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第30話 真夜中の出来事

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その夜大きな物音でアルは目を覚ます。

「ん?」

物音はどうやら台所の方でしている。

泥棒かと警戒して恐る恐る向かうと、台所の壁に頭を打ち付けているルナルの姿があった。



「や、やめてください!ルナルさん!!」

ルナルの頭は血だらけだ。

このままでは死んでしまう。

慌ててルナルの体に飛びついて、やめさせようとする。



「放せ!!」

ルナルに突き飛ばされて、思い切り頭を打った。

酷い眩暈がする。すぐに止めなければいけないのに、アルは立てない。

倒れこんだアルに、馬乗りになったルナルが首を絞めてくる。



いや、本気で苦しい。死ぬ。



「何をしている!」

ソニアが立っている。

ナイスタイミングだ、ソニアさん。

なんとか遠くなる意識をこらえながら、ソニアに向かって手を伸ばす。

「ル、ナルさん……を」

そこからプッツン私の意識は途絶えた。



 ここの世界は何だろう?

だんだんと記憶がよみがえってくる。この世界は自分がいた世界とは全く違う。

本当はもうとっくに気づいていたような気がする。ただ気づくたくない、思い出したくないような気がしていた。



次に目を覚ますと、そこは見知った部屋の天井だった。

どうやら死んでいないらしい。



「アル?」

心配そうにのぞき込んでいる優しいソニアの姿がある。

「ソニア..さん?」

酷く喉が痛い。そこで我に返る。

「そうだ!ルナルさんは!!」

「あいつは身動き取れないようにして眠っている。あいつはお前を殺そうとした。どうするか、考え直さなければな」

「それなんですが、ルナルさん、死のうとして頭何度も打ち付けていたんですよね。私の首絞めたのも、私がルナルさんの自傷行為を止めようとしたからで、明確に私のこと殺そうとしたんじゃないと思うんです」

「知っている。あいつはお前の首を絞めながら、俺を殺してくれと、叫んでいたからな」

「そうですか。なんとかルナルさんの精神を安定させる薬があれば大丈夫だと思うんですが、今度茶屋に行ってみます。そこに、精神を安定させる薬があるそうなので」

「大丈夫か?顔色悪い」

ソニアがアルの前髪を手でめくって、おでこをみた。

「ちょっと死にかけたから」

「首痕になってるな」

「なにか首を隠さなければいけませんね」

「そうだな」

「ルナルさんなにがあったんでしょうか?万引き犯だったんですよね?ルナルさん」

そういうと、ソニアさんはため息を吐いて、「もう寝ろ」という。

首絞められた恐怖で目がさえていた私は、「寝れません」といったら、ソニアさんが隣にきて寝かしつけてくれた。



「ソニアさんも仕事あるのに、ごめんなさい」

 冒険者であるソニアさんの稼ぎもあるが、かなり負担をかけてしまっている。アルの店や子供預かりの店の売り上げはそんなに良くない。皆が預かれるように料金低めだし、基本人手が足りていない。

ソルもシルカもみんながいるのに。

「前にも言ったが、俺の意思だ。本気で嫌なら反対している」

「ありがとう、ソニアさん」

オオカミの暖かさを感じる。たくさん稼げたらいいなとアルは思う。



明日スリ人の所に行かなきゃなと、アルは目を閉じた。

その問題は次の日の朝に解決する。



朝起きると、ルナルさんは身動きを封じられたままだった。

患者さんを縛ったままなのはだめだと思うが、夜暴れられたり暴力を振るうのは困るが。

ルナルの身動きをとれるように、ジルに頼んだ。

なんでもジルさんがルナルさんの身動きを封じる魔法を使ったらしいのだ。ジルさんに食い物を要求された。お金はいいのかとアルが聞くと、調理した食べ物を料金分請求すると言っていた。

アルには嫌な顔をするが、やはりジルは優しいエルフだと思う。面倒見がいい。



朝ご飯を作る忙しい中で、「ごめんくださぁーい」という女の人の声で、玄関の方へ行ってドアを開くと、そこにはスリの人一家が立っていた。

ヨハナ奥さんは赤ん坊を抱いて、隣には咳き込んでいる少年のウノリがいる。しかし、スリの旦那のスノーリーさんはいない。どこにいったのか?



「今日からお世話になります。泊まり込みで働かせてください」



そうヨハナが頭を下げていったので、アルはどうしたもんかと、卒倒しそうになった。
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