蛇の抜け殻

松井すき焼き

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地球が滅んだあの日、多くの人間は安楽死を選び、一部の金持ちの息子と親は人類の遺伝子を残す為に、精子バンクと共に宇宙船で地球を飛び立った。
そして地球人は、新たな星にたどり着き、地球とよく似たその星で新たな営みをすることとなった。人類は新しい母星となったその星の名前を、「カエル」と名付けた。

母星カエルでは、まだ少ししか空気がないため、外に出ることができなかった。人間たちは透明な幕に張られた中で、生活をしていた。空気が生成している機械が、いつも音をたてていて、非常にうるさかった。

市悠馬もその窮屈な飛行船の中で暮らしていた。悠馬は今年十五になる。十五になる少年少女たちは、一つの白い建物に集められ、学業や飛行船、地球の歴史などを習っていた。

白い建物の学び舎。その中で、一等一人の目立つ少年がいた。
彼の名前は、エレノ.蓮。
彼の髪は銀色で、目は黒色だった。世界中どこにもない光り輝く髪の毛。彼はその髪の毛をなびかせて、女の注目を浴びていた。

悠馬は女にもてそうな銀の髪をもつ蓮のことを、羨ましく思っていた。
蓮の髪は不思議な光沢をもっていて、大人たちは蓮の髪を突然変異ではないかと、皆恐れた。
皆地球から離れた新しい未知の環境で、いらだちと変化を恐れていた。
蓮を間引こうという奴まで出てきて大変だった。
何人かの研究員に蓮は隔離という形で、命を守られた。蓮は隔離されている状況だったが、何人かの研究員の助力で、蓮は同い年が集まる学び舎に登校することができた。

皆遠巻きに蓮を見ている中、悠馬は気の毒にと、蓮の肩を叩いた。叩いた悠馬の手は、見事連に振り払われていた。

「触るな、汚らわしい」

そう蓮は言った。

それを見ていた学び舎の他の連中はざわめく。
「何様?」
「気色悪い髪の色しやがって、人間かよ?」
などなど男から声が上がる中、蓮は顔がまぁよかったためか、女からは何故か歓声があがった。
蓮はこちらには顔を一切向けず、ただまっすぐ視線を宙に向けるだけだった。
何人かが舌打ちをしながら、各々の席に戻って行く。

それをみながら悠馬は、失笑した。人のみかけごときで騒ぎやがって。
人なんて一皮むけばみな同じ、自分本位でエゴイストなだけだ。人の上っ面だけで判断しているやつらはどれだけ幸せなんだ。悠馬はまったく人間という存在を信じていなかった。
悠馬は一人だ。これからも一人だろう。父も母も悠馬に暴力という爪痕しか残していなかった。自分の遺伝子を残すという名目だけで、この宇宙船に乗せたのだ。
悠馬の母親と父親の姿は今どこにもない。
反抗的な悠馬を見捨てて別の区画の宇宙船に行ったのだと、悠馬は大人たちに聞いている。ぼんやり悠馬は、授業を聞きながら、もう一度蓮の方を見て、鼻で笑った。


授業が終わると、悠馬はいつもの場所に向かった。

そこは樹が生い茂る聖なる場所で、死んだ人間を肥料として木々をはぐくむ墓地になっている。澄んだ空気と、暖かな日差しのその場所。悠馬は寝転んで、木々の命に思いをはせるのが大好きだった。
人を愛せない悠馬にはきっと子供は残せない。義務としょうして、人口を減らさないために精子を提供しているが、精子が買われたこと以外は、悠馬には何も知らされない決まりになっている。

悠馬は考える。自分が死んだら木々をはぐくむことができる。そして静かに眠ることができるだろう。そうすれば少しは満たされた気持ちになれた。悠馬は仰向けになって目を閉じていると、草を踏む音が間近にして目を開けると、そこには今日話題になっていた蓮の姿があった。

「何をしているんだ?」

蓮の問いかけに、非常に面倒だと悠馬は不機嫌に告げた。

「別に。お前こそ、ここで何しているんだよ?」

悠馬だけの秘密基地だと思っていたのに、悠馬は非常に残念思う。

「別に?」

「真似すんなよ!」

「俺も時々ここに来るんだ。生態系を勉強しに」

静かな蓮の声。蓮は非常に真っ直ぐ悠馬を見る。悠馬は気まずくなって、視線を逸らした。

「つまんない優等生が」

「ここにくるといつも人間の愚かさを想う。死体まで人間に利用されて」

人間がエゴイストであることは、悠馬も思っている。だが、この場所は静かな悠馬の大好きな場所だ。蓮の発言は許せなかった。

「ここはたくさんの亡くなったものが静かに眠っている場所でもあるんだ!くだらないこと言うな!!」

「すまない」

あっさり謝罪して蓮は、悠馬の隣に座った。

「でもこの場所は心地いいとは思っている」

悠馬は蓮の横顔を見た。こいつも色々苦い思いをしているのだなと、悠馬はなんだか蓮に同情してしまった。

「別にお前が言っていることはあっているんだろうよ。俺も人間が嫌いだ」

「俺も?」

「........お前もだろう」

そういって悠馬は俯いて、足元の草を見た。

「ここで新種の虫が発見されたことは知っているか?」

「しらね!?」
新種の虫の発見の情報に悠(ゆう)馬(ま)は、目を輝かせた。
蓮は不自然に、悠馬から目をそらした。なにかまた悠馬は無神経なことをいって、蓮に不快に思われたと、悠馬は内心へこんだ。
悠馬は昔から友人を作ることはできなかった。いつも乱暴な態度で、学び舎のクラスメイト達から煙たがれているのを、悠馬自身分かっていた。悠馬は愛されたことがあまりないから、人への愛し方がわからなかった。また嫌われたのかと悠馬は舌打ちして、蓮から顔をそらした。
ぼんやり静かな時間を風の音を聞きながら悠馬は過ごしていると、蓮が悠馬の目の前に来て、なにか虹色に輝く虫を悠馬に、差し出してきた。

「なんだこれ?」

不思議そうに悠馬は、蓮の顔を見た。

「新種の虫だ」

「へぇー。すごいな」

悠馬は虫が好きだったので、内心では飛び跳ね上がるほど興奮していた。急に蓮はその虫を、悠馬の鼻の上に置いてきた。

「うわ!?なにすんだよ!!」

驚く悠馬に、やはり真顔で蓮は言った。

「近くで見れた方がいいと思った」

「........そうか」

鼻の上の虫を悠馬は手に取ると、じっくり眺めた。
そんなふうにしてあまりしゃべることもなく、悠馬と蓮は聖なる場所で時を過ごした。
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