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人間との生活
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「にんげんという種族は……こんなにもひどい食事をとっているのか」
これは滋養食のときも思っていたことだ。だされた食事を口にした途端、ミーニャははきだしそうになる。
「うぇ……まずっ」
スープは鼻につきささる臭い。舌がぴりぴりとして、のどを通ったあともヒリヒリとした。パンはかみきれずに、やっと口のなかにいれてもゴロゴロと転がる。異物でも入れられているのだろうかと疑いたくなった。そんなミーニャの視線を察知した少年がしかめっつらになる。
「客人きどりか? だまって食えよ」
「おみゃえたちもおなしものを食へていふのか?」
「おれはな、おまえよりも六つ年上。だからな『おまえ』ではなく、シバさんとよべ。年上には名前のあとに『さん』と人間社会ではつけるんだよ」
ミーニャは口のなかにあるパンを水でながしこんだ。そして真面目な顔をしてシバと自己紹介した少年をみる。
「あいしょうというものはあるか?」
「愛称? あるっちゃあるが……」
「心のなかでは、年下のクソガキにゆだんして剣と魔導書をうばわれるマヌケと、よんでいた。そのほうがおぼえやすい。できればマヌケさんとよびたい」
「けんかうってんのか?」
ミーニャはふたたびパンにかみついた。肉をかみきるように、パンをかみちぎる。シバの存在は無視した。
「にんげんの食事は、わたしにはあわない」
シバの怒りが限界をむかえたのか、正面にたっていたシバが怒り顔でミーニャのそばに歩み寄り、ミーニャの頭上に拳をかがげてふりおろした。ゴン、とにぶい音がきこえる。
「いいかげんにしろ。食料だって湧きでるものじゃない。おまえのために用意してやったんだぞ。贅沢ばっかりいわずにだまって口にいれろ」
ミーニャはなぐられても表情ひとつかえず、何事もなかったようにパンとスープをたべつづけた。
「薄気味わるいガキ」
ミーニャはなにも返さず、言われた通り、もくもくと食べつづけて完食した。ミーニャの監視役としてアウラの部屋にいた少年二人が交代制でミーニャを見張る。けんか腰でいつも怒鳴り姿勢のシバと、必要最低限のことしかしゃべらないレイク。建物内にいるときは、たいていこの二人のどちらかが、もしくは両方がミーニャのそばにいた。
ミーニャは食事をおえて、昼寝にはいる。ベッドにころがり丸まって、目をつむった。
「ガキとゆうか赤ん坊だな。昼寝ばかり。ぐうたらして飯も食わせてもらえるのだから最高だよな。赤ん坊なら乳でもすっておけよ。おまえみたいのを人間社会ではごくつぶしと言うんだ」
「ぐうたらしているわたしを、ぐうたらしながら見張っているだけの仕事。あなたはごくつぶしさんだったのか。にんげん社会というものは、寝る人のまえでギャーギャーさわぐのがれいぎなのか。りっぱな社会だ」
「だまってねろよ」
またもや頭のてっぺんに拳をくらったミーニャ。しかしミーニャは目をあけず、眉ひとつ動かさず寝息をたてはじめた。太陽はかたむき影をひきはじめていたころに、ミーニャは眠りからさめた。
ミーニャは上半身を起こしてあたりをみまわし、にっこりと笑う。ミーニャのベッドに狼の姿のリンフェが顎をのせていた。
「おきたときに精霊がいてくれる。なんてうれしいことだろう」
「……。ヨーテってやつも、よく迎えにきていたのか?」
「ヨーテはたまにきてくれていた、きがする。ヨーテのほかに毎回むかえにきてくれる精霊がいた。シェノスの精霊ではなくてね。いつもわたしをきにかけてくれていたシロちゃんって名の精霊がいるの」
リンフェは瞳を大きく丸くさせる。
「ほお。おまえらの里なんて安全領域外にあるだろうに。森の精霊以外にも居着いた奴がいるのか」
ミーニャは笑い声をださないように、口を手でふさぎながら、くすくす笑った。リンフェはあえて、その精霊たちがどうなったか、をきかない。リンフェは目線を窓からみえる青空に逃がした。
「今日もいくのか?」
