。少しの食べ物やおお金を分け与える君を感謝の目でみているわけじゃない。少しの食べ物をたまにしか分け与えられても、それは救いじゃないからね。食べ物がない世界で、食べ物を分け与えるものはただの獲物なのさ。……警戒がなさそうな食べ物を分け与える人間。いつか弱い君は殺されるか、売られるだろうね。どうする?それでも君は分け与え続ける?」
嘲るようにアルを見るキリル。

確かにキリルのいうことも一理あると思う。
弱いアルはいつかまた同じ目にあうだろう。
人間を餌としか思えない肉食獣を、餌を分け与えておびき寄せている人のように。
けれどもアルは、肉食獣でもない、苦しんでいる人をただ見ているだけなのは、苦しいのだ。
「そうかもしれませんね。けれど、苦しんでいる人を放っておけないんです。私がもっと強くならなければいけませんね」

全員幸せに餓死しないように暮らせるにはどうしたらいいのだろう?今のままではだめだ。なにかしなければいけない。

「俺なら君を守ってやれるよ!」
にっこり微笑むキリル。
「え?」
「俺と契約すればね!」
「契約ですか?今のところ間に合ってます」
嫌な予感がするアルである。早くジュラの店に行きたいと歩き出す。
「待って待って!」
「うぐ」
アルの体は硬直して動けなくなる。

「契約は簡単!君の体に俺を寄生させてくれればいいよ!そして少し君の血をもらえれば!魔人族は影がないから、存在するのも大変なんだ」
「嫌です!!怖い!!」
「ありがとう!これからよろしくね!俺はいつでも君の側にいるから」
一方的によくわからないことをキリルは言うと、アルの影の方へと解けるように消えた。アルはその場にへたりこんだ。
気分は最悪なアルだった。

 気分が最悪な感じのアルは、やっとこさジュラの茶屋にたどり着く。
「おはようございます」
見るからに元気がないアルに、ジュラは「おはようさん」といつもの不機嫌顔で言う。
「あんた変なにおいがしているかが、大丈夫かい?」
けげんそうなジュラ。
「一応体は毎日拭いているんですけど」
お風呂の開発をしたいなと思う。日本人だからお風呂に入れないのは、とてもつらい。どうしたもんかと、アルは悩む。

「いやあんたの体臭の話じゃなく。まぁ、いい。さっさと茶を買っていきな。今日は茶を作る日じゃないしね」
「ジュラさんに聞きたいことがありまして、ソニアさんが毒におかされていまして。毒にきくお茶とかありますか?」
「あるにはあるが、どくのしゅるいにもよるね」
「確かソニアさんは、聖獣の赤い鳥の毒と言っていました」
焦りすぎててアルは毒について、ソニアに詳しく聞きそびれていた。もっと詳しく聞いておけばよかったと後悔する。

「聖獣ってあの聖獣かい?」
驚くジュラに、アルは頷く。
「多分そうです」
「無理だね。症状を軽くする茶はあるが。そもそも聖獣のそれはたぶん毒というか、呪いに近いんじゃないか?」
「呪い?」
「聖獣はたいそうな魔力もちだ。普通の毒じゃない可能性が高い。しかも茶屋に話を持ってこざる負えないほど、毒を解除できないとなると、体をむしばむ呪いに近いんだろう」
「そうですか」
「聖獣に直接謝るしかないんじゃないか?」
ははっと、ジュラは笑う。

「聖獣は話ができるんでしょうか?」
「魔力が高いものはたいてい意思疎通ができる場合がおおいね」
「ありがとうございます!さっそく聖獣さんに謝りに行ってきます!」
「お待ち!あんた弱いだろうが!死ぬかもしれないよ。それでもいくのかい?」
「ソニアさんに死んでほしくないんです!」
「…仕方がないね。私が連れて行ってやる。今日は無理だから、明日店に来な」
「ジュラさん……!」
「なんだい?その顔」
「ありがとうございます!この御恩生涯忘れません」
「大げさなんだよ!」
ジュラは顔を赤くして、テーブルを叩く。
照屋さんである。

「今日の分のお茶用意しているから、さっさと持っていきな」
ジュラはそういって、煙草を吸い始める。

「そうだ。ジュラさん、これ何か知りませんか?」
アルはあの赤い石をジュラに見せた。
ジュラは目を見開き、ガタンと大きな物音をたてながら立ち上がる。
「それ!」
「森で拾ったそうなんですけど」
「それは龍の宝玉だよ。魔力の高い龍が生まれた時から持っている石だ。親の龍の魔力の残りとかいろいろな説がある。その宝玉恐ろしく魔力が込められているね。神龍レベルの宝玉じゃないかい?
宝玉は大切な代物だ。早く龍自身に帰さないと、あんた命の危険だよ」
「ええ!?」
「あんた本当に厄介ごとをもってくるね」
ため息を吐くジュラさん。

「どどうしましょう」
「放っておいても、龍はあんたを追ってくるだろうね。殺されるかもしれないが、その宝玉はあんたが返すしかないよ」
「そうですか」
ただ石を拾っただけなのに。災難である。まぁ、一番初めに拾ったソルが危険な目に合わなかったのが、幸いだが。
「この石を持った瞬間、森に飛ばされたんですけど。やはりこの石にはそういう効果があるんでしょうか?」
「さぁね。その石を龍が呼んだんじゃないかい?あまりその石直接触らないほうがいいよ。袋にでも入れておきな」
「ありがとうジュラさん。ジュラさんはこういう石を持っているんですか?」
「人間でいうへその緒みたいなもんだ。生まれついてしばらくしてから、飲みこんだよ。宝玉は大切に保存するか、飲み込んで食らうか、どっちかだね。私ら龍はキラキラしたものに目がないからね」
「そうなんですか」
「そうだ。龍の本性は皆凶悪だ。あんた喰われないように気をつけな」
「あの、この宝玉捨ててもいいですか?」
「その龍に顔を見られてなかったらね。それに龍は匂いで追ってくる。宝玉の匂いがする人間を見つけて、その人間がもしその宝玉を持っていなかった場合、私だったらその人間に宝玉の場所を吐かせるために、拷問するね」
「そ、そうですか」
アルはがっくりとうなだれた。

「まぁ、龍の奴に宝玉を返したとしても、あんた、龍に食われるかもしれないけどね」
追い打ちをかけるジュラなのだった。
 
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