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第25話 道の途中で、社員候補その一を発見。

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 歩いてしばらくすると、「いて!」と人の悲鳴が聞こえてきてみると、ソニアが男の腕をつかんで引き上げていた。
「どうかしました?」
「スリだ」
ソニアさんの財布を狙ったスリらしい。
「いててて!勘弁してくれ!!金なら返すから!」
「当たり前だ」
ソニアが男の掴んでいた腕を放すと、男は一目散に逃げようとするので、足払いしすぐさま男を取り押さえた。
その間数秒である。

ソニアさんはかっこ強い狼だなと、感動する。

「か、勘弁してくれ!俺には女房と子が!」
「お前金がないのなら、内で働かないか?」
「へ?」
ソニアの顔を呆然と男が見ている。
「いい考えですね!!」
ぱちぱち私は拍手をした。
すると男は、アルの方を見る。
「初めまして、私はアルといいます。子供を親御さんから預かる保育所をやっていまして、今社員募集中でして、時給をだすので、内で働いてみてはどうでしょうか?」
「は!?」
「お前に拒否権はないぞ。警備兵に突き出すか、内で働くかだ」
「ソニアさん!強引すぎます。すみません。少しの間でもいいので、内で働いてみてはどうでしょうか?やめたかったらやめてもいいので」
怯えた男を安心させようとする。
無理やり働かせても、本人のやる気にかかわることだし。

「逃げても無駄だ。俺の嗅覚から逃げきれると思うなよ」
「ソニアさん!」
慌てる。
ソニアさん、結構強引だな。相手がすりだからかもしれないが。ソニアさんの新たな一面を垣間見た。

慌てて、ソニアの方へと駆け寄る。
「本人を目にして言うのもあれですが、この人いい人とは限りません!」
こそこそソニアの耳元を手で囲い、小声で話す。
「安心しろ。こいつからは母乳の匂いがする。子供を抱いた匂いだ。そんな奴が真正の悪人の可能性は低いはずだ」
「な、なるほど」
私は目の前にいるスリの男の顔をよく見てみる。髭が生えたさえない男だが、よく見るとなぜか俳優並みのイケメンだ。この世界では反対だとすると、凡庸な容姿の部類のはずだ。
「殺さないでくれ!」
そう言って男は土下座した。
「殺さないですよ。そんなひどいことしませんって!奥さんとお子さんにお話ししたいんですが、いいですかね?」
警戒心丸出しの男の目が、アルを見る。
「逃げても無駄だぞ」
ソニアの言葉で観念したのか、その場でがっくり男は項垂れる。

「あ!!!!」
と急に男は叫び出すと、逃げ出した。
「あ!?」
ああ、せっかくの社員候補が逃げていく。
残念がってアルは男の後ろ姿を見ていると、ぽんっと、ソニアがその肩を叩く。
「狼の嗅覚からは逃げられん。甘く見られたものだな」
鋭く瞳孔を補足するソニアさん。

追いかけた男の場所で、男の家らしき場所にたどり着く。今にも崩れ落ちそうなぼろぼろな石垣でできた家だった。
ドアを叩いても無言なので、仕方なくアルはドア越しに叫んだ。

「あの、よかったら子供を預かりどころを経営しているんですが、働いてみませんか!社員募集しているんですけどー!!」
と、ダメもとで叫んだ。

「あらそうなの?助かるわ」
するとドアが開いて赤子を抱いて女の人が出てきた。
「どうぞ入って!」
女の人に、アルとソニアは家の中に招かれる。
入ると部屋の中は、身を切るようにして寒い。隙間風ふきほうだいだ。そしてかび臭い。そのうち崩れるんじゃないかというほどのぼろ屋だった。
女の人はぼろぼろの服を着ている。寒そうだ。

「ば、馬鹿そいつら、極悪人だぞ!!」
すりのおじさんが、慌てて奥さんらしき人に言う。
「そういうのは新しい仕事を見つけてから言ってちょうだい。あなた、日がな一日どこかで時間潰しているだけじゃないの?仕事なくて困っているのはわかっているの。私もあなたの力になりたいの。私も働きたい」
「お前!」
奥さんとスリ男が言い合いをしていると、薄汚れた愛らしい男の子が、アルの元までやってきて服の袖をつかんだ。そして男の子は、
「このごくつぶしをよろしくお願いします!!」
とそうとうひどいことを言った。
「は、はぁ」
私は苦笑いを浮かべるしかない。見ると、スリの男は項垂れていた。
どういう顔をしていいのかわからず、アルはスリの男性の肩を叩いておいた。

スリの男はスノーリーという名前で、奥さんの名前はハウナという名前で、長男の毒舌のお子さんはウノリという名前だと、皆が自己紹介してくれた。

少年ウノリは肺が悪いらしく、咳き込んでいる。そんなウノリの背中をハウナは優しくたたいている。
「この子の薬も買うお金がないの。この家すら追い出されそうで。だからあの人が無茶しているの気づいているの。内緒にしてね。ありがとう。困っていたの」
とこっそりハウナが教えてくれた。

明日またこの家に来ることを約束し、アルはハウナに大量の干しフルーツを手渡して、家を出た。

 家を出てから、アルは項垂れる。
「な、なんか責任重大ですね。スノーリーさんを路頭に迷わすわけにもいかないし」
プレッシャーである。
「大丈夫だ。俺もいる」
そうソニアが励ましてくれたのだった。とほほ。
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