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第44話 寒い夜と、暖かい夜

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スラムの夜は寒い。今は暖かな季節だからいいが、冬だとどうなるか恐ろしい。

「ハウナさん、部屋の一か所に集まって、暖を取りましょう。私がいつも寝ている部屋に皆さんを集めてください。私は薪でお湯を沸かしてお茶を入れてきます」

そうアルが言うと、ハウナは深刻な顔で頷いて走って行った。



どうしたもんかとアルは頭を悩ます。

各部屋に暖炉はあるが、そんなに薪はない。朝まで持つかどうかわからないほどの量だ。

暖かさを保つのは生命維持の基本なのに、アルはミスを犯したと、とても反省する。

ソニアがいない今、薪の木はどこかで買うか、森に取りに行かなければいけない。まだ薪の木はあるが。

そこでアルは思い出す。

確か岩を温めて水に入れて、熱湯にしていた気がする。だが、風呂を作るだけの木の板がない。食費だけで精いっぱいだ。どこかで木の板を見つけて風呂づくりしたいけれど。

そもそも木の板でどうやって風呂を作ればいいのかわからない。釘か何かでつなげればいいのか?

そこから水が漏れそうだ。

アルはサヴァイバル経験はまったくない。とにかくやってみるしかない。



火石を燃えている薪の中に入れてみる。入れて何分かたって、石を取り出して鍋の中に入れたいが、熱々の石を木の枝で引きずりながら、なんとか鉄の鍋に入れてみた。

結果はすごい熱気が充満している。

すごい熱い。成功だ。

アルは目を輝かせる。これで凍死は免れそうだと、少しホッとする。だが凄まじい勢いで石が蒸気を発している。どうやってこの熱せられた鍋を部屋に持っていこうか、頭を悩ませた。なんとか数分経ってから布で鍋を持ち上げ、ハウナたちがいる部屋に行くと、皆寒さで震えていた。



「暖かいの持ってきましたよ。激熱なので気を付けてください」

熱していた石に、少し水をかける。

 一気に部屋に熱気が充満する。サウナのようだ。というか、サウナってなんだ?内心アルは首をかしげる。

「うわぁ、暖かい!」

にこにこレオン君は目を輝かせている。

咳き込んでいたウノリ君を心配そうに見ていたハウナさんは、ほっとした様子だ。

兎獣人の女の子のピーノちゃんはぬくぬく寝ている。大物だ。寒い中なのでアルは心配になってピーノちゃんの顔を覗き込む。

ピーノちゃんはどうやら息をしてすやすや寝ている。



「あれ、ルナルさんは?」

部屋にルナルがいないことに気づく。

「あ」

ハウナは口を開ける。

どうやらルナルをこの部屋に連れてくることを忘れていたらしい。

「今呼んでくる。あたいあの人苦手なんだよな」

そうぶつぶつ呟きながらハウナが部屋を出ていくと、息子のウノリがアルの方を睨んだ。ウノリにアルは正直嫌われている。

体を拭くタオルと、豆茶を入れにアルは台所に向かう。

とほほ。

嫌われるのは存外つらいなと思う。



辺りは暗いが、部屋の中は照明らしき発行する岩が置いてある。この世界ではいろいろ岩が役に立つんだな。

ソニアに会いたいなと思いつつ、アルは言ってあった豆で、豆茶を入れ始めた。



部屋に戻ったアルを待っていたのは、ハウナのなんか熱いという言葉だった。確かに汗かきそうな部屋の暑さになっていた。

熱い。



アルは持ってきたタオルで子供たちの汗を拭き、濡らしたタオルで子供たちの体を拭き始めた。

ハウナもウノリの体を拭き始めた。



「みんな体かゆくない?かゆいところあったら言ってね。あと体調悪いところあったら言ってね」

そうアルが言うと、レオンもピーノもなぜかにこにこ微笑んでいた。

みんなによくブラシしておこうと、丁寧に子どもたちにブラシで髪をといた。

俯いているルナルにも、丁寧にブラシする。

子供たちの体を本格的に洗って、お風呂に入れてあげたいなと、アルはしみじみ思う。



「私も体拭くので、こちらを見ないでくださいね」といい、アルも服を脱いで体を拭き始めたのだが、皆の視線がなんだか痛くて、皆から背中を向いて体を拭いた。



ルナルに気持ちを落ち着ける氷を入れたお茶をアルは手渡すと、ピーノはひくひく鼻を動かしながら不思議そうにそのお茶を見た。



「お花のにおいがする。ピーノも飲みたい!」

どこかやはり兎に似ている、まん丸目をピーノはきらきら輝かせる。



これ気持ちを落ち着かせるお茶だけど、子供が飲んでいいものかと、アルは迷う。だからアルは子供用にあの店で買ったお茶を、ピーノに手渡す。

「飲んでみる?」

子供の気分を落ち着かせるお茶も買い込んで入れてきたので、そのお茶をアルはピーノに手渡す。

「うん!」

元気よくお返事する。

その横で物欲しそうに見ているレオンにもお茶を手渡す。

「レオン君の分もあるよ」

レオンはアルに抱き着く。

可愛い。



大声でハウナが抱いている赤ん坊が泣き始めた。ハウナはため息をつくと、「少し外で赤ん坊を泣き止ませてくる」

ハウナが外に行こうとするので、アルは止めた。



「外寒いので、暖かなお茶を飲んでから行ってください。その間私赤ちゃん見ているので。他の部屋も暖かくするので、待っていてください」

アルは別の部屋も暖かくするべく、台所に向かった。

「ありがとう、アルさん」

そんな声が、後ろから聞こえてきた。

「いえ、辛かったら言ってください。私も交代で赤ちゃん見るので」

「あんたなら抱かれてもいい」

「いや、勘弁してください」

揉め事はごめんなアルだった。




(注意)暖とるの無理かもしれないな。
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