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仲間の名をどうして人間がしっているの

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「どうしてその名を?」
「あの男も精霊使い。顔見知りでおかしくあるまい。おまえはシェノスとどういう関係だ?」
「シェノスは……シェノスはわたしたちの仲間」
「なに? するとあの男もアドロスの者だったのか」

 通常のミーニャなら、シェノスの立場を慮って発言するよう心がけるが、いまは眠気と疲労がかさなり、深く考えることができない。

「シェノスは外で活動する仲間」
「そうか、そうだったのか」

 外で情報をあつめる唯一の存在。ミーニャも一度しか会ったことがない。だから思いだせなかった。外で生活をしている彼なら魔人の手から逃れていたかもしれない。一族に生き残りがいるとしたら、シェノスに接触するはずだ。

「シェノスは生きているのか」
「あの男とは久しく顔をあわせていない。だが、定期的に文章のやりとりでおこなっている。やつとの最後のやりとりは、ひと月まえだな」

 ひと月? ひと月というと、まだ自分は魔人に捕まっていた。つまりシェノスは魔人に捕まっていなかったということなのか。

「それはたしかにシェノス本人からなのか?」
「まちがいないよ。紙からはシェノスの匂いがかすかについていた。あれは本人が直筆だろう」

 アウラではなく、リンフェがこたえる。

「じゃ、じゃあ、ほんとうに……ほんとうにシェノスは生きているの?」
「一緒にもどってくるなら、手紙を何枚かみせてやるよ。もちろん、開示できない物もあるがな」
「シェノスは生きている……」

 口に出すと実感がわく。まだ信用してはいけない。そう思っていても、シェノスが生きているという希望を信じたくなる。喜びたくなる。

「よかった。シェノスは生きていたんだ、よかった。よかった。そういえば、また会おうねって、言ってた気がする。シェノス……ハンケットも元気かな」

 うれしくて、涙が頬をつたっていく。彼はハンケットという鳥の精霊と契約していた。なつかしい記憶がつぎつぎと掘り出てくる。

「シェノスと会いたい。シェノスにわたしのことをつたえてほしい」
「ずいぶんと自分勝手だな」

 リンフェがためいき混じりに言う。ミーニャは泣きながら反論した。

「あなたたち人間がわたしを助けてくれたから、わたしも人間を助けた。ちゃんと恩はかえしている」
「恩は貸した者にかえせよ」

 リンフェがつっこんでくる。

「同族にかえしているのだから、あなたたちに返しているのも同然でしょう」

 泣きながら、手をふりまわし言い返した。そして目の前の世界がゆれる。しまった、もう睡眠時間をとうにすぎているのに、活発に活動しすぎた。だめだ。ミーニャはその場にたおれこみ、目をつぶった。


 ながい間、寝ていたとおもう。
 つぎに目が覚めたときは、前回とおなじ天井。足だけ拘束されていた。

「よく寝るな」

 すぐそばからリンフェの声がきこえる。ミーニャは体をおこす。前、拘束されていた部屋と一緒だ。
「シェノスのことを……」
「わかっているよ。手紙を何枚か用意しておいた。よんでみろ」

 ベッドのすぐ隣にある木のテーブルには紙が数枚かさねられていた。ミーニャは手紙をちらりとみてかぶりをふる。

「読んでもわからない」
「文字が読めないということか?」

 ミーニャは沈黙をとおした。

「もうすこししたらアウラがくるだろう」
「リンフェ、あなたの契約者は信用できる?」
「あいつがどうでるかはわからないが、悪いようにはしないよ」

 ミーニャは後ろに倒れて考えた。自分はどうでればいいのか。シェノスの立場を悪くしてしまったことを思いだし、後悔の念がおしよせてくる。

「あなたたち、シェノスの敵ではないよね」
「味方でもないがな」
「うー」

 ミーニャがうーうー唸っていると、部屋に誰かがはいってきた。

「調子はどうだ?」

 アウラがひとりで入室してくる。扉の近辺でひとの気配がするから、部屋の外で何人か待機しているのだろう。

「よくない」
「どこかいたむのか?」
「あたまがいたい」
「バカは治りそうになさそうだものな」

 涼しい顔で言ってくるアウラに、ミーニャはかちんときた。ミーニャは心の中でアホ面と呼んでいる少年を思いだす。

「バカを連れ歩いている者にいわれたくない。それともバカが好きなのか? バカはバカを呼ぶらしいな」

 ちかくにいるリンフェはあきれ顔だ。

「崖っぷちに立っているのに、よくもまあそんな口がたたけるな」

 そんなことどうでもいいと、ミーニャは本題にはいる。

「わたしはシェノスにあいたい。シェノスに連絡をとってほしい」
「なら質問に答えろ」

 すこしの間アウラがだまり、部屋は静かになった。アウラがおもむろに口をひらく。

「どうして魔人はおまえに殺されたとおもう?」
「もともと……『しぬ機会』がほしいと、いっていた。わたしには理解できない。わたしはあのひ、ぜつぼうしていた。魔人はうれしそうにわたしをみていた」
「おまえを失意の中に陥れ、魔人は満足したというのか」

 ミーニャは苦い顔をする。一旦、視線を横に逃がした。無意識にやってしまう。あの日の出来事は思いだしたくない。

「正直にはなせ」

 逃げるな。と言われているきがした。よくわからない感情がぞわぞわと這い上がってくる。息をすっているのに、まるで体内にとりこめない。苦しかった。ぎゅっとシーツをにぎる。

「あの日、わたしは魔人を殺したいって思った。ここでこいつを殺さないとだめだって」

 いやな汗がでてきた。指先がつめたくなっていき、あの日の魔人の顔が浮かび上がる。恍惚と自分をみていた。薄気味悪い。こわい顔。
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