「うん。いくにきまっている。一番たのしみなことなのだから」
ミーニャとリンフェは森に向かった。
これは滋養食のときも思っていたことだ。だされた食事を口にした途端、ミーニャははきだしそうになる。
「うぇ……まずっ」
スープは鼻につきささる臭い。舌がぴりぴりとして、のどを通ったあともヒリヒリとした。パンはかみきれずに、やっと口のなかにいれてもゴロゴロと転がる。異物でも入れられているのだろうかと疑いたくなった。そんなミーニャの視線を察知した少年がしかめっつらになる。
「客人きどりか? だまって食えよ」
「おみゃえたちもおなしものを食へていふのか?」
「おれはな、おまえよりも六つ年上。だからな『おまえ』ではなく、シバさんとよべ。年上には名前のあとに『さん』と人間社会ではつけるんだよ」
ミーニャは口のなかにあるパンを水でながしこんだ。そして真面目な顔をしてシバと自己紹介した少年をみる。
「あいしょうというものはあるか?」
「愛称? あるっちゃあるが……」
「心のなかでは、年下のクソガキにゆだんして剣と魔導書をうばわれるマヌケと、よんでいた。そのほうがおぼえやすい。できればマヌケさんとよびたい」
「けんかうってんのか?」
ミーニャはふたたびパンにかみついた。肉をかみきるように、パンをかみちぎる。シバの存在は無視した。
「にんげんの食事は、わたしにはあわない」
シバの怒りが限界をむかえたのか、正面にたっていたシバが怒り顔でミーニャのそばに歩み寄り、ミーニャの頭上に拳をかがげてふりおろした。ゴン、とにぶい音がきこえる。
「いいかげんにしろ。食料だって湧きでるものじゃない。おまえのために用意してやったんだぞ。贅沢ばっかりいわずにだまって口にいれろ」
ミーニャはなぐられても表情ひとつかえず、何事もなかったようにパンとスープをたべつづけた。
「薄気味わるいガキ」
ミーニャはなにも返さず、言われた通り、もくもくと食べつづけて完食した。ミーニャの監視役としてアウラの部屋にいた少年二人が交代制でミーニャを見張る。けんか腰でいつも怒鳴り姿勢のシバと、必要最低限のことしかしゃべらないレイク。建物内にいるときは、たいていこの二人のどちらかが、もしくは両方がミーニャのそばにいた。
ミーニャは食事をおえて、昼寝にはいる。ベッドにころがり丸まって、目をつむった。
「ガキとゆうか赤ん坊だな。昼寝ばかり。ぐうたらして飯も食わせてもらえるのだから最高だよな。赤ん坊なら乳でもすっておけよ。おまえみたいのを人間社会ではごくつぶしと言うんだ」
「ぐうたらしているわたしを、ぐうたらしながら見張っているだけの仕事。あなたはごくつぶしさんだったのか。にんげん社会というものは、寝る人のまえでギャーギャーさわぐのがれいぎなのか。りっぱな社会だ」
「だまってねろよ」
またもや頭のてっぺんに拳をくらったミーニャ。しかしミーニャは目をあけず、眉ひとつ動かさず寝息をたてはじめた。太陽はかたむき影をひきはじめていたころに、ミーニャは眠りからさめた。
ミーニャは上半身を起こしてあたりをみまわし、にっこりと笑う。ミーニャのベッドに狼の姿のリンフェが顎をのせていた。
「おきたときに精霊がいてくれる。なんてうれしいことだろう」
「……。ヨーテってやつも、よく迎えにきていたのか?」
「ヨーテはたまにきてくれていた、きがする。ヨーテのほかに毎回むかえにきてくれる精霊がいた。シェノスの精霊ではなくてね。いつもわたしをきにかけてくれていたシロちゃんって名の精霊がいるの」
リンフェは瞳を大きく丸くさせる。
「ほお。おまえらの里なんて安全領域外にあるだろうに。森の精霊以外にも居着いた奴がいるのか」
ミーニャは笑い声をださないように、口を手でふさぎながら、くすくす笑った。リンフェはあえて、その精霊たちがどうなったか、をきかない。リンフェは目線を窓からみえる青空に逃がした。
「今日もいくのか?」
「うん。いくにきまっている。一番たのしみなことなのだから」
ミーニャとリンフェは森に向かった。
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