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調査②
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刺繍が少なく地味な赤い旗袍を古着屋で買ってもらい、木蓮は着替えて店を出た。
供をする周瑛も、普段着の濃紺の旗袍から古着に着替えている。
もともと着ていた服を風呂敷に包み、さあ次はどうするのかと指示を仰ごうとした周瑛だが、いつの間にか木蓮は数歩先の果物屋の前にいた。
「ねえ周瑛、これ何の果実?美味しそう!」
木蓮はというと、おやつを前にした犬よろしく目を輝かせている。
背が低く顔立ちもはっきりしない木蓮は、たいがい幼く見られる。
例に漏れず今回も、木蓮が座り込んだ果物屋の主人は周瑛を保護者と見なしていた。
「お兄さん、一籠どうだい?今日仕入れた龍眼は甘くて美味しいよ!」
「龍眼っていうんだ!なんか中二くさい名前だね。ますます味が気になるなぁ」
心の声を隠すことなく、好奇心に満ちた目で龍眼をじっと見る木蓮。
放っておくといつまでも居座りそうなので、仕方なく周瑛は龍眼を一籠買った。
「買ってくれてありがとう!そして申し訳ない……」
ライチと同じ要領で皮を剥き、一口齧りながら木蓮は周瑛に頭を下げた。
龍眼の果肉はライチとそっくりだが味はどこかメロンのようであり、かなり甘い。
謝っておきながら図々しくも食べる手を止めない木蓮に、周瑛は首をかしげた。
「なぜ謝るので……謝るんだ?」
「今さらだけど、私この世界に来てからずっとただ飯食って寝てるだけじゃん。今日だって周瑛に色々買ってもらってるし。悪いなーとは思ってるんだよ。って、何その顔」
珍獣を見るような目で、周瑛は木蓮を見下ろしていた。
「いや、そんな風に気を遣わせていたのかと思って」
「生活の面倒見てもらってんだから、感謝するのも申し訳ないとも思うのも当然だよ!屋台で買うものくらい自分で買えるようお金稼ぐ方法考えるから、もうしばらく養ってください」
「その言い方だと俺が養っているみたいだぞ」
「あ、確かに」
周瑛の態度がだいぶ砕けてきたのを見て、木蓮の胸にじわりと喜びが湧く。
お腹と心が満たされたところで、ようやく本来の目的を思い出し、木蓮は市場に集まる人々を見渡した。
「見つからないな……」
昨日の白遜のようにオーラを纏う人は、今のところ一人もいない。
真っ直ぐに伸びている市場は、もう終わりが見えかけていた。
市場の端からは住宅街のようだ。
黄土色の土壁に黒い屋根の集合住宅がずらりと建ち並ぶ。
その中で、よく手入れされた一軒家が木蓮の目に止まった。
まだ夏も来ていない舜で、その家からは金木犀の香りがする。
鼻をヒクヒクと鳴らしながら、木蓮はふらりと一軒家に近寄った。
「周瑛、今の季節は?」
「一の朱雀、春の終わりであり夏が始まる頃だ」
「じゃあ金木犀の季節ではないよね。この家から匂いがするんだけど」
「金木犀?」
訝しげに一軒家を見上げながら、周瑛も鼻を動かした。
「何の匂いもしないぞ」
「嘘!すっごく香りが濃いのに」
何を植えているのか気になった木蓮は、扉を叩いて門前で家主が出てくるのを待った。
しかしいくら待っても誰も現れない。
「気づいていないのかもしれないな。玄関まで行って誰もいなければ引き返そう」
周瑛の提案に乗り、木蓮は門に足を踏み入れた。
途端に、グニャリと胃が歪む感覚を覚える。
急に顔を青くし、今にも吐きそうな木蓮に周瑛は目を見開いた。
「おい、どうした!?」
「うえぇっ、な、なんか、気持ち悪い……」
供をする周瑛も、普段着の濃紺の旗袍から古着に着替えている。
もともと着ていた服を風呂敷に包み、さあ次はどうするのかと指示を仰ごうとした周瑛だが、いつの間にか木蓮は数歩先の果物屋の前にいた。
「ねえ周瑛、これ何の果実?美味しそう!」
木蓮はというと、おやつを前にした犬よろしく目を輝かせている。
背が低く顔立ちもはっきりしない木蓮は、たいがい幼く見られる。
例に漏れず今回も、木蓮が座り込んだ果物屋の主人は周瑛を保護者と見なしていた。
「お兄さん、一籠どうだい?今日仕入れた龍眼は甘くて美味しいよ!」
「龍眼っていうんだ!なんか中二くさい名前だね。ますます味が気になるなぁ」
心の声を隠すことなく、好奇心に満ちた目で龍眼をじっと見る木蓮。
放っておくといつまでも居座りそうなので、仕方なく周瑛は龍眼を一籠買った。
「買ってくれてありがとう!そして申し訳ない……」
ライチと同じ要領で皮を剥き、一口齧りながら木蓮は周瑛に頭を下げた。
龍眼の果肉はライチとそっくりだが味はどこかメロンのようであり、かなり甘い。
謝っておきながら図々しくも食べる手を止めない木蓮に、周瑛は首をかしげた。
「なぜ謝るので……謝るんだ?」
「今さらだけど、私この世界に来てからずっとただ飯食って寝てるだけじゃん。今日だって周瑛に色々買ってもらってるし。悪いなーとは思ってるんだよ。って、何その顔」
珍獣を見るような目で、周瑛は木蓮を見下ろしていた。
「いや、そんな風に気を遣わせていたのかと思って」
「生活の面倒見てもらってんだから、感謝するのも申し訳ないとも思うのも当然だよ!屋台で買うものくらい自分で買えるようお金稼ぐ方法考えるから、もうしばらく養ってください」
「その言い方だと俺が養っているみたいだぞ」
「あ、確かに」
周瑛の態度がだいぶ砕けてきたのを見て、木蓮の胸にじわりと喜びが湧く。
お腹と心が満たされたところで、ようやく本来の目的を思い出し、木蓮は市場に集まる人々を見渡した。
「見つからないな……」
昨日の白遜のようにオーラを纏う人は、今のところ一人もいない。
真っ直ぐに伸びている市場は、もう終わりが見えかけていた。
市場の端からは住宅街のようだ。
黄土色の土壁に黒い屋根の集合住宅がずらりと建ち並ぶ。
その中で、よく手入れされた一軒家が木蓮の目に止まった。
まだ夏も来ていない舜で、その家からは金木犀の香りがする。
鼻をヒクヒクと鳴らしながら、木蓮はふらりと一軒家に近寄った。
「周瑛、今の季節は?」
「一の朱雀、春の終わりであり夏が始まる頃だ」
「じゃあ金木犀の季節ではないよね。この家から匂いがするんだけど」
「金木犀?」
訝しげに一軒家を見上げながら、周瑛も鼻を動かした。
「何の匂いもしないぞ」
「嘘!すっごく香りが濃いのに」
何を植えているのか気になった木蓮は、扉を叩いて門前で家主が出てくるのを待った。
しかしいくら待っても誰も現れない。
「気づいていないのかもしれないな。玄関まで行って誰もいなければ引き返そう」
周瑛の提案に乗り、木蓮は門に足を踏み入れた。
途端に、グニャリと胃が歪む感覚を覚える。
急に顔を青くし、今にも吐きそうな木蓮に周瑛は目を見開いた。
「おい、どうした!?」
「うえぇっ、な、なんか、気持ち悪い……」
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