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第39話 不幸が次々やってくる。

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帰ってきたアルとソニアを出迎えたのは、ソルのぎゃん泣き顔と、スリの奥さんハウナの鬼の形相でした。

眩暈がするアルに、ソルが抱き着いてくる。

ソルが抱き着いてくるのは、久々だなと感慨深くソルの背中をなでる。



「ど、どうかした?ソル君」

「あの女が俺のこと怒鳴る!」

ソルはハウナの方を指さして、泣く。

「あんた、どういうしつけしてんだい!!その子、妙な虫持ってきてうちの子をこまらせるようなことして!」

ハウナは鬼の形相をして、怒鳴る。



うーむ。いろいろ察した、アルなのでした。

「ハウナさん、落ち着いてください。ソル君に事情聴きますから」

「あんた、まさかその子の味方する気?人に全部押し付けてって、私仕事内容も全然わからずに、死ぬかと思ったんだから」

「すみません。今とにかくお茶入れますから、ゆっくり話し合いましょう」

というわけで、ハウナとソルとアルで、台所で話し合うことになったのだが。



「母さん、赤ん坊泣いてる!どうしよう!!」

とハウナの長男のウノリがやってくる。

「アルさん、あんたの留守中、黒猫がやってきて赤ん坊を預けていったんだ。私の赤ん坊だけでいっぱいいっぱいなのに。私もうどうしたらいいのか」

そういって、ハウナが泣き出してしまう。

「母さんを泣かすな!」とウノリはアルを睨んでくる。

「俺が赤ん坊をみてくるから、お前たち休め」

ソニアがそう言ってくれたので、思わずアルはソニアのことを拝んだのだった。




アルは人数分お茶を入れて、台所にいる皆に豆茶を入れた。



「お茶どうぞ」

ハウナの前に置く。

「ありがとう」

「仕事内容深く説明できなくてすみません。次からはきちんと説明できるようにしますから」

「いや、あたいこそごめん。子育てに切羽詰まって、子供にすぐ怒鳴っちまう。よくないと思うんだけど、いうこと聞かないもんだからいらいらして」

「辛かったらいってください。私はハウナさんの味方ですから」

「俺、お前嫌い」

ソルはハウナの方を指さす。

するとハウナは鬼の形相になって、ソルの方を見る。アルは「まぁまぁ」と、ハウナをなだめる。



「こら。ソル君、人に指さしちゃいけません。なんでハウナさんのこと嫌いなの?」

「すぐ怒鳴るし、怖い」

「どうしてハウナさんはソル君のこと怒鳴ってきたの?」

「俺、仲良くなろうと思って新入りの奴に、綺麗な虫をあげようとしたんだ。そうしたら、その女が怒鳴ってきて」

「その女じゃなくて、ハウナさんときちんと名前で呼ぼうね。だめでしょう?虫とか苦手な子がいるんだから」

「う」

「その子、うちの子が怖がっているのに、虫もって追っかけてきて。そういうことを面白がることが、いじめにつながるんだよ!」

ハウナがにらみをきかせる。

「俺は虫をやろうと思って!」

「あんた、うちの子が逃げたのに、追いかけてきたよね?」

とハウナはソルを睨む。ソルの尻尾がぶわぁあと膨らんだような気がする。

「ウノリ君に、謝らないとね」

「俺は悪くない!虫をやろうとしただけだ!!」

そう叫んで、ソルは台所を出ていった。



それを見送ったアルは、ため息をつく。



「ハウナさん、うちの子がすみません」

「アルさんが謝ることじゃないよ。まぁ、そんなに悪気はなさそうだとは思うけど」

ずずっと、ハウナはお茶を入れる。

「今日はご苦労様です。来客はどんな方が来ましたか?」

そのアルの言葉に、ハウナは深い深いため息をつく。

「聞きたいかい?」

「正直聞きたくはないですが、仕事なので」

「黒猫の獣人の男が背中がかゆいといってきたので、自分でかけって、追い出しておいたよ」

