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67話 夜話

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考えてみれば、アルの母親は柳がアルに暴力を振るうところは信じてくれたが、性的な暴行をふるうところは信じてくれなかったことも思い出した。
「アルみたいな不細工が、そんな目に合うわけないでしょ!」と別の時にひどいことを言っていたような気がする。

確かにアルは不細工をこえて、面白顔をしているらしいし、あのとき柳がなにをしようとしていたのか、謎である。いや、不細工って痴漢にあうのだなと、アルは首をかしげる。
百歩譲って、柳が同性愛者だとしても、そもそも何故霞と付き合うとか言っていたのだろうか?
それにしても霞が柳と付き合うなんて、考えるだけでもむかむかするアルだった。

アルの過去話を聞きいているソニアは真剣そのものだ。
話を真剣に聞いてくれている。そんなソニアがアルは好きだった。

よたよた寝ぼけたライがやってきてアルに抱き着く。アルはよしよし頭をなでて、膝の上にライの膝の上に寝かしつける。部屋の奥ではおぎゃおぎゃ赤ん坊が泣いているのが聞こえる。三時間おきにミルクの時間かなと、部屋にある魔法道具の時計を見る。

「柳という男、今度であったら殴ってやる」
ソニアがそういうので、アルは泣きそうになる。
「ありがとう。ソニアさん」
ソニアがもし美醜逆ではない世界で、アルのことを、本当のアルの顔を見たら、そう言ってくれるのだろうか?
ふとそんなことをアルは思ってしまう。

「アル?」
不思議そうなソニアの顔。
「ううん。なんでもないです」
「しかし、そのアルの記憶の中の神という存在は、何者だ?名前は思い出せないんだろう?」
「はい。まったく」
「邪悪な存在か。この世界にも似たような存在はいるな」
「え、いるんですか?」
「魔王や魔人の王とか、色んな伝承はある」
「さすがファンタジーの世界ですね」
「ファンタジー?」
「私の前といた世界とはやはり違うという話です」
「アル、記憶がもどって、元の世界に戻りたいか?」
「え?」
「少し元居た世界を思い出したんだろう?」

「………あまり戻りたくないですね。姉には会いたいと思いますが、この世界にはソニアさんたちがいますし」
「そうか」
そういったソニアさんは無表情だったが、頭上にある獣の耳はぴくぴく動き、尻尾は高速でふられていた。獣の部分は人と違って、素直であるらしい。
アルはそれを見て、微笑んだ。

ソニアが手を伸ばし、アルの頭をなでた。

「俺がお前たちを守る。ライを部屋に連れていってくる。この部屋は寒いから」
ソニアはライを抱き上げて、部屋を出ていく。
力強いソニアの筋肉質な広い背中を、アルは見る。
昔のことを思い出して寂しくなっていた心は、ソニアのおかげで暖かいものに満たされた気がする。
アルはあくびをしてそろそろ寝ようかと考える。
しかし、そもそもなぜ昔のことを思い出したのだろう?あのとき白い蛇に襲われて、その後黒い龍が口からすさまじいなかをはいた衝撃でのショックで、思い出したのだろうか?と、アルは首をかしげた。
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