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平穏
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ダサくもなければ可愛くもない、ごく普通の紺色のブレザーだが、今日で着納めであると思うとなんだか感慨深く、雪香は鏡に映る自分をまじまじと見つめた。
丸顔で、手足が短い六頭身が、そこにはいた。
あと一ヶ月、大学生になるまでに少しは垢抜けたいところだが、素材が素材だから厳しいかもしれない。
それでも、春という季節がそうさせるのか、何か変えたかった。
「……こんなもんかな」
雑誌のヘアアレンジページを見ながら手を動かすこと約15分、いつもは適当に下ろしっぱなしにしているセミロングの髪は、ゆるやかなフィッシュボーンに結われていた。
初めてにしてはなかなかの出来栄えだ。
いつもと少し違う自分にドキドキしながら家を出る。
通学途中で幼なじみの家に立ち寄りインターホンを押すと、勢い良くドアが開いた。
「おはよっ!雪香、髪どうしたの?可愛い!」
「おはよう、舞。朝早く起きちゃったからやってみたの」
面と向かって可愛いと言われ、雪香は少しだけ赤くなった。
家族は別として、人に褒められるのには慣れていないのだ。
「またいつもの殺されちゃう夢を見たの?」
「そう。なんか最近、毎日のように出てくるの」
オカルトに興味があると周囲の人間に思われたくなかった雪香は、夢のことは舞にしか話していない。
家族にすら秘密にしていた。
「うわあ。あたしだったらノイローゼになる」
「舞、血とかダメだもんね」
昔からグロテスクなものは一切受け付けなかった舞は、初めて雪香が夢の話をした時、気持ち悪そうな顔をしていた。
「血もだけど、毎日同じ内容でしょ?よく怖くないね、雪香」
「最初は怖かったけど、慣れちゃった」
学校が近くなってきたため、雪香は夢の話しはやめた。
一人、二人とクラスメートと会うたびにヘアアレンジを褒められ、教室につく頃には雪香は真顔のまま昇天しそうになっていた。
「舞、私イラストレーターじゃなくて美容師目指したほうが良かったかな?」
「思考が飛躍しすぎ。また後でね!」
隣のクラスである舞とは廊下で別れ、雪香は二年間通った教室に足を踏み入れた。
「雪香氏おはよー!」
「おお、桃花氏おはよう!」
舞とはまた違った意味で大事な友人であり、高校生活を楽しい思い出で彩ってくれた佐伯桃花が、いきなり腰を直角に曲げた。
見事に90度である。
「雪香氏、頼みがある」
普段はフワフワとしたアニメ声の桃花だが、何かを頼むときの彼女の声は低くドスが効いている。
これは相当面倒な頼みだろうと覚悟し、雪香は神妙に続きを促した。
「卒業旅行、上海行くんだよね?蘇州には行く?」
「桃花氏、皆まで言うな。“茶館恋慕”のロケ地の写真が欲しいんでしょ?私も行くよ!ってかそのための中国旅行だよ!」
この春大ヒットした乙女ゲーム、茶館恋慕のロケ地に行きたくて、雪香は卒業旅行と称して聖地巡礼に向かう予定だった。
未成年の一人旅、それも海外旅行を両親はなかなか承諾しなかったが、しっかり者の舞が同行することで許可がおりたのだ。
「お土産たくさん買って、写真もばっちり撮ってくるからね!」
持つべきものは同士と、桃花と固い握手を交わしながら、雪香は頭の中で旅程を考え直していた。
三泊四日のうち、最終日を蘇州にしていたが、二日目にゆっくり観光したほうが良いかもしれない。
丸顔で、手足が短い六頭身が、そこにはいた。
あと一ヶ月、大学生になるまでに少しは垢抜けたいところだが、素材が素材だから厳しいかもしれない。
それでも、春という季節がそうさせるのか、何か変えたかった。
「……こんなもんかな」
雑誌のヘアアレンジページを見ながら手を動かすこと約15分、いつもは適当に下ろしっぱなしにしているセミロングの髪は、ゆるやかなフィッシュボーンに結われていた。
初めてにしてはなかなかの出来栄えだ。
いつもと少し違う自分にドキドキしながら家を出る。
通学途中で幼なじみの家に立ち寄りインターホンを押すと、勢い良くドアが開いた。
「おはよっ!雪香、髪どうしたの?可愛い!」
「おはよう、舞。朝早く起きちゃったからやってみたの」
面と向かって可愛いと言われ、雪香は少しだけ赤くなった。
家族は別として、人に褒められるのには慣れていないのだ。
「またいつもの殺されちゃう夢を見たの?」
「そう。なんか最近、毎日のように出てくるの」
オカルトに興味があると周囲の人間に思われたくなかった雪香は、夢のことは舞にしか話していない。
家族にすら秘密にしていた。
「うわあ。あたしだったらノイローゼになる」
「舞、血とかダメだもんね」
昔からグロテスクなものは一切受け付けなかった舞は、初めて雪香が夢の話をした時、気持ち悪そうな顔をしていた。
「血もだけど、毎日同じ内容でしょ?よく怖くないね、雪香」
「最初は怖かったけど、慣れちゃった」
学校が近くなってきたため、雪香は夢の話しはやめた。
一人、二人とクラスメートと会うたびにヘアアレンジを褒められ、教室につく頃には雪香は真顔のまま昇天しそうになっていた。
「舞、私イラストレーターじゃなくて美容師目指したほうが良かったかな?」
「思考が飛躍しすぎ。また後でね!」
隣のクラスである舞とは廊下で別れ、雪香は二年間通った教室に足を踏み入れた。
「雪香氏おはよー!」
「おお、桃花氏おはよう!」
舞とはまた違った意味で大事な友人であり、高校生活を楽しい思い出で彩ってくれた佐伯桃花が、いきなり腰を直角に曲げた。
見事に90度である。
「雪香氏、頼みがある」
普段はフワフワとしたアニメ声の桃花だが、何かを頼むときの彼女の声は低くドスが効いている。
これは相当面倒な頼みだろうと覚悟し、雪香は神妙に続きを促した。
「卒業旅行、上海行くんだよね?蘇州には行く?」
「桃花氏、皆まで言うな。“茶館恋慕”のロケ地の写真が欲しいんでしょ?私も行くよ!ってかそのための中国旅行だよ!」
この春大ヒットした乙女ゲーム、茶館恋慕のロケ地に行きたくて、雪香は卒業旅行と称して聖地巡礼に向かう予定だった。
未成年の一人旅、それも海外旅行を両親はなかなか承諾しなかったが、しっかり者の舞が同行することで許可がおりたのだ。
「お土産たくさん買って、写真もばっちり撮ってくるからね!」
持つべきものは同士と、桃花と固い握手を交わしながら、雪香は頭の中で旅程を考え直していた。
三泊四日のうち、最終日を蘇州にしていたが、二日目にゆっくり観光したほうが良いかもしれない。
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