「うち全身ブラッシングの仕事もやっているんです」

「そうなのかい!?そりゃ悪いことをしたね」

「いえ、説明してない私も悪いですが、次からはお客さんが来たら私が留守だということを伝えて、今日はお休みしているということを伝えて下さい」

「分かった」



 それからハウナのもとには、ご飯を食べたいが、お金がないのでつけておいてくれという黒猫獣人がきたりとか、赤ん坊を預かってくれという黒猫獣人の人とか来たらしい。



「大変でしたね。お給料は月払いでいいでしょうか?」

「食事出してくれるなら、月払いでいいよ」

「分かりました」

そんなこんなで、ハウナとアルの今日の仕事の話し合いは終わったのだった。



「そういえばスノーリーさんはどうしてますか?」

「さぁね?あの人意地になったらてこでも動かないから。厄介な性分だよ。変なことに巻き込まれてないといいが」

「この家にいることをスノーリーさんは知っているんでしょうか?」

「もちろん知っているよ」

ハウナはどこか遠い目で、ため息をついた。

赤ん坊が泣いている声が遠くから聞こえてくる。

「ずっとあたい一人きりで子育てしてきて、正直金もなくて限界で、あの人のこと愛しているけど、ちっともあたいの話をきいてくれないあの人のことがあたい、嫌いでもあるんだ。あの人が大変なのはわかっているけど、変な意地はらないで、本当はそばにいてほしいだけなんだ」

そういって、ぽとりとハウナは涙を流した。



「スノーリーさんが戻ってきたら、みんなで話し合いましょう」

アルはハンカチをハウナに手渡す。

するとこくりと、ハウナは頷く。

「今度黒猫獣人さんにスノーリーさんのこと聞いてみます。あの人たちかおひろいから、スノーリーさんの居場所わかるかもしれません」

「ありがとう。アルさん。あたいあんたにくらっときそうだよ」

アルはなんとか笑みを浮かべて誤魔化す。

これ以上の厄介ごとはごめんである。



次の朝早起きしてアルは朝ごはんを作った。赤ん坊用のご飯はもう一度ソニアとハウナに聞きながら慎重に作る。



そうして皆で朝ごはんを食べ終え、ソニアは冒険の仕事に行った。



それから次から次へとどこから聞きつけたのか、アルがいることをなぜか知っている黒猫獣人の人たちは、アルに子供を預けてくる。そして狐の獣人の人も子供を預けにやってきた。

ジャファールさんにもう一度面会に行こうと、アルは考えていると、玄関先で「ごめんください」と声がした。



「はい」

アルが玄関先に向かうとそこには、老婆の女性がいた。

「あの、どちらさまでしょうか?」

「私はキリエ、この家をかしてやっている、大家だ。あんたこそ誰だい?私はソニアたち三人に貸してやっているんだ。他の人間が住んでいるなんて、聞いていないよ!」

「すみません」

「今すぐ出て行ってもらおうか?」

その言葉に、血の気が引く。

「ま、待ってください」

「獣人が集まって何やってんだか知らないが、契約違反だ」

「そ、そんな」

「そうソニアに言っておいてくれ」

そう言って大家さんは去っていく。

アルの背後には赤子の泣き声が響いている。どうしよう?ソニアさんと話し合わなければ。なんとかソニアさんと大家さんに話し合ってもらわなければと、アルは思っていたのだが。

その夜ずいぶん遅くなってから、ジルだけが玄関先に立っていた。

「あれ?ソニアさんは?」

不思議に思ってアルがきくと、ジルは蒼白な顔で言った。

「ソニアは仕事で重症を負って、病院にいます。今生死の境をさまよっています」

「え」

そんな。アルの頭は真っ白になる。

「お金になるといって、無茶な仕事を引き受けるから」

そのジルの言葉に、胸がキリキリと痛んだ。



アルは自分のせいだと、奈落のどん底におちた。